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第83話 二度目は喰らわぬッ——!

 


 (かたな)を失った私は、鞘を武器として構えて、予想外の動きをしてくる特殊なゾンビと対峙する。


 目の前にいる——私の刀を拾った特殊ゾンビはこちらを見ているが、さっきみたいに一気に襲ってこない。

 なんだ……? と思ったら、ヤツは視線を横にチラ見している。


 つられて私もそちらを見たら、正門から入って来たゾンビの残りが一体、こちらにやって来ていた。

 マナハスは……と思ったところで、そのゾンビの頭部が爆散した。一瞬、チラッと見えたのは、青色の閃光。——マナハスの魔力弾か。

 でも、なぜ魔力弾? 光輪(こうりん)は——?


 しかし、考えている暇は無かった。

 視界を前に戻すと同時に、ゾンビが刀を振り回しながら襲いかかってきた。

 私は後ろに下がってその攻撃を躱す。


 ゾンビの刀の使い方はめちゃくちゃで、力任せに振り回すだけだった。だがしかし、その膂力は並外れており、刀の性能も相まってなかなかの危険度だ。

 現に駐輪場の金属的部分にぶつけても弾かれる事なく、逆に破壊している。


 私は自分の使っていた刀ゆえに威力を想像して、慎重に躱しながら反撃のタイミングを(うかが)う。

 そうしていたら、上からマナハスが声をかけてきた。


「カガミンっ! ちょ、大丈夫なのっ? どうなってる!?」

「大丈夫っ! マナハスはそこに居て! 下に来ちゃダメだよ!」

「で、でも……っ!」

「平気だから! さっきはちょっとミスっただけ! もう大丈夫だから!」

「ホントに大丈夫なのっ!? さっきやられそうになってたじゃんっ!」


 まあ心配されるのも当然か。でも大丈夫。次はマジで勝つ。

 てか、考えてみればむしろ刀使われた方がマシかもしれん。ゾンビの攻撃で危険なのは、武器よりもむしろ噛みつきとか掴みとかだろ。

 その点、コイツは半端な知能で墓穴を掘った。


 オマエの動きはもう見切った。そら、反撃だっ!


 私は振り回される刀を躱すと同時に間合いを詰めて、ゾンビの腕を鞘で打つ。

 スタミナで身体強化された私の一撃で、今度はゾンビの手から刀が弾き飛ばされていく。


 しかしゾンビはそれを気にすることなく、ノータイムでそのまま私に掴みかかってくる。

 ——が、それより速く私の連続攻撃の二段目を受けて吹き飛ばされた。当然、ヤツの反撃を踏まえた一連の動きである。


 吹き飛んだゾンビを尻目に、私はすぐさま刀を拾いに行く。その間もゾンビから意識は外さない。

 私が刀を拾った時には、すでにゾンビは私に背を向けて逃走し始めていた。

 逃がすかっ!


 ゾンビは逃げながら手近な自転車を掴むと、こちらへ向けて投げ飛ばしてきた。

 ——片手で投げたくせに、凄い勢いで飛んでくる自転車。

 だが、その程度ではもう驚かない。対処にも迷わない。——すなわち、全力でぶった斬るのみ!


 私は飛来する自転車に向け、振り払うように刀を振るう。

 体はスタミナパワーで強化されている。私の走りながらの一撃は、飛来する自転車を切り裂きながら弾き飛ばした。


 逃げるゾンビは新たな自転車を手に取るが、私はすでに追いついていた。


 ゾンビが自転車を両手で掴んで振り回す。

 私はそれに正面から刀を打ち込んだ。

 ガギィッ、と耳障りな音と共に自転車の一部が切り飛ばされる。


 すでに私は刀にもパワーを込めており、その一撃は自転車などなんの手応えも与えずに切り飛ばしていた。

 ゾンビは構わず自転車を振り回すが、私はそれを端から切り飛ばしていく。そしてそのままゾンビの片腕まで切り飛ばした。


 ゾンビは腕を切られた衝撃で地面に倒れる。

 私は追撃でその頭部にトドメの一撃を放——とうとした動作を変更して、飛んできた腕を迎え撃った。


 はっ! 予想済みだっつーの! ゼッテーコイツが邪魔してくると思ってたっつーの。伊達に一回死にかけてないっつーの。


 私の刀に貫かれてもなお、腕はグネグネともがいて私に襲い掛かろうとする。

 その腕の本体は素早く起き上がると、こちらを無視してそのまま逃走した。

 私はしかし、それをすぐに追うことが出来ない。


 いやこれ、この腕どうする? 適当に捨てるのは危険すぎる。だけど、完全に無力化するには本体の頭を潰さないといけない。

 ただ、こんなん刺さってたらさすがに上手く刀が扱えない——いや、それなら別の武器を何か……


 ——ナイフ! あるでしょ!


 ある。だけど刀を捨ててそれでゾンビと戦うのは……


 ——じゃあナイフで腕を封じなさいよ。


 それだ。

 私は予備の武器として用意していたナイフを腰から抜くと、刀に串刺しになっている腕に突き刺す。

 そのまま腕から刀を引き抜き、腕の刺さったままのナイフを地面に突き立てた。

 よし、これでコイツは動けない。


 すぐさま走り出す。

 ヤツは——だいぶ離されたか。追いつけるか……?

