ランチェの立場
ランチェは地震のような振動を受けてよろめいた。
それでも、オリハルコン製の扉が急に開き始めるのを見て、踏ん張って耐え切った。
見えて来た奥には青白いスパークを放つプラズマが渦巻いていた。
しかし、それも次第に外側から薄れていく。
ランチェは躊躇なく歩み出した。
扉の中へ吸い込まれた時には、部屋中を覆っていたプラズマが余韻を残しているものの綺麗に消え去っていた。
微かに僅かな残りが中央で燻りながら輝いている。
決して現実のこととは思えない。
手を伸ばせば届きそうなところに目的のものがある。
「あれさえあれば、ミーナが自由になれる。」
躊躇うことなく、ランチェは中央に向かって歩いていく。
その足取りは決して早くはない。
部屋中を満たしていたプラズマが生み出した途方もない重力がランチェの身体にのしかかっていた。
中央の輝きまでは無限の時を有するようにさえ思えた。
それでも何分か後には秘宝の「精霊の笛」が手に入れられる距離に近づいていた。
もうプラズマも残っていない。
「ミーナ、待っててね。」
そうして手を静かに伸ばす。
ゆっくりと慎重に掴み切った瞬間、光る物体から発生したイバラのようなものがランチェを包み込む。
恐ろしげでいて、懐かしい感じの光だった。
その聖なる光を拒んだのは首からかけられた赤い宝石であった。
赤黒い思念を一気に放出する。
ランチェが包まれていた光の呪縛は一気に幾何学模様で構成された悪意の塊へと変貌を遂げる。
「きゃあああああああああああああー!」
身体中を駆け巡る焼けつくような痛みにランチェは絶叫を上げる。
力の均衡を保つかのように魔眼の力が光の呪縛を相殺した。
光も赤黒い思念も一瞬にして消え去る。
ガクッと膝をつくランチェ。
動悸がする……、息ができない。
身体が熱い。
助けて、ミーナ………、師匠…、ごめんなさい。