ハルトからの提案。
今回は幽閉されることもなく、ツルカは自室へ戻ることを許された。学院長としてはこうだ。
『私としてもね、建国祭までに荒事は避けたくてね』
魔女会議の開催を許可しておいて、これである。こうも提案する。
『いっそ、逃亡を図るかい?国総出で捜すけどね』
学院長もツルカのことは大体把握している。彼女が危機を迎えていることも、当然だ。わかった上で、これであった。
模範生達が向けてくる、様々な思い。ツルカが返したのは笑顔だった。
『私は逃げません。―また、よろしくお願いします』
ツルカは言った。言ってしまったのだ。
ツルカは本校舎を出て、特別寮に寄ろうとし。そして足を止めた。いつもの流れで、そうするところだった。
「……ニコラス先輩のとこ、いこうとした?」
「ハルト君」
後ろから声をかけられた。ハルトだった。彼の帰り道でもあった。
「行こうとはしてた。でもね」
ツルカは途中まではそう考えていた。ニコラスと話せないか。なんだったら、前もって頼めないか。
『友達だと笑ってくれた君が。―騙り続けていたんだ』
ニコラスが言った言葉だ。ツルカはもう、そう考えることは出来なくなっていた。そもそもが頼めることじゃなかったのだ。
自分が魔女でないと知っている。知った上で、知らないふりをしろ。罪に加担しろなど。
「……あとは、本番しかないなって。私は、そこでニコラス先輩と向き合うしかない。私は、あの人が糾弾してこようとも。魔女だと、主張し続けるんだ」
そうなると、否定派の一人でも納得させなければならない。かつ、保留派は保留派のままで、いてもらわなくてはならない。そう、目の前にいる、保留派のハルトも。
「あー……。また、否定派に回ってやろうかなぁ!?」
「ちょ、ちょっと」
ハルトはおもむろに不機嫌になりだしだ。大声で言い出す。日本語で言ってくれていたのは、まだ救いか。そう、ハルトは日本語に切り替えていた。となると大抵、歓迎された話はしない。
「なんてね。まあ、気分下がったままだけど」
ハルトは眉を寄せたままだ。その状態で告げてきたのは。
「ねえ、いつまで続ける気?今回もやばいことくらい、わかってるよね?」
「ハルト君……」
「わかってたら、主張し続けるとか言わないか。……わかれよ。お前、もうゲームオーバーなんだよ」
「……!」
「ニコラス先輩が味方してくれるー、とか信じてんじゃないの?」
「それは……」
思ってない、全く期待していない。そういっては、それは嘘になる。心のどこかで信じている気持ちはあった。
「たとえ、お前に親切にしてくれようと。フレンドリーに接してくれようと。例の人みたく、ノリで口説いたりしてこようと。相容れることなんてない。あの人らは、オレらとは根本的に違う」
「待って」
「オレには、絶対に理解できない。騙ったくらいで、処刑だなんて―」
「ハルト君!」
「!」
ツルカは相手を強く呼んだ。それは、思っていたとしても。決して口にはしていけないことだった。ハルトもまずったと思ったようだ。それ以上、言うことはなかった。
「……じゃあ、これだけいっとく」
ハルトは後ろをちらりと見た。他の模範生達もやってくるようだ。
「―建国祭終了から、明日が終わるまで。じいさんの店で待ってるから。あとは察して」
「それって……」
ハルトの祖父の店。それは以前、ハルトが連れてきてくれた場所だ。ツルカ、鶴村佳弥乃を日本に帰す為に。それをハルトは暗に告げていた。
「じいさん、出張で今いないし。はあ、タイミング悪。……でなきゃ、強引にでも連れていったのに」
「……ハルト君」
「じゃあ、また明日ね」
ハルトは口早に告げて、ツルカの前から去っていった。ツルカだけが、取り残されていた。