そうだよお泊りだよ。
朝、ツルカが目覚めると。寝顔のラムルが近くにあった。綺麗な面立ちにツルカは悲鳴をあげそうになるも、そこは踏みとどまった。
「今日が建国祭……」
ツルカはカーテンから漏れる光を見た。天気は晴れだ。祭り日和である。そう、何事もないかのような。
「うん、気持ちから負けないようにね」
制服のまま寝てしまっていた。髪もボサボサだ。ラムルにも朝食を作ってあげたい。あの草をというわけにもいかないので、買い置きのものから調理することにした。
「ラムル、何食べたいんだろ。朝からお肉だったりする?偏食家だったりするのかな」
何気にラムルの食生活がわからなかった。ともかく、朝からツルカは動き出したかった。そうなると、お互いにもたれかかった体勢をどうにかしなくてはならない。
「ラムル、起こすのも悪いしな。時間もまだあるし」
「……だから、独り言すげえんだよ」
「ちょっ!」
いつから起きていたのか。朝だからか、あまりラムルの機嫌もよくないようだ。目を細めたまま、ラムルは天井を見ていた。
「……よく寝られたな、俺。ある意味偉いぞ、俺」
「そっちこそ、どういう独り言」
「お前な……」
人の気も知らないで、そう加えていた。ツルカにはやはり、わからないのでそのままにしておいた。彼女は身支度や朝の準備もしたかったのだ。
「先に洗面所使えよ。俺が朝飯作っておく」
「そんな悪いよ」
「いいんだよ。泊まらせてもらったからな」
「……泊まる」
「どうした?」
「……」
「おーい?」
「なんでもない。それじゃ」
ツルカは完全にフリーズしていた。ラムルが何度も呼びかけたことで、ようやく再起動した。したものの、洗面所に駆け込んでしまった。
「……そ、そうだよ。私達、一晩一緒にいたんだ」
ツルカは今になって実感してしまった。自分は、異性と夜を共にしたのだと。特に既成事実がなくても。ツルカは頭が沸騰しそうだった。
「と、とくに深い意味とか。何もなかった、いや、ハグとかはあったけど。ほら、ラムルは心配でって―」
ふと、ツルカは顔を見上げた。疲れは残っているものの、目の輝きは戻っていた。
まだ、自分は終わってない。ツルカはそう思った。
建国祭が終わって、次なる魔女会議が始まったとしても。乗り越えてみせると。
お互いに身支度と朝食を済ませ、二人は解散することになった。
ラムルは迎賓館を経由して、会場入り。ツルカはそのまま、会場入りだ。
晴天の空の下、建国祭が無事終わるのを祈って―。