再戦
マチルダがそこに居たのは客観的にも偶然でしかなかった。
少しでもマ・カロンたちの安否を知るために見える位置に移動して来ていた事が幸いしたと言える。
ただ七色にキラキラと光る鱗粉のようなものが浮遊している先に導かれるまま近付いた結果でもあった。
「神具、壊れてしもうた。」
「おかげで、オイラは助かったんだな。」
「ホントにボロボロになって…。」
「でも、無駄死はなくなった。女神のおかげだ。
神に初めて感謝でもするかな。」
まるで古くからの友人に話しかけるように二人は会話を続けていた。
魔神は吹き飛ばされたパーツの修復に手間取っている様子で咆哮を繰り返している。
「逃げるわけにはいかないのかのぉ…。」
「逃げるのは無理だろな、どのみち、あんなのを野放しにしたら、世界が滅ぶ。」
僅かな沈黙がこの惨劇の中に安らぎを感じさせていた。
「妾も心を決めた。
最早、何もできなくとも、最後まで、見届ける…、マ・カロンを信じて。」
彼女の頬を涙が伝う。
「それはひどい博打だな。」
何故だか、あれほど動かなかった身体が動けるようになっていく。
この世界では魔法でも薬でもすぐに回復などするはずなどあり得ないのにだ。
「妾の人生はずっとひどい博打の連続…、もう慣れてしまっておる。」
血と炎の惨劇、半分炭になった世界の中でもがき苦しむマ・カロンの姿はかつての自分の姿と重なっていた。
信じよう。
いや、このぬいぐるみのネコ、マ・カロンこそが英雄でなくとも、救世主であると。
世界が再び歪み始めているとエーリアの言葉が思い出される。
救世主を捜さなければならないと…。
絵空事だとか、占い信じ過ぎだとか、噂されていたのも知っている。
エーリアのこの手の予感は外れたことがなかったこともマチルダは知っている。
だから認めたくなかった。
折角手に入れた幸せを自らの指の間からこぼして行くような予感を……。
エーリアも恐れていて、あれ程に妾を引き留めようとしていたのかもしれない。
「今は魔法も使えない…、じゃが…、じゃが、マ・カロンと共に闘う。」
「ああ、心強い。」
マチルダから溢れた涙がマ・カロンの顔に降りかかる。
温かく、癒されていくように黄金の波紋が広がっていく。
ガチャンと魂を四方にがんじがらめにしていた蠢く鎖を束ねていた、数多ある錠まいが一斉に開き、魂が解き放たれるような感覚がマ・カロンの中に響き渡る。
「危ねぇ!」
そこに赤黒いスパークを纏った鞭の一撃がうなりを挙げて襲いかかる。
咄嗟にマ・カロンはマチルダを庇うように立ち上がり、鞭を左手に持つ「孫の手」で受け止めた。
それでも衝撃波は消し去ることはできずにマチルダは後方に吹き飛ばされる。
「きゃあああああ!」
マ・カロンが咄嗟に張ったフィールドのおかげで岩に激突することは回避できたマチルダの声に意識を執われ、後方を振り返った刹那、鞭はシュルッとマ・カロンを巻き締め上げられる。
スパークを放つ鞭に巻き付かれ、マ・カロンはなす術なく魔神の手の中に捕えられてしまった。
「ぐわあー!」
最早形状を人型として保てていない程の異形な姿に成り果てた魔神は完全に理性を失っていた。
腹の下に付いた腕のようなものに握りつぶされそうになりながら、マ・カロンは抵抗を試みていた。
しかし、多少、回復した気になってもほぼ動く事も叶わず、力無く睨むしかない。
魔神は露骨に怒りを最大級の咆哮で現す。
既にマ・カロンに振り切る余力などない。
瘴気の渦の中でマ・カロンは瘴気の牢獄に囚われていく。
魔神は、その瘴気に覆われた塊を上空に放り投げる。
かなりの勢いで上空に投げ捨てられたマ・カロンは、上空で失速し、重力のなすがまま、落下する。
それを待ち構えていたかのように肩から生えた無数の鞭が下からマ・カロン目掛けて這い上がり、巻きついて行く。
巻き付いたものから暗黒色のスパークが放たれる。
叫び声もない。
上空に巨大なスパークの塊が嘶く。




