ハルトとの約束、バレる。
その後。そそくさと退散し、ツルカとラムルは寮の自室で体を休めることにした。すっかりくたくただった。
ツルカは寮につくなり眠気に襲われた。ラムルが受け止めてくれたことにより、床への激突は避けられた。
「―よお、起きたか」
「ん……」
ツルカは自室のベッドの上で目を覚ました。寝ぼけた目でラムルを見る。猫の姿になって床で丸まっていた。夕日が部屋に差し込む。もう、日が沈む直前だった。
「ありがとう。ここまで運んでくれたんだね」
「……ああ、まあな。まあ、俺なんだけどな。ちゃんと猫になったし、セーフだろ」
ラムルにしては、ぼそぼそ話していた。ラムルは何でもない、と仕切り直した。
「あいつら、きっと感謝している。やりそうな奴、想像出来るだろうしな」
「そっか。あの竜、明け渡したことになっちゃったけど」
「まあ、あいつらは元からそのつもりだったしな。まあ、あれだ。お疲れ」
ラムルはツルカの膝に前足を乗せた。労いのつもりなのだろう。
「……ありがとな、魔女様」
「うん」
ツルカはラムルの前足に手を重ね、笑いかけた。ラムルはミャアと鳴いた。
「……良かったのか。お前、自分だって言わなくって。あれだけの魔女っぷりだったのに」
ラムルや飛竜のアシストがあったとはいえ、ツルカの魔女ぶりは堂に入っていた。
「……そうなんだよね。今、思えばなんだよねー」
ツルカは頭を抱えた。その方が確かに心証が良かっただろうと。
「でも、いいや。あれだ、もう勢いだった。考えてなかった。結果オーライだったし」
「こう、あれだな。なんか腑に落ちない感がな」
「え、なんで!」
「……はあ」
いつものやりとりをしていたが、ラムルは沈んだ表情になった。
「まだ本番が残ってるんだろ。―魔女会議が」
「……うん」
「……はああああ」
またしてもラムルは溜息をついた。今度は長めだ。
「……フルムに来い!なんだけどな。もう、わかってんだよ。どうせ諦めねぇんだろ」
「うん」
「うん、ときたか」
「心配してくれてるよね。私、それでも諦めたくないんだ」
「……だよな。わかったよ」
これだけ意思が固ければ、今は尊重するしかない。ラムルはそう思っていた。今は、と内心で強調していた。
「―さてと」
ツルカは猫を抱っこすると、窓まで連れていった。
「さあ、ラムルは帰ろうね。家でゆっくりしてて」
「は?なんでだ?まだ、ゆっくりできるぞ」
つい自然に流れるままに連れていかれていたが、ラムルはおかしいと思い出す。
「そうなんだ。でも、おうちでゆっくりしてなよ」
「……どういうことだ」
ラムルの目が据わっていた。これは何かを隠しているとふんでいた。
「どうもこうも?私も、色々とあってね」
「ツルカ」
「こう、色々と……」
「ツルカ」
「くっ……」
ラムルは名前を連呼し、圧力をかけてきた。屈したツルカは、話すしかなかった。
「……会う約束しているんだ、その、ハルト君と」
「……は?今から?」
「もっと言えば、今日が終わる前でもいいって。それでも、早いうちに話しときたくて。……内容は、その、今は話せなくて」
ラムルの声が一層低くなっていた。ツルカはびくっとなるも、ここは譲れなかった。ハルトは純粋に心配してくれていた。その誠意に、ツルカは応えたかった。
「……ついてはいかせろ。その辺で時間潰している」
「うん!」
ラムルはラムルで提案した。彼的には折衷案だった。ツルカはそれならと受けた。ラムルが心配してくれる気持ちを受け取った。
この時間に学院の正門を通るには、疑惑が深まる。魔女騙り疑惑の生徒の夜間外出だ。
あの獣道同然のルートを辿ることになってしまった。ラムルはひょいひょいと移動していた。時折振り返って、ツルカの心配をする余裕はあるくらいだ。