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予期せぬエンカウント


 購入物は、なるべく怪しまれない、最低でも言い訳のできる整合性の取れる物でなければならない。

 この後、起きる(起こす)事件で、登場人物にならないのは無理だ。

 どうあっても、関係者として神原 真の名前はあがる。

 さらに、実行犯は確保不能の神なのだから、何かミスった場合、実は危ないのは神原だったりする。

 怪しまれない立ち周りをするつもりだし、実行犯が人知を越えた存在である時点で、『疑い』以上にはならないと予想しているが、言い訳くらいは用意しておかなければならない、と神原は考えた。


 そのため、昨日の夜の内に細工をした。

 自室の椅子のキャスターを一本折ることから始め、家のあらゆる物に軽度の損傷を与えてから家を出た。

 ヒビ割れ、ネジの緩みなど、頑張れば、直せる程度の損傷を至るところに。


 神原は基本的には真面目に授業を受ける、そこそこ内申が良いタイプな生徒であったため、今日のサボりは怪しまれるかもしれない。

 そのため、〈部屋の修理の材料を買って、そのまま、サイクリングで遊び歩いた〉という言い訳が成りたつ様に一応の状況を整えたのだ。

  

 あくまで、一応だ。

 聞かれたら咄嗟に答えられる程度の理由。

 

 買い物の様子と自転車で走る姿は隠しようが無いが、拠点である神社は認識できないため、神原がどこに居たかは確認出来ず、調べても決め手までは行かないはず。


 それに、神原の予定としては、捜査機関による捜査は誘拐までになるはずで、失踪の捜査は存在しない予定なのだ。

 失踪まで行けば怪しいが、誘拐までなら、前日に学校をサボった生徒との関係など気にしないだろう。


 そんな風に、何とか自分の中の不安をなだめようと考えながら、わざと遠回りして神社に戻っている最中である。

 信号機が赤になって、車道の脇でペダルを止める。

 

 「あ。」


 「あーー!!」


 歩道で信号機が青に変るのを待っている、自分の通う高校の制服を見て、もう学校終わったのか・・・と思ったより、時間を掛けてしまっていたことに気づき、さすがに神社に戻ろうと思っていた矢先である。


 目の合った制服の女子を見て、自分がミスったことを悟る。

 しまった!そう思った時にはもう遅い。

 ハッキリ言って油断していた。

 状況の整理、試練の攻略、白鞘との交渉、今日中にクリアしておくべき難所は上手く行きすぎと言って良い程に無事通り過ぎた。

 そう思ってしまっていた。


 六星 空だ。


 

 自転車に跨った状態で神原を指指し、完全にロックオンしている。


 「お前ぇーー!風邪じゃねぇじゃねーか!!」


 相変わらず、声がデカいし男勝りだ。

 身体が硬直した。

 もう聞くことが無いと思っていた声に自分は感激しているのだと気づいた。

 こんな、何でもない言葉で、思わず顔を伏せてしまいそうになった。


 (いや、感激してる場合じゃない!まずいぞ、どうする?今日ここで六星と会話をするのは予定外だ!すでに過去のルートとは分岐してしまった!)


 六星の失踪は、〈7月12日の夕方〉、より正確には放課後に神原と会話をした後に起るはずの出来事であった。

 だから神原は、事が起る前に、六星を〈7月12日〉の昼休み、もしくは、学校が終わった直後に速攻で、誘拐するつもりだった。

 逆に言えば、それまでは、六星自身の過去は変らないことが前提であったのだ。

 つまり、現在進行系で、過去の自分と違う行動を取って、過去を変えている自分は。


 (少なくとも、明日までは六星に会っちゃダメだった!!)

 

 六星の過去はこの時点で変ってしまった。

 以前の〈7月11日〉には、この場所で、私服の神原と会話なんてしていない。

 そして、失踪のトリガーは未だ不明のままである。

 下手したら、〈神原と会話した〉ことが失踪のトリガーだった可能性すらあるのだ。

 もう、いつ、六星が、失踪しても、可笑しくない。

 どう言いつくろっても、安心材料が一つ消えてしまった。

 

 「よ、よう・・・、元気か?」


 「お前も元気そうだなぁー!この、サボり魔がぁー!!」


 やべぇ、何話して良いかわっかんねぇ・・・!

