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空の神 (カラノカミ)  作者: 空気
第1巻
4/18

#3 ゲーム開始

main game in

      first memory 2


『ゲーム開始』



 

 幕が上がるように(ひら)けた世界に待っていたのは、一面に広がった石畳だった。

 

 探索してみたところ、思った通り500メートル程進むと見えない壁にぶつかる。それが四方同じように壁にぶつかる事から、大体1キロメートル程の平方四角形で、懐かしい場所だということがわかった。


 見知った石畳。


 見覚えのある空。


 違うのは、この世界に。


 この空間に。


 匂いがあるということ。

 

 感触があるということ。


 ……。


 いやいやいや、ないない……そんな、そんな、馴染みのある風景な訳が。


「あったわ」


 1回目を瞑ってからよく考え直してみても、開けた目の先にあるものは何も変わらなかった。

 けど、この世界がまさか現実な訳が……うんやっぱない、有りえない。


 あの合成音声が言っていた世界が何ちゃらってのが、ラスゲだったなんて……どうなってんだ? 先行アクセスに選ばれた……? けど昨日の配信でそんな事一切触れてなかった。それにLP(ライフポイント)表示もEP(エナジーポイント)表示もない。


 武装なんて初期装備どころか学校帰りのシワクチャの制服のまんまだし、武器もない。

 追加アイテムがあるとすれば見覚えもないこの腰につけられた2本の鍵ぐらいだ。


「これでどうしろって言うんだよ。メニュー画面もねぇ……」


 出口の無い。やることもないときた。


 ……この鍵の鍵穴でも探せってのか? このだだっ広い平面を?


 腰に付けられた、何に使うかわからない鍵を手に取り、一向に使い道がわからないまま時間だけが過ぎていく。



□■□■



 ラスゲの個人ワールドによく似た場所に来てから1時間が経過しようとしていた。


 ここってどう見てもラスゲの個人ワールドの初期設定だよな……。


 個人ワールドはプレイヤー一人一人に与えられる個人の独立空間の総称で、ゲーム開始当初は確かここと同じ1キロメートルの正方形の石畳の空間が与えられる。そこから面積を広げたり、家を建てたり、他のプレイヤーの個人ワールドと共有や、合併をし、自分の拠点を築く、プレイヤーにとってとても大事な場所になっている。所謂(いわゆる)箱庭的要素だ。だが本来のラスゲにはあるものがここにはない。そう、今1番大事な、プレイヤーがラスゲの広大な世界に旅立つためのワールド移転ゲートが。


「まさかこの鍵でなんとかしろってか……?」


 手に持っている鍵を見つめてみる。

 鍵の頭部に英数字混同の文字列があるところ以外は、どこにでも有りそうな普通の鍵だ。


 この文字列を見てふと、昔見た裏技攻略サイトを思い出した。なんだったか、たしか……"LAST GAMEのマップ構成にはマップ毎に英数字の座標が設定されていて、チャット欄のDM(ダイレクトメッセージ)機能を開き、宛先を書かずに対象の文字列を送信すると該当するワールドに転送される"と言う都市伝説だった。……はず。


 最終的に情報元も分からなければ、英数字の座標も発見されず、DMに至っては宛名を選択してから文字入力ができる仕様のせいで、誰も検証できずにいた。なのに、やけにそのサイトでは大々的に取り上げられていて、軽く炎上していたんだっけか。


