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ゲームオブザデッド 〜現実にゾンビや巨大怪獣が出現したけど、なんか謎の能力に目覚めたので、とりあえず両方ともぶっ殺していきます〜  作者: 空夜風あきら
間章 Day2.7——とある(あくまでも一般的な)少女の視点より

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第98話 悪夢やと思うでしょ? でもコレェ、現実なんすよぉぉ(千◯ジュニア風)

 


 これは夢だ。それもとびきりの悪夢というやつだ。そうに違いない。いや、そうであってほしい……


 目の前には、信じられない光景がひろがっている。

 今現在の私が居る場所——校舎の三階にある部室——から見えるグラウンド、そこには、ふらふらと歩く人影がたくさんいる。

 それだけなら、別に何もおかしいことはない。それが普通の人間だったならば……


 時刻は夕刻にさしかかってきており、外は少し暗くなってきている。

 けれども、よく見れば彼らが……いや、()()()おかしいことは、ここからでも分かる。


 ふらふらと頼りない足取り、何を目的にしているかも定かではないような、不規則な移動。

 奴らは、あっちへふらふら、こっちへふらふらと、不気味な徘徊を飽きることなく続けている。


 しかし、私は知っている。奴らが一度(ひとたび)、生きた人間を視界に収めるや否や、猛然と襲いかかるということを。

 それは、これまでの観察で幾度も見てきた。今、眼下の光景がそうなっていないのは、単純に、目標となる生きた人間がいなくなってしまったからだ。

 そう、()()()()()()()()()()()()。まるっきり人の形をしているけど、人ではない。人間のはずがない。……そう、違う。

 人間ではない奴らに襲われて、生きた人間はみんな奴らの同類になった。


 このままでは、いずれ私も……


「……結局、誰も戻って来なかったね」


 私が暗い妄執(もうしゅう)(とら)われかけていたら、横にいたナオちゃんが唐突に言葉を発した。


 しばらく前から何も言うことなく黙ってしまっていた彼女が、突然言葉を発したことに私は驚いたが、すぐに返事を返すために口を開く。


「いや、それは……まだ分からないんじゃない……?」

「分からない……? 分からないって、何が?」

「それは……だから、無事に帰ってくる可能性は、まだある、というか……」

「……無事だとしたら、連絡くらいよこすんじゃない?」

「そうだけど……スマホ、落としたりとか、してるのかも……」

「フッ……撮影中にね。ほんと、バカだよね。野次馬根性出すから、そんなことになる。——まあウチも、最初は見に行こうとしそうになってたけど……ほんと、行かなくてよかった」

「うん、そうだね……」

「……でも、行かなかったからって、それで正解かと言われると……どーだろ? どうするのが正解だったのかな?」

「それは……」

「というか、正解なんてあったのかな? 何が、何かが、間違ってたから、こんなことになったの? これは、何……? これって、本当に現実なの……夢じゃ、ないの……?」


 ナオちゃんはそう言って、顔を伏せる。

 その様子を見た私は、もしかしたら彼女が突然泣き出したりしないだろうかと、少し不安を抱く。——そうなるのはマズい。この状況で、取り乱すようなことになってしまったら……っ!

 だけど、彼女は私の心配をよそに、すぐに顔を上げて平気そうな顔で言葉を続けた。


「……いや夢でしょ。こんなん、現実とかありえないし。——ねぇ、アユ。ちょっとウチの顔、引っ(ぱた)いてみてくれん?」

「あぁ……その方法ってよく聞くけど、実際のところは、夢でも痛みがある場合もあるらしいよ」

「え、マジ? えー、じゃ、どーしよ……」

「あ、えっとね、何かで見たんだけど、息を止めてみるといいとか見たことある。夢だと苦しくないから、夢って分かるんだって。——体は普通に呼吸してるからかな」

「あー、なるほど。じゃ、ちょっとやってみるわ」

「あ、うん」

「そうだ、せっかくだから何秒いくか数えてみよっかな。——ねぇ、アユ、ちょっと測ってくれん?」

「ん、いいよ。……それじゃ、止めたら教えて」

「うん……すぅ——」


 ナオちゃんは大きく息を吸った後、私に手振りで準備ができたと教えてきた。

 私はそれを合図に、スマホでストップウォッチを起動して時間を測り始める。


 画面の中の秒数が進むのと、目の前で息を止めているナオちゃんを交互に眺めながら——私の頭の中では、さっき彼女が言ったセリフの特定のフレーズがやけに印象に残っていて、何度も繰り返し再生されていた。


