魔人対戦
将軍は全身に何も起こらなかったかの如く起き上がり、マ・カロンを顧みることもなく大鉈の刺さっている方に向かって歩き出す。
「ま、待て!」
走り出すよりも早く空間が歪み、足元から幾何学模様の槍が飛び出すが、これはマ・カロンも察知していたのか、飛び上がり空中で錐揉み回転をし、難なく躱した。
「盲無、いつまで隠れてやがる。」
着地と同時に「孫の手」を構えて、すぐに臨戦態勢入るマ・カロン。
「邪魔立て、如何や?」
乱れた電子音のような響きで呟く。
空間がねじれたと思った途端、歪みが通り過ぎ、ねじれた空間の影から盲無が生まれる。
そう、生じたとしか言いようがない。
「本当に、厄介だな!」
「孫の手」で肩を叩いている。
内心取り乱しているわけだが、隙は見せていない。
「決裂!」
マントがフワッと浮かび上がると、手前の空間が歪んで裂ける。
裂けた空間から夥しい数の幾何学模様の槍が畝りながら、マ・カロンに襲い掛かる。
マ・カロンは態勢を低くし、「孫の手」を渦巻くように回転させ、突進しながら邀撃する。
畝る幾何学模様の槍は殆どが粉砕され、空間を歪めながら霧散していく。
残りは遥か後方を歩く将軍に向け飛びいく。
「とんだ災難だ!」
マ・カロンの言葉の通りに、千切れた幾何学模様の槍は将軍に突き刺さる。
幾何学模様が崩れながら火柱へと変わる。
取り巻く炎が一気に全身を包み燃え上がる。
しかし、その歩みは止むことはない。
将軍は獲物に向けて確実に進んで行く。
その身に赤紫の焔を宿しながら。
瘴気の靄の中を突っ切り、マ・カロンは左下手から斬り上げる。
「孫の手」が届く寸前で、握り手不明の細めの半月刀に形状的には近い刃で防がれる。
黄金色をした半月刀は硬質というよりも寧ろ幾何学模様の文字の高密度の集合体で流体のように蠢いている。
マ・カロンの「孫の手」の破壊力を考慮して生み出された武器と言えるかもしれない。
膠着状態を脱するために、マ・カロンは一旦後退して距離をとる。
それを見透かしたか、盲無の半月刀がクルッと回転して刃が三枚へと増える。
三枚の羽が手品のように広がり、外の二枚が逆方向に回転を始める。
二枚の半月刀で空間を切り裂き、巨大な盾となって身構える。
「我ら悲願、貴様如きに贖えぬ!」
回転していた半月刀の盾が弾き出されるように意志を持ってマ・カロンに襲い掛かる。
空間を切り裂きながら、ブォーンという不快な音が次第に近づく。
盾は次第に大きさを、速度を増して、マ・カロンの退路を断ちながら迫ってくる。
避ける事は既に叶わない。
「伸びろ、「孫の手」!」
その言葉と同時に「孫の手」は猫の手の掻き手を大きくしながら、前方へ伸びて行く。
伸びた「孫の手」と高速回転している半月刀がぶつかり合う。
物凄い衝撃音に青いイナズマが飛び散る。
一進一退の攻防が続く。
半月刀の回転速度が次第に衰えて行く。
マ・カロンが仕掛ける。
「孫の手」を捻り、半月刀を弾き飛ばす。
回転の勢いを失った半月刀は力無くフワリと上空に舞う。
だが、上空で失速するも落下する事なく、その場で静止する。
眼前の半月刀の気配が消えた事で、マ・カロンは「孫の手」を元の長さに戻しつつ盲無の懐に向け、一気に駆け出す。
空中に留まった半月刀は誘い込むように急速回転を始め、すぐさま分裂したかの如く揺れて虚空に消え去る。
盲無の懐に飛び込める距離まで接近したマ・カロンの両サイドから空間を渡って来た半月刀が高速回転して現れる。
咄嗟に地面に「孫の手」を突き刺す。
更に伸びろと叫ぶ。
両サイドからほぼ平行に飛んで来た二枚の半月刀のソーサーは、ほんの僅かの差でマ・カロンを捉えることが出来ず、伸びた「孫の手」に弾き飛ばされる。
力場を作り、空中ですぐに姿勢を正す。
旋回してきた半月刀の二枚のソーサーに挟み撃ちに合うが、見事な錐揉みジャンプで二枚のソーサーの間をすり抜ける。
更に旋回した二枚のソーサーが、マ・カロンに容赦なく襲い掛かる。
一枚は地面に対して平行でもう一枚は垂直でクロスする様に飛来する。
「大熊猫!」
「孫の手」を頭上で大きく振り回し始める。
マ・カロンの周辺が大きく球体となって空間ごと抉れる。
斬り取られた空間ごとマ・カロンは盲無に向け、全力で突進する。
クロスで飛来していた半月刀のソーサーは空間の渦に呑まれ濁流に巻かれるままとなる。
盲無もその勢いを止めようと幾何学模様の槍を広範囲から出し邀撃するが、止めることは叶わない。
斬り取られた空間の渦の中で、己の存在を否定され、互いを打ち消し合う。
盲無は周辺を歪め空間を渡ろうとするが、凡ゆる全てを呑み込んでマ・カロンの空間を斬り裂く球体の中に没する。