 結局あれはなんだったのか。そしてどうして今、そんなことを思い出してしまったのか。


 ……。いやまさかね。いやいや、そんなはずは……。


「物は試し。か……」


 やることもないので、その裏技とやらを実践してみることにする。いざ試そうとすると、なかなか緊張する……。


 生唾を飲み、鍵に書かれた英数字を読み上げた。


 瞬きをすると、硬く平らな石畳ではなく、グニャグニャと柔らかい、草の生い茂った土を踏んでいた。


「おお……本当に変わった」


 目の前に映るのは木、木、木。どうやら森に転送したらしい。


 で、ドコ? ここ



□■□■



 ワープされた辺鄙(へんぴ)な場所から歩くこと数分。


 人混み特有の賑やかな声に誘われ、そのする方向に足を進めると街に出た。


 街の中心には巨大な建造物が建てられ、それを囲むように白い煉瓦造りの建物が軒を連ねている。


 広い大通りには、まばらに人が行き交い、その通行人に、様々な商品を並べた市場の店主達が声をかけている。


 あの(そび)え立つ一際目立った大きな建物……この道……やはりゲーム開始直後、1番初めに行けるようになる市街地にそっくり……いや、まんまだ。おいおい本当、どうなってんだよ……。も、これでタイトルが長っかたら完全に今流行のラノベなんですけど? やばい。そろそろ、可愛いお姫様に出会えるんじゃね? 逆玉の輿的な……え、なにここ最高かよ。



□■□■



 確かに人通りはあるにはあるが、都会の駅周辺と比べるとそれほど多くもなく、休日の商店街程だろうか、道に構えている露店が、何店か片付けを始めているのを見ると日中はもっと賑わっているのだろう。


 何か情報がないものかと市街地を歩き回ってみたものの、途中で財布や携帯などの貴重品がないことに気づき、そそくさと引き返す。おいおい……なんで冒険者みたいな厳つい格好の奴が1人も居ないんだよ。それに通行人の方々はなんでこんな人間味溢れちゃってんの? 俺の知ってるNPCノンプレイヤーキャラクターは市場のオヤジに、値切り交渉なんてしねえぞ。


 行き帰りに屋台の様子を伺ったが、どうも、金のない人間が話しかけて応答してくれる雰囲気ではなさそうなので、聞き取りは辞めた。俺もあそこのガリガリみたく無視されたく無いもんな。


 それよりも、ここはどこのサーバーなんだ? 日本語の他に、ちらほらと聴き慣れ得ない言語も聞こえるけど……。てか、なんで違う言語同士で会話成り立ってんだよ。怖いわ。


 うーん。この装備で街から出るのもなぁ……ニィールも怖いし。この街の感じ、明らかに俺の知ってるラスゲーではなさそうだし、ようわからん人に話し掛けるのも怖いから一旦元居た個人ワールドに帰るかぁ。


 あまり大した情報も入らないいまま、人影のない路地裏に入り2つ目の鍵の文字列を読むと案の定、先ほど個人ワールドに転送された。


 1個目が市街地に行くためのパスワードだったのだとしたら、もう1つのパスワードが個人ワールド用だと言うのも納得する。だから鍵が2本……か。



□■□■



「さてと、戻ってみたはいいけど、どうするかなぁ……。体感的にはもう4時半過ぎだし、そろそろ宿を探さないと……でもここにはねぇし、金も無さだし」


 顎に手を当てて考えるフリをしてみる。


「宿なんて要らねぇよ」


 急に背後から話しかけられた。でも、ここには誰もいないはず……。


 慌てて振り返ると、近い距離に居る訳でもないのに、少し臭うボロ雑巾の様な服を纏った30〜40代の男が(たたず)んでいた。え、怖。明らかにさっき街で見かけた人達と雰囲気違うじゃん。


 男の手には斧が握られており、男の巨体と人相の悪さに更に威圧感を煽っている。


 巨体男の後ろには、如何にも下っ端を絵に描いたような男達が数人下品に笑いながら立っている。所謂、近づいちゃいけない人だ。


 なぜここにいる……? どこから入ってきた……? こいつは誰だ。


 つーか、パス使わなくても入れるなら早く言ってくれ。それにしてもこいつら誰? 取り敢えずまずは穏やかに行こう。


「あのー、どちら様ですか? できればお名前とか、どっからここに入ってこれたか教えて下さ……」


 そこまで言いかけた時、急に男が殴りかかってきた。咄嗟に左手で受け止めようとするが抑えきれず、そのまま腹部に相手の拳がめり込み、激痛が走る。


 腹部から喉にかけて何かが込み上がった。


「うっぷ……!」


 数歩後退りし、左手で腹を抑え、戸惑いながらも巨体男を睨みつける。


 訳のわからないまま巨体男に反撃しようとした矢先、今度は巨体男の後ろにいたうちの1人が勢いよく駆け寄って俺にドロップキックをする。下っ端の足は俺の横腹に直撃し、骨の軋む嫌な音が体に響く。


