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混蟲国

 密林の中は、始終心地よい湿気に満たされていた。


 しかし、南国かと言えば、どうもそう言った類の場所でもなかった。


 かつてエルフが世界樹を守っていたが、戦火により消失した後、見捨てられてしまった場所、今はマイケーファガルド(混蟲国)と言う通り名のこの島に存在する国は女王を有する帝国である。


 利用価値のない海に囲まれた孤島に興味を持つ者もいない。


 帝国の成立以来の独裁国家だから、外との交流など有史以来ありはしなかった。


 この帝国では力こそ全ての弱肉強食。


 この孤島には力以外の正義はなかった。


 女王ナハトファルターは、女王の間で退屈そうな顔を隠す事なく見せつけていた。


「イライラする。」


 誰もいない女王の間で玉座に肘をつき、怒りで目を細める。


「これは麗しゅうございます、女王陛下。」


 声の主に振り向く事もなく、鼻を鳴らす。


「ますますイライラする。」


 吐き捨てる言葉に感情など篭っていない。


 もはや感情など存在していなかった。


「おやおや、ご機嫌が麗しいことなどなかったですな、陛下は。」


 銀色の長い髪を掻き分けて、長身の細身の男が入って来る。


「アインタークスフリーゲ、許可なく立ち入るでないと言っておろう。」


 全く振り向く気配もなく、女王ナハトファルターはつまらないと呟く。


「ほう、吉報をお持ちしましたものを。」


 アインタークスフリーゲは両手を広げ、芝居がかった仕草で大袈裟にボディーランゲージを加え話している。


大袈裟な仕草こそ、この者の特徴と言えよう。


「吉報?退屈な妾を跳び上がらせるほどのものでもあるまいて。」


 依然として振り返る気配も視線を動かす気配もないが、僅かに脚は玉座の正面に向かって動いていた。


「ええ、そうですとも、貴方様の、この国の、この世界の最も望んでいる悲願。」


 アインタークスフリーゲはニタリと醜くいやらしく悍しく悪魔的な笑みを浮かべる。


「神を殺すのか?」


 王冠から飛び出した触手は期待を込めてゆらゆらと揺れている。


 既に身体はアインタークスフリーゲの方を向き、只管にただ小さな窓から見える森を見つめていた。


「結界が消えて仕舞えば、人の身は鎧を失うと申しますからな。」


 口が裂けてしまいそうなほど口角が広がる。


「神や精霊など、我等には不要。


 いつでも滅ぼしてしまいましょう。」


 女王は、冷淡な目を向けてつまらなさそうに鼻を鳴らす。


「神殺しの聖剣、入手とは、いつもの戯言ってやつかえ?」


「戯言ではありません。」


 その目には狂気が宿っていた。


「北方から来たというあの黒き呪術師に踊らされおって、クモなどは最早すっかり信者じゃ。」


 女王は「聖剣などという胡散臭いものに頼ることはない。」と投げやりに言い捨てる。


 アインタークスフリーゲにとっては至極当たり前の事として聖剣など単なる道具でしかなかった。


かつて歴史に語られし大陸の中央にあったとされる大帝国を復活させることしか念頭にはないのだ。


「封印の地に存在する「精霊の笛」の触れずの結界を必ずや取り払えるものと…。」


 アインタークスフリーゲの目の瞳の部分が一瞬複眼になる。


「ああ、あの娘か?


 嘆かわしいことよ、人に頼らねば何も為せぬとはな。」


 女王はバキバキと首を鳴らして不快感を顕にする。


「絶対なる王がこの世界で敗北してから、こんな醜い処遇に身を晒さなくてはならぬのだ、呪だと一言で済もうものか!」


 女王の言葉にアインタークスフリーゲは勝利を確信したように毅然とした態度で嘯く。


「あのような玩具でも、我々の悲願の露払いにはなりましょう。」


「あの呪術師、まさか其方までも洗脳するとはなぁ。」


 すぐに興味のない口調になる。


「まあ、いい。退屈でつまらぬこの島から羽を広げて飛び出せるのならば、許そうぞ。」


 女王は頬の奥まで切り裂かれた唇でニタリと悪魔的に笑う。


「神殺しの技もの、古の王にもきっと再び叡智を授けてくださることでしょう。」


 ギリギリと何かが擦れる奇怪な音だけが辺りに響き渡る。


誰もいないはずの周辺からも音は呼応するように反響している。


 虫の羽音が無数に聞こえる女王の間で思惑だけが明確な悪意を持って、ひたすら大きく渦巻いていた。

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