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空の神 (カラノカミ)  作者: 空気
第1巻
16/18

#12 行き先は

main game in

      first memory 8


『行き先は』






「最後にこちらにサインを」


 青白いく光る半透明のホログラムにペンで自分の名前を記入する。


「はい。承りました。お疲れ様です」


 長い長い長過ぎる書類手続からなんとか解放されて技能資格(スキル)習得を無事に終える。


 手元に開いていた青白い半透明の液晶パネルを見ると技能資格(スキル)欄に言語翻訳(既存語)の文字が現れた。

 これは政圀騎士団(せいこくきしだん)に登録されている言語全てを脳内で自動翻訳してくれる機能らしい。これが特殊能力じゃなくて行政の発行しているインフラの1種だと言うのだから驚きだ。


空庫(バンク)の登録も行いましたが、容量はレベル3でよろしかったですか? 一般人の生活ですとレベル1で充分ですが」


「はい。そう言われてますので」


「それでは、登録してしまいますね。書類はもう頂いておりますので初回登録の事務手数料と今月、来月分の料金を先払いお願いします。先程登録した口座の自動引き落としにチェックが入っておりますのでそちらから引いておきましょうか?」


「はい。お願いします」


「では請求書を発行いたしますので、こちらに指紋と署名を……はい。ありがとうございます。それでは事務手数料300ラシュケールと2ヶ月分のご利用料金の1万ラシュケール引き落とさせていただきます……ご利用ありがとうございます。それでは、何かございましたらまたお気軽にお越しください」


「ありがとうございました」


 受付のお姉さんに軽く会釈をすると先ほどまで見守っていたトレンチコートの男が話しかけてくる。


「お疲れ様です。夏比(なつひ)殿。早速ですが、空庫(バンク)の使い方をおさらいしましょう」


 空庫(バンク)協廨(きょうかい)に登録しプランに見合った料金を払うと一部を除くアイテムを自由にどこからでも出し入れできる所謂サブスク型のアイテムボックスだと言ったところか。


 頷くとトレンチコートが袖を上げる。


「では、好きな大きさの四角い入口をイメージしながら、空庫(バンク)と唱えて下さい」


 指示に従い手のひら台の四角を思い浮かべなが魔法の呪文を唱える。


空庫(バンク)


 魔法の言葉を口にした瞬間手元に、濃い青の縁取りに中が青く深い宇宙のような四角いそれが口を開く。


「それではこのペンをその四角い中に入れてみましょう」


 トレンチコートは胸元から純白のボールペンを取り出すと、こちらに渡してくる。


「あ、どうも」


 ボールペンを受け取り、それを四角に落とす。

 二次元的な四角い入口はボールペンを飲み込むと、回転しながら収縮して閉じていく。


「それじゃあ、次はアイテムボックスって唱えてみて下さい」


 トレンチコートは閉じ切った四角を見届けてから次の指示を出す。


「アイテムボックス」


 こちらも魔法の言葉で指示を出すと青い半透明のホログラムが出現する。

 何十個にも四角く区切られたホログラムの1番左上に先程のボールペンの写真が配置されている。


「ありましたね? そのボールペンを強くイメージしながらもう1度、空庫(バンク)と唱えてみて下さい」


 ホログラムに映し出されたボールペンを凝視しながら魔法の言葉を再度口にする。


空庫(バンク)


 すると先程出た二次元的な四角くが手のひら大で現れ、先程のボールペンを落とす。

 それをトレンチコートがさっと拾い上げると、こちらにウィンクしてくる。いや、そこ別にカッコつける場所じゃないから。


「はい。できてますね。因みにアイテムボックスから取り出したい道具を選択してドラッグすることでも可能ですが、戦闘時などは困難なのでコマンドで操作できるようにしといたほうがいいですよ。取り出したい道具をイメージするのって中々コツがいるんですけどね」


