空からの贈り物
そこは真っ白な世界だ。
見渡す限り、白で埋め尽くされている。
でも、よく知っている……見覚えあるはずの光景なのに、漠然としていて明確ではない。
「やあ、今日も来たね。」
声の主が呟く。
ハッキリと見えないのに、僅かな苛立ちが体を掠める。
「オイラは、別に来たくて来てるわけじゃ…、ねえよ。」
声が虚しく反響する。
「もう、認めたらどうだい。」
また、このセリフだ。
「受け入れないといけない、もう分かっているんだろう?」
「何を」と声を出しかけた瞬間、さまざまな色が目に飛び込んでくる。
ハッキリ見えた瞬間、目にはカフェのテラスの天井が見えていた。
「寝てたのか、オイラ?」
ポツリと呟くが、答えを求めているわけではない。大きなあくびで誤魔化す。
「疲れてる?オイラが?」
可愛い顔で呟くと、ふざけているようにしか見えない。
慥かに暗黒組織天界の聖剣封印担当としての毎日に付き合わされてはいる。
突然、待ち受け状態の青い色でいびきをかいているカエルのペンダントがプルプルと震え始めた。
情報更新があったらしい。
「来まふぅ。」
カエルは目は閉じていたが、いつの間にかいつもの業務用の緑系の色合いに戻っていた。
アマガミしたような口調がまじめな彼の態度に似つかわしくないかもしれないが、事務的なほどに冷静になっている証拠なのだ。
「はあ?来るったって、新しい客なんていないぜぇ。
外も人は歩いていないみたいだが…。」
キョロキョロと見回すが、独断変化はない。
「近くには目が血走った店員以外いないぜ?」
二階のテラスにいると言っても、完全に外が見えるわけでもない。
確かに死角も多いが、正面の入り口付近に近づくものだけは確認できる。
それに反して、彼らの席から内側は四方を見渡すことができる。
「どこにいるんだよ。」
と言うや否や、凄まじい破壊衝動を感知する。
その時、奥にいた二人連れが立ち上がりこちらに向かって歩き出していた。
特にこちらには出口はない。
彼らが目的の者たちか⁈
明らかに危険は上空からやって来る。
仕方ない。
「危ない、伏せろ!」
ぬいぐるみのネコは叫ぶ。
それと同時にテーブルの下に飛び込む。
激しい音が何事もない日常を崩壊させる。
音に続き、天井に皹が走る。
「おいでになりましたでふぅ。」
ガラガラと雷のような音が響いた途端に、天井が大きくしなり、暫く頑張ったが敢なく弾けるように破壊される。
「危ない!」
衝撃波、爆音、天井の崩壊が続き、辺りは一瞬にして激しい振動と砂塵に包まれる。
もうもうと爆煙のように広がった砂埃が、あっと言う間に視界を奪っていた。
破壊力抜群の爆破のために、机は正常に立っているものは少なかった。
ただ家具類は完全に固定されているためか、全く変化はなかった。
それでも、空からの飛来者が落ちたテーブルは元の形を忘れ去るように見事にトランスフォームしていた。
こちらに向かって歩いていたフードを被ったものたちはいつの間にか消え失せていた。
どうした訳か、テーブルの下に身を隠したはずのネコのぬいぐるみはガッチリ床に固定されていたテーブルの上で右手を掲げるように天に突き出し佇んでいた。
ただし、彼が掲げるように握っていたのはカボチャパンツに、山高帽をかぶり、全身ピンクの魔女っ子と思しき姿をした幼女のブーツを履いた足であった。
何か得体の知れない閃光が頭を通り抜ける。
二人共にほぼ同時にその閃光のようなものを初めて経験したにも関わらず、昔から知っているものに接したそんな不思議な感じがゾワゾワと体を支配していく。
しかし、現実も同時に二人に降り掛かる。
置かれている現状を認識する。
当然、ピンクの魔女っ子は懸命に捲れ上がるスカートを押さえながら、掴まれた足とは反対の足に脱げかけのカボチャパンツを引っかけ逆さ吊りになっている状態に悲鳴をあげる。
「きゃ、わあああああああー。」
悲鳴の主が「変態〜!」と叫びながら、カボチャパンツを引っ掛けた足で踵落としを炸裂させた。
しかし、足を掴んで支えている当人はケロッとしている。
カーっと血が昇った魔女っ子は何度かかかと落としを繰り返すが、痛いのは蹴っている足だけだと思い知る。
「あ、なんか、ごめん。」
なんか暴れられるのが嫌になったぬいぐるみのネコは咄嗟に掴んでいた手を放す。
「ぎゃあああ、がふっ!」
魔女っ子が床に叩き付けられたショックで声を上げた。
その後、フラフラとしながらもゆっくりと立ち上がって来た。
「今、参られたのは魔法大国ヴィンスラッド王国、魔法参謀マチルダ様でございまふぅ。」