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第82話 バディは大切って、はっきりわかんだね(二回目)

 


 私たちは(というか、ほぼマナハス一人が)正門前のゾンビをあらかた殲滅(せんめつ)した。


 後は残った数体を排除すれば安全の確保が完了する。そうすれば、ようやく正門を封鎖できるようになる。


 役目を終えた光輪(こうりん)がマナハスの杖に戻ってきた。

 うし、では、お次は私の出番ですな。


「それじゃ、私は残ったゾンビを始末してくるから、マナハスは……念のため、ここに残っておく?」

「別に、もう降りても大丈夫だろ?」

「うーん、まあ、残りは私一人で十分倒せる程度の数だし、大丈夫かな……?」

「どうせ車も片付けなきゃだろ? 先にやっておくよ」

「……いや、やっぱりマナハスは上に残ってて」

「……用心しすぎじゃないの?」

「用心するに越したことはないよ」

「まあ、アンタがそう言うなら……」

「マナハスはもう十分やってくれたし、後は私がやるから。ま、車を片付けるのはやってもらうんだけど……。ゾンビが完全にいなくなって安全になるまでは、ここでのんびりしててよ。下は車が多くて見通し悪いからね」

「ああ、分かったよ。ま、なんかあったらすぐに言えよ。飛んでいくから」

「……このコートで?」

「いや比喩だから」

「でも、今のマナハスは比喩じゃなく飛べるんだよね」

「……確かに。そう考えるとなんかヤバいな」


 私は脱いでいた靴を履いて、下に降りる準備を終わらせる。このコートは……まあいいか。今は別に汚れた服を隠す必要は無いし、特に寒くもないし。


「それじゃ、行ってくるね」

「うん、気をつけてね」


 マナハスのその言葉に頷くと、私は地面に飛び降りる。


 残りのゾンビはすべて正門の外だ。正門の内側はマップでもゾンビがすべて倒されているのは確認しているが、念のため車のすぐそばは通らないように気をつける。


 そして私は正門へたどり着き、そこから学校の外へ出た。


 学校前の道路にも大量の車が放置されている。マップによれば、その合間にチラホラとゾンビの赤点が残っている。

 また前回のような失敗をしない為、車との距離には細心の注意を払いつつゾンビを示す赤点へ向かい、私は一体ずつ始末していった。


 順調にゾンビを倒しつつも、私はついついマナハスが心配になりそちらを確認してしまう。目視でも、マップでも。心配しなくていいようにあそこに残してきたのに、と自分でも思うが、まあしょうがないか。

