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第88話 深夜のゲリラライブ——大量虐殺ショー

 


 私とマナハスは建物の屋上でしばらく休憩して……それなりに休んだのでそろそろ出発しようということになった。


 本当はもっと、それこそいくらでも休んでいたかったけど、あまり休憩を長引かせたらもうここから動きたくなくなるであろうことは容易に想像できたので、区切りをつけて重い腰を上げたのである。


 それでは行動を再開するとして、まずしなければならないのは、眼下に集結しているゾンビの大群を殲滅(せんめつ)すること、なわけですが。

 まあ結局のところ、この屋上にいれば安全なので、あとはマナハスの魔法を使えばいくらでもやりようはあるのだけど。

 そうは言っても、具体的な方法については少し考える必要もあった。


 それからマナハスとも少し相談して、最終的には「地道に光輪(こうりん)で始末していく」という方法で決定した。

 面倒なので魔力爆撃の大威力攻撃で一気に殲滅(せんめつ)しちゃおうかなーとも考えた。すでにだいぶ集まってるわけだから、これからまた大きな音出しても別に良くね? みたいな。


 だけど何かが新たに引き寄せられる可能性もなくはないので、それで何かが来た方が余計に面倒だろうということで却下された。

 なので、そちらの方が時間はかかるだろうけど目立たないし安全確実なので、光輪攻撃で殲滅する方法に決定したのだ。


 この建物はそこまで高いわけではないので、地上までは十分に光輪の射程範囲だ。だからやり方は単純、光輪で地上のゾンビを適当に攻撃する、それだけ。

 スタミナが切れそうになったら普通に回復まで待って、再び攻撃する。ゾンビの攻撃はこちらには届かないし、連中は飽きることなくこちらに届かない手を出して(うごめ)いているだけで、逃げたり他の行動に出ることもない。要はただの(まと)である。

 なので、その的に対してひたすらマナハスが光輪をブッパするだけ。そして私は横でそれを眺めているだけ。



 というわけで、ゾンビ退治というより駆除とも呼ぶべき攻撃、もとい作業は開始された。


 マナハスの光輪が地上を縦横無尽に駆け巡る。その都度、ゾンビの体が粉砕されてバラバラに飛び散っていく。

 そうやって一時的に出来た空白——といっても地面には大量の死体が散らばっているのだが——にも、すぐに周囲のゾンビが死体を踏みつけて殺到する。そして、そこにまた光輪が突っ込む。その繰り返し。


 やっていること自体は何も難しくない。安全圏から攻撃するだけだ。気をつけるのはスタミナの残量くらい。それにしたって、別にうっかり切れたとしてもそこまで問題は無いし。

 光輪が地上に落ちても三十メートルの範囲内なので問題なく回収できるし。建物近くの地上にやってくるゾンビを始末している限りその範囲から出ることはないだろうから、もはや気をつけることすらないとも言える。ただの作業だ。

 だから問題を挙げるなら、それは精神的なものだ。大量のゾンビ、すなわち見た目はほぼ人間のソレを、ひたすら蹂躙(じゅうりん)して粉砕するという……そんな行為を行う人間の精神は、一体どうなるのか。

 常識的に考えて、そんな作業をしていたら精神に多大な負荷がかかるのが普通だ。SAN値がどんどこ削られていきそう。


 なのであえて私は、マナハスの隣でおしゃべりを続けた。先程の延長で、なんてことない内容の会話を。

 いや、だってこれ、黙ってやってたらマジで突然気が狂わんとも限らない絵面だったので。

 なんというか、その様相はまさに——

 本日、急遽(きゅうきょ)設営! ——人間そっくりでも、ゾンビだから倫理的にも問題無し! 大量の人体がミキサーにかけられるように粉砕される様子が見たい、そこのアナタ! 待ちに待ったショーが開催されたよ! 今すぐ校門前に行け! そこは、地獄も真っ青な大量虐殺劇場(ショー)開催中(オンステージ)だ! 