 はははっと笑いながらトレンチコートは先程のペンをまた懐にしまう。


「それでは和馬(かずま)殿の所へ合流しましょうか」


 こくりと頷くとトレンチコートは先導して歩き始める。


「それにしても、どこかで聞いたことある地名なんですよねー。 どこだったか」


「何がですか?」


「あぁ、夏比(なつひ)殿が戸籍登録の時に書いていた出身地事です」


「え?」


「日本の神奈川。うーん誰だったかなぁ」


 ぶつぶつと考えながら歩くトレンチコートを尻目に動揺が隠せない。似たような地名があるだけか……? いや、俺の他にも異世界転生した人間が……いや……まさか……春比(はるひ)も……そんな考え事をしていると前から声をかけられる。


「よう。騎士団に迷惑かけなかったか?」


 いつのまにか現れた友人の登場に驚き桃の木三途の川……あれ、和馬(かずま)さん死んじゃった……?


夏比(なつひ)、なんかお前今、不謹慎なこと考えなかったか?」


 バレてる……!


「ひぇっ! そそそそんなことないよ?」


 ごめんなさい! 怖いから睨まないで!

 

 和馬(かずま)から必死に目を逸らしていると、俺の次はトレンチコートに標的が向く。


「どうした? なんかあったのか」


「いえ、ちょっと招集がかかったのでそちらに向かいます。大丈夫! 特騎(とっき)の手は煩わせないですよ」


 よく見るとトレンチコートは空中に向かって誰かと喋った後にこちらに会釈してから、急いだ様子でそそくさと立ち去る。


「じゃあ、俺らも行こうぜ」


 立ち去るトレンチコート達を見つめる和馬(かずま)に声をかける。


「あぁ、そうだな」


 そういう和馬(かずま)は少しトレンチコートの動きが気になっているようだった。



□■□■



 喫茶店カタスコポス前。


「着いたぞ。ここからだ。重要なのは……引き締めていけよ……引き締めていけよ? 引き……」


「え? なんで同じこと何回も言うの?」


 壊れたおもちゃのように何度も同じ言葉を発する和馬(かずま)を一旦停止させる。和馬(かずま)さん電池切れちゃったかな?


「わ、悪い……ふざけた顔してたからつい」


  今別にふざけてなかったが? キレそう。


「超引き締まってる顔してるでしょ! 引き締まってないのは俺の腹だけだよ! 舐めてるとやっちまうぞ! あぁん?」


 俺は自慢のお腹をぽんぽこと平成感を漂わせながら叩いてみせる。こちらとらたぬきなんだぞ!

 自分としては最大限の威嚇をしたつもりだったが、和馬(かずま)はクスリと笑うと、タカスコポスの扉を開く。え? 今……和馬(かずま)さんが笑っただと?


「っしゃっせぇ!」


 扉を開けると心地いい鈴の音を遮る様に店員のおちゃらけた挨拶が俺達を出迎えてくれる。コンビニの店員みたいな挨拶はどこの世界に行っても変わらないらしい。


 店内は笑い声や話し声で随分と賑わっている。


「2名様でぇすかぁ?」


 辺りを見回してしていると先ほど挨拶した店員が話しかけてくる。前言撤回、コンビニの店員よりひでぇわ。


「あぁ、だが待ち合わ……」


 問いかけに答える和馬(かずま)の声を店員が遮る。


「2名様ごあんなぁあい」


 店員に自分の言葉を遮られたのが余程苛立ったのか和馬(かずま)から殺気が溢れ出る。漏れてる! さっきから殺気が漏れてるよ、和馬(かずま)さん! さっきだけにな! つって。いや、うん本当、殺気に射抜かれて死にそう、俺が。

 店員ではなく俺に向けられた殺気を早く逸らしたくふざけた店員に呼びかける。


「じ、実は待ち合わせしてるんですよ! なので自分達で席に移動しちゃいますね」


 そう言いながら和馬(かずま)の視界から外れようとそっと横に移動する。


「ちょっと待ってくださいよぉ! しょうなの? 何でぇ? 何でもっと早く言ってくれないのぉ? しょれならしょうって言ってくださいよぉ! ごゆっくりでぅぞぅ〜」


 まって! やめて! これ以上和馬(かずま)くんを刺激しないで! 死んじゃうから! 俺も君も!


