「まだ終わらせない」
真相編!もう少しで完結です。
サブタイの「」は誰が言ってるんですかね?
〈人さらい〉は処理した、・・・いや、言い直すべきだ、殺した。
黒い化け物は形が崩れると、溶ける様に地面に吸いこまれて、何の痕跡も残さず消えていった。
マイナスドライバーを突き刺した左手が、投げ飛ばされて強打した背中が、腕が、顔が、体中が痛む。
「はぁ・・・。」
公園で一人になった途端、急に身体の力が抜けて神原は崩れ落ちた。
しかし、マイナスドライバーを握った右手だけは死後硬直でもしたかの様に固まってしまって離れない。
正当防衛は成立する。
そもそも、法律で裁ける存在でもない。
他に選択肢は無かっただろう。
いつの間にか、そんな風に自己弁護をすることで罪悪感を消そうとしている自分に嫌気がさした。
何を今更。
マイナスドライバーを突き立てた感触はまだ手に残っている。
一時の感情に支配された。
人の形をしたモノを取り返しが付かなくなるまで壊した。
そういう、〈やっちまった感〉が神原に襲いかかっていた。
ゆっくり、ゆっくりと右手の力が抜けていき、ようやくマイナスドライバーが地面に落ちて、自分が震えていたことに気づく。
「っ痛ぇ、・・・クソッ・・・!」
放心しなかったのは、震えを自覚した途端に体中の痛みが熱を主張し始めたからだ。
特に、最後に投げられた時に捕まれた右手。
脱臼とかはしてなさそうだが、肩、肘、手首、全ての関節を動かそうと思えない。
(・・・とりあえず、神社に行かなくちゃ・・・。)
とにかく、六星失踪の原因である〈人さらい〉は排除した。
これで、六星を誘拐する神原の計画は実行しなくても良くなった。
それは白鞘が誘拐の実行犯をする必要もなくなったことを意味する。
今更だが、神様に誘拐の実行犯を押しつけるとは、バチ当たりにもほどがあるのでは?
(六星にも怖い思いをさせるところだったしな。)
このまま、病院に直行するわけにも行かない。
せめて白鞘と六星を確認してからでないと。
(唐突に二人きりにしてしまったからな・・・まあ、六星はコミュ力高いし、白鞘も話した感じ大丈夫だと思うけど。)
案外、白鞘が六星を落ちつかせて、一緒にゲームでもしてるかもしれない。
いや、それは腹立つな。
まぁ、結果的には良かった。
神原以外が物騒なことをせずに済んだのだ。
(そうだ!もう必要ないし、誘拐中の食料として買っておいた、おにぎりとかお菓子は三人で食っちまおう!)
神原はトンカチやシャツを回収し、痛む身体を押してホームセンターの袋が籠に入った自転車まで戻る。
(そういや、五寸釘どうしよう・・・。)
道を塞ぐように、バラ撒かれた五寸釘。
その、危険性は身体で体験している。
公園を迂回すれば、神社まで行けなくもないが、ちょっと辛いし、一個づつ拾い集めるのは、もっと面倒だ。
(後で白鞘にでも回収してもらえばいいや。)
神原は靴の側面で釘を払うようにして、道の脇に寄せて行った。
道端に五寸釘が山盛りになっているのは中々に、危険性を感じる光景だが、これで車も通れるだろう。
神原は神社に向かう。
神社には六星と白鞘がいる。
六星はきっと心配してくれているだろう。
神原の無事を喜んでくれるかもしれない。
・・・いや、まず怒られるな。
白鞘は・・・どんな反応をするだろうか?
神原が死にものぐるいで闘ったのを見て「良くやった」とか「見事だ」とか言ってくれるのだろうか?
それとも怪我を負ったことで「減点!」とか言われるかな?
・・・あれ?もしかして、こんなに頑張ったのに神社に入ったら現実を突きつけられる感じ?そんなバカな・・・。
なぜ、凱旋するのに、ちょっと覚悟を決める必要があるのだろう・・・。
(というか、六星にガチ説教されるのが普通にキツいぞ・・・。)
友達からの説教とか効き過ぎる。
しかも、神原の感覚としては六星は久しぶりに会った友人である。
偶然、久しぶりに、再会した思い人に再会早々、お説教は気が重いなんてもんじゃない。
(白鞘!白鞘に賭けるしかない!白鞘が良くやった的な感じで褒めてくれれば、長いお説教にはならずに済むかも!!)
頼むぜ、相棒!
そう思って、神社に入る準備として白鞘から貰った水を飲んだのだが、喉が渇いていたこともあり、飲みほしてしまった。
後で、新しいの貰わなきゃなぁ・・・と考えながら鳥居をくぐると、六星と、白鞘の姿が・・・。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁ・・・・・・!!!!!!!!!!!」
ガシャッ、という音がして、それが自分の持っていたホームセンターのビニール袋が地面に落ちた音だと気づくのに、数秒かかった。
「六星!!」
割れんばかりの絶叫を発していたのは、六星 空だった。
石畳の道で泣きながら頭を抱えて蹲っている。
神原が六星に駆け寄ろうとした時、神社の主が社の中から顔を出す。
その顔を見て、思わず、神原の足は止まってしまう。
「やぁ、真君、お疲れ様!見事だったよ、まさか、〈縮地〉を退治してしまうなんて、もう記録すら残っていないだろうけど、あれはこの地じゃ、最速を誇った武人だったんだぜ?」
無表情だった。
教室で見かけたら、『あいつ不機嫌だな』と思われても仕方ない顔。
賞賛の言葉を口にしているようだったが、表情と言葉が絶望的に合っていない。
驚愕と困惑で喉が動かない神原を無視して、白鞘は続ける。
「〈縮地〉の奴、ああなってからは、どうにも攻撃が地味になったけど、代わりに全く捉えられなくなったし、対策なしの初見で退治するのは、まず不可能なくらいの性能してたはずなのにねぇ。」
「・・・・・・、し、しろ・・・白、さや・・・。」
「立ち向かったは良いけどやっぱり手に負えなくなって、真君が私に泣きついてくるかなーって、ちょっと楽しみにしていたんだけど!」
「白鞘ぁ!!」
嫌な感じだった。
六星はこの瞬間もずっと叫び続けている。
そんな雑音は耳に入らないとでも言うように白鞘は喋り続ける。
「ん?どうしたんだい?真君。というか君、いつまで半裸なんだい?恥ずかしいなぁもう、ほら君が置いていったこれ、早く着てくれよ。」
そう言って昼間に置いていった、制服のワイシャツと学ランを入れてある袋が神原に向かって放られる。
反射的に受け止めてしまった。
適当に丸めて突っ込んだはずの、シャツと学ランがキレイに畳まれているのが見えた。
聞くべきことが多すぎて、言葉がでてこない。
六星は明らかに普通の状態じゃない。
そんな人間を間に挟んで、なんで、そんな会話を平然としようとする?
「ああ、勝手かな?とも思ったんだけど、畳んで置いたよ。実は家事とか得意なんだよ、この私は。」
「・・・どういう、こと・・・なんだ・・・?」
「ん?」
「これはどういうことなんだ!!白鞘!!」
「〈人さらい〉についてどうしてそんなに詳しいか、ってこと?それなら、私の使い魔だからだけど。ちなみに、私の持ち駒の中だと今んとこ一番強い奴。」
「違う!!六星だ!!なんで、こんなに苦しんでる!!」
「ああ・・・、そっちね・・・。」
つまらなさそうに、ようやく表情と言葉が合致してきて、白鞘は言った。
「〈神隠し〉よ。」
「は?」
「そこの女の子・・・六星 空ちゃんだっけ?その子には今〈神隠し〉に遭ってもらっているわ。」
「〈神隠し〉って・・・、なんでだ!?」
「真君と同じ趣味でやってる〈神隠し〉じゃないわよ?ちゃんと神様の仕事としての〈神隠し〉」
趣味ではなく、仕事としての〈神隠し〉
神原の今の状況は、白鞘の興味からきている、つまり、やるもやらぬも自由な、趣味。
なら、仕事とは?
「この子の失踪は決まっていたの。本来なら、明日この場にて行なわれる予定だったのだけど、真君の計画は上手く行きすぎるから、予定を早めることになってしまったわ。」
「・・・なにを、言って・・・。」
そして、白鞘は決定的な一言を口にする。
「この子の失踪は私の仕業よ。」
無表情な神と、叫び苦しむ思い人。
ここは、もう地獄かもしれなかった。
物語はクライマックスに突入しました。
一話ずつの文字数が多かったり、少なかったり、やっぱり全体的には少なかったりする本作ですが、ここまで書くのは私的には大変なことでした。
まだまだ、モノ書きとしてはスタートラインにも立てていないのかもしれませんが、これからに期待して読んでくださると嬉しいです。
目標は完走!
ここまで、きたら書く必要はないかもですが、初志貫徹で行きましょう。
〈人さらい〉くんの名前が判明!彼は〈縮地〉くんです!そしてやっぱり〈人さらい〉じゃなかった!まぁ、全自動ピッチングマシーンにかくれんぼとか無理だよねって。