 ——みたいな。


 そんな作業をしていらっしゃる聖女様のために、片手間にでもおしゃべりを挟んで雰囲気を緩和できればというかね。

 いや逆かな、おしゃべりの合間にちょっと作業してますよ、みたいな雰囲気でやれればいいかなという感じ。


 出来ることなら私がゾンビの殲滅をやってあげられたらよかったが、私の武器ではそれは出来ないのだ。なら、少しでもマナハスの負担を軽くできるように、私は私に出来ることをやろうと思ったのだ。

 だけどもしも、途中でマナハスが少しでも(つら)そうな素振りを見せたのなら、その時はすぐに別の方法に変えようと思っていた。

 やっぱり爆撃で一気にやるか、あるいはもっと辛そうなら、その時は完全にマナハスには休んでもらって代わりに私がやることも考えていた。

 そう、やり方を限定しないなら、私にも一応やりようはあるのだ。下に降りるのはちょっと厳しいだろうが、それ以外の方法だってある。


 その方法を具体的に一つ上げるとするなら、爆弾だ。爆発だ。

 いや、というのも、ショップには武器として爆弾の(たぐ)いもあったのだ。手榴弾的なやつとか。

 これは入手にはポイントを使う消耗品で、そこそこの値段もする。なので気分的にはあまり使いたくないけど、そういう手段もある。

 まあデカい音が出るだろうから、その点でもあまり良い手段とは言えないかもしれないが。それでも、マナハスに負担があるようなら躊躇(ちゅうちょ)なく使うつもりだった。


 だが……結果的には、その気遣いは杞憂に終わった。

 マナハスは特に負担を感じさせることなく、ゾンビの大群を光輪で殲滅(せんめつ)しきった。()を上げることなく淡々と、すべてのゾンビを(ほふ)った。

 そうしてようやく辺りには静寂が戻ってきた。さっきまではゾンビの唸り声が連鎖してなかなかの音量だった一帯には、暗闇の世界に相応しい静寂が戻ってきていた。



 私は大仕事をこなしたマナハスに向けて、本心からの(ねぎら)いの言葉をかける。


「マナハス……お疲れ様」

「ああ、やっと終わったな……」


 眼下に広がる地上の光景は……まさに地獄絵図だった。

 数え切れないほどの量の人間のバラバラになった死体の成れの果てが、地面も見えないほどに埋め尽くされている。

 唯一の救いは、このゴーグルが色までは鮮明に映さないことだろうか。モノクロのように映る光景は、今は救いと言えた。



 それから私たちは、屋上から降りて学校まで向かった。

 屋上から下に降りる際は、例のコートを使って“浮遊”降下した。このくらいの高さであれば、私なら適当に飛び降りてもなんとかなりそうだったけど、マナハスもいるので結局そうして降りることになった。


 実は、そのまま学校内までまた飛んで行こうか、とマナハスは提案してきた。しかし長く飛ぶのはマナハスに結構な負担になると分かったし、アイテムも消費するということで私が却下した。ただ下に降りるくらいなら特に問題はないので、そこだけやってもらう。

 そうして下に降りた私たちは、地獄絵図ゾーンを迂回するように少し回り道して正門まで向かった。

 あそこの後片付けは……明日にでもするか。まあ、明日になったら鮮明に見えちゃうわけなんだけどね……。


 そうして正門にたどり着いたところで、忘れずにこの出入り口を封鎖しておく。

 ぶっちゃけ、もはや何のためにここで色々と戦っていたのか半分忘れかけていたくらいなんですけど。

 本来は校内へのゾンビの侵入を防ぐために、正門を封鎖するつもりでここに来ていたんだったよね。

 マジで、最初は——ちょっと一回りしてから出入り口を閉めたら、建物内をパパッと探索してって感じにやってサラッと終わらせよ——みたいに考えていたんだけど、もうこの時点で全然サラッとどころじゃないんだが……。


 愚痴を言っても始まらないので、とにかくまず車を片付けよう。

 ここでもマナハスは自分がすべてやると言っていたが、私も手伝うことにした。

 まあ、さすがにマナハスだけにやらせるのは私も心苦しいところがあったので。

 効率的にもマナハスの念力の方が圧倒的で、私の加勢はほとんど意味がなかったかもしれないが、そこはまあ、気持ちの問題だ。


 結局、マナハスの念力のおかげで車の撤去もそんなにかからずに終わり、私たちは正門を封鎖することができた。

 ようやく当初の目的を達成できたわけだ。……ほんと、ようやくだよ。


 夜もだいぶ遅くなって、正直、私もかなり疲れてきている。いい加減早く終わらせて休みたいと、私も強くそう思うようになっていた。


 ——さすがのアンタも、デート気分は抜けてきたのね。


 さすがに、ね。

 てかマナハスも、だいぶお疲れの様子だから。

 マナハスがこのコンディションじゃ、私も素直に楽しめないからね。



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