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【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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40.自分で殻を割れる強い子だ

「そろそろだね」


 火竜の雌はじっくり観察し、卵を何度かひっくり返した後で頷いた。孵化の時期が近い。その言葉を聞くまでに、一カ月以上が経過していた。


 拾った卵の巣作りから始まり、ガブリエルの食事や水を運ぶ世話、稀に交代して温めるなど。周囲は甲斐甲斐しく手を掛けてきた。その成果が、ようやく顔を見せる。知ってしまえば、お祭り好きな魔族は黙っていられない。


 あっという間に、話は魔族中に広まった。世界の半分の権利を持つ魔族だが、現時点で取り返せた領地を含め三割ほどだ。残る二割を取り戻す魔王ガブリエルが、新しい魔族を誕生させる。その話は、尾鰭背鰭がびらびら付いて膨らんだ。


 孵化の瞬間に間に合わずとも、何とか卵の子に会いたい。そんな手紙を寄越したのは、巨人族の長老だった。高齢なので、こちらから出向くと返事を出す。翼手族は毎日、交互に顔を見せて卵を撫でた。卵生の種族は親近感が高いようで、竜族もよく温め役を買って出る。


「そうか、出てくるのか」


 寂しいような、嬉しいような。表現のしようがない不思議な感覚に襲われた。ガブリエルは卵の表面に頬を擦り寄せる。これだけ長く守っていれば、情も湧く。孵化した後のことを考えなくてはならない。卵を転がしたガブリエルが、上に被さろうとしたとき……コツンと音が響いた。


「……卵、か?」


 何かにぶつけただろうか。石などは持ち込んでいないはずだ。心配になり、卵を半回転ほどさせたガブリエルの目が見開かれた。


「大変だ、ヒビが!」


「孵化ですかい?」


「おおい、誰か火竜のブネさんを呼んでくれ」


 孵化が近いと告げたブネは、食料探しに出掛けてしまった。孵化させた経験がある雌は他にもいるが、バラムは慣れた彼女を呼ぶよう伝える。承知を告げた翼手族の若者が飛び立ち、すぐに羽音が複数戻ってきた。


 近所にいたのだろう。火竜のブネは滑りながら着地し、巣を覗き込む。ガブリエルが位置をずらして卵のヒビを見せると……緊迫した表情がほわりと和らいだ。


「うん、大丈夫さ。この子は強い。自分で殻を割れるから、見守ってやるだけだね」


 上手にヒビが入っていると笑う彼女に、周囲はほっとした。この後はひたすら待つだけだ。当日殻を破って出てくるのは、小型の種族が多かった。種族不明の卵は、大きさだけなら竜族に近い。大型種族だとしたら三日ほど掛かるだろう。


 ブネの話を聞きながら、ガブリエルは胸に何かが過ぎるのを感じた。吸収した父の感情だろうか。懐かしさと喜びとわずかの不安……自分が生まれた時、父が感じた想いだとしたら。じわじわと胸に広がる感情を、抱き締めるようにガブリエルは目を閉じる。


「卵はどうすればいい?」


「このまま見守るだけだよ。もう温めなくていいけど、近くにいてやりな。いきなり居なくなると、不安がるからね」


 どんと尻を叩かれ、ガブリエルはブネの勢いに頷く。そうだな、出てくるまではオレが責任を取らないと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 卵がついに!!小人も卵焼き食べながら大興奮きゃ(*≧ω≦) [一言] サッと、書いていた小説を脇に置くと小人は猫作者さんと共に卵焼きを食べながら見守るきゃ(p`・Д・´q)
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