 さっきだって少し離れただけでピンチになってたんだから。本当に、心配しすぎるくらいでちょうどいいや。


 私は散発的に襲いかかってくるゾンビを倒していった。そして、何度目か分からないマップの確認をしたところで——不審な動きをするその赤点に気がついた。

 ゾンビ達は基本ウロウロして私に気が付いたら襲いかかってくるのだが、その赤点の動きはなんだか違った。

 新たに襲いかかってきたゾンビを片付けてマップをよく見てみたら、ちょうどその赤点が学校の(へい)に近づいてそれを越えるところだった。


 ハッ、としてそちらの方を目で確認する。

 少し遠かったが、確かに何かが塀の向こうに越えたのがチラリと見えた気がした。


 その瞬間、嫌な予感がブワッと私の体を駆け巡り、同時に私は走り出していた。

 スタミナ全開で車の屋根の上を飛び移りながら、(またた)く間に私は学校の中へ戻った。

 そうしてマナハスの方を確認してみたら、今まさに駐輪場の屋根の上に登ってきたゾンビと相対しているところだった。


「衝撃波ッ! 吹き飛ばしてッ! マナハス!」


 私は叫びつつ、マナハスの方へ全力で向かっている。


 ゾンビがマナハスに襲いかかる。

 マナハスは私の声にハッとしたように杖を振った。衝撃波が発生し、ゾンビは吹き飛び屋根から落ちていった。


 私はほんのわずかに次の行動に迷ったが、落下したゾンビにトドメを刺すことに決め、ヤツの元へ走る。

 しかしヤツは墜落と同時に起き上がっていた。そして私の接近に瞬時に反応し、駐輪場の奥へ凄まじいスピードで走って逃げていった。

 私はまた追うかどうかしばし逡巡したが、いったんマナハスの元へ戻ることに決めると、屋根の上に跳び上がる。


 そして、(いま)だに杖を突き出した状態で呆然としているマナハスに近寄り、声をかける。


「マナハス、大丈夫? なんともない? 無事?」

「カガミン……私は平気、無事だよ。……つか、さっきのやつ、何……?」

「……分からない。けど、普通じゃない感じがする。ただのゾンビとはなんか違う……気がする」

「ど、どうする……? って、あ、ゾンビが来てるっ!」


 振り返ると、正門からゾンビがこちらに向かって入ってきていた。

 コイツらは——外から私を追ってやって来た連中か。さっきの普通とは違うゾンビのこともあるので、こちらに来る前に倒したい。

 すぐに倒しに行こうと即断しかけて、慌てて考え直す。——なんだか今、マナハスのそばを離れるのはマズイ気がする。


 なぜなら——そうだ、ここは、屋根の上は、もう安全ではない。あのゾンビはここまで登れるのだ。

 それにアイツは普通のゾンビとは違う。不測の要素だ。ならば最大限警戒せねば。私はマナハスのそばを離れてはいけない。

 だが連中がこちらに来て、あの特殊ゾンビと合流するのも避けたい。——ならここは、マナハスに迎撃してもらえばいい。


 私は一瞬でそこまでの思考を終わらせると、マナハスに声をかける。


「あの連中は任せていい? 今はマナハスのそばを離れたくないから。護衛的な意味で」

「わ、分かった。さっきのヤツについては任せるぞ!」


 そう言ってマナハスは、こちらにやってくるゾンビ共に光輪を飛ばして攻撃を開始した。

 私を追ってここまで来た連中はそこまで数も多くないし、マナハス一人でも大丈夫なはず。

 私はヤツを警戒する……!


 マップを確認する。さっきから、ヤツを示す点は見失わないように常に視界の端で確認していた。

 ヤツの点は一旦は距離を取ったと思ったが、再び戻って来ていた。そして、マナハスが迎撃しているゾンビ達がいる正門の方とは逆の方向の、私達から少し離れた場所に来て止まった。

 かと思うと、そこからまた屋根の上に登ってきた。その動作は素早く、登りきるや否や、私に向けてすぐさま全力で突撃してきた。


 待ち構えていた私は、その速度に驚愕した。

 ——速いっ! 夜の活性化した走るゾンビと比べても、なお速い! だが私の反応を超えるほどではないっ。


 少し虚を付かれたがすぐに反応して、私は間合いを測り迎撃の刃を繰り出す。

 攻撃のタイミングは完璧で、私の刀は狙い通りに頭に直撃する——直前で、ヤツの振り上げた腕に阻まれた。


 なっ、ガードされたっ!?


 ヤツは腕を掲げて刀を防ぐと、そのまま腕を振るって私の刀を弾き飛ばした。

 その腕の力は想像以上で、私の刀はあっさりと手から弾き飛ばされて宙を舞いどこぞへと飛んでいってしまう。


 ウソッ! ヤバっ!


 しかしその軌跡を追うことはなく、私は目の前に迫るゾンビから目が離せない。私は武器を失い、ゾンビは刀を弾いても一切止まる事なく私に襲いかかってきている。

 私はとっさに体を後ろに倒しながら、片足をゾンビとの間に突き出す。しかしゾンビの勢いを止めることは出来ず、私は地面に押し倒され、上からはゾンビがのしかかり噛み付こうとしてくる。——背中が駐輪場の屋根に叩きつけられて、耳障りな大きな音を立てる。


 上にのしかかってくるゾンビを全力で押し返す。しかし、そのために突き出した腕にヤツが噛みつこうとしてくる。

 それを腕を振って躱せば、今度は首筋に歯を立てようとする。それをゾンビとの間に立てた膝に力を込めてヤツの体ごとズラす。

 だが、今度はずらした先にあった私の腕に噛みつこうとして——これはヤバい防ぎきれんのでは——


 ギュンッ!


 何かが私のそばを通ったと感じるのと同時に、私にのしかかっていたゾンビが吹き飛んで屋根から落ちていった。


「カガミンっ!」


 見ればマナハスがこちらに杖を向けていた。——どうやら彼女が攻撃してくれたようだ。

 た、助かった……。

 マナハスを護衛するつもりで結局、助けられている。——まあ、こんな時のために二人組(ツーマンセル)にしておいたわけだけど。


「だ、大丈夫っ!? カガミン?」

「私は平気っ、ありがとうマナハス! でも刀が飛んでったから拾ってくる!」

「えっ、あっ、き、気をつけてっ!」


 私は予備の武器として腰から鞘を抜いて持つ。

 そして、おそらく刀が落ちた方向へと屋根から飛び降りる。そちらには例の特殊ゾンビの反応があった。


 地面に着地した私の目に入ったのは、私の落とした刀を今まさに拾っていたゾンビの姿だった。

 こいつ、武器まで使うのかよ……まあいい、探す手間が省けたわ。

 おうこら、チョーシ乗りやがって。誰の許可得てその刀触っとんじゃい。いてこますどコラッ! それはワシの刀じゃい! 汚い手で触んじゃねぇ!


 ——さっきは刀を弾かれたのよ、分かってるの?


 ああ、予想以上の膂力にしてやられたよ。でもあの時の私はスタミナ強化ゼロだったからね。身体能力は一般人レベルだったから、ある意味当然の結果だよ。

 防御されただけでも驚きなのに、まさかパワーまで予想を遥かに超えてるとはね。——お陰で刀を手放してしまった。


 だけど、次はそうはいかない。今度はスタミナパワーを使用する。そうすればヤツのパワーにも負けはしない。


 その刀……とっとと取り返す……!



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