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愛くるしいアンチ英雄は聖剣に呪われながらも神殺しを探してます。  作者: 艸加 有栖
呪いのぬいぐるみと気まぐれチビ魔女のドタバタ冒険譚
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中継の街バルバカム

 街は、春祭りの準備に賑わっていた。


 むしろ、殺気立っているといった方が正しいかもしれない。


 この地方では、毎年必ず開催される春祭りと秋祭りがある。


 人々はそこに一年の思いをぶつけるのだ。


 これではどこにでもある普通の祭りである。


 この地方では、ぶつけるの意味が少し違う。


 文字通り、解禁とともに、春には「卵」を、秋には「収穫物」を本気でぶつけ合う。


 魂をこめて一球入魂!!


 避けられてはならない。


 危険この上ない速度で飛び交う卵たちを避けない道理はない。


 つまり、ぶつける方は、当たるまで標的を死に物狂いで狙い続ける。


 そこには妥協も手加減などない。


 真剣勝負の祭りなのだ。


 理由はさっぱり分からないが、この地方では脈々と続く祭りである。


 春の祭りの前日である、その殺気立った様子が半端なかった。


 尋常なものではない悪意に満ちた変なオーラを放出し、笑顔が引きつった人物が、ドスの利いた声で話しかけてきても心を開いて応じるものなどいないだろう。


 彼らの狂気の宿った目には「エモノ」としか映っていないのだ。


 だからこそ、旅慣れた人々はこの時期にこの地域に近づくことはない。


 来訪者のほとんどが、落ち着きのないおびえたビジネスマン(商人など)、事情を知らない旅慣れていない人、変わり者、どう足掻いても逃げ場のない罪人くらいしかいない。


 正気な犯罪者なら、まず近づかない。


 悪党は尚更絶対に立ち寄らない。


 非犯罪の地域となる利点は大きいが、観光資源は一気に冷え込む。


 敢えて命を削ってまで、卵や収穫物を動けなくなるまでぶつけられたいものがそう居ようはずがない。


 兎も角、命懸けの危険な祭りである。


 それでも、変わり者というものは必ず一定数存在していて、人の往来があるのだ。命知らずでは物見遊山と先ずは言わないだろう。


 本来なら、この時期にこの場所に来ること自体が自殺行為で、マジあり得ない行為である。


 ネコのぬいぐるみ(邪悪克服成功)は、まだ機嫌の直らないカエルのペンダントに詫びるでもなく、有名な宿屋のテラスでお茶していた。


 何分、ネコのぬいぐるみが飲み物を要求しても、世界観のせいもあるが、殺気立った街の者には、人ではなく、ペットくらいの認識として受け入れられていた。


要は人以外のものでも客であればなんでも良いのであろう。


 ミミックという箱のバケモノすら、肉料理を食べた客として認定されていたという記録があるそうだ。


 だからこそ、熱々のお茶を注文したときに、怪訝な顔をした以外は、特に疑問に思われることはなかった。


 この店は有名な大通りから離れている。店の規模からするとチェーン店のようだが、あまり良い立地条件ではないように思われる。


 だからか、密会の場として、実に重宝されているというのも「行き付けの穴場スポット」と言う情報誌に書かれている。


 この店のもう一つの特徴として、この街への投資の際に保険として、破壊、暴動の危険性から店を守るために各所に安全装置を付けることを義務付けしたというところにある。


 屋根は岩が飛んで来たくらいなら、全く損傷しない程度の弾力性と強度を誇っていた。


 人の頭くらいの大きさの隕石ならショックを軽々と吸収する優れものな「Gキャッチ」という魔道具が屋根の上にギッシリと敷き詰められている。


どんな危険も余裕でキャッチする事が可能だと情報誌では説明していた。


 言うなれば、それ程にこの地の春祭りと秋祭りが凄まじいということなのだろう。


 更にここにある家具や道具類は様々な技術を施され強化されていた。


商業ギルドで家具としては最高硬度の素材を厳選した品々が建物の基盤に完全固定されている。


 戦争が起こっても建物と家具類は完全無傷を売り物にしている。


まあ、現実は予想を超える可能性の方が高いので、完璧などは存在しないとしても、最高級の強度を誇っているのは確かなようだ。


 店の張り詰めた緊張感と店員の好戦的な態度の中、ネコのぬいぐるみは、この地方のことが書かれた分厚いガイドブック「マルッと網羅、バッカルガム王国散歩紀行」を読み耽りながらも、熱々のお茶の入ったカップを気にすることもなく、取り上げて口元に持っていく。