 ——どうするのが正解だったのか。

 ——何かが、間違っていたのか。


 そのフレーズを繰り返していく内に、私の意識は自然に、過去を思い返す回想へと入っていく……



 ——

 ————

 ——————



 ——私の意識は、学校の部室にいる現在から時間を(さかのぼ)っていき、前日の最初の時点にまで戻った。


 ——昨日の朝——


 この日は、予定も特にない休日ということで、私が起きたのは昼前だった。

 起きてからの行動はいつもと変わらず、顔を洗って、歯磨きをして、朝昼兼用のご飯を食べて……

 ようやく目が覚めてきたら、一番にやることはスマホの確認だ。


 最初に気がついたのは、なんだか通知が多いな、ということだった。

 SNSのアイコンたちには通知の数字が表示されている。それが普段に比べてかなり多い。そして、見ている間にもどんどん増えていった。

 特にイベントがあるわけでもない春休みの普通の一日のはずなのに、なんだか今日はやけにスマホの通知が騒がしい。何やら盛り上がる話題でもあったのだろうか——?


 私はとりあえず最初にメッセージアプリを起動して、一覧画面に表示されている最新の発言を流し見ていく。


『あの怪獣の動画見た?!』

『まじやばいたすけて』

『駅前のアレってマジなのかな!?』

『スクープ! これはスクープだぞ、諸君!』


 最後のは部活のトークルームだ。——この発言は、おそらく部長だろう。


 私の所属している部活は「ジャーナル部」とか呼ばれてる。本当は別の正式名称があるのだが、長いし堅苦しいので、みんなそう呼んでる。

 名前的に、普通の学校にはない感じの珍しい部活かと思われることもあるけど、要は、新聞部と放送部が一緒になった部活——といった感じなだけで、そんなに特殊な部活でもない。

 とりあえず、どっちもジャーナリズム系のアレだから、ジャーナル部と呼んでいるだけ。


 ジャーナル部なんて名前の部活に所属しているわけだから、ここの部員はみんな、多かれ少なかれジャーナリスト志向なところがある。

 部長は特にそれが顕著(けんちょ)で、常日頃からよく分からないニュースを見つけてきては、「スクープ! スクープ!」と騒ぐ人だった。


 なので、この時も私は、これは部長のいつものアレか——と最初は思っていたのだけど……どうもそうでもないようだ、ということにはすぐに気がついた。

 というのも、部活のグループに限らず、クラスのグループや友達のグループでも、何やら騒がしくやりとりが行われているようだったので。これは、どうやら部長が騒いでるだけじゃないみたいだぞ、と。


 しかし、その騒ぎの具体的な内容はよく分からない。

 ——動画? 怪獣……? なんの話?


 しかし、そんな困惑もそこそこに、私はすぐに詳細の確認を始めた。

 何を隠そう私自身もジャーナル部の端くれ、刺激的なニュースには興奮する(たち)である。

 なのでその時は、未知との遭遇への期待のようなものが胸の内にジワジワと湧いてきていて、なんだかワクワクしていたのを覚えている。


 それからの私は、寝過ごした遅れを取り戻すかのようにスマホを操作して事態の把握に努めた。



 結局、この日はずっとそんな感じでスマホと向き合っていて——気づけば、それだけで一日が終わってしまっていた。


 一日中スマホに向き合って分かったことの結論は、“なんだかよく分からないけど、今、何かが起きている……ようだ”——ということ。

 SNSでは盛んに、動画や情報が発信され続けていた。内容は荒唐無稽で、にわかには信じられないような(たぐ)いのものが。

 しかし問題は、それを一人や二人ではなく、たくさんの人間が発信しているということだ。


 情報の正確性を確認する最も基本的な方法の一つが、「複数の情報源(ソース)を確認する」ということなのは、ジャーナルと名のつく部活に所属している私は当然理解していた。

 内容は信じられないが、その事実からすれば、一連の情報は真実味を持つということになる。


 それでもなお半信半疑だった私に衝撃を与えたのが、夜のテレビのニュースで流れていた駅前の映像だった。

 最寄り駅だから当然、私も利用したことのある駅だ。その駅前の映像だという画面にはしかし、瓦礫の山しか映っていなかった。

 それを見た私の率直な感想としては、「本当にこれは駅前の映像……?」というものだった。

 だって、駅映ってないもん。瓦礫だもん、ただの。


 映像が短いところも私は不満だった。テレビ画面では、その短い映像を何度も繰り返していた。瓦礫となっている地帯を遠くから撮った映像。

 そこにも疑問がわいた。なんでもっと近づいて撮らないんだろう。遠いからなんだかはっきりしない。なのに映像は近づく前の時点で終わってしまう……。


 結局、そのテレビの映像を見ても、私はその情報を信じることが出来なかった。いや、頭では理解していても、なかなか実感できないというか。

 まさか正規のテレビが嘘の報道なんてしないだろうとは思う。だけど、いきなりあんなものを見せられても、すんなり信じられるわけがない……。

 原因についても、現在のところ不明、の一点張りだったし。

 分からないって……何それ。突然、隕石でも落ちてきたっての?

