ランチェとマリアンヌ
「全く気違い沙汰でふぅ。」
マ・カロンの黒の戦闘服の胸元でずっと文句を言っているジョルジュが少なくとも今まで十回は言ったであろうセリフを繰り返す。
「魔法が使えない魔法使いと魔法剣士という自称のバーサーカーに何ができるっていうでふぅ。」
不貞腐れてご機嫌斜めのジョルジュを宥めるようにマ・カロンが呟く。
「精霊の呼子の横笛と竜の波動がなくっちゃ、切り札が用意できないからさ。」
なんだかなぁと言ったふうに頬を膨らませるジョルジュにランチェが心配そうに語り掛ける。
「私のような未熟者で大丈夫でしょうか?」
まだこのパーティーに慣れない彼女にとって不安を隠せないのは確かであろう。
「心配しても仕方ないでふぅ〜。」
ジョルジュの言葉に自信なさげに俯いてしまう。
やはり私はミーネがいないと何一つまともに出来ない出来損ないなんだと悔やむ。
「正統な神の理外の継承者になったんだから、小生のデータペースでも自信を持ってやってもらうしかないでふぅ。」
その言葉にハッと顔を挙げる。
何もなくても、やるっきゃないじゃん。
何時も救われて来た言葉。
ミーネ、君がどんな風に救いになっていたのか分かった。
君がいてくれた事がすべての支えになってたんだね。
ランチェのその様子を見ながら、マ・カロンは手袋をきゅっと締め上げる。
「作戦はさっき言った通りだ。
アンタの耳が勝敗を左右する。
戦いの最中にチャンスは必ず訪れる。」
振り返りもしないで、マ・カロンは早口でそう言う。
「はい、やります。
絶対に。」
ミーネ、君の仇は必ずとるわ。
奮い立たせるのには充分に思えた。
「あ、そうでふぅ。」
ジョルジュは目から怪しげな光線を出す。
その光線はランチェの胸元に当たり、キラキラと物体を形成した。
「え、これは…。」
彼女の胸にはウサギの顔のペンダントがぶら下がっていた。
「まあ、小生のようにサポートをするためのアイテムでふぅ。」
ニタって笑う。
「この世界ではど素人、否、全くのド新人なのでふぅが、何かの足しにはなるでふぅ。」
悪質な笑みを浮かべ、続ける。
「それでも、多分でふぅ、息の合ったパートナーになると思うでふぅ。」
覗き込むようにウサギのペンダントを品定めをしていると、ウサギは突然閉じていた目をシャキーンと開いた。
「あちきはマリアンヌ、よろしくピョン。」
キラキラと星が瞬く中挨拶をしたが、呆気に取られたランチェはポカーンと口を開いたまま固まってしまった。
「ふぅ、センスがないピョン。」
ハイテンション気味に垢抜けた感を出す。
「こんな調子では、アーバンレディへの道は果てしなく遠いですピョン。」
話し方に何処となく温かく懐かしい感じがした。
戸惑うランチェは困った顔で訊ねる。
「ま、マリアンヌ…さん?
何処かでお会いしたことありません…か?」
ガハゴホゲヘガハと咳き込むマリアンヌ。
「ほほほ、初対面ですピョン。
さあ、試練を乗り越えますピョン。」
マリアンヌの目が光ると、着ていた患者の服から、ランチェのカラーである青い戦闘用ボディスーツに変異する。
デザインは多少の変更があるものの、マ・カロンのバトルスーツの女性版であるようだ。
「あ、これ本当にピッタリなんですね。」
「完璧超人、マリアンヌの見立てに間違い無いですピョン。」
不思議な感じを拭えないまま、ランチェは曖昧に「ええ、はい。」と答える。
「マリアンヌも…、ぱ、完璧超人なところをお伝え出来たピョンと、素直な心からハッキリと口にしたんピョン。なのに…。」
なんか難しい…、でも懐かしい…、多分拗ねてるって事だよね。
真面目なランチェには、困惑だらけの相棒であると同時に、微笑ましくもあり、何処かで経験した安心感もあった。
「マリアンヌ、さん。
やはり何処かでお会いしてませんか?」
血走った赤い目をギョロギョロさせながら、アセアセと「は、は、初顔合わせ(フォースツメイティンギュ)ですね、ピョン。」と答える。
「ピョンがお座なりでふぅ。」
その様子を見ながら、ジョルジュはため息混じりに呟く。
「着替えたか?」
マ・カロンの口調はいつもの通りに思えた。
「さあ、そろそろバケモン退治の時間だ。」
マ・カロンは迷いなくざっと一歩を踏み出した。




