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ベルゼベベブとの最終決戦①

 マ・カロンの説明におおっとランチェとマリアンヌが反応した。


 何となく新鮮な反応に照れるマ・カロン。


「あ、だが、あくまでも仮説だ。


が、仮説でも実行するしかない。」


 「孫の手」をぐっと握りしめる。


「行くぞ、ランチェ。」


 ぐっと力を込め、鉢巻きを締め直す。


「はい、師匠!」


 二人は一気に駆け出す。


 微塵も迷いがない。


 秘めた可能性が難攻不落のベルゼベベブを攻略の確信に繋がる。


 ベルゼベベブのアクアガーディアンへの到達まで十数分に迫っていた。


「ランチェ、全方位攻撃だピョン!」


 ベルゼベベブを回り込むかのように連射で光の槍を投げ込む。


 しかし、手応えはなく、全てすり抜けいく。


 光の矢は空間の歪みに突き刺さると、弾けて消えていく。


「やっぱりダメですピョン。」


 マリアンヌが淡々と呟く。


「次は合わせます。」


 ランチェは一切止まる事なく、尻尾に向けて走り続ける。


反射的にベルゼベベブの行う黒き稲妻の反撃がランチェのいた辺りに降り注ぐ。


 ヒットアンドウェイを繰り返すランチェに敵の攻撃が容易に当たる事もない。


 遥か後方にマ・カロンの「孫の手」の地獄突きが通過して、消えていく。


 やはり攻撃が掠る事がない。


 目標物が大きいにも関わらず、相手に手応えがない事自体、不自然極まりない。


「師匠の予想の通りなら…、必ず。」とランチェは心の中で呟き、高速で移動攻撃を繰り返し予定の位置に向かう。


 神をも滅ぼした最悪の魔王、厄神をぬいぐるみのネコが止めようと言うのだ。


 普通に考えれば、きっと誰も本気にしないし、受け入れることもしないだろう。


 揺らぐ心の中で確かなものは、不可能を可能にし得る者が師匠であるマ・カロンと言う存在だと言う不確かな帰結であった。


 身体から怪しげな粘液を吐き出したり、黒き稲妻を迸らせたり、四方へ無作為に放たれる赤紫色の光線をも不定期に出し続ける巨大な元蠅の化け物の攻撃を躱しつつ、ランチェは目的地へガムシャラに走り抜ける。


 元々の身体能力と改造を受けた肉体でも悲鳴を上げ始めていた。


 加速や静動の繰り返しをそれでも可能にしているのは、鍛え抜かれた精神力と絶望を覆す可能性を信じる心のみ。


それは唯一の光を求めての足掻きであったろう。


 身体能力を向上させる防御スーツ「ご主人様好みのミニスカセーラー服・改」に身を包み、ランチェの攻防は続く。


 一方マ・カロンも反対側を駆け巡りながら、準備を始めていた。


 無双の新たな可能性に絶対な自信があった。


 いや、それに賭けるしかこの世を救う方法はないと考えていた。


 封印ではない、完全決着だと!


 今のマ・カロンの身体の状態では、力の充填への時間がかかり過ぎる。


 金剛無双なら、精神力の強さに比例するようで、気合いなどの内面の力に負荷がかかる。


莫大な精神力が必要となるが、今のオリジナルボディなら枯れるまでは精神力をいつでも維持できることになる。


 新しい無双は力のチャージが必要であり、集中力を基本としているらしい。


 走りながらの集中力の練り上げでは難しく、一気に蓄えようとすると、どうしても停止しなくてはいけない。


 停止したからと言ってどのくらい止まれば良いかも正確には分からない。


 マ・カロンの予想では約1分。


 無差別攻撃を繰り返す今の環境状態で1分停止するのは、不可能であろう。


 最大15秒以内が限界と考えた方が良い。


 再び動き出すと高濃度な集中力は消え失せる。


 その上、前のようにその場で巨大化するのは止められないだろう。


 そこでの囮を使ってのチャージ作戦である。


「やるぞ!」


 マ・カロンが叫び、急激に立ち止まった。


 所定の位置にマ・カロンが到着すると、両腕で印を刻み、全身の気を一気に丹田に集中始める。


 急激な気の高まりを敵がみすみす見逃すはずもなかった。


 攻撃の大半を正面にいるマ・カロンに切り替える。


 ここまでで5秒しか経っていない。


 ベルゼベベブが攻撃を仕掛けようとした瞬間、後方からのランチェの攻撃が炸裂する。


 しかしながら、その攻撃もベルゼベベブには掠りもしないでマ・カロンの身体をスレスレに掠めながらも闇の中に消えていく。


 こうしてみるとマ・カロンの読みは当たっていた。 

 攻撃を加えた直後、ベルゼベベブ自身の無差別攻撃は一瞬止まる。


 無差別集中攻撃を行った後は相手の攻撃が止む瞬間があり、その際に気配を察知するために攻撃が止まると言う予想である。


 濃い気の高まりで集中攻撃に切り替えさせる事で敵からの波状攻撃をマ・カロンに集中させてから、ジョルジュを通じて、ランチェにベルゼベベブ後方から必殺の突きの連打をお見舞いするさせる手筈だった。


