ツルカの賭け。
現に、足音がしてきた。兵がこの場に向かってきていた。彼らは口々にする。
「飛竜を見つけ次第殺せ!」
「あれは脅威になる!なんとしてでもだ!」
飛竜はもはや、トラオムの敵となった。フルムとの友好の証など、知った事ではない。なんとしてでも兵は討伐しようとしていた。
「……これだから、トラオム人はよ」
「……」
「このまま、ここにいてもコイツが狙われるだけだ。とっとと、ずらかるぞ」
ラムルは悪態をつきつつ、逃走を促す。ツルカからの返答はないままだ。
「……」
「おい、ツルカ?」
ツルカは一点を見つめていた。兵がやってくる方向だ。かと思うと、飛竜の方も見ていたりする。訝しむラムルは、何を考えているのか尋ねようとしたが。
「……もう少し、頑張れる?あなたの力を借りたい」
ツルカは竜の体に触れた。竜は拒むことなく、受け入れた。ツルカに頬ずりもしている。
「うん、ありがとう!」
ツルカはお礼にと撫で返した。飛竜は殊更嬉しそうだった。飛竜が体を屈ませると、ツルカは騎乗した。
「お、おい……?」
置いてかれているのは、ラムルだった。ただ、ツルカが何かをしでかそうとしているのは、わかった。
「……ここらへんで賭けに出ようと思って。私の思惑が違っていたら。―全部が終わる賭け」
「……ツルカ」
竜にまたがった少女は、覚悟を決めていた。ラムルはごくっと喉を鳴らす。
「……ったく!」
ラムルは勢いつけて、ジャンプした。乗り込んだのは、ツルカの後ろだ。
「ラムル……」
「俺も乗ってやるよ」
「うん!」
二人の会話を聞き届けると、飛竜は上へ上へと昇っていった。翼を広げて滑空している。傷だらけの体で、二人を乗せて飛んでいた。
「!」
空から向かいくるのは、飛行型の魔物達。大地より魔法を放つのは、国の兵達だ。
飛竜は痛む体をこらえながら、回避していく。ツルカ達も振り落とされないように、必死にしがみついていた。フードがめくれそうなので、片手で押さえた。かつ、視界をさえぎらないように。
ツルカもまた、迎撃しようとするも。腕の痛みに、危うくピンスティックを落としかけた。
地上の魔法使いが放ってくるのは、氷塊だ。飛竜を狙い撃ちしてきた。防ごうにも対応が遅れてしまう。
「……?」
風で出来た防御壁により、相手の魔法は弾き飛ばされた。ツルカはラムルを見た。きっと彼によるものだ。
「俺が、―お前達を守る。援護に徹してやる。やっと、一緒に戦えるんだ。そうさせろ」
「ラムル……」
「お前らは、せいぜい暴れろ!」
ラムルは次々と魔法を発動させ、相手からの攻撃を防いでいた。ツルカは頷き、飛竜は声を上げた。竜から発せられるのは火炎の息だ。行く手を遮る魔物達を焼き尽くしていく。
空を駆けるは、フルムの守護竜。竜に騎乗するは、フードで顔を隠した少女だ。後ろの猫の存在は気づかれていない。
「あ、あれを見ろ……!」
「フルムの竜!?それに、なんだあの女は!?」
謎多き存在が、魔物を退けていく。人々の視線は、その存在に向いてきた。
「フルムの守護神。それに―」
カイウスもそうだった。中心にいた彼もそうだ。手を止めて、上空を見上げた。
魔物を蹴散らし、飛竜を乗りこなす謎多き少女。その少女のことを、カイウスは目で追っていた。
「殿下、御集中を」
「ああ、すまない」
側近に窘められ、カイウスは指示を再開した。
各々がそれぞれの戦いに投じ、やがて事態は収束していった。
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