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愛くるしいアンチ英雄は聖剣に呪われながらも神殺しを探してます。  作者: 艸加 有栖
呪いのぬいぐるみと気まぐれチビ魔女のドタバタ冒険譚
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取り戻した日常

 目の前に広がる世界は全て何事もなかったかのように平穏を取り戻していた。


 少なからず犠牲もあったが、はっきりとしている事はと言えば、バッカルガムが偉大な将軍を失った事であっただろう。


 また、当然今年の春の祭りは中止となった。


 祭りは受け継がれていくだろうが、形骸を失った後は在り方も変わっていくことになるに違いない。


 魔の森の渓谷から無傷ではないが戻ってきた生還者を受け入れた大都市のギルドは彼らの語る話を歓迎した。


 バッカルガム将軍は魔の森の渓谷に住む邪神竜に対し、命を賭してそれを倒した偉大な英雄として、永遠に語られることだろう。


 王族が滅び、貴族もほとんどいないこの大都市は今後商業ギルドが中心として都市を運営することとなった。


 バルバカムの元町長の尽力もあり、きっとバッカルガム地方は国民による議会民主的な都市へと変貌するだろう。


 ただ、英雄譚は語られていくべきだ。


 理想的で例え多少現実とは違っても…。


 マ・カロンもその方が良いと考え、吟遊詩人に物語を語って聞かせた。


 本当の作者はジョルジュであるが…。


 直後に倒れ、全く4日間意識不明となってしまったマ・カロンが意識を取り戻してから2日が過ぎた。


未だに完全に元の状態に戻ったわけではない。 


 この怪し気なネコのぬいぐるみの集団が疑われる事なくなんとか歓迎されたのは魔法参謀の知名度によるところも大きい。


 それと妻と子を無事に取り戻せたバルバカムの元町長の骨折りがあってこそであった。


生存者等を都市まで運んだ天使軍団はいつもの如く都合良く人々の記憶を改竄していった。


僅かに残ってしまった記憶が奇跡として語られる。


 今現在、大都市の有志により、マ・カロンと魔法参謀の一行は、元王族のお屋敷の中庭で寛いでいた。


「御主、本当の事を言わなくても良かったのかのぉ?」


 魔法参謀はカボチャズボンの水着を着て、リクライニングチェアーに寝そべっている。


 何度となくこの話は話題に上っている。


 マ・カロンは「孫の手」を使った太極拳に似た変なゆっくりとした動きの体操を行なっている。


これがいつものリハビリメニューらしい。


「本当のことなんて、知っても仕方ないさ。」


 いつも同じ答えをマ・カロンはしていた。


 単純に今はいつもと変わらない自分を演出するしかなかったからだ。


「将軍は王家の悲願のために、虚無と言う不気味な別世界の住人の人智を越えた力を借りては、祭りの折に旅行者や盗賊を捕らえて、邪神竜の生贄にしていた。 

旅行者や盗賊なら突然消えてしまっても疑いは広がらないと考えていたみたいだ。


 王家の生き残りも貴族たちも鍛えられた兵も全て将軍の欲望に飲まれて死んじまった。


 こんな話、誰の得にもならねえだろ。」


「それは、そうじゃのぉ…。」


 だとしても、まぁ、納得はできないだろうなぁとマ・カロンは心の中で呟いていた。


 バルバカムの元町長とその夫人には依頼であったこともあるが、本当のことを話してある。


 当然、本当の事を知って戸惑っていた。


 明らかにすることばかりが正しい訳ではない。


知らない方が、分からない方が良いこともある。


確かに分からないことに立ち向かうとどんな屈強な戦士でも心穏やかにいられはしないだろう。


「ハッロロロロー、エブリワン!」


 フルーツ盛りの真上に魔法陣が展開された。


 その上にゴリマッチョの大天使が筋肉ポーズを取って立っていた。


 いつもと違っていたのは、身体が手のひらサイズだった。


「大天使がまたなんだ?」


 マ・カロンはだるそうにそう呟く。


「マ・カロンちゃん、反抗期であ〜る。


 わざわざ謝りに来てあげたのであ〜る。」


「流石の上から目線。」


 褒められたと思っているらしく、照れてご満悦の大天使メダちゃん、しっかりと筋肉ポーズを決める。


「ゴリマッチョはあまり趣味ではないのぉ。」


 チラッとマ・カロンを見たが、直ぐに視線を逸らした。


「ろ、ロン毛の細マッチョなら、大歓迎だったのにのぉ。」


 フルーツ盛りをパクパク食べながら、マチルダはヒラヒラと手を振って興味がない事を演じて、誤魔化している。


「で、であ〜る。」


