邪神龍と魔人
歯車が悲鳴をあげるような断末魔が響き渡る。
圧縮され、ズタズタに切り裂かれた空間が動きを止めたマ・カロンの目の前で元の形を取り戻しながら、収縮を始める。
マ・カロンは肩を大きく上下に揺すり、荒い息を吐き呼吸を乱している。
収縮した空間は一点で光を集める。
間も無く光が弾け飛び、そこから物凄い圧力が放出される。
空間が元に戻ろうとする圧力で生じた、暴走した台風のような激しい風の中、マ・カロンは膝をつき、息を整えようとする。
「妖のものよ、フフフ、結界成就。」
ザラザラとした音がマ・カロンの耳に届く。
「とんでもねえ!」
生死は判らないが、先程の攻撃が盲無に甚大な被害を与えたのは確かだろう。
マ・カロン自身も既に動けない。
身体に蓄積されたダメージと力の限界。
将軍は大鉈を手を持ち邪神竜のすぐ傍まで歩み進めていた。
体から溢れる幾何学模様の闘気が呪詛のように瘴気を弾き飛ばしている。
その存在の不気味さは邪神竜自身思い知っている。
今まで対陣したことのない禍々しい闘気に怯えていた。
最大防御の鎧である鱗をほぼ失い、纏う瘴気も弱くなっている。
その事が一層邪神竜の苛立ちを煽っている。
絶対者であるはずの己の力を誇示するべく、全身の力を咆哮に変え吐き出す。
普通の人間ならば骨すら残らないほどに粉々に粉砕してしまう咆哮も全く意にせず近づいて来る。
その異端な存在に絶対者はとっくに怯えと我慢の限度を突破している。
気にする様子もなく、大鉈を地面に磨りながら近づく。
将軍は鉈をゆっくり振り上げる。
竜の口から瘴気の炎が放出される。
同時に邪神竜は唯一鱗の残った尻尾を振り回した。
大ムカデを吹き飛ばす力を秘めた一撃に人である将軍に耐えられるはずなどない。
その筈であった。
しかし、身体から溢れ出ていた幾何学模様の闘気は邪神竜の渾身の一撃を難なく受け止めていた。
これが虚無の住人、盲無の結界である事は明らかであった。
この世に生み出されて以来初めて、邪神竜は心の底から死を恐れた。
その目にはこの不可思議な存在を完全に消し去ろうという闘志と今すぐこの場から逃げ出したいという相反する感情が入り乱れていた。
絶対者であると言う事、それが脅かされていると言う事実に邪神竜は追い詰められていた。