 高校生の頃、こいつと何話してたっけ・・・?

 そもそも、このまま話し続けて大丈夫なのか?

 無視して、走り抜けた方が良かったんじゃあ・・・?


 「・・・」


 「ん?何?どうした?何か反応、変じゃね?」


 もう、返答しちまってんだよなぁ・・・。

 こうなれば、リスクは上がるが、今から、計画を実行するしかない。

 誘拐当日に意味不明な理由で学校サボっていた奴と会っていたとか、怪しすぎるが、神原の単独犯は現実的じゃないし、共犯者の白鞘を捜査機関は認識できないから、逮捕まではいかないだろう、と楽観視するしかない。


 「いやぁ、すまん、すまん。ところで、六星、腹減ってたりしねぇ?」


 「おい!口止めに走ろうとしてんじゃねーか!」


 ご飯奢ってやるからちょっと着いて来いって誘うつもりだったのだが・・・。

 学校サボった口止めだと思われたらしい・・・。

 何か・・・子供に『お菓子をあげるから家までおいで』って言ってる、不審者のテンプレみたいな・・・。

 まぁ、やろうとしてるのが、誘拐だから、そのものなんだけど・・・。


 「おいおい、口止め?人聞きが悪いなぁ、六星さんはぁ?それだと俺が何か悪いことをしている見たいじゃぁないか?」


 「仮病でサボってんだから、普通に一般的な不良だよ。」


 「まあまあ、そこはほら、人間誰しも、善と悪の二面性って奴があってだな?一見、善人に見えても100%善人ということはあり得ないわけでぇ、まあ、つまり、そういう日もある。」


 「え、・・・本当に何かあったの?神原がサボりって何からしくないっていうか、普段、真面目人間の化けの皮被ってるだけあって、なんつーか、こういう、わかりやすい不良行為はしないもんだと思ってたんだけど・・・?」


 「普段、真面目にやって信頼稼いでるのは、こういう時にサボっても疑われないようにするためだぜ、何事も信頼、信頼。」


 うーん、おちゃらけて賑やかせないかと思ったんだけど、逆に違和感を感じたっぽい。

 あ、実は悩みがあって相談したいって言えば連れ出せたんじゃね・・・?

 ヤベぇな、どうやって神社まで誘導しよう・・・。

 まだ『お菓子あげるから』作戦でいけるか?


 「何て価値の無い信頼・・・。つまり神原は裏切って欲しくない時に限って裏切る奴なんだ・・・。今後お前のことは信用しないわ。」


 「ところで、六星さん、お腹空いてませんか?」


 「この流れでよく言えたなぁ!?絶対一服盛ろうとしてる流れじゃん!?」


 「ハハハハッ・・・、そんなわけないじゃないですかー?やだなー、もう、お!そこに自販機があるな!何か飲むぅ?奢ってやるぜ!」


 「怖すぎるんですけどぉ!?どこで覚えた、そんなサイコパスムーブ!!」


 うん、こいつずっとツッコミに回ってくれるから面白えんだよな。

 何か、ずっとボケちゃうわ。

 まあ、目の前の男は実際に誘拐を企てているわけだから、その警戒は正しいわけだが。

 

 「まあ、機嫌が良いのは本当だから、買い食いに付き合えよ。」


 「・・・良いけど、駄弁るなら座れるとこにしようよ。」


 『奢る』という言葉を『買い食い』に変えたのが効いたのか、始めから断る気は無かったのか知らないが、〈誘い出し〉には成功した。

 何となく、神原の様子が変だったから気遣った、という感じもするが、六星 空はそういう女の子だったことを思い出せて、少し嬉しくなる。


 「あ、ファミレスは無しな。金足りるかわからん。」


 「お前、何で奢るとか言えたわけ?」


 「安心しろって、ゆっくり駄弁れる秘密の場所を最近、見付けたんだ。」


 神様のお家だけどな。

 

 

 

 コンビニで、揚げ鶏とコーラを買い、神原の財布から、紙幣が姿を消した。

 

 「それで?ゆっくり駄弁れる場所ってどこなの?」


 予定外ではあるが、六星を誘い出すのは成功だ。

 だが、準備が万全では無い事実はどうしようも無い。

 何が問題かって、白鞘は計画をいつ実行するのか知らないということだ。

 本来なら、この後、明日の予定を伝えて、誘拐の具体的な手順を詰めるつもりだった。

 だが、その時間は無くなった。

 白鞘はこれから、六星を神社に連れて行くことを知らない。

 

 (あいつ・・・、アドリブ効かせられるかなぁ・・・?)


