表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/77

24.あの日の後悔を噛み締める

 勇者が領主達と旅立った。その一報を受けて、魔族は森へ引き上げる。途中で襲う愚を犯さないために、全員一緒に森の奥へ帰った。


 無事に戻った夫や息子、兄弟に留守番だった者が集まる。生きていてよかった、ケガをしていないか。無事を喜びながら、土産話に頬を緩める。吸血種も獣人も翼の有無も関係なかった。歓喜に満ちた人々に背を向け、ガブリエルは魔王城の庭に降り立った。


 修復に着手しない城は、半壊したまま。あの当時の姿より、さらに崩れていた。倒れた父の体は、多くの人族を道連れにした。軍の大半を巨体で押し潰し、敬愛する主君を見上げて死んだ。


 正直、羨ましいと思う。ガブリエルは父より小さな体を、同じ位置に横たえる。まだ足りない。手足の大きさも重量も強さも……到底及ばないと笑った。乾いた笑みで身を起こし、斜め上に首を向ける。


 玉座の間、魔王ナベルスがオレを守った場所。あの時、オレだけ転移しなかった。側近だった狼獣人のバラムは、抗っても強制的に飛ばされたと嘆く。あの時、一緒に行きたかったのだと。オレは転移を免れたのに、この世界に残ってしまった。後悔が胸を締め付ける。


 ふわりと舞い上がり、謁見の間に降り立った。今にも崩れそうだが、瓦礫が崩れれば、魔法陣が作動する。父から得た知識で、一番最初に作った魔法陣だった。この場所を保存するため、優しくて大好きだった魔王様を偲ぶため。


 ガブリエルは常に魔力の一部を、この魔法陣に繋いでいる。あの日と違うのは、宝石や金銀を剥がされた玉座に、黒い人影が座していること。その足元に近づき、ガブリエルは深く頭を下げた。


「ナベルス、さま……」


 声が震える。大切な人の名を口にするだけで、涙が溢れた。何が悲しいのか、もう分からないほど泣いた。枯れるほど泣いたのに、あの人の名前一つでまた感情が溢れる。


「オレはあなたと父上の仇を討ちます」


 だから、戦う俺を許してほしい。戻ったら褒めてほしい。無理を承知で願ってしまう。何も理解できなかったあの日、失われたことすら知らずに離れた。敗者となった魔王を貶めるように、勇者は遺体を倒したらしい。


 魔王の座に就いて、最初にこの場所を復元したのは……ガブリエルの心の拠り所だからだ。倒れて割れた遺体を丁寧に集め、魔力で補強して玉座に収めた。泣きながら一つずつ拾い、口付けて復讐を誓う。遺体を辱められた悲しみが、心に刻まれた傷を膿ませる。ずくずくと痛みを発し、煮えたぎる怒りを生み出した。


「オレの感じた以上の痛みと怒りを、魔族が受けた以上の屈辱を」


 必ず与えよう。


「神がそれを阻むなら……」


 神も滅ぼすのみ。勇者を選び魔王を殺せと命じる神など不要だ。戦いを好まなかったあの人を、無理やり野蛮な戦場へ引き摺り出した。その対価は安くないぞ。


 構築し直した魔王ナベルスの遺体の足元で、ガブリエルはあの頃より格段に成長した体を丸める。少しでも長く一緒にいたいと願いながら、目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 小人もナベルス様の足元で、魔王様と一緒に丸くなります。人間の勇者は獣のようですね。尊厳や敬意が全くありません。許すまじ、人間滅ぼす(p`・Д・´q) [一言] 小人王国軍も、城を修復しよう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