例えヤバいとわかっていても・・・たった一つの目的にオッサンは走る。
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(青い鳥信者)
あと、ふざけました(ごめんなさい)
神との交渉は考え得る限り最良の形で終えることができた。
あの神社は神原にとっての『安全地帯』となり、『絶対に捕まらない誘拐の実行犯』まで確保することに成功した。
正直な話、誘拐の実行については突っぱねられると神原は考えていたので、メインは『安全地帯』の確保にあったのだが、予想外にあの神は自由度が高いらしい。
口では自分の楽しみのためと言っていたが、本当は神原の蘇生を第一に考えてくれているのかもしれない、と思いたくなってしまう。
現在時刻は午前十一時半。
「はぁ・・・、はぁ・・・」
神原は学校の制服ではなく、自前の私服で自転車を漕いでいた。
目的地は神原が住む町の駅から数えて六つほど先にある町のホームセンターである。
そのホームセンターには以前にも自転車で行ったことがあるので、電車でも行けたのかもしれないが、神原は自転車で行くことにした。
理由は単純。
金が無い。
(クソ・・・、高校生の財布事情ってこんなにキツかったっけか!?バイトとかしておくんだったなぁ・・・。)
財布の中に諭吉がいない、カードがない、という状況。
社会人の金銭感覚に溺れてしまった神原には高校生の財布の中身が心もとなかった。
お小遣い制で甘やかされていた者と青春という貴重な時間を労働に費やしていた者の格差をこんな時に感じることになるとは・・・。
白鞘が言っていたことも気になる。
購入する物は考える必要があるだろう。
(当初は縛るためのロープかテープと監禁中の食料だけだったんだが・・・、こりゃぁ他にも色々と用意しておいた方が良いか・・・?)
ある程度、話がまとまって、鞄に入っていた携帯ゲーム機(この頃はよく昼休みとかにやっていたので標準装備。白鞘が「自分にもやらせて!」とか言ってきたので交代でプレイしてスコアを競った)で店が開く十一時まで時間を潰していたら、
「あ、そういえば!」
と白鞘が唐突に言いだして、操作していた髭のオッサンが奈落に落ちる。
「だぁっ!なんだよ!!」
「はい、次私~。」
こいつ・・・!気を逸らすために思わせぶりなこと言いやがったのか、こしゃくなぁ・・・!
・・・良かろう!そっちがその気ならば!!
と耳元で〈ゾンビゲームに出て来るゾンビの声マネ〉を登場から銃殺までのフルバージョンで流してやる、と喉の準備を開始したところで、
「その六星ちゃんって子の失踪は原因不明なんだよね?」
と思いがけず言葉が続いた。
「ぞ、ぞうだが?」
「何で声カッスカス?あ!亀ぇ!!」
二足歩行の亀に白鞘が操作していたオッサンが衝突事故を起こし、残基が残り2になる。
「ちょっと!変なことしないでよ!!も~・・・」
「すまん、すまん、ちょっと喉の調子がな。で?原因不明だったらなんなんだよ?」
「心あたりがあるわ。」
心当たり・・・?
「・・・はぁ!!?!」
六星が失踪した原因に!?
「ちょっ!だから盤外戦術やめなさいって!!」
隣ででかい声を出されて集中力が乱れたのか、土管から生えている食人植物にオッサンが喰われた。
残基、残り1。
「ど、どういうことだ!?」
神原は、六星 空の捜索に関して割としっかり行なったという自信がある。
六星の親友に重要参考人扱いされながら、かなり深いところまで探ったし、さんざん考察もした。
それは失踪の原因を考えることと同義だ。
しかし結論は出なかった。
それなら痕跡が全くないのは無理がある。
そうだとしたら、見つかっていないのは可笑しい。
さんざん自問自答をし、時に議論もした。
「次邪魔したら教えないからね!」
「そこのブロック叩くとアイテムが飛び出てきて、それとれば攻撃一回食らっても大丈夫になります!!」
「何それ!革命じゃない!!」
いつ気づくかなー、と思って、あえてとらなかったアイテムを献上し、続きを促そうと試みる。
「他のブロックにも何かあるんじゃないの?うわ、ブロック破壊した!!こいつレンガ砕けるくらいパワーアップした!!怖っ!!このキノコ怖!!」
キャッキャッとゲームを最高に楽しんでいる神・・・。
いや、早う続き!!
「心あたりってなんだ!?」
「〈人さらい〉がいたのよ、たしかこの時期。」
「〈人さらい〉?誘拐ってことか?でもそれなら・・・、」
「ただの誘拐犯じゃないわよ?マジのプロの〈人さらい〉。」
どういうことだろうか?
マジのプロ?
つまり、ノウハウのある常習犯?
「いや、それはありえないだろう。」
回数をこなせば確かに方法は最適化されて精度は上がって行くだろうが、ことは誘拐だ。
回数をこなす程に、リスクは高まり、痕跡は増え、捜査機関も力を入れるだろう。
〈切り裂きジャック〉なんて、今の時代なら一ヶ月も逃げれないんじゃないだろうか?
それもただ、攫うだけではないのだ。
結果が行方不明になっているのだから、人間一人分の質量をどうにかしなければならない。
少なく見積もっても五十キロの肉塊+衣服などの持ち物の始末。
そんなことをし続けている狂人を日本の警察が見逃し続けているとは思いたくない。
「いや、いるわよ?そういう奴は、残念ながら。え、何この花?うわぁ!とうとう火の玉ぶん投げ始めた!!」
「・・・マジかよ・・・」
映画の中の宇宙人が実は本当にいると言われた気分だった。
ハッキリ言って、リアリティが感じられない。
「マジマジ!ヤバいわこのオッサン!火の玉ぶん投げながら爆走してる!」
「いや、そうじゃなくて・・・、そこのブロック叩いてみ」
「わ!星!」
「その星とると一定時間無敵になるぞ。」
「とうとう宇宙のパワーまで、手にしたというの!!」
ヒャッハァーーー!!
ダメだ・・・、シリアスな雰囲気にできそうもない・・・。
ん?まてよ?
「なぁ?〈土地の記憶〉だっけ?それ使って良いの?」
それはやりすぎだろう、と勝手に使ってはいけない手札だと思っていたのだが、こんなこと言い出すってことは、そんなことないのだろうか?
「いいわけないでしょ!どこに教科書広げてテストを受けるバカがいるのよ!〈人さらい〉については私が印象に残ってたから覚えてただけ・・・危なっ!無敵切れるの唐突過ぎない!?」
うーん・・・となると、その〈人さらい〉とやらが六星に関係しているかまではわからないのか・・・。
いや、でもこれは『あり』だと考えるべきか?
痕跡を残さず消えた六星。
痕跡を残さず人を攫うプロ。
何より(ゲームでヒャッハーしているとはいえ)神のお告げだろうこれは。
(だとすると、計画的には失踪する前の六星を拉致るつもりだけど、場合いによっては鉢合せもあり得る・・・?)
「あ~!ダメだったぁ~!!でも最高記録よ!!」
火球ぶん投げモードでオッサンが乙ったということは、俺の時と同じように奈落に落ちたのだろう。
「・・・一面の終わりまで行けたか・・・。」
「どう?もうすぐクリアでしょ?私に追いつけるかしら?」
まぁ、アイテムを解禁したらこんなもんだろう。
・・・そろそろ、店が開店する時間だ。
学生の制服だと職質されるかもしれないし、事件に関わる以上なるべく目立たず、かつ言い訳ができる状況を整えなくてはならないため、移動するなら鞄に詰め込んできた私服に着替える必要がある。
なので、ここでギブアップしても良いのだが・・・。
「・・・さっきまで俺達が使っていたルートはいわゆる〈王道ルート〉ってやつだ。」
「え?」
「実は俺、この〈王道ルート〉ってあんまり通ったことないんだよね。」
「ん?どういうこと?」
わかるわかる、じゃあどこ通ってるんだよって話だよな。
「〈裏ルート〉だよ。ちなみにこのゲーム八面まである。」
俺の操作するオッサンはステージの天井の上、『そこは行けないだろう』という死角を着いた、しかし、そこに降りたってしまえば、後は真っ直ぐ走るだけで四面までのワープゾーンがある場所まで走り抜けた。
「フハハハハハハハハハハハハァ!!!!!」
「そんなのありいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
俺の最終リザルトは八面の序盤。
うーん、ボス亀まで行けないとは・・・鈍ったかなぁ?
神原達が操作しているオッサンは、赤い帽子で、緑のヒョロイ弟がいて、桃っぽいカラーの姫を助けるためにヤバ目な効能の植物を大量に食べる、コインネコババ配管工ではありませんので!
ちなみに白鞘ちゃんは神原が買い物に出かけた後ゲーム機をそのまま借り、「私は王道を行く!」と言って裏ルートを使わずに攻略を進めてます。
目標は完走。
進みが遅いけど大丈夫か?
・・・あの裏ルート見付けた時、声出なかった人いない説。