悲劇の連鎖
激しい爆発の後、ほんの僅かな時間でマ・カロンは無茶な空間移動を繰り返し、かつて神殿であった建物の残骸に辿り着いていた。
生きた心地がしない。
建物はかつての面影が想像できないくらいにその半分以上を消失させていた。
「ランチェ!ミーナ!」
最早この惨状を見てしまっては不安しか湧き上がってこない。
次第に怒りへと形を変えていく。
その激情の中でも踏み止まる事ができたのは、ジョルジュのセンサーにより生命反応がまだ二つ確認できた事である。
「何処に居る、相棒!」
斜め42°左に向かうようにとのジョルジュのアドバイスに従い、瓦礫を退けて行く。
見慣れた蠢く黒き幾何学模様を発見する。
「虚無が絡んでいるのか?」
マ・カロンが訝しげに呟く。
「ひょっとすると、もっとヤバいヤツかもしれないでふぅ。」
ジョルジュが不安を拭い去るように探知を更に強化して発動する。
「間違いなくこの下でふぅ。」
そう言うと目から空間サーチ用の光線を発射する。
そこには蹲るように覆い被さった二人のサーモグラフィーが浮かび上がっていた。
瓦礫に埋まってしまってはいるが、まだ生きている。
「ああ、任しておけ!」
マ・カロンは空間を気で削って、瓦礫を転移させていく。
あっという間に周辺の瓦礫は円状に抉られるように消え去る。
その中心にランチェを守るように覆い被さったまま気絶をしているミーナが現れる。
マ・カロンはひょいと跳ぶとすぐに側へ駆け寄る。
ミーナは呼吸音がする。
しかし、ランチェは呼吸をしていない。
ジョルジュが解析を始める。
「二人とも…、多分、完全に聖剣の気配が消えてるでふぅ。」
二人以外にも行われた人体実験。
彼らは聖剣と呼ばれる魔導具を使い、長時間かけて融合させられてきた。
精度が高いとは言え、地上に出回っている聖剣という物は、人種族等によって生み出された神具のレプリカでしかない。
その聖剣との融合により生み出された特殊能力集団。
「ひょっとすると例の『カイザー』が使えるかもしれないでふぅ。」
マ・カロンに対して気を遣っただけだとしても、現実主義者のジョルジュが不確定の事を口走るのは珍しい。
多分邪法までは解りかねるがと言う注釈がついているのだろう。
「きっと……、ランチェは助けられる可能性があるでふぅ。」
一刻の猶予もない。
その情報だけで良いとマ・カロンはすぐさま行動に移す。
空間を渡る力を使って二人を移動させようとするが、その時を待っていたかのように瓦礫の中から幾何学模様の槍が飛び出す。
いつもなら難なく避けられたかもしれないが、二人を守っている状態で完全に無防備だったマ・カロンを背中から貫く。
理の中では不死身の身体とはいえ、マ・カロンも神外の力では、その限りではない。
痛みを感じないはずの身体に予期せぬ激痛が身体中を駆け巡る。
槍はマ・カロンを貫いたまま、天に捧げるかの如く持ち上げ、掘り起こした壁に激しく投げつける。
避けることもできず、マ・カロンは瓦礫の中に飲み込まれる。
ランチェとミーナの周りの空間に無数の幾何学模様の槍が空間を引き裂いて出現する。
狙いは明らかに二人の命である。
蝕まれてしまった体を引きずり立ち上がったマ・カロン。
いつものような俊敏さが見当たらない。
今から飛び出していては間に合わない。
「カロア!小生を投げろ!」
聞き覚えのある声だ。
思い出せはしないが、他に選択肢はないと感じ取るのには充分だった。
ジョルジュを握るとチェーンを引きちぎり、二人を目掛けて全力で投げつける。
放り投げられたジョルジュは間一髪二人の頭上で力場を展開し囲い込む。
力場との干渉で幾何学模様の槍の8割以上は弾かれ、他を巻き込んで消失していった。
しかし、力場を強引にすり抜けた数本がジョルジュを串刺しにする。
「どぅおぅぅぅ!」