 強メンタルの大天使メダちゃんはマイペースに話し始める。


「昔はあの瘴気の森は精霊が住まう素晴らしいとこであったであ〜る。」


「メダちゃんはこれで低姿勢でふぅ。」


 依然筋肉ポーズをキメまくっている大天使にサムアップしそうな勢いで肯定している。


「いつの頃からか、あの地の奥に住まう神龍が邪悪なモノに目覚めた挙句であ〜る。」


「邪悪なモノに変わったってことだな。」


 マ・カロンが冷めた風に呟く。


「真実を見抜く神龍が黄金の眼で見つめると、五穀豊穣、天の恵の全てが上手くいくというのがこの地方の伝説であ〜る。


かつて精霊が住まう森の奥にいた神龍であったのあ〜る。」


「卵をぶつけるというのは、真実を見抜く神龍の眼を呼び出すためのアンチテーゼってことでふぅね。」


 ジョルジュの説明を聞き、満足げにサムアップをする大天使メダちゃん、鬱陶しいくらいにギランギランと歯が光る。


「神の偉大な御心により、神聖な祭は代々伝わってきたのであ〜る。」


「つまり、聖龍を祀る祭りじゃったと…。」


「春は魔除けの祭り、秋は収穫の祭りと言うことでふぅ。」


「神聖な祭りという本来の意味が失われて、殺伐としたものになったということのぉ。」


 マチルダが考え深げに呟く。


「聖なる森、恵の神龍が全て反対の意味に書き換えられた。


本当に虚無だけの力か?」


 流石のメダちゃんにも分からないとのこと。


 おかわりで来た新しいフルーツ盛りを奪い去ると、上機嫌に小脇に抱えて天界に帰って行った。


 マチルダが怒りを込めて天界の魔法陣を殴りつけているのを見ながらマ・カロンは呟く。


「ホントに益々厄介な事が増えそうだな。」


 力の限界の先にあった潜在的な力の解放。


 まさに今マ・カロンも心をざわつかせるものに揺れ動いていた。


 得体の知れない力が解き放たれた?


 アレはなんだろう?


 違和感のない力でもあった。


 齟齬がないなら、元々の自分の力……、それでも、扱い次第で周りを巻き込んで破滅させるかも知れないもの。


 前なら拒み続ける事しかなかった。


 溢れ出す不安に立ち向かうためにマ・カロンはいつもの自分を演じるしかない。


 力に溺れる事は恐ろしく、今は使い熟せる自信すらない。


じっと握っている「孫の手」を見つめる。


 ほぼ記憶にない父上の起こした悪夢。


そんな悪夢に立ち向かうための力であると信じるしかないのだろうと気持ちの鎮静化を計る。


 ジョルジュはいつの間にやら、やたらと派手なサングラスを掛け、日除けの傘の下、タピオカジュースに似た飲み物をストロー付きで飲んでいる。


「英雄は作られるものでふぅ!」


 魔法剣士はプールで巨大浮き輪に揺られながら、大いびきをかいて寝ていた。


 ビキニがぱつんぱつんに伸びきっている。


「この国はそれで満足しておるようだから、それも良しなのじゃろ。」


 結局、結論はそこにたどり着いた。


 マチルダは追加でやってきた皿に盛られた果物をフォークで突き刺してパクッと食べた。


「プールに入らんのかのぉ?」


 ちょっと嫌味っぽく呟く。


「仕方ねえだろ、邪神竜退治の後、今まで大丈夫だったのに、水に入ると身体に染み込んじまうようになったんだからな!」


「火も熱いと言うようになりましたでふぅ。」


 ノリノリの音楽を聴きながら、少し日焼けしたジョルジュが呟く。


「で、どうするんじゃ、これから?」


 マ・カロンは依然として、武闘の舞を舞う。


「さあな、探知する便利道具があるわけでもねえしな。


気長にやるしかねなぁ。」


 ピーンと後脚を伸ばすが、迫力などなく、可愛さしか存在しない。


 長い付き合いのジョルジュが一番マ・カロンの気持ちを理解していただろう。


「変わらず小生が情報を提供いたしまふぅ。


 まだ何もありませんから、来るまでのんびり過ごしまふぅ。」


 ジョルジュの歯(?)がキラリと光った。


「では、約束通りに妾と共に、ヴィンスラッド王国に来てもらわんとのぉ。」


 ジョルジュがサングラスの隙間からマ・カロンをチラッと見た。


「それもそうだな、約束だしな。」


 まだゆっくりと体操を続ける。


「まぁ、そんなに慌てなさんな。」


「『カイザー』は寝て待てでふぅ!」


 魔法で一っ飛びとは行かない現在をマチルダは思い浮かべていた。


 急いでも、仕方ないとは言え…。


 それでも、何か納得できなかった。


「そんなもんかのぉ!」


 すべてが虚構の中のように晴れ渡っている。

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