 すると敵は集中攻撃を解き、分散攻撃に切り替えるはずと読んでいた。


 充分にチャージする時間は稼げた。


南無(ナマハ)無双(ブソウ)!・雷光一閃(

ヴァジュラルーラ)!」


 マ・カロンの身体を中心に巨大な雷雲が渦巻き始める。


 それに合わせて身体が漆黒へと変わっていく。


 初めは単なるスパークだった雷は蔦が這うように身体を這って包み込み、世界が繋ぎ止めるように身体を稲妻の鎖が取り巻いていく。


 マ・カロンも「金・剛無双」の際と同じく手に持つ「孫の手」も巨大化していく。


南無(ナマハ)万穿一閃(ヴァジュラヤーナ)!」


 鋭利な槍へと変貌を遂げた「孫の手」は、唸りをあげ光速の突きをベルゼベベブに叩き込む。


 神の理の中では、全ての物理攻撃も魔法攻撃も全てを無効化するベルゼベベブ自体に有効な手段ではない。


 全く同じように全て虚空に飲み込まれるかのようにかき消えていくとしか見えなかった。


 しかし、マ・カロンの放った一閃はベルゼベベブから時間の概念を奪い去った。


今の時間に貼り付ける技と言って良いだろう。


 「南無(ナマハ)万穿一閃(ヴァジュラヤーナ)」には初めの一撃で現在と言う概念に縛り付け、更に数多に分裂した攻撃が内部に達するまで空間を超えて追尾し続ける力が備わっている。


「秘技・雲外鏡!」


 ジョルジュを通じて力ある言葉が紡がれる。


 そう、これは連携技である。


 ランチェが自分の神外の武器「ネコジャラシ」の能力を使い生み出した槍によるマ・カロン直伝の秘技を展開した。


 雲外鏡は全ての攻撃を、エネルギーを、力をそのまま跳ね返す技である。


 当然、真正面からやって来るマ・カロンの放った「万穿!」をそのまま跳ね返す。


 寸分違わぬ軌道を辿り、あらゆる時空を縫うようして跳ね返る。


マ・カロンも念の為に「秘技・雲外鏡!」を展開する。


 しかし,一つの穿もマ・カロンの元に届くものはなかった。


 全てがベルゼベベブの体内で止まり荒れ狂い暴れていた。


「BBBBEEEEEERRRRRRZZZZZEERR…!」


 今まで聞いたこともないほどの悲鳴を上げ、ベルゼベベブが苦しみ出した。


「師匠の言った通りだ。」


 ランチェはマ・カロンの「万穿一閃!」を受け続けながら呟いた。


 そう、あの時マ・カロンは対処法を考えだし語っていた。


「ヤツは軌道と時空をずらしている。


 空間を歪めているだけなら、攻撃が僅かにずれて真後ろに抜けるはずがない。


 つまりは存在していないから当たってないって事だ。」


 マ・カロンの言葉をランチェは固唾を飲んで聞き入っている。


 普段軽薄なマリアンヌの表情もこの場では真剣になっている。


「この世は基本的には百八世界と十次元で構成されている。」


 声が響く。


「仮に高次元に実態があったとしても、神の攻撃が効かない筈がない。」


 視線が全員の顔に送られる。


「少なくとも、その十次元は神の理の存在だ。


 では、百八世界となると、神の理外のものも多い。」


 血流が鐘を鳴らすように早く打つ。


「神から聞いた話だと、この百八世界の大半が高次元で繋がっていたそうだ。」


 微かな笑みが口の端に現れた。


「むしろ一つである可能性が高いかもな。」


 呼吸を整える。


「相手の攻撃に対して、ヤツの実態はより安全でより安定した世界、時空を渡り、攻撃を躱すんだと考えるべきだ。」


 瞬きはまだ一度もなされていない。


「高次元に実態があるのであれば、全ての次元を超えて貫通させる力を込めた「万穿一閃!」を使う。」


 手に握られた「孫の手」を見ている。


「その上であらゆるものを反射する「雲外鏡」を使って、ヤツに攻撃を当てる。


敵意のある攻撃は躱せるが、反射まで躱す機能はどうだろう?」


 視線はランチェに注がれる。


「まあ、須く賭けみたいなもんだな。」


 マ・カロンはクリクリした瞳で笑っていた。


 この予想は的中し、溜めた「万穿一閃!」は初めて有効に働いた。


 実態を高次元で逃げ隠れしながら安定させることもできなくなり、ベルゼベベブは現実世界で実体を結び始めた。


 苦しみ身体を捩るベルゼベベブの色が黒紫から赤紫に変色していく。


 マ・カロンも力を使い果たしていて、ガクッと片膝をついた。


「師匠、やりましたね。」


 ジョルジュ越しにランチェの賛辞が響く。


「残りはもうタコ殴りだな。」


 マ・カロンを取り巻く暗雲は消え去り、身体もほぼいつものサイズに戻りつつあった。


 赤紫のベルゼベベブは激しく震え出し、幾分サイズも小さくなり、次第に本当の巨大な蠅の姿に変体していく。


 この状況をジョルジュは危険だと判断した。


 何も言わずに、フル防御フィールドを展開する。


「相棒、マジのやつか⁈」


 緊迫した声でカエルのサポーターは呟く。


「マジのやつでふぅ。」


 ジョルジュのボディーカラーが警戒色の濃い黄色に変わっている。


「第二形態ってヤツビョン。」


「え、何が変わるの?」

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