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建国祭、当日。

 凱旋門前の大通り。一昨日の襲撃の爪痕は残されておらず、完全に復元されていた。これも、トラオムの魔力や技術力によるものだろう。急ピッチの復興もものともしなかった。

 会場は多いににぎわっていた。トラオムの国民達や、海外客も押し寄せてきていた。フルム人だけが、入場規制をされており、ほとんど見かけることはなかった。

 並ぶ露店には、祭り特有の食べ物や、仮装の服も売られていた。

「仮装か」

 ニコラスを見届けたら帰るつもりだったのと、目立ちたくないこともあった。ツルカはあっさりとした私服で来ていたが、考え直す。周囲は仮装した人で溢れている。自分もそれに紛れた方が、目立たないのではないかと。

「すみません、あれください」

 指したのは、深めのフードがついたケープのマントだった。高めの出費となったが、ツルカは露店で買い上げた。受け取った後、それを纏った。

「……」

 ぶかぶかだったこともあり、フードがかなり落ちてきてしまう。ツルカはフードを後方にやった。

 角笛が鳴る。建国祭が本格的に始まった。人で溢れかえる。

「うう……」 

 ツルカはまさに埋まりそうだった。

「―いや、埋まってんじゃねぇよ」

「あ!」

 ツルカの肩に落ちてきて着地したのは、猫だった。ラムルだった。

「やっぱり来たな。お前は来るよな」

「うん」

「はあ……。巡回してたけどな、妙な動きは今のところない」

 ラムルはそういう奴だと諦めた。ツルカが抱えてくれたので、腕の中に大人しく収まっていた。

「そっか。お疲れ様。このまま、何事もなく終わるといいね……」

「だな」

 ラムルが腕の中でもぞもぞしだした。ツルカが力を緩めると、彼は抜け出す。

「こっちだ。後ろの方になるけど、埋もれるよりかはマシだろ」

 ラムルが人混みをぬって、案内をし始めた。すみません、と言いながらもツルカもついていった。


「お、見晴らしいいな」

 ラムルは伸びをして、眼下を見渡した。彼らが今いるのは、凱旋門にある砦の上だった。かなりの高所であり、会場全体を見渡せた。

 人混みをかきわけ、いくつもの階段をのぼり。―外壁を伝い、こうして到達したのだが。

「ぜえぜえ……」

 ツルカは息切れを起こしていた。猫の彼ならばともかく、ツルカは人の身だ。しかも、魔力を節約中だ。ここまでは、根性と気合で辿り着いたも同然だった。

「お前、大丈夫か?」

「な、なんとか……」

 ツルカは携帯していた水を飲み、改めて会場を見下ろした。高所恐怖症ではないにしろ、それでも気が遠くなりそうな高さだった。

「これで確認してみる。確か、奥だったかな」

 ツルカは携帯していたオペラグラスで、前方を確認した。

「……お前、なんでも携帯してんだな」

 ラムルは妙に感心していた。

「うん。―あ」

 最奥に鎮座しているのは、名だたる王族や国の重鎮達だった。現王に、王妃。 ドレスに着飾ったカタリーナも王族席にいた。

「ん……。猫だとあんま見えねえんだよな」

 ラムルはかなり目を細めていた。元々、猫は視力がよくないという。ラムル補正で多少は補われていたようだが、あれだけ遠いとなると。人や色をなんとなく確認できる程度だ。

「そうだったんだ。はい、貸すね」

「いや、気持ちは有難いけどな。どう見ろってんだよ」

「あ」

 猫のサイズに、オペラグラスは酷だった。

「大体は把握できっから。……そうか、姫の隣りにいるのが」

 ラムルが触れたのは、カタリーナの隣りにいる青年だった。彼も王族だ。

「うん、そうだ……」

 現王の甥にして、カタリーナの従弟にあたる。海外留学より一時帰国とされている。将来を期待されているという―。

「―カイウス王子」

 かつての集落で暮らしていた少年。表情もなく、自分がわからなくなったと言っていた彼。

そんな彼は。

『……平和、か』

 カイウスは国を憂えてもいた。ツルカとしては、今思えばだった。彼は、王族だったからこそ、それも当然だったのだと。

 カイウスは立派になっていた。あの長かった金色の髪は、すっかり短くなっていた。髪は撫でつけ上げられている。柔らかで優しげな面影は残しつつも、精悍な面構えとなっていた。正装の下にある鍛えられた筋肉、体格の良さ。

 美少女と見まごうほどの線の細い少年は、力強い表情の青年へと成長していた。

「……王族の方相手だけど、元気そうで良かった」

 カイウスは王族として、うまくやっているようだ。もう、自分とは住む世界が違う。ツルカはそう考え、一人の民として、彼を敬愛していくことにした。

 ツルカはオペラグラスで捜し続ける。少し離れたところで、ローゼ学院関係者席を発見した。

学院長や、学院のお偉いさん。模範生達もそこにいた。

「―来てるな、あいつ」

「ニコラス先輩……」

 ニコラスの姿もそこにあった。オペラグラスにあるのは、おどおどと座っている彼の姿だった。隣りにいる模範生が気を使って話しかけてくれているが、彼は返事すらしていないようだ。

 これでよかったのだろうか。ツルカは考える。

 確かにニコラスは参加はしていた。ただそれは、ツルカが思い描いていた、望んでいたのはそうじゃなかった。もっと、自信を取り戻した上で。いや、元の自分を取り戻しつつあったニコラスで。それで臨んで欲しかったのだ。

「……私も、か」

 彼の心にまた傷を負わせたのは、父親もそうだとして。ツルカ自身にも原因はあった。信用しつつあった相手が、魔女と騙っていたのだ。

「なんか、すっきりしねぇけど。お前、もう帰るか?」

「……そうだね」

 それなりに親しみを覚えていた、ラムルも不満そうに言った。ツルカも同感だった。

 ニコラスの参列は確認出来た。特別課題も達成だ。学院長のメンツも保てた。

「……もうちょっと、見ていていいかな。ラムル、巡回中にありがとうね」

 ニコラスが気がかりなのは、ツルカもなのだ。

「わかった。ちょくちょく様子見には来るからな」

 ラムルももちろん、心配だ。巡回もあるとはいえ、ツルカのことを気にかけるようにした。

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