 痛みを理解する暇もなく、宙に舞う身体は浮遊感に襲われ、その後全身が石畳に叩きつけられた。


「カッ……ハガッッ!」


 度重なる腹部への痛みと、胃の中の異物が這い回る感覚で感覚が狂いそうになる。


 急な暴力で頭が混乱する。なんとか頭を回転させようと脳に酸素を送ろうとするが、巨体男の足が俺の横腹にのめり込み邪魔をしてくる。


「はぁぁあぁッッッッッッ!」


 吸い込もうとしていた空気が肺から一気に逆流して口から飛び出ていく。


「なぁ、坊ぅ主、俺ぇぁ困っててよぉ……ちょいとばかり金目のもんくれよ。なぁ?」


 巨体男のゴツい顔が近づいてくる。鼻がもげそうだ。何食ったらこうなるんだよ。先程受けた暴行と、巨体男の酷い口臭で、息もままならず頭の中がぐちゃぐちゃに掻き回されるが、コイツの言葉でハッキリしたことがある。コイツらはマトモじゃねぇ。


 こう言う輩にはゲームでも、現実でも、こう言ってやんのさ!


「残念だったなぁ、おっさんよぉ……今はねぇんだよ、だからさ、さっさと尻尾巻いて帰りやがれよ、この豚野郎がっ!!」


 巨体男がびくりと体を動かすと踏みつけられていた腹部に更なる圧迫感に襲われる。


「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」


 痛みで声を上げるがそれがそれに負けないくらい大きな声で巨体男が怒鳴り散らす。


「調子に乗んなよ! ガキが! 舐めてるとぶち殺すぞ!!!」


 言うが早いか、巨体男が手に持っていた斧を大きく振りかぶりるが、それが振り下ろされることはなく、なにかに気付くと振り返る。


「おーい! おーいっ!」


 巨体男が振り返えった先には、こちらに大きく手を振る男が大声を上げながら駆け寄ってくる姿があった。


 巨体男は振りかざした斧を肩にかけ、駆け寄って来た男と何かを話し始める。


「で、どうだ?」


「いえ、それが……家も何もなく、一面石畳だけで、拡張すらしてなかったんすよ」


 このワールドを見回ってきたのだろうか、汗だくの男が巨体男に報告すると「そうか…」と巨体男は呟き、また俺の方に向く。


「だってよ、坊主! 残念だったなぁ、何か金目のもんがありゃぁ、見逃してやっても良かったんだがよぉお……何もないんじゃあしょうがないよなぁ、お前の臓器が売られちまってもよぉ……」


 言ったそばから大きな斧を先ほどより深く振りかぶると、その勢いを殺さぬままに振り下ろす。その瞬間、恐怖で目を強く瞑る。


 ああ、それでも、言ってやたんだ! 俺が1番嫌いな、悪党に屈することを回避できた! 悔いはない! 自分の道を貫いたんだ!


「ぐっ……!!」


「がっ……!!」


「ぎゃっ……!!」


「ゴギャ……!!」


 な……なんだ……? 先ほどから奇妙な声が発せられているが怖くて目なんて開けていられない。


 …………。


 …………。


 …………。


 それにしても振り下ろされない。振り下ろされなさすぎる。こちとら今から死ぬんだから、昨日の夜こっそり妹のプリンを食べちゃったことちゃんと懺悔(ざんげ)してたんだぞ! どうしてくれるんだよ、もう確実に10秒はたったぞ、体もさっきまでと違って軽いし、走馬灯も見終わって今から2週目だよ! ったく!


 あまりの焦らしに耐えきれず、ゆっくりと、目を開ける。


 そこには小柄だが筋肉がしっかりとついた青年が寝そべる巨体の上に立っていた。


 え……? 何……? 次は何……? てかさっきまでここにいなかったでしょ、誰……?


 なんなの、この展開!


「あぁ、もうなんなんこれぇ……」


 あ、心の声が声に出てしまった……。


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