星が探す真実
エピローグB(1/2)
学校での神原 真という同級生を一言で紹介するなら、〈普通の奴〉、としか言いようが無い。
ゲームが好きで、勉強が嫌いで、人付き合いはそこそこ、誰とでも仲良くなるわけではないが、大抵の人間は対等に話せる・・・言い方は悪いが、面白みが見当たらない。
特にイケメンなわけでもないし、強烈なエピソードがあるわけでもない。
それでも、なぜか目を引いた。
なんというか・・・、モブキャラの集団の中に紛れ込んだ、ちゃんとした名前のあるキャラクターみたいな感じだった。
外側は完全にモブキャラなのに、なにかが決定的に特別、みたいな。
いや、他の同級生をモブキャラと言いたいんじゃなくて。
神原 真からは言語化できない何かを感じるということを言いたいのです。
今でも覚えている、神原と始めて話した時、私はそれを確信した。
私は、一つのスポーツに打ち込むより、楽しめることを飽きるまでやり続けるという気質だったので、特定の部活には所属しなかった。
けど、たまに練習に混ぜてもらったり、運動部じゃない人も巻き込んでレクリエーション的なことを主導したりして楽しく遊ぶことがあった。
ある日、女子陸上部と女子バレー部を巻き込んで、隠れんぼをしていた時だった。
高校生になると、近所の公園や団地でやっていた遊びはやらなくなるもので、参加した人間にとっても久しぶりの体験だったはずだ。
私も張り切ってしまった。
私は生徒が自由に歩き回れる範囲内で、校舎の一番高い所。
屋上に入るための扉がある踊り場に隠れていた。
ハッキリ言って、まったく見つかる気配が無かった。
上手く隠れすぎると、返って退屈な時間が続くもので、何となく扉のノブを回してみたら、ガチャ、・・・と屋上の扉が開いてしまったのだ。
屋上は飛び降りとか転落を恐れてか、入学した時から常に施錠されていて入れないはずなのに。
「うわ!」
「え?」
恐る恐る、屋上に出てみると、一人の男子生徒と目が合う。
神原だった。
鞄を枕にしてゲームをしていたらしく、驚いて、飛び起きていた。
「神原・・・だよね?こんな所で何やってんの?」
「あー・・・、えーと・・・。」
と最初は頭を悩ませていたが、言い訳が思いつかなかったのか、
「俺、屋上の合い鍵持ってるんだわ。」
と、教えてくれた。
なんで?どうやって?
と思って話を聞くと、この扉は普段、南京錠と鎖で施錠されていて、職員室にある鍵とここの南京錠を神原が用意した新しい物にすり替えて、合い鍵を手に入れたとのこと。
「ホームセンターで買った南京錠をわざと傷つけたり、錆びさせたりして元あった南京錠に見た目を近づけるんだ、んで、体育の授業の後、職員室に倉庫の鍵を返しに行くついでに屋上の鍵を入れ替えて・・・。」
やり口は単純だけど鮮やかで大胆だった。
まるで、漫画に登場する怪盗だと感心しながら、どうしてそこまでして屋上に入りたかったのかを聞くと、
「・・・俺達の学費の中には〈設備費〉ってことで学校の施設を維持するためのお金が含まれている。そいつは生徒が使うから払ってるんだろ?なら、入れない場所があるってのは納得できないだろ。」
と、当然の権利だろ?とでも言いたげだった。
言ってることは理解できる。
夏はジャージを着るなとか、化粧はするなとかの何でそうなっているのかわからない理不尽な校則に対する一つのアンサーのつもりだろう。
だけど、普通ここまでは、やらない。
だって、屋上なんて場所は別に入れなくても支障はないのだから。
鍵のすり替えなんて、どう考えても法に触れている。
屋上に入れることで得られるリターンとバレた時のリスクが釣り合ってないでしょ。
でも、神原 真は実行した。
普通じゃない。
マジかよ、こいつ。
何処にでも居そうな顔してるくせに、確実にヤバい奴じゃん。
常人が勇気を持って行うような事を、必要だと思ったら平然とやってのけるのか?