 俺の願いが通じたのか、店員は言うだけ言って立ち去る。


 店員を見届けてから和馬(かずま)が話しかけてくる。


「来い。見つけたぞ」


 それだけ言って和馬(かずま)は店の奥へと歩いて行く。

 

 和馬(かずま)の歩いて行く方向に1人、他の客とは違った風貌の客が居た。

 純白で一切汚れのないトレンチコートにこれも純白の帽子を被った男が席に座っている。また白いトレンチコート。この人も政圀騎士団(せいこくきしだん)ってところの人か。


 和馬(かずま)はそのトレンチコートが座っている席の対面の席に無言で腰を下ろす。


 それに合わせて自分も和馬(かずま)の隣に腰掛ける。


「待たせたな、ロゼの代行だ」


 和馬(かずま)の声を聞いてそれまで顔を伏せていたトレンチコートが顔を上げ、和馬(かずま)を目で捉えた瞬間に表情が変わる。


「代行役は手練れの方と聞いて居ましたが、まさか……ローゼ・ブラウさんの代行役が特騎(とっき)の内の1人、城崎(しろさき) 和馬(かずま)殿とは…………心強い。あ、申し遅れました。政圀騎士団(せいこくきしだん)で第6局、今田(いまだ)班、班長を務めております今田(いまだ) 綾女清二郎(あやめせいじろう)と申します。よろしくお願いします。そちらは、お連れの方ですか?」


 今田(いまだ)と名乗る男は少しの動揺はみせたものの直ぐに平常心を取り戻し簡易的な自己紹介をする。


「コイツは気にしなくていい。それに騎士団の班長が俺のことをよくご存知だ」


「それは勿論、この世に3人しか存在しないSレート越えの特騎(とっき)。その中でも1番歳の若い城崎(しろさき)殿は騎士団内でも有名ですよ」


 和馬(かずま)の皮肉にも取れる無愛想な返しに今田(いまだ)さんはあまり間を開けることなく和馬(かずま)を褒める。何この人、和馬(かずま)を褒めてどうすんの? 何も出ないよ? 本当に。


「ってえぇ?!  和馬(かずま)Sレートなの?! うっそ! こっっわ! やべ近寄らんとこ……いや、待てよ? さっき協廨(きょうかい)に居たトレンチコートもそんな事を……」


 驚愕の事実に頭を整理していると、今田(いまだ)さんが割り込んでくる。


「待ってくれ! 騎士団の人間が何故近辺の協廨(きょうかい)に……? この時間帯に騎士団の人間は居ないはずだ……! あそこまで徹底して騎士団の人払いをしたのに……何故……。それに君は城崎(しろさき)殿の連れにしてはレートが低い様に見える。名前を伺っても?」


 どうやら自分と同じ派閥の人間の行動が気になるらしい。つーか、レートが低そうとか余計でしょ! 確かに高くもないかもしれないけど……。


(みなと) 夏比(なつひ)といいます。宜しくです」


 簡易な自己紹介を済ませ、小さな声で和馬(かずま)に質問を投げかける。


「ところでさ、自分のレートってどうやって調べるの?」


今田(いまだ)3曹(さんそう)。俺のツレはほっとけ」


 和馬(かずま)今田(いまだ)さんに一瞥(いちべつ)してもう1度忠告をすると、次はこちらに顔を向ける。


「レートには何種類か選別方法がある。先ず対象が与えた被害から推測または、それと同等の被害が出る可能性の在るものはその場で計測できる。その計測した者を単体で撃破できる者は当然そのレートより上という事になる。実績を積んでいってレートが上がる場合もあるが大体はさっき話したパターンが多い。注意すべきは全てが戦闘面でのレートではなく危険度や騎士団の考える被害推定度合いも含まれるという事だ」