 いや、でもさぁ、あんな被害が出る隕石なら、さすがに事前に分かったりするものじゃない?


 エイプリルフール——という単語が頭に浮かんだけど、今はまだ三月下旬。

 確かにもうすぐエイプリルフールだけど、一日・二日の間違いではないし、そもそもテレビ局が日付を間違えることもないだろう。


 その日は結局、なんだかよく分からないまま、ふわふわとした気分でそのまま眠りについた。

 そう、私は、知り得た情報に対して何か特別な行動をとることなく……ただ、いつもと同じような日常を過ごしただけだった。



 翌日、つまり今日。

 今日は部活の集まりがあるので、春休みだけど学校に行く予定だった。

 朝は早くに目が覚めた。まだ時間には余裕があったけど、なんとなく二度寝をする気にもならなかったので、早めに準備をして早めに家を出て学校に向かった。

 そう、昨日あんなに色々な情報を見ていたのに、私は予定を変えることなく学校に向かった。


 結局のところ、昨日見た情報は、何一つとして私に実感を与えることはなかったのだ。

 なんか色々と大変なことが起こっているみたい、嘘みたいだけど、本当のことみたい。——だから?

 それが私に、何か関係あるの?


 だって実際、私は昨日もいつも通りの日常を過ごした。ネットやテレビですごいニュースがあったとしても、それが一体なんだというんだろう。

 画面の向こうの情報(そういったもの)が私たちの生活に影響を与えるのは、大抵はずっと先のことで、その時になってようやく、私たちは本当の意味でそのニュースを「実感」する。


 でも、誰だってそんなものでしょう? ネットの情報を()に受けて騒いでいたら、それこそ痛い人扱いされる。

 だって、()()()()()()()()()()()! 今時、子供だって騙されるものじゃない。


 そう、ネットの情報では、すでにそんなものが流れていた。昨日の時点で。だけど当然のように、私はソレを信じることはなかった。

 ジャーナル部なんて部活に所属していたところで、私の情報に関する感性は、普通の人となんら変わらなかった。


 ……いや、まあ、ゾンビなんて信じる方がどうかしているとは、今でも思うけど。



 ——————

 ————

 ——



「……ぶっはっ、ふぇ、はぁ……あ、アユ、何秒だった……?」

「……えっ、あっ、えっーと……一分四十三秒……って、すごいね」

「はぁ……はぁ、自己新だよ、たぶん。人生で一番長く息止めてたっしょ、コレ……」


 ナオちゃんに呼びかけられて、私の意識は過去回想から現在に戻された。

 そういえば、時間を測っていたんだった。私がぼんやりと昨日のことを思い返している間、ナオちゃんはずっと息を止めていたわけだ。……なかなかの記録だったね。


「はぁ、マジ、めっちゃ苦しかった。全然苦しかった。完全に夢ちゃうやんコレ。現実じゃん。……あまりの認めたくなさに意地を張ってたら新記録出たじゃん、これ……」

「……」


 息止めを試してみるまでもなく、私は“コレ”が現実だと理解している。

 まあ、ナオちゃんも本気で夢だと思っていたわけではないと思うけど……だよね?

 (いま)だに乱れた息を整えるためにハァハァしている彼女を見ていたら——限界まで耐えたら夢だったことになる——なんて勝手な目標を設定してそうだな……なんて思う。


「死ぬほどギリギリまで耐えたら、ワンチャン目が覚めるかと思ったんだけどな……」


 どうやら似たようなことを考えていたみたいだ。

 まあ、気持ちは分かる。私も、これが夢だったとしたら、どんなにいいことか……。


「……っつーことは、高橋と遠藤と内田は、リアルガチに死んじゃったってことなんだね……」

「いや……だからそれは……」

「再会したとしても、きっとアレでしょ。三人ともゾンビになってんでしょ。……うーわ、そう考えると、マジでサイアクなんだけど。——これが同じB級ホラーでもゾンビじゃなくてサメだったら、死体も残らないからサッパリしたもんなんだけどなー」


 ひどい物言いだけど、彼女はたまにこんなふうに露悪(ろあく)的に振る舞う時がある。

 あるいはそれは、彼女なりのストレスへの対処法なのかもしれない。それに、言っていることは私も共感できる。あの三人が変わり果てた姿で自分の前に現れたら……想像するだけで気分が暗くなってくる。


 高橋くんと、遠藤くんと、内田くん。

 彼らは同じジャーナル部の部員で、今日もこの学校に来ていた。朝、部室に集まった時には、確かにお互いに顔を合わせていたのだ。


 そう、つい今朝の時点では。


 

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