空に手を伸ばす方法
出題者の理解は得た。
「それで?犯罪の片棒を担げとか言ってたけど・・・具体的に何するつもりなの?言っとくけどさすがに殺人とかは直接関われないからね?」
「端的に言うと誘拐」
「は?」
「失踪する前に誘拐して保護する。」
「それ結果的に失踪させてない?」
「そうだ。六星には俺の手で一度失踪してもらう。」
六星 空の失踪は確認されている限り〈7月12日の夕方〉からだ。
それが、わかっているのだから、事が起るまで待ち構えていれば対処できる、最初はそう考えた。
だけど、〈待ち構える〉というのは要はカウンター、つまり後手に回るということだ。
相手の先手がわかっているのに、わざわざ後手に回る必要はないと思わないか?
「誘拐、駆け落ち、殺人、事故、六星が失踪した理由が何なのかはいくら調べてもわからなかった。」
確認できた限り、神原は六星 空と最後に会話をした人間のはずだ。
当然、神原にも話を聞きに来た人間はいたし、短絡的な奴には犯人扱いまでされた。
特に、六星の親友を名乗る女には高校を卒業するまで、重要参考人だからという名目で連れ回されたりもした。
・・・まぁ、あの頃の自分は『六星を探しに行く』と言われれば無条件で着いて行っただろうが。
そんなこんなで、こと『六星 空失踪事件』に関して言えば、神原は捜査機関にも劣らない情報量を持っていると自負している。
「例えば、事故だった場合、何の事故なのか分からないから、備える〈要点〉を間違えるとすり抜ける確率が高まる。」
六星が事故に遭わないように〈六星の不注意〉に備えるべきなのか?〈六星の周囲〉に備えるべきなのか?ということだ。
対人警護の経験も有るには有るが、警護しやすい状況を整えられるのならそれに超したことはない。
「失踪の方法や原因はわからない。でも〈7月12日の夕方から夜〉の間に〈失踪〉することはわかっている。これは明確にアドバンテージだ。」
時間と結果のアドバンテージ。
これを最大限、活かす。
そのための、先手であり誘拐だ。
「・・・なるほど?ちなみに駆け落ちだった場合はどうするの?完全に私ら邪魔者だけど。」
「相手の男には天誅ということで暴力的に諦めて頂く。」
「男の嫉妬は醜いよ?」
うるせぇよ!?
こちとら、六星の親御さんからも話聞いたりしたんだよ!
・・・そういう相談は一切無かったらしいからな、仮に両思いの駆け落ちでも両親の理解を得る努力を一切しなかった時点でその男はダメだ。
俺みたいのでも泣いてる母親見るのは心にクる。
殺人?誘拐?
論外です。
抹殺されても文句言わせねぇよ。
「それで?誘拐って具体的にどうするの?車とか無いでしょ?」
「誘拐っつても町中でいきなり車に連れ込んで逃走劇するわけじゃない。やることは拉致監禁の方がわかりやすかったな。ネズミ取りの罠みたいな。」
「より凶悪になってない?」
「大差ないから、気にしない方向で。」
ザックリとした作戦で言えばこうだ。
まず神原が六星を誘導して、少女が六星の拉致監禁を実行する。
そして、本来の失踪原因を遠ざけるべく、警察や親御さんには誘拐したことを伝えて大事にする。
最終的には神原が発見・救出をしてタイミングを見て試練のクリアを狙う。
「おい、待てこら。ヤバいとこ全部、私じゃねえか!?勝手に実行犯にすんじゃないわよ!しれっと良いとこ取りしてるし!ていうかこれマッチポンプって言うんじゃ・・・。」
「あ、気づいちゃった?でもしょうがないじゃん?ほら、俺は最終的には告白しないといけないわけだから、好感度落ちるかもしれない危険がある役割は・・・ねぇ?」
実際、この少女に協力を取り付けられたのは大きかった。