 ヤツの速度は普通のゾンビより明らかに速い。それでも、私のスタミナ全力ダッシュよりは遅いだろう。

 だが私とて無限に全力疾走は出来ない。とゆうか、かなり短い時間しか走れない。具体的にはスタミナゲージの分しか。

 しかし、ヤツはどうも一切止まる気配がない。あの速度をずっと維持できるっぽい感じがする……ぐぬぬ。


 そんな私の頭上から走る音が。——これはマナハスだな。

 せや、マナハスに撃ってもらえばええやん。ほなそうしましょ。


「マナハスっ、ヤツを撃って! 出来るっ!?」


 走りながら叫ぶと、「任せろっ!」と上から頼もしい返事が聞こえた。

 それでも止まることなくヤツを追う私の頭上を青い閃光が(はし)ったと思ったら、逃げるゾンビに着弾して、ヤツの体が胴体から二つに千切れ飛んだ。


 ヒャッホウ! さすがは聖女の魔法だぜ! ちょこまかと逃げ回る野郎も爆散だ!


「ナイスショット! トドメは任せて!」


 マナハスにそう言い残して、私は上半身だけになったゾンビの元へ。

 さすがのヤツも残った片腕だけではろくに移動もままならないようで、すぐに追いついた。


 ヤツは残った片腕を支えに体を起こしていた。

 そのそばでは切り離された下半身がジタバタしているが、何か出来そうには見えない。だが一応、警戒は外さない。


 ヤツはこちらを凝視していた。私は(ひる)まずにこちらからも睨み返す。

 ふん、そんな目で見てきたところで、マナハスに手を出したテメェはここで死ぬのさ。いや、すでに死んでいるんだった。まったく、イカれた連中だ。


 ヤツが大きく口を開いた。

 瞬間、私は身構える。敵が口を開いたら、大抵ロクなことにならないのはこれまでの経験より学んだことだ。

 何が来ても反応するつもりで全神経を集中させる。——いや、何かさせる前に仕留めるべきか……?

 そんな私の迷いを吹き飛ばすように発せられたのは——絶叫。


 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!


 断末魔もかくやというほどの大音声が響き渡る。

 空気が、大地が振動し、どこかで窓ガラスが割れる音がして、しかしそれすらも飲み込んだ音の暴力の波が、うねりあげるように周囲に撒き散らされる。


 私は音を物理的な衝撃として感じていた。体が少し震えるほどの衝撃。

 見れば、緑のゲージが少しずつ削れていっていた。——コイツはヤベェ。

 だけど、このバリアがなかったら、鼓膜が破れるか失神していたんじゃないだろうか。だが私はそこまではなっていない。

 私が実際の威力ほどの被害を受けていないだろうその理由はやはり、このHPのバリアだろう。

 しかしそれも少しずつ減っていっている。それに普通にめっちゃうるさいので、とっとと止めないと。


 そう決心した次の瞬間には、私は一気に踏み込んでヤツの頭部に刀を突き刺していた。

 すると、まるで目覚ましを止めるようにピタッと音が止んだ。

 いきなり大音量が消えたことで、突然に訪れた静寂に戸惑いを覚えるほどだった。

 しかし、今はのんびりしていられない。


 とりあえず、このゾンビの死体を上下両方とも回収して、すぐにマナハスの元へ戻る。


 マナハスはまだ屋根の上にいたが、私が行くと下に降りてきた。


「おかえり、カガミン。怪我はない?」

「大丈夫。平気だよ。ちょっと耳がまだ痺れたように感じるけど……」

「それって大丈夫なの……? ちゃんと耳、聞こえてる?」

「大丈夫と思うよ……さすがにアレをすぐ近くで聞いたらね、一時的に耳にもクるよね」

「そりゃね……私のところでもかなりヤバかったし。今まで聞いた音の中でもトップクラスだよ、アレは」

「私も人生一の騒音聞いたわ」

「てかアイツ、なんだったんだよ……マジで。なんか普通のゾンビじゃない、よな……?」

「気になるけど、それは後にしよう。——あれ、てかマナハスのその杖……あの輪っかは? 無くね?」

「ああ、実はアレ、どっか飛んでっちゃって……」

「えぇっ!? ヤバいじゃん! いつよ?」

「カガミンがのしかかられてた時、あの時、ゾンビを吹っ飛ばす攻撃したじゃん。それでさ——」

「ああ、あの時は助かったよ……ありがとう、マナハス」

「うん、当然のことだから、気にしないでよ。——それで、その時ってまだ門の方からやって来てたゾンビを倒してる途中でさ、光輪を戻すのは間に合わないしカガミンに当たるとマズイから、衝撃波を絞って放つみたいな攻撃したんよ。それは一応、成功したわけだけど、それやったことで途中だった光輪の操作の方が途切れちゃったみたいで、そのままどっか飛んでっちゃったんだよね……」

「マジか……そうか、光輪の操作中に別のことをすると操作が途切れるのか……」

「たぶん三十メートル越えたみたいで、すぐに呼び戻せなくてね。三十メートル内なら場所もすぐに感じ取れるんだけど、出来なかったから、それより外まで飛んでったっぽい」

「じゃあすぐに探しに行かないと……正門の辺りなんだよね?」

「多分、その辺と思う」

「よし、すぐ行こう」


 言うが早いか、私とマナハスはすぐに走り出した。


 

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