 こんなにガヤガヤと賑わってる所で聞こえるか聞こえないかの問いかけに対して流石は和馬(かずま)さん! ピシャリと和馬(かずま)事典を披露してくださる。


 辞書並みの説明力に拍手をしながら俺のレートを聞いてみる。


「因みに俺のレートってわかったりするの?」


「武装した一般人程度。高くてD-3だな。ってかテメェの話なんてどうでもいい、話をそらさせるな!」


 D-3んん?!  それって1番下じゃん! まじで? あんなに特訓したのに? そーれーはーないでしょぉ〜……今田(いまだ)さんもそんな残念な人を見る顔しないで。俺が悲しみにくれながらメニュー表を眺めている間に話し合いは着々と進んでいった。



□■□■



 今田(いまだ)と名乗るトレンチコートの話を要約するとこうだ。


 今田(いまだ)さんは政圀騎士団(せいこくきしだん)で1チームを引っ張る班長という役職に就いていて、経験上、色々な戦場や事件を駆け巡っていた。

 元から裏と表の顔があった騎士団は平和主義者の前代表のおかげで均衡を保っていたが、最近になり代表が若い者へと変わった。そのせいで保っていた均衡は崩れ加盟国は荒れ、大国は大義を持って罪のない他国や国民を騎士団に惨殺させ、更に悪事を働き人の血肉を貪っていた畏物(二ィール)を匿い自らの兵にしようとしている。


 そのことに抗議したが上層部に居る前代表の派閥の者に届く前に現代表側の者にねじ伏せられ、警告と言わんばかりに自分の部下が闇討ちに会っているという。

 それに耐えきれなくなったのだそうだ。


 そして騎士団や横暴な政略をする国のせいで家族や身寄り、自分の居場所がなくなった人達、反発性抗議群(レジスタンス)に出会ったらしい。

 今、自分と同じレジスタンス活動をしている人間は自分の顔見知りだけで50人は下らないと言う。自分達のコミニティーは少ない方で他の反発性抗議群(レジスタンス)コミニティーには街ひとつ、酷い時には国家を立ち上げる集団もあるというが、今田(いまだ)さんは不思議なことでは無いと語っていた。今田(いまだ)さん曰く、類は友を呼ぶと言う奴らしい。


 この喫茶店は客、従業員に関わらず自分達以外は全員レジスタンスだとか。敵である筈の政圀騎士団(せいこくきしだん)の敷地内でレジスタンスの集会とはなんとも大胆な行動に見えるが、本人達は灯台元暗しと唄い何かあると気軽にこの場所に集まるのだそうだ。


 今田(いまだ)さんの話を整理している間も話は続いている。


「何故、わざわざ児夫喰(こをぐい)を? お前もあれがどれだけ大規模な討伐戦だったかわかっているはずだろ」


「解っています、だからだ……だからコイツの名前を借りようとした…………何、使うことはないですよ、いや、使わないと誓えないから……だからあなた方にお渡ししようと考えたのです。もしも、我々が騎士団に耐え切れず忌々しいコイツを使ってしまわない様に」


「そうか。大体の容量は掴んだ、ソイツは俺らが預ろう。次は俺達の条件を提示する」


「はい。私どもにできることならなんなりと」


夏比(なつひ)こっからはちゃんと話を聞いておけ、俺らの目的はここから先の話にある」


 聞き流していたのかちゃんと聞いていたのかわからない会話の切れ端で名前を呼ばれて目を通していたメニュー表を畳む。


「あぁ」


 メニュー表を元あったテーブルの隅に立て掛けてから小さく相槌を打つ。


 今田(いまだ)さんと目が合った。

 事は起こっている。もう腹は括った。そう語るかの様な力強い瞳がそこにはある。


 自分も覚悟を決めよう。そう誓わせる目だった。


「俺達は今、神への謁権(かみへのえっけん)を探している。これに関してお前が知っている情報全てを提示して貰いたい」


 神への謁権(かみへのえっけん)。この言葉を聞いた途端に今田(いまだ)さんの表情が変わる。


「………………。はい……分かりました。私の知る限り、神への謁権(かみへのえっけん)の情報をお教えしましょう」


そして今田(いまだ) 綾女清次郎(あやめせいじろう)は語り出した。

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