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愛くるしいアンチ英雄は聖剣に呪われながらも神殺しを探してます。  作者: 艸加 有栖
呪いのぬいぐるみと気まぐれチビ魔女のドタバタ冒険譚
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大混乱、その①

 立ち込めていた赤紫色の瘴気が地面に吸い込まれて行く。


 初めはゆっくりと、次第に勢いを増しながら吸い込まれていく。


 それでも白い靄は消えることなく、視界を奪うように辺りには依然として立ち込めている。


 異常な静寂がその後起こる事態を匂わせる。


「やはり…。」


 マチルダは杖に魔力を込めてみるのだが、何一つ発動する気配はない。


「通信もからっきしでダメでふぅ。」


 ジョルジュも瘴気が晴れたのを幸いにと念を送ってみたらしいが、改善する気配はない。


「おお、身震いする程の竜の波動を感じるでござる!」


 何となく嬉しそうなニアンスを含んでカシミアが反応する。


 消えていた破斬のバトルアックスの竜の瞳がキラリと光る。


「明らかに生け贄っぽい感じじゃのぉ。」


 この檻の至る所に神の理を拒否する呪術が施されている。


 その呪符すらマチルダには全く解読できないものであった。


形状も理解できない上で果たして文字であるかも分からないレベルである。


 ジョルジュの話では剣でも、斧でも、全く人の手によって作られたものは擦り傷すらつけることが叶わないそうだ。


「その斧に頼るしかないようじゃのぉ。」


 視線を上げ、カシミアの抱え込む破斬のバトルアックスを恨めしげに見つめる。


「コントロールが難しいでふぅ。」


 ジョルジュが如何に現実主義者であっても、カシミアに扱い切れるとは思えないと、流石に本人に向かって伝えることが出来なかった。


「私の時代が来たで候!」


 自信満々に胸を張るカシミア。


 どうすればいいか?と悩んでいるマチルダに対して、期待されていると錯覚しているカシミアがニカって笑う。


「あ、あのね、幾ら何でものぉ…。」


 制止をしようとするマチルダの言葉も聞かず、不敵に笑い、破斬のバトルアックスを身構える。


 バトルアックスもその呼びかけに応えるように輝き始める。


「では、参りまする!」


 エネルギーが体から溢れている見える。


 竜族に伝わる破斬のバトルアックスの影響なのだろう。


 ぐるぐると斧を回転させ、歌舞伎の見栄きりのようなポーズを決めると、一気に駆け出す。


 鉄格子にぶつかる寸前で振り降ろされた斧がやわらかい棒を切り落とすように斬り結ぶ。


 切れた鉄格子が落ちる前に勢い余って、その鉄格子を巻き込んで外に飛び出す。


「あら、使いこなして…、おる…のぉ。」


 完全に鉄格子にぶつかると疑わず目を閉じていたマチルダが呆れたような口調で呟く。


「ウッヒョーィ、絶好調でござるぞ!」


 落下するギリギリで踏み止まり、直角に曲がると他の檻に向かって駆け出す。


「何とかとバトルアックスでふぅ。」


 ヤケクソ気味にジョルジュはハイテンションで叫ぶ。


 檻から顔を出して、猛スピードで次々と他の檻を切りつけて行くカシミアの後姿を呆れた様子でマチルダは眺めていた。


「お腹が空いたら、帰ってくるじゃろうかのぉ?」


 その規格外の大活躍を温かい目で見ていた。


 遠くで雷が鳴り、微かな遠吠えが響く。


 おどろおどろしい緊迫感が世界を覆う。


 マチルダは残された神具を手に取り、しばらく観察してから、ジョルジュに受けた説明通りに身体につけ始める。


 頭には可愛い模様のバンダナがついたゴーグル、首からはあらゆる災害から自分だけを守るためのデフォルメのメダちゃんを模したパーソナルシールド、両方の手首には念話を行う「風の囁き」と言う名がついたブレスレットが装備されることとなった。


 ブルっと震えるくらいの寒気が走った。


 足がすくむ程に恐怖を感じる。


 ブレスレットを触り、震えを抑えてみる。


 神具とは言え、完璧ではないし、今の状況が神の力が及ばない可能性の方が高い。


 ズーンと響く波動を身体に感じ、全てが確信へと変わる。


そこに居た誰もが只ならぬものが蘇ったと感じたことだろう。


 身体を萎縮させる負の重低音が大きくなるに連れて、この場から一刻も早く逃げなくてはいけないと本能が悟らせる。


しかし、身体は呪いにでもかかったかのようにピクリともしない。


 そんな悍ましい空気を軽々と断ち切るが如くカシミアは次々と檻を破壊しながら先頭へ向け駆け抜けて行く。


「もう何でもいいから、壊すでふぅ!


 斬って、斬って斬りまくるでふぅー!」


 目がグルグルと渦巻き、舌がひらひらと旗めきながら、マッドな状態のジョルジュが叫ぶ。


「承知したでござる!」


 まさに無人の野を進むかの如く、一撃で檻を切り裂き、駆け抜けていく。


 多くの人々は何が起こっているのか分からないまま立ち尽くすしかない。


確かに一撃で牢が解放されていく状況を上手く飲み込めないのも仕方なかろう。


 次第に辺りには邪悪な気が充満して来る。

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