黒いスパークを身体から放出して悲鳴をあげるジョルジュ。
展開していた防御用力場も消失する。
力なく落下するジョルジュによって生み出されたチャンスを逃すはずがない。
マ・カロンがすべてを掴み取る。
「転移!」
ランチェとミーナを包み込み、ジョルジュを握りしめて転移を果たす。
残りの幾何学模様の槍が彼らがいた場所に襲い掛かったが、相殺し合って消失する。
中央広場の真ん中にマ・カロン達は転移する事ができた。
手に握られたジョルジュが黒いスパークを放っていたが、暫くすると出現しなくなった。
「無茶しやがる。」
マ・カロンが落ち込んだ声で呟く。
「お互い様でふぅ…、二人は……、大丈夫でふぅ?」
何とか応えているジョルジュは片目を開けるしかできない状態だった。
「ああ、無事だ。」
「良かったでふぅ…。小生は自己修復に入るでふぅ…、後は任せたでふぅ。」
「ああ、大丈夫だ。」
その言葉を聞いて開かれていた左目がゆっくりと閉じられる。
ジョルジュをバトルスーツの胸の中央にある丸い穴にセットする。
カプセルがセットされたジョルジュを包み込み保護する。
「けほ、けほ。」
咳き込んでミーナが目覚める。
「大丈夫か?」
マ・カロンが安堵の表情を浮かべている。
「ネコ師匠…、ごめん、う、ぅぅ、ごめんなさい…。」
ドッと涙が溢れる。
一気にいろいろな感情が噴き出したのであろう。
何一つ纏まらない頭で謝ることしか思いつかなかった。
「ら、ランチェは?」
大切なものを思い出し、取り止めもなく慌て始めるが、マ・カロンの笑みで自分がしっかりと抱きしめている存在に気づいた。
「あ、良かった…、でも、このままだと。」
言葉と同様に不安を滲みませた表情へと移り変わる。
「ああ、すぐに助けるさ。」
マ・カロンは隠しポケットから「猫じゃらし」を取り出す。
「これがあれば、多分何とかなるそうだ。」
キョトンとした顔で「猫じゃらし」をミーナは見つめ返していた。
マ・カロン自体、物質の転移を身体に取り入れるなど初めてのことである。
大体のやり方はジョルジュがデータをバトルスーツに転送してくれたおかげで確認する事ができた。
仰向けでランチェは寝かされる。
装着しているゴーグルに映し出されたデータを確認しつつ、マ・カロンは「猫じゃらし」を素粒子へと変換していく。
変換された素粒子は人型に配列が変更されていく。
そうして、完全にランチェの身体の形状に作り変えられていった。
「融合!」
徐々にランチェの身体に造り出された素粒子が染み込んでいく。
思った以上の負荷がマ・カロンに襲いかかり、精神力を奪われていく。
ゆっくりとランチェに合わさっていく。
素粒子で構成された像が実体と重なり、完全に一体化したところで、マ・カロンが息を吐き出した。
「成功だ、後は癒着だ。」
マ・カロンは癒着へ移行し始めた時にあの笑い声がこだまする。
「グゲ、ぐひゃひゃひゃ!」
振り向くまでもなかった。
先程とは違う破壊的な力を得て魔人化した蛹化が高笑いを上げていた。
「魔神、渾娑婆訶!」
ダミ声の奇声を上げると、ランチェの横に力なく座っていたミーナの左腕のブレスレットが赤黒く闇を放ち始める。
それに続き、下方より魔法陣が形成される。
祭殿に祀るようにランチェ毎、宙に持ち上がり、魔法陣はランチェの上方にも生まれ、完全に挟み込んでいた。
「ら、ランチェ!」
マ・カロンは絶望的な声を上げて叫んだ。
そこにカシミアとマチルダ、リスティーが駆けつけてきた。
絶望しか無い恐るべき光景に驚愕した。
リスティも想像を絶する悍ましい蜘蛛の魔人を目撃して恐怖心しかなかった。
完成した魔法陣の祭壇が激しい波動を放つ。
それに当てられて、マチルダは飛ばされたが片膝をついたカシミアに受け止められる。
リスティーはもろに受けて飛ばされて背後にあった木に打ち付けられて倒れる。