 全くもって猫舌には縁がない様子で、ぐつぐつに煮たったお茶を平気で飲んでいた。


 言うまでもないが、見渡す限り、街のもの以外人っ気などどこにもなかった。


 敵認定できそうな犠牲者を求め、卵を握りしめ、彷徨うゾンビみたいな輩は徘徊している。


「本当にここで待っていろって言ったんだよな、天使どもは?」


 いつになくイラついて、悪態をつくネコのぬいぐるみに対して、寧ろ辺りの光を吸い込んでいるのかもしれない程禍々しいオーラを放っているカエルはぶっきら棒に答えた。


「大天使メダさまは絶対でふぅ!」


 八つ当たり気味な言葉にテーブルの上に四回目読み終えたばかりのガイドブックを放り投げる。


「どうせ特殊な呪物なんだから、まとめて来てくんないかなあ?」


 カエルは無言で凶々しいオーラを10%増しで大きくした。


「昔、モーニングスターを持った小さな女の子が出てきたときはびっくりしたけど、振り回すこともできなかったのが幸いしたし、相手にもならなかったから良かったけどさ。」


 ピクっ。


「まあ、扱い手には優しくしなくては…。」


 イラ。


「実際、聖なるものブームは、収まる様子はないんだろ?」


 カエルもますます機嫌を悪くした。


 溜まりに溜まった日頃の不満に加えて、100本目偽物聖剣ゲット記念でご褒美を貰い、天界ネットで浮かれに浮かれて連日連夜の爆買い暴飲暴食、夜中の天界ネットで購入した趣味のコスプレのチェックなどでカエル自体が寝てない事がキレやすさに拍車をかけていた。


 単純に寝不足でイラついているだけ。


 そんな状態で連絡もよこさず、時間通りにも来ない不届き者をじっと待つ。


 自分の役目も果たさなくてはいけないカエルにとって、苛立ちながらも耐える以外どうすることもできないのだ。


 ひたすら、お互い、引くに引けない負のオーラを出し続けることと日頃の鬱憤を噛み締め続ける沈黙が、わずかながらの抵抗であった。


「暇だな、来るやつも知らせないって、そろそろ焼きが回ったかな、天界のやつらは…。」


 もうウンザリだぜっと言わんばかりに、手鼻をかむ。


 当然、ネコのぬいぐるみの鼻の穴から出てくるものは綿毛でしかない。


ぽわぽわ、ふわふわした綿毛が風に吹かれて飛んでいく。


「相変わらず、手鼻さえ、ファンタジーときてやがる。」


 ぬいぐるみのネコの愚痴も止まらず、三杯目のお茶を飲み干して、空になった器に次のお茶を継ぎ足した。


 彼ら以外に店の中には殺気に満ちた店員1名とフードを被った見るからに怪しい二人連れがいるだけである。


 店内に暇つぶしになる本などないし、外の景色が見えるわけでもない。


 街の四方は高い塀に囲まれている。


 巨大な化け物でも覗いてくるのではと思わせるほどにその塀は存在感を醸し出している。


 その塀を見ながら、ふと考える。


 守っているのか、それとも…。


 とは言え、見た目ほど本気でダラけている訳でもない。


ひざを立て、いつでもどんな状況になっても武器を抜き出せるように半身で身構えている。


 ネコのぬいぐるみだと油断した途端に、痛い目に合うのは、なめた方である。達人の剣士のやりそうなポーズをとって、チャイルドシートに座っている姿は、威厳も迫力もゼロではあるのだが……。


「マジ来ないな、予定時間ははるかに過ぎているのに、なんかあったか?」


 待ち人は来ない。


 来ないものの心配をしているのではない。


 ネコとカエルには、どんな場合でも天界の指令がなければ、旅の目的が存在し得ない。この場所に来ているのも、天界からの指令による。


 彼らは、聖なるものを求めて、旅をしているのではない。


 本来の目的は、聖なるものという呪物を持ったものから、呪物を開放するのが役目である。


 その道のプロと言ったら良いだろう。


 他にも何人かいるという話だが、遭遇したことがない。


天使たちが情報を管理し、その指示を受けて行動しているからに他ならない。


 主に天界とのやり取りはカエルだけが行なっている。


大天使からの直属の命で動く地上の活動部隊と言えば分かりやすいのかもしれない。


 カエルはネコのぬいぐるみを監視管理し、呪物の開放、回収、破壊などを任務としている。


 大天使や天界の関係者に絶対服従のブラックな労働環境下を強いられている。


 今回天界からの命は、次の聖なるものの情報を持つものと待ち合わせ、依頼達成すること。


 しかし、一向に待ち人は到着しない。


 ただそれだけである。

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