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愛くるしいアンチ英雄は聖剣に呪われながらも神殺しを探してます。  作者: 艸加 有栖
呪いのぬいぐるみと気まぐれチビ魔女のドタバタ冒険譚
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もう一つの依頼

 とは言ってはみたものの、必要なものは分かりきっていた。


 爛々と紅く輝いた目をしたぬいぐるみのクマが襲いかかって来る。


難なくフットワーク軽く攻撃をかい潜り見事な突きを炸裂させる。


 作戦に不可欠なものは兎にも角にも類を見ないほどの迅速さである。


 魔法ではない移動手段がこの街では必要となることも確定事項なのだろう。


 ゾウ、カバ、サイ、さらに無数の愛くるしい獣のぬいぐるみがマ・カロンを取り囲み、唸り声を上げ、一斉に攻撃を開始する。


 その攻撃を右に左にと巧みに身体を入れ替えて躱しながら的確に一撃で仕留める。


 あっという間に目の前にいた殺気に溢れたぬいぐるみの群れは全滅する。


それと同時に目の前にノイズが走る。


 そう、必要なものは取り囲まれた際の突破力と圧倒的速度。


 自分一人であれば、何とでもなるのだがと唸っていても始まらない。


現実として魔法の使えない大魔法使いと巨体の魔法戦士を連れての高速移動はマ・カロンでも不可能である。


 通信手段としてジョルジュは無理矢理押し付けた。


 今、マ・カロンの首にはピンク色をしたジョルジュのコピーがぶら下がっていた。


機能が遥かに劣るピンク色の劣化品をそのカーブに沿って指でなぞると、目の前に任務終了の神言語が浮かぶ。


 今はジョルジュが就寝時間らしく、通信は待機モードのままである。


肌触りさえも劣化していて笑いが込み上げてくる。


 暫くすると、戦闘訓練のシュミレイターが消え去り、現実モードに移行された。


 息一つ乱れる事なく、全く充実感が伴わないまま、マ・カロンは町外れの広場を後にする。


「ご用意できました、マ・カロン殿。」


 待ち構えていた男は職務を果たした安堵感から顔を上気させているようだ。


「ああ、ありがたいよ。」


 導かれるままにマ・カロンは付き従う。


 そう、それは時間を遡る。


 一旦解散して、休憩のために確保した小屋に戻ろうとした。


でも、なんとなく小屋の前を通過しても尚しばらく思案をしながら裏路地を歩いていく。


突然彼の前に傅く者の姿を見る事となる。


「あんたたちは?」


 深々とフードを被ったものが二人、傅いたまま答える。


「破滅型怪奇聖剣ハンターの暴虐帝ネロ殿でございますね。」


「どんどん変な肩書が増えるな。」


 呆れたような口ぶりだが、ほぼ諦めているのか、言葉には深刻さは感じられなかった。


「オイラは見ての通り、ただのネコの愛くるしいぬいぐるみさ。」


「ははは、ご冗談を!」


 ポリポリと頭を「孫の手」で掻く。


 少なくとも誤魔化しは効かないのだろうとため息吐いて更に諦める。


「オイラはマ・カロン。


世間に出回ってるネロってのは間違いなんだ。」


 キョトンとした顔を一瞬する。


だが、すぐに納得したように緊張感のある顔に戻った。


「では、マ・カロン殿、改めてお願いしたい義ございます。


お時間をいただけませんか?」


 二人のうちの太い眉毛の持ち主で年長者の男が低い声でそう言う。


「深刻な事みてえだな。」


 その言葉とは裏腹に心の中では厄介だなぁと呟き、マ・カロンは明後日の方を見ている。


「ただとは申しません。


あなたの力を理解しております故、お願いに上がったのです。」


 表情すら暗闇の中では確認が難しい。


「しかし、お願いだけとはいかないことも承知しております。


……が、ご要望にはでき得る限り添えるよう…。」


 確かにこの街には華やかさはない。


 珍しいようだが、冒険者ギルドのようなものはこの地域には存在しない。


 この地の主体が王国であるが故に、軍が存在しており、自軍の規律、権威と維持のために冒険者という存在を認めないようだ。


 そのためにモンスターと呼ばれる怪物を取引することも扱うことも禁止されている。


 それ故に旅人が休息や補充などのために訪れる中継都市となっている。


 冒険者ギルドや商業ギルドが希薄である。


だからと言って、この街は栄えていない訳でもない。


 四方を荒野に囲まれたこの街では、期待できる程のおもてなしは存在しないだろう。


 今は怪しい祭りの前日のため、行き交うものは然程いない。


産業もないこの街でも交易拠点であるのは確かである。


 街の西に広がる山脈沿いに幾つか街道が整備されている。


山脈沿いに北に抜ければ、大草原が広がっている。


その先には多民族国家による巨大な共和国「ザンクトゥアーリム」がある。


北西側には貿易都市「ルザームカイト」があり、南西には灼熱の砂漠地帯「ブレンネ」が続いている。


 北に向かう為には「シュッツァー」山脈を越えた後に過酷な「ディア・トト」渓谷を越えなくてはいけないので、必ずこの街「バルバカム」か、大都市「バッカルガム」に滞在して、装備などを整える事は必須であった。


