表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームオブザデッド 〜現実にゾンビや巨大怪獣が出現したけど、なんか謎の能力に目覚めたので、とりあえず両方ともぶっ殺していきます〜  作者: 空夜風あきら
第二章 Day2——学校へ行こう! 〜長い長い一日の始まり〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/249

第81話 聖女の衣装に必須の装飾、それは——

 


 マナハスの魔法——念力は、人間を浮かせることも可能だった。

 や、マジで……試しにやってみたらフツーに出来ちゃった。


 実際に実験してみたことにより、私たちはその衝撃の事実を発見してしまった。私とマナハスは思わずといった感じに、お互いに顔を見合わせた。


 すると、マナハスが私の元に来て、顔を近づける。

 そして、小声の中に興奮を(にじ)ませた声音で話しかけてきた。


「……出来たな」

「……出来たね」


 あるいは、状況が違っていればもっと大騒ぎしていたかもしれない。だが、今は叫ぶわけにはいかなかった。

 ゆえに、私たち二人は静かに興奮が自分の体に浸透していくのを待つように、しばしお互いに無言の時を過ごした。


 しばらくして、私は人間も浮かせられるという事実を飲み込めてきた。

 すると、当然の疑問が新たに生まれてきた。——てかこれって、普通にマナハス自身も持ち上げられるんじゃないの?——という。


 ……いや、普通なら無理と分かる。だってそれはつまり、座布団の上に乗って、その座布団を自分で掴んで自分ごと持ち上げようとするようなものだ。それが上がらないのは当たり前だ。

 だが、ことは魔法なのだ。別に持ち上げるのにクレーンや釣り竿を使っているわけではない。念力とかいう、よく分からんもので支えているのだ。

 だったら別に、マナハスが地面に立っている必要も無いんじゃないの? それなら出来ないと決めつけるのは早いのでは……?


 ならば試してみるしかないだろう。そのことをマナハスに提案するため、私は彼女の耳に近寄っていく。


「マナハス……」

「ああ……」

「次はマナハスが乗って、自分でやってみる番だね」

「私……? いや、私が私を自分で浮かせるのはさすがに無理なんじゃ……」

「そうとは限らないでしょ。やってみないと」

「だけど……」

「大丈夫、何かあっても私がサポートするから。失敗して転びそうになっても受けとめるから。だから、やってみよ……?」

「……ああ、分かったよ」


 そして、マナハスも靴を脱いでコートの上に座る。私はマナハスの肩を両手で支えておく。


 マナハスが杖を握り集中する。

 不思議な感覚が広がっていき、コートに何かの力が集まっていくような気がする。

 そして……


 ふわり、と浮き上がるマナハスの体。慌てて私も合わせて立ち上がる。

 座った状態で私と同じ目線にいるマナハス。安定しているとみて、私は手を離す。

 マナハスは一人、コートの上に乗り宙に浮いていた。


 ……出来たわ。

 マナハス、浮かせた物に乗れば自力で飛べるんじゃん。

 ……いやマジで、この“魔法”ってやつは、常識的な考え方をしていたらまるで使いこなせない技術な気がビンビンしてきてるわ。


 ——それならアンタの出番じゃない。


 なんかそれ、常識ない奴ってディスられてるような気もするけど、まあいいわ。

 しかしまあ、飛べるとしても見たところそう自由自在とはいかない感じだし、スタミナが持つ間しか飛べないから、飛べる時間も距離も短いだろう。


 だが、色々と限定的とはいえ、我々は自力での飛行能力を手に入れたのだ。飛べることで出来ることは多いし、飛べないと絶対できないような事というのも、また多いことだろう。

 飛行能力というのは、移動能力としては他を隔絶している。二次元から三次元への跳躍だ。これは夢が広がる……無限の可能性を感じる……。

 だがとにかく、今は作戦を実行しなくては。では、土壇場で判明したこの魔法の新要素をどう利用するか。

 まあ、大いに利用させてもらおう。これを上手く使えば、楽に屋根に登って移動出来るはずだからね。


 マナハスが浮遊をやめ、地面に降り立った。

 あぐらのような座り方で宙に浮いていたマナハスは、まるで仙人か何かのようだったが……仙人ではなく聖女です。


 私はその聖女様と相談して、屋根に登って潜伏地点まで移動する方法を吟味した。と言っても、この浮遊を使って飛んでいくだけなんだけど。

 そう提案すると——ぶっつけ本番でそんな大胆なやり方でいくのか……と、マナハスは最初は難色を示していた。しかし私が——飛行ほど静かに進める移動方もないのだよ、と説明したら、最終的には納得した。

 なんせ地面に接触していないのだし、何も触れるものがないから、ほぼ音が発生しない。

 普通に上を進んだらうるさそうなこの屋根も、触れなければ問題ないのだ。


 まあ、スタミナの都合上、何度か回復のために着地する必要はあるだろうが、下に敷いたコート越しにゆっくり降りれば大丈夫だろう。

 そう、上に乗るための、いわゆる“魔法の絨毯”的なアレは、他に良さげなものがないのでこのままコートを使う事にした。

 ただ、一つじゃ二人は乗れないので、マナハスのコートも脱いで私のコートと結んで繋げる。これにそれぞれが乗って、二人一緒にテイクオフ、という運びである。


 当然、その際のBGMは、有名な魔法の絨毯が出てくる映画のアレを希望する。本当なら二人してあの歌を歌いたいところだが、ゾンビに気がつかれるので断念した。


 ——当たり前でしょ。つーか見えるのは素晴らしい世界じゃなくて、ゾンビ溢れる崩壊世界じゃない。


 ちょっとロマンチックさに欠けるのが難点だね。



 さて、二つのコートを繋げて、即席の魔法の絨毯が完成した。


 現在の私とマナハスは、その上に(うずくま)るように姿勢を低くして乗りこんでいる。


 では、聖女様、私に新しい世界を、空中飛行という世界を見せてくだされ……!


 ふわり、と私たちは宙に浮き上がった。

 そして、駐輪場の屋根の高さまで上がると、そのまま屋根の上をギリギリ触れないくらいの高さを浮きつつ、ゆっくりと進んでいく。


 マナハスは杖を両手で握り、かなり集中していた。私はそんな彼女を支えるように、その体にしがみついていた。

 実際飛んでