交渉
「・・・つまり、真君の後悔は〈好きな女の子に告白できなかったこと〉で、試練クリアの過程に〈その子の失踪を阻止できた未来〉を望むわけね?」
「そういうことになる。クリア報酬にこれを含むのは可能か?」
神であり、試練の出題者でもある少女は確かに言った『神の創りし世界で変えた過去は未来に追いつく。乗り越えた自分はそのまま世界に反映される。』と。
神を生業とする少女は考える。
〈越えられなかった自分を越える〉試練。
『意味がない』と断じた少年に対し、呆れと苛立ちを交えて言ったことに嘘はない。
乗り越えられた体験は事実となる。
〈乗り越えた自分〉は確かに現実に反映される。
だが、この少年が見据えるゴールには一つ問題がある。
「・・・失踪、ということは死んでいる可能性の方が高いってことは理解しているわよね?それは人一人を生き返らせるみたいなものなのよ。」
少年も一瞬だけ思考する。
反応が良くない。これはどっちだ?〈できない〉のか、〈できるけどやりたくない〉のか?
わからない、でも、できることを全部やると決めてここにいる。
神との交渉だってやってやる。
「わかってる。だからまず聞きに来た!俺が進もうとしている〈過程〉は俺の望む結果になり得るのかを!」
自然と発する声に力が入る。
出し惜しみはしない、思いつく手は何でもやると!!
「無理なら無理ってハッキリ言ってくれ!そしたら、俺はとっとと六星の所に行って、告白して、〈踏み出せなかった一歩〉とやらを踏みつぶしてこんな試練はクリアしてやる!簡単だ。どうせ意味なんて無いんだからな!!だけど!!言っておくけどなぁ!!つまらねぇなんて言うんじゃねぇぞ!!先に大口叩いたのはテメェなんだからな!!」
責めるように、挑発とも捉えられるような言葉をわざと選べ。
思考を邪魔しろ。
「おい、調子に「神様にだって!!」
言葉を遮れ。イラつかせろ。
「神様にだってできないことがあるって!!・・・言えよ。」
最後は、目を見て挑むように言う。
昨日少し話しただけだが、この少女は喧嘩を買えるタイプだと思った。
予想は当たっていた。
「・・・良いでしょう。受けて立ちます。」
神原に言葉を浴びせられている間、少女は控えめに言ってもブチ切れた顔をしていたが、最後に神原の目を見た瞬間、神原の狙いを全て理解した。
そのうえで、受ける。
大口には大口で受けて立つ。
「協力もしてあげましょう。そのうえで、間近で真君を採点するわ。」
人間ごときが、試練だけでなく、神にも挑むとは楽しませてくれるじゃないか、とでも言うかのようにその口の両端は好戦的に吊り上がっていた。
「ただし、クリアの仕方には拘ってもらうわ。適当に告って振られてお終い、なんてなったら地獄の一番深い所に叩き落とすのでそのつもりでね?」
少女が問題視していたこと。
それは試練のクリアで得られる恩恵が、どう考えても生き返る女の子の方が神原より大きく受け取ることである。
何の関係も無い人間に〈おこぼれ〉以上の恩恵を与えるのは摂理に反する。
それでもなんとかしろと言うなら、神原は百点満点の結果を目指すしかない。
「・・・上等だ、ありがとう、神様」
人間一人を生き返らせる。
それは歴史的に大きな影響がでるだろう。
何百かの人生が曲がってしまっても不思議じゃない。
六星 空の生存が〈神原が乗り越えた未来〉だけで獲得できるのか?
目の前の神がその影響を許容してくれるのか?
その不安は取り除かれた。
後はできることをするだけだ。
神原(あの神、煽れば、言質とれそうだな?)
神の少女「やってやるよ!!!!(+やってみろや!!!!!)」
まず目的を言わずに協力を取り付けてから無理難題をふっかける。なかなか小賢しいことをしていますが、一晩落ちついて、神原は今、口も身体も絶好調の状態です。少女の姿をした神の性格をしっかりと考察してから臨んでいます。
死ぬ程の後悔と好きな女の子のためというモチベーションはそれくらいの無茶を通しました。
文字数少なくなってないか?
丁度良い区切りを考えたらこういうこともある、ということで・・・。
目標は変らず、完走!