 大した産業もなく、冒険者ギルドなどのギルドもないのに、この街がやって来られたのはそのおかげでもあった。


「それが数年前から悪い噂が流れ始め…。」


 マ・カロンとその訪問者は街の外れにあるお屋敷の中に移動していた。


 それなりに高級な調度品や装飾品が整っているのを見る限り、ここは裕福な階層の人物の屋敷なのだろう。


「オイラを信じきって大丈夫かい?」


 マ・カロンは不敵な超可愛い笑みを浮かべて尋ねる。

 じっくりと目の前にいる人物を観察する。

 値踏みをしてみるのは初めてだ。


 ジョルジュから完全に離れて行動するのも初めてだった。


 彼のことをバルバカムの議員辺りではないのか、もしくはかつて議員だった可能性もあるだろうくらいに考えを膨らます。


 ガイドブック以外でのこの地の情報は実に乏しい。


内情など知る由もない。


 今までマ・カロン個人で依頼を受けたことなどない。


あくまで持っているデータの型にはめ込んで判断にしたに過ぎない。


 便宜的に仮に議員と呼ぶことにする。


「あのカフェテリアで咄嗟に我々に見えない障壁を張って頂き、逃げ出す機会をいただいたではありませんか?」


 ガタイのいい方のフードの男、議員が言う。


「オイラじゃねえかも知れないぜ。」


 マ・カロンはからかうように掌をひらひらと振ってみせる。


「あの時には……、見渡す限り、店内には我々と殺気立った店員とあなたしかいなかったではないですか?マ・カロン殿!」


 まあ、的確に状況を見ているとマ・カロンは心の中で呟いた。


 確かにその通り、そこに居たものと落ちてくる何かに力場を展開した。


 魔法ではなく、気の力とでも考えれば良い。


力場を張ることで来るべき衝撃に迅速に対応したのだ。


 目覚めた時から気配を知る力と力場を作り出す能力は備わったものだった。


確かに訓練は受けたし、今も言われるがまま鍛えているからか、特別なものだと感じたこともなかった。


 魔法などという物騒なものを罪人に与えるはずもないだろうとジョルジュが言っていた。


そりゃ、そうだろうと今なら分かる。


 ただ気の力がマ・カロンの機動力となっているのは確かである。


どこでも自由に力場を展開することができる事により現在の戦闘スタイルを決定していた。


 過剰な力に対する怯えからか、力とは管理操作が完全にできるものでなくてはならないと考えている。


マ・カロンにとっても確実な制御ができる今の気を操る方法が最適でもある。


 フードを被ったままで、緊張感を和らげることなく、議員たちはマ・カロンに接している。


 季節の割には涼しい夜、暖炉には赤々とした炎が焼べられていた。


「それとも、聖剣か…?」


 議員はその問いには首を横に振った。


「聖剣…、多分違うとは思います。」


 辺りを一瞬気にして続ける。


「祭りのたびに人が居なくなると言う噂がございまして…、ですね…。」


 議員は丸メガネを持ち上げた。


「激しい祭りだから、巻き込まれた人が怪我をしたり、亡くなったりってことか?」


 マ・カロンもまだ気を抜いてはいなかった。


 左手の隠しポケットに手をかけ、いつでも「孫の手」を抜き出せる準備をしていた。


 荒廃した日々、その積重ねが引き起こした習慣でしかない。


議員たちには怯えた様子はあっても、全く殺気がないので、可能性が薄いのは承知している。


「いえ、祭りの頃になると、この街では訪れた旅行者、罪人のみが忽然といなくなります。」


「ちょ、町長、そんなことまで…。」


 もう一人の小太りのフードの男を静止する。


「秘書だった君に迷惑をかけているのは分かっている。


しかし、これはもう我々だけではどうすることも出来んのだよ。


…、そらにだね、私はもう町長などではない、ただのガタイの良いオヤジさ。」


 なるほど、元町長とその秘書という関係かとマ・カロンは上書きする。


当たらずとも遠からずと言ったところであったが…。


 面倒なことに巻き込まれて、町長を解任され、それでもウワサの真相を探ろうと言うことだなと推測する。


「相棒のようにはいかねえもんだな。」


 マ・カロンは心の中でそう吐露していた。


 この小賢しい悟る力もジョルジュを通して繰り返してきた天界との関わり合いで培ったものでしかない。


 逆らう事も諦めていれば、悟るしかない訳であるとマ・カロンは自笑するしかない。


「つまりは、その神隠しみてぇなのが、アンタたちの手に余るほどに厄介なことに繋がっているって事だな。」


 マ・カロンの言葉に元町長は、一瞬固まったが、すぐに先ほどの冷静さを取り戻す。