 しかし、もう状況は動いてしまっている。

 神様の臨機応変な対応に期待するしかない。

 

 「着いてからのお楽しみってことで。」


 コンビニから目的地である神社には五分くらいで着くだろう。

 はぐらかして、二人でペダルを漕ぐ。

 しばらくして、神社の近くにある公園が見えて来た。


 「もうすぐ、この先だ。」


 神原は言って、違和感を覚えた。


 (あれ、何か・・・人けがない?)


 まだ、日は高い。

 そこそこ広い公園である。

 この時間帯なら、公園で遊ぶ子供の声とか聞こえてくるはずだった。

 

 気づいた後は強烈だ。

 静寂が背筋を冷やし始める。


 「おい、六星、少し急ぐz!?」


 振り返った瞬間だった。

 六星の漕ぐ自転車の後ろから、猛スピードで走ってくる人影。


 そいつは、頭のてっぺんからつま先まで、全身真っ黒で、黒くない部分が無い。

 その辺の店で、売っているとは思えない明らかにヤバそうな黒。


 白鞘の言葉を思い出す。

 

 マジのプロの〈人さらい〉


 (鉢合せ!?いや、俺が六星を先に確保しようとしたから!?)


 「六星!!何かヤベぇ!!そこの神社に入れ!!!」


 白鞘のいる神社はもう見える所まで来ている。

 神社の白鞘にも聞こえることを祈りつつ、大声で叫ぶ。


 六星も後ろから来る黒い奴に気がついたようで、


 「え?うわ!?何!?」


 と慌てて自転車のスピードを上げた。


 神原は逆に急ブレーキを掛けて、自転車を壁にするように道路に止め、自転車の籠に入れていたホームセンターの袋から、タグが付いたままのトンカチとマイナスドライバー、そしてプラスチックのケースに入った五寸釘のセットを取り出す。


 「神原!?何してんの!?」


 神原の行動に驚いて、六星も自転車を止めてしまうが、そこはもう神社の目の前だ。

 

 「良いから!!神社の中に入れ!!」


 神社の中には、白鞘(味方)がいる。

 ちょうど、神様には臨機応変な対応を期待していた所だ。

 そのまま、誘拐に移行してくれても良いし、六星を保護してくれるだけでもありがたい。


 五寸釘のケースを乱暴に開けて、後方にバラまく。

 即席のマキビシだ。

 

 これで六星はこちらに来れないし、神原と黒い奴も向こうには行けない。

 

 「神原ぁ!!何してんの!!逃げろよ!!」


 六星が叫んでいる。

 制止して、改めて、黒い奴を目視してしまったのか、その声色からは恐怖が感じられる。

 

 しかし、もう神原は後ろを振り向けない。

 目論見通り、黒い奴は神原の目の前で止まった。

 敵対者から目を逸らすのは、論外だ。


 「神社の中に人がいる!そいつに頼んで、助けを呼んでくれ!!」


 嘘だ。

 神社の中にいるのは人ではないし、助けを呼んだ所で、あの神社は発見されない。


 トンカチを黒い奴に向かって、構える。


 「あ~、もう!!バカ!!」


 「すまんね・・・。」


 呟くように言ったので、聞こえちゃいないだろうが、六星は神社に入った様だった。

 これで、勝ちだ。

 こいつはもう六星に手出しできない。

 

 神原も神社に入ってしまっても良かったのだが、〈けじめ〉はつけないといけない。


 24歳の神原を刺した、あの刃物男と違って、この黒い奴・・・たぶん、六星を失踪させた〈人さらい〉にはしっかりと個人的な恨みがある。


 もし、犯人がいるなら、ブチ殺す。

 そう思わなかった、何て言えない。

 言わない。


 「ブチ殺す!!!」


 すでに、神原 真はブチ切れていた。

 


 少々、間が空いてしまいましたが、続きです。

 何か新しく、小説書いたりもしていますが、このシリーズは完結まで書き続けるつもりですので、よろしくお願いします。

 目標は変らず、完走!

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