恐ろしいのは、まだ私の目には神原は〈普通の奴〉に見えることだ。
この時私は理解した、〈普通の奴〉に目が引かれる、言語化できない理由。
〈普通〉のくせに〈ヤバい奴〉、じゃない、〈ヤバい奴〉が〈普通〉のフリをしているんだ。
〈ヤバい奴〉なんだから目が引かれるのは当然だ。
きっと神原は、必要だと思ったから〈普通の奴〉をやっているんだろう。
「なあ、合い鍵の件、黙っててくれないか?卒業したらこの鍵は破棄するつもりだし、なんならあげても良い。・・・お前が先生にチクったら俺が罰されるだけだが、黙っててくれたら学校内に秘密基地ができるぜ?」
内心かなり引いていた私に、そんな提案をしてくる神原。
同級生の知らない顔を見て、興味が沸いてなかったと言えば嘘になる。
「・・・、いいよ。その代わり、たまにここ、使わせてよ!」
「よし、契約成立だ!・・・ところで、あんた同級生?」
あ!こいつ私の名前覚えてねえ!!
それから、たまに神原と屋上で駄弁ったりしていたが、〈ヤバい奴〉以上に〈良い奴〉であることもわかった。
正直言って楽しかった。
私は屋上以外でも神原に話かけるようになった。
そうすると、突然できた交友関係に訝しむ人間も出て来る。
雨井 時雨。
中学からの友達で、たぶん、私と一番仲が良い子。
皆からは雨井ちゃんと呼ばれていて、私はういと呼んでいる。
「空って神原と仲良いよね?いつの間にか。何かあったの?」
「んー?まぁーね?共通の話題的なのがあってー、話始めたら面白れー奴でさー。」
「へー、以外、ただの真面目な奴にしか見えないのに。」
そうなのだ。
神原は意外なことに、真面目な奴で通っている。
屋上を半私物化するという、バチクソにヤバいことやっている奴なのに。
そこらの不良より、性質悪いだろ。
・・・まあ私、共犯だけど。
「ういこそ珍しくない?あんまり人間に興味ないじゃん?」
雨井 時雨はあまり人付き合いの得意な女子ではなかった。
クラスの和の中に混じることはあっても、友人としての線引きは別と考えている。
要は、クラスメイトになっただけで友達とは呼ばない。
そうは見えないように振る舞う、実は気難しいというタイプの女子だった。
「人を人外みたいに言わないでくれますー?・・・なーんか、目に付くんだよねえ・・・?なんでだろ?」
実は〈ヤバい奴〉だからだよ。
とは、言わなかったが、目の前の友人は予想外の考察を話始めた。
「・・・恋・・・とかなのかなぁ・・・?」
「ちょっと待って。それは冗談?どっち?判断がムズすぎる。」
「いや、私もそんなの経験無いからわからんけど、意識せずに、いつの間にか、特定の異性を目で追うって、私達の年齢的には恋の可能性が高いのでは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・た、しかに?」
否定はできない。
だが、その理論は私にも当てはまってしまう。
神原が実は〈ヤバい奴〉なのは確かだが、〈ヤバい奴〉というのは本当に目で追ってしまう理由になっているのか?
年頃の乙女らしく、恋愛的な気持ちの方が説明がつくのでは?
いわく、一目惚れ、とか・・・。
「私もちょっと話かけてみよっかなぁ・・・。」
「ちょっ!」
「あ、先生来た!席戻るねー。」
そこそこ大きめの爆弾を落として友人は去っていった。
当然、授業なんか頭に入って来なかったわ。
それからしばらくして、いつも通り鬼ごっこやドッジボール大会など、巻き込める人間を巻き込んで遊んだりすることがあったが、神原は自由参加のイベントには基本的に不参加の人間なので、やんわり断られた。
それを気にしている自分がいることに、ちょっと驚き、良くない、と思った。
まるで構ってくれないことに拗ねているみたいじゃないか。
屋上に行けば良いじゃん。
そしたら、二人っきりで過せるんだから。
頭の中で『二人っきり』なんてワードが出てきている時点でもう、手遅れなんじゃないか?と自分でも思うのだが、ちょっと勇気が足りない。
神原と屋上で話すのは楽しい。
それが無くても、良いやつだ。
だから、せっかく積み上がった関係を壊したくない。
気まずくなるのが怖い。
でも・・・、
上手く関係を進めることができれば、きっともっと楽しい・・・かもしれない
とも思う。
最近は、ういが神原に話しかけに行ったのか、とかも気になってしまって神原だけでなく、ういのことまで目で追うようになってしまっている。
良くない。
(決めた、次に屋上に行った時、まずは好きな人がいないか聞いてみよう!)
なんで、今日に限って、風邪なんか引いてんだぁ?
タイミングの悪い奴めぇ。
はぁ・・・、今日は特に用もないし、真っ直ぐ家に帰ろう。
「あ。」
帰り道で、私服の神原に遭遇した。
元気に自転車で走り回ってたみたいだ。
「お前ぇーー!風邪じゃねぇじゃねーか!!」
仮病じゃねーか!!
何しとんねん!!
しかもこいつ!
私の顔見て今ヤベっ!って顔しやがった!!
・・・でも何か、様子が変だな・・・実は本当に具合悪い?
いや、自転車の籠にホームセンターの真新しいビニール袋が入っているから体調じゃなさそう。
そうなるとお悩み系?
なにか学校に行きづらい理由でもできたのだろうか?
あと、なんか、雰囲気がいつもより大人っぽいような気が・・?
これ、もしかして恋のフィルターかかってる?
あ、やっぱ前言撤回、ファミレス行けないほど懐寂しい奴に大人っぽさは感じない。
『駄弁れる場所に行こう』という神原の誘い自体は渡りに船だったが、無くなったと思っていたイベントが突然の復活を果たして、心の準備が追いついていない。
一緒に自転車を漕いで並走している時も、神原はたまに上の空になってたし、何か、本当に深刻な悩みがあるのかもしれない。
そうなると、私の話は今日はやめといた方が良いかな・・・って、思ったのが良くなかったのだろうか?
神原が突然慌てだした。
「おい、六星、少し急ぐz!?」
神原の視線が背後に向いて固まったのを見て、私も後ろを見て、後悔した。
真っ黒い人影が猛スピードで走って来る。
黒いマネキンみたいなそいつは、真っ直ぐに私達を狙っているように感じた。
え!?
なになに!?
怖!?早!?
「六星!!何かヤベぇ!!そこの神社に入れ!!!」
神社!?
そんなとこ入ってどうすんの!?
足止める方がヤバいでしょ!?
って、おい!!?
「神原!?何してんの!?」
なにやってんの!?こいつ!!?
まさか、迎え打つ気!?
あんな如何にもヤバそうなの相手に!?
「神社の中に人がいる!そいつに頼んで、助けを呼んでくれ!!」
人!?
なんで!?
「あ~、もう!!バカ!!」
そう言えば、こいつは〈ヤバい奴〉だった!
普通のフリしてるだけで、咄嗟の行動はヤバいんだ!!
なんか釘撒いたし!
なに、ちょっと笑ってんだお前ぇ!!
神社の入り口に自転車を倒すようにして置きながら神社に駆け込む。
鳥居をくぐると、私と同じ制服を着たポニーテールの女の子がいた。
この子が神原の言っていた人?
神原はこの子がここにいるってわかってたし、目的地もたぶんこの神社だよね?
じゃあ、この子は?
もしかして・・・彼女・・・?
「助けてください!!!友達が変な奴に襲われてて「残念ね。」
言葉が遮られた。
二の句を告げる前に目の前の女の子は言う。
まるで、人間とは思えない、冷たい声音で。
「あなたの寿命は一日早まったわ。恨むなら賢し過ぎた友人を恨みなさい。」
目の前が真っ暗になった。
補足:六星との最後の会話。 一週目の神原少年は六星の「好きな人とかいる?」という問いに思春期らしい照れから「いないね。」と答えました。不幸だったのはそれが照れに見えないくらいに自然に言えてしまったこと。あまりにも自然過ぎて会話が続かず終わってしまったこと。擬態が上手いのも考えものです。
六星編が長い!!
長いので分けます。
三話あるエピローグってエピローグか?