「心が読めるのですかな…、う、そう、まあ、そうですね、その可能性が高いはずです。」


 マ・カロンは沈黙したまま、元町長の言葉を聞き入っている。


「全ては…、現将軍が着任した頃から、明らかにこの国は変わりました。」


「ち、町長は、町長の娘さんと奥様が…、昨夜、王都の警備兵に連行され…。」


 小太りの元秘書がそう言いかけて、言葉を詰まらせる。


 手を引かないと次はお前達だって事か⁈


 うーむ、厄介なことには巻き込まれたかねぇなあと心の中で嘯くマ・カロンだが、この話を断ち切ることがどうしてもできなかった。


 何故か、それはマ・カロンが一番知りたいところであろう。


天界の指令以外は全く自由意思が働かなかったはずだ。


 次のステージに上がったってことの因果関係は判らないが、マ・カロン自身の決断に委ねられていると言う事なのだろう。


 しかしながら、殻を脱することができない自らの現実が重くのしかかる。


「つまりここ数年くらいは…、もっとかもしれねぇが、旅人などの行方不明者が出ている。


それがどうも王都絡みであると言うことで、探っている時に町長を解任、妻子が連れ去られたと言うこと、なのか?」


 オイラらしくねぇ…、柄にもねぇなぁ。


 脳裏に浮かび上がる惨劇。


 悲鳴、怒号、燃え盛る炎の音、家屋や人の焼ける匂い、舞い上がる粉塵…がリアルに過る。


 知りたいとも思わない…?


本当の自分の事など覚えてもいないのに、オイラらしくないって考えるのもおかしな話だ。


 頭を振ってから、言葉を紡ぐ。


「で、オイラに何をしてもらいたい?」


 今まで自分から厄介な事には首を突っ込むことはほとんどなかった。


天界の縛りもそうなのだが、それよりも魔王な形相のネコのぬいぐるみにまず近づくものなど明確にいないし、ましてや悩み事相談などあり得なかった。


 顔が変わっただけで何が変わったのか?


 オイラの何かが変わったんだろうか?


 この間のバージョンアップが原因だと言うのだろうか?


 それに対して、元町長は丸メガネの位置を調整をすると、意を決したように言う。


「我々では王都に入っても、何一つできないでしょう。


有無を言わさず捕まる事でしょう。」 


 歯軋りして、想いを飲み込んだようだ。


「この街の西の門にはサンダーウルフ部隊、東の門にはファイヤーウルフ部隊が配備されている事からも容易に想像が付きます。」


 淡々と状況を分析しながら、続ける。


「王都の軍が動き出している以上、この街自体が監視されていることでしょう。」


 暖炉の炎がバチっと跳ねる様子を見つめていた元町長は、マ・カロンに視線を向ける。


「現在、王城に近づくことも、はたまた忍び込む事も簡単には叶うはずもないのです。


ましてや情報収集など必ず命取りになる。」


 ふっと息を吐く。


「この街に留まっている間は我々の身に危険は及ばないと思いますが、今は祭り前日、警備の目は特に厳しく、一切街を出る事は叶いませんし、一分一秒でも…、ええ、分かっているのですが、何もできないんです。」


 確かに軍隊に対抗する能力が一般の街の者にあるはずもないだろう。


この街が異常な緊張感に包まれている限り、理性的な行動もかなわないだろう。


必ず、軍と揉めることになる。


「王城に忍び込み、何を知りたい?」


 グッと息を呑み、呼吸を整える。


 元町長は一度秘書の方を確認し、瞳でコンタクトを取るとゆっくりと口を開き始める。


「我が妻子の安否と大都市「バッカルガム」で何が起こっているのか?


いや、起ころうとしているのかの詳細を知りたいのです。」


 その目は揺るぎない決意を秘めていた。


 ハハハ、どうしちまったんだ、笑っちまうなと自分の心を卑下する。


 厄介な事は嫌いだったじゃねぇか、関わることを嫌って来たじゃねぇか、面倒で厄介な事が身に降りかかるのは明白じゃねぇか…、だが、誤魔化すこともできねえのか⁈


「上手くいく保証などないぜ。」


「承知しております。」


 元町長の声は震えている。


 マ・カロンはふふんと鼻を鳴らす。


「なら、引き受ける代わりに、用意して欲しいものがある。」


 元町長の顔が少し緩んだ気がした。


 しかし、すぐに緊張感を称えた顔に戻る。


「我々にできる事でしょうか?」


「ああ、心配ないさ、ガイドブックを読む限りには、ここの特産品さ。」


 マ・カロンが手をひらひらと振って答える。


「鳥が必要いる


そう、飛びっきりのやつだ。」


 その顔には不敵な笑みを表したいという願望を込めた愛らしい微笑が浮かんでいた。

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