対決、魔神ベルゼベベブ
「出し惜しみは止めだ!」
「孫の手」の先が膨れ上がり、肉球が正面を向くや否や、虹色に輝く光の塊に包まれる。
マ・カロンは空気を蹴り、ドンドンと加速して行く。
肉眼では見えないほどに加速したマ・カロンはベルゼベベブの斜め辺りから出現すると、思いっ切り光の肉球を振り抜く。
剣先が一度押し留められはしたが、その後剣は手応えを失い綺麗な弧を描き切る。
反射的に蝿王は腐食液をマ・カロンの居た場所に噴射する。
それでも、腐食液がマ・カロンに届く事はなかった。
もう既に高速化により余裕で回避していた。
「手応えはあった気もするのだが…。
否、すり抜けた?」
次々と身体から吐き出される腐食液を回避しながら、マ・カロンは呟く。
「流石に神理外の攻撃は有効でふぅ。」
確かに「孫の手」の攻撃はベルゼベベブを切り傷程度には傷つけていた。
剣の当たったところは何処も気味の悪い液体が溢れでている。
「空間を渡っているのか?」
しばし、熟考する。
「いや、この秘技は空間ごと切り裂くはず。」
一山位の大きさの巨体を空間に沈めるのには、相当なエネルギーが必要だ。
エネルギーが発生すれば、ジョルジュが探知出来ないはずがない。
「唸れ、ウィップストーム!」
ランチェの槍の先が弾けて無数の鎖の鞭が出現し、四方八方から一斉に攻撃を加える。
空間を切り裂き現れる鎖の鞭を退けるのは不可能に思われたが、まるで対象物が存在しなかったかのようにすり抜けた。
「すり抜けやがりました…、ピ!」
マリアンヌが驚愕の声を上げる。
腐食液を浴びる前に猛スピードでその場から離脱するランチェも困惑して呟く。
「何故?当たらないの…、え、ピって、ピョンじゃないの?」
「そ、そんな事は今、じゅ、重要なことではないですぅ…ピョン。」
冷汗をかきながら、嘯くマリアンヌが答える。
納得したわけではないが、ランチェも戦闘中に集中力を切らすのは命取りになると、師匠の教えを自分に言い聞かせて落ち着かせる。
「ものすごい速度で移動してる?」
これが本当に解答だとは思えない。
今や本当の神理外の継承者となったランチェにとって、扱う知識量と経験値が足りなさ過ぎて、容易には答えに辿り着けない。
「空間を渡れば、普通はものすごいエネルギーが残るらしいですピョン。」
マリアンヌの知恵袋の中にあるデータを懸命に引っ張り出しながら叫ぶ。
「さっき、ジョルジュ様も同じようなことを言ってましたピョン!」
中々思い通りに情報をコントロールできないで苦しそうに喘ぐ。
「目にも止まらない速度で移動しているとすると、この蝿王は質量がないと言うことになるんだそうですピョン。」
ナビとしての役割を懸命とこなそうとしているマリアンヌは、自分が持てるあらゆる機能をフル稼働しているが、ほとんど追い付いていなかった。
限界に達しているように目が古いコンピュータの検索中画像のようにチカチカとなっていた。
「先読みが出来るのかしら?」
ランチェの言葉に一瞬、沈黙が流れる。
「あ、それかも、ですピョン。」
「今、ジョルジュから聞いてはいたが…、随分と厄介なヤツだな。」
マリアンヌからマ・カロンの声が聞こえる。
「あ、師匠。正解ですか?」
嬉しそうにランチェが語りかける。
「いや、正解ではない。」
「あわ、そ、そうでしたか…。」
ガクッと転けて残念そうなランチェ。
高速移動をしながら、攻撃を加え、平然とこんな会話が出来るほどに能力が引き上がっているとは考えていないのだろう。
「うーん、先読みではないのだが、近しい機能なのかもしれない…。」
「まあ、少なくとも、先読みが解決のヒントみたいでふぅ。」
「まあ、嬉しい。」
花が咲いたような笑顔で喜ぶランチェに相変わらず単純なんだからとホッコリと思うマリアンヌであった。
「ヤツのメカニズムなんだが…、多分…。」




