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魔女会議、開始。―ニコラス編。

「―やあ、失礼するよ」

 学院長は女生徒の肩を抱きながら、入室してきた。彼だけが笑顔だった。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 待機していた模範生達の反応もまちまちだった。模範生のトップ、マルグリットが咳払いをする。

「おお、これは失礼。皆、本日はお集まりありがとう。急な開催だったのにね」

 学院長はわざとらしく肩を竦めて、ツルカから手を離した。ツルカに対して厭味ったらしい言い方をしつつだ。

 どうやら今回は学生のみでの開催のようだ。

「ん?六人かい?」

「え……」

 学院長が首をかしげる。ツルカも模範生達を見た。

 中央奥には、トップのマルグリット。それから順々に模範生達が着席している。立たされるのは、疑惑をもたれているツルカのみだ。

 第7模範生の席、そこにニコラスの姿はなかった。

「学院長、失礼します。申し訳ございません。ニコラス・エーアストとは連絡がつきませんでした。よって、今回は彼は不在となります。ご承知願えますでしょうか」

「……おやおや、困ったけど仕方ないか。ああ、いいよ。マルグリット君」

 起立して説明をしてくれたのは、マルグリットだった。学院長が座っていいと告げたので、彼女は着席し直す。

「……」

 これは安心していいのだろうか。ツルカは空席を見つめていた。確信を持っていたニコラスが不在なのだ。といっても、状況が思わしくないのは変わりない。

 模範生達からの視線がツルカに集まっている。主だっているのはやはり、疑念だ。

「ニコラス君は、不在と。せっかく奇数になったのにね。過半数超えるようになったというのに」

「過半数って」

 そう、ニコラスが加わることにより、過半数を超えることになってしまう。

「そうだろう、ツルカ君?ああ、心配しないでくれたまえ。保留は保留、君を魔女だと認めないものの、否定するわけではない。皆もそれでいいかな?」

「学院長。前回の魔女会議同様に、保留派は賛成扱いとなる。―それでよろしいでしょうか」

「ああ、そういうことさ。前回の君や、カタリーナ君。……ハルト・エーアイデ君のようにね」 

 学院長の提案を、マルグリットはかみ砕く。そして、前回で保留と判断した者達。彼らの名を学院長はあげつらった。

「……へっ。ずいぶんとお優しいんだなァ、学院長さんはよォ。保留なんて、まどろっこしい。そいつが魔女か!そうじゃないか!それだけでいいだろうがよォ!?」

 模範生、否定派の一人が学院長に噛みついた。学院長は微笑んだままだ。

「ああ、可愛い弟の言う通りだね」

「ああん!?」

 威嚇するのはその模範生からのみで、学院長は相手にしなかった。

「保留派の君達も、遠慮なく判断を下してもいい」

 学院長ははっきりとそう言った。六人だろうと過半数を超えることは可能だ。保留派の一人でも、否定派に回ったならば。

「ただね、保留という判断を尊重したいんだ。魔女を騙るという大罪を真摯に受け止めて。それでいて、熟考したいという。その思いを私は尊重したい」 

 保留派の三人に語りかける。彼らは皆、神妙な顔つきとなっていた。

 学院長の提案は、ツルカにとっては助け船だった。肯定派などいないだろう。保留にしてくれるだけでも御の字だった。ツルカの次につながるのだ。

「では、私は見守らせてもらおうかな。ああ、立ち見で結構だよ」

 マルグリットに着席を勧められるも、学院長は断った。彼は壁に寄りかかって、見学に徹することにしたようだ。この男にとっては、面白いか面白くないか。それだけだとしても。

「……」

 ツルカにとっては自身の生死、それだけではない。ラムルとのことも関わってくる。ツルカは気を引き締めた。


 マルグリットが語るは、トラオムの祖。救世の魔女の偉業だ。

「―と、そのような偉大なる功績を残された魔女の血を引くのが、我々です。この力は我が国における誇りそのものなのですから」

「……はい」

「ですが、その魔女の最期は凄惨なるものでした。―信じていた仲間による裏切り。その裏切りにより、命が絶たれてしまったのですから。……わかりますね、あなたが今罪に問われているのは」

 問われた人物は息を呑む。豪奢な部屋の中央にて、いたって平凡な少女が今まさに糾弾されていた。少女と同じ頃の若者が、少女を取り囲む形で席に着いていた。ただ一人立たされ、そして多数の刺すような視線に少女は怯む。それでも。

「この国における大罪の一つ、それをあなたが行っているのだとしたら。それを看過することは出来ません」

「……私は」

「それでもあなたは。―騙り続けるのですか」

 それでも、だ。彼女は退くわけにはいかなかった。

「私は魔女であると、そう語り続けます。よろしくお願いします」

 魔女会議が始まる。

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