神原一人の場合、確実性は落ちるが、影から六星を警護するという、ストーカーギリギリの行動に出るしか無かったのだ。
下手したら、風評被害どころか、本当に犯人として捕まっていたかもしれないリスクがあった。
その点、この手段なら確実性は上がるし、神原に社会的な被害はでない。
一見、ただの外道作戦だが、ちゃんと意味もある。
「俺が実行犯として動いて、誰かに感づかれたりしたら、一発で動きが取れなくなるが、あんたは違うだろ?」
「!」
どうやら神様も理解したようだった。
神原には学生という社会的な立場から社会の一員として認識されている。
それは、盾であり、檻だ。
対して目の前の少女の姿をした神は神原と同じ高校の制服を着ているが、社会の一員ではない。
そういう枠組みを超越した盾だろうが檻だろうがぶち壊せる存在だ。
つまり、誰かに見られても、こいつは捕まえられないし、対策できない。
犯人も見当たらない、被害者もない、なら完全犯罪は確実のはず。
「あんたが実行犯なら、正体不明のまま確実に逃げ切れるってわけだ。迷宮入りの事件が一つできちまうがなぁ!!」
ちょっと楽しくなっていた。
目の前の少女の表情も相まって、ニヤニヤが止まらない。
「っちぃぃぃ!!!小賢しい!!!!!」
ガンっ!と鞘で頭を引っぱたかれる。
・・・はい、調子に乗りました・・・すいません・・・。
「う゛ごごご・・・」
「それで?結局どこにどうやって監禁するのよ?」
頭を抑えてバグったゴーレムみたいな呻き声を上げる俺を見下ろしながら根本の問題に戻る神。
「・・・あんたの協力が得られるなら話は早いだろ?」
そう、苦虫を噛みつぶしたような顔をするなよ。
「ところで、昨日っから大声で叫んだり、朝っぱらから大声で口論している学生がいるわけだが、近隣の人は耳でも壊したのかね?」
「こいつ・・・!!!」
未来の知識とかありなんだから世界のルールなんてもうガン無視のチート状態だろ。
なら使えるモノはとことんまで使いまくる。
「無理、ではないよな。〈土地の記憶〉とやらでこれから起ることとかを調べるのは試練的にやり過ぎだろうが、〈神の存在を隠す機能〉はパッシブスキルみたいなもんだと見てるんだが。」
つまり、この少女が出てきている間、この神社は誰からも認識されない完全な死角になるのではないか?という仮説。
答えはYESのようだ。
「・・・神頼みに頼りすぎじゃないの?」
「お賽銭投げたろ、たまには直接助けてくれる所を見せて下さいよ、神様。」
「はぁ、まったく、もはや清々しいわね。・・・良いわ二言は無い。請負ましょう。」
神様を協力者として抱き込み、言質をとる。
そして権能を使用する権利を掠め取る。
神原の狙いは大成功したと言って良い。
だけど、最後のこれは予想外の成果だった。
「ただし、条件があるわ。」
「条件?」
「ここまでしてあげるのに『あんた』とか『神様』としか呼ばれないのは割に合わないわ。信仰的に。」
「つまり?」
「本当は、試練のクリア時に教えようと思っていたのだけど、先に教えてあげるから敬意をもって呼ぶこと。」
そう言って、神原の高校の女子制服を着たポニーテイルの少女は、納めるべき刀の無い白木の鞘を背負い直し、名乗りを上げた。
「私の神名は山王の鞘上。そうね・・・白鞘と呼びなさい。」
神原「失踪する前に拉致ります」
鞘「ほーん」
神原「監禁場所はお前の家な」
鞘「え!?!!!!!」
ようやく、神様が名乗りました。『少女』とか『神様』とかややこいのよ!
まぁ、普段、人間から隠れている上位存在が簡単に名乗るはずないとは思うけどさぁ・・・。
というわけで七つ目です。
目標は完走!!!
よろしくお願いします。