猫耳
次第に土煙の霧が晴れていく。
無双を何度も放ったマ・カロンがゆっくりと立ち上がっていくのがシルエットで見えた。
限界を越えたその活躍が誰もの目を釘付けにし、最早その勇姿に疑いを持つ者はいない。
「し、師匠!」
傷つき、倒れてもランチェは走っては立ち上がった。
痛みを増した左足を引き摺りながらも師と仰ぐ者へと歩み寄る。
未だマ・カロンのシルエットは煙の中にゆらゆらと不安定に揺れていた。
元に戻ったマチルダもヨロヨロと歩きながら近づいていく。
聖鳥アルバトロンが肩を貸す感じになり、カシミアもマ・カロンに近づいていく。
「マ・カロン殿…。」
マ・カロンがゆっくりと振り返る。
右手にはともに力を使い果たし色が鉄色に変わった「孫の手」が握られていた。
安心したように笑みを浮かべ、ランチェもマチルダもマ・カロンに手が届きそうなところまで近づいていた。
「大丈夫か?みんな…。」
いつもにも増して優しさの籠ったマ・カロンらしい響きを持った言葉が発せられた。
その途端、一陣の風が彼らの前を駆け抜け土煙を一掃した。
先程カシミアが放った一撃の余波が戻ってきたのである。
シルエットだったマ・カロンの姿がハッキリと映し出された。
「し、師匠…、あ、ちんちんが…。」
ランチェが唖然としながらもただ一点をガン見している。
「あ、あ、マ・カロン殿…、ホントに、ちんちんが剥き出しじゃのぉ。」
ショックでペタッとおばあちゃん座りをしたマチルダは釘付けとなり、しっかりと股間のあたりを重点的に凝視している。
「みんな、盛ってますピョン。」
マリアンヌもショタ体型のマ・カロンに萌え上がっている。
「え、何を発情してる?」
反応がおかしいのに、上手く対応できない。
「ち、ちんちんって…、こんな時に女の子が言う言葉じゃないぜ。」
マ・カロンはいつものように軽口を叩くが、足元がふらついている。
側から見ても立っているのがやっとのように見えた。
「でも、師匠、ホントにちんちんが漏れてます。」
流石にガン見は恥ずかしくなったのか、頬を赤らめ顔を隠してはいるが、ランチェすらも空いた指と指の隙間からコッソリと観察している。
「そうじゃ、包み隠すものもなくモロだしなのじゃのぉ…。」
それぞれに恥ずかしそうだが、眼差しが熱くそう答えた。
簡単に意識が飛んでいきそうなのを踏ん張っていたマ・カロンがいつもとはかなり違う異変に気づき、彼らの視線の先を追う。
そこにはいつものモコモコのぬいぐるみの肌があるのではなく、軽く日焼けをした褐色の肌が見えた。
目眩も襲ってくる。
オイラのいつもの……。
いや、まるで人間だだなぁ。
更に視線を下ろすと、今までなかったものが存在していたのだ。
そう、ちんちんが剥き出しで付いていた。
手を見る…甲は人の手であるが、手のひらにはリアルに肉球が残っていた。
慌てて頭を触る、ネコ耳はある。
しかも、頭髪らしいものも存在する。
その姿は8歳児くらいの背丈で、今やそこに立ち尽くしているのはマ・カロンを自称する薄褐色の肌のネコ耳美少年であった。
「あれ、まるで人間だな。」
口に出して言った途端にその少年は意識が遠退き前のめりになって倒れる。
ゆっくりと視界の周辺が絡まっている。
ランチェに、マチルダに…、みんなにまた心配かけるなぁと考えていた。
反響しつつ耳に届く音に酔いながら泣いているランチェに抱き上げられた。
声も映像も小さくなっていく。
もう泣かなくてもいいよと手を伸ばそうとした時、完全に視界が真っ暗になってしまう。
神の野郎、今度会ったら、ぶちのめすと心で叫びながら、意識は完全に失われていった。
こうしてマ・カロンの新たなる挑戦(受難)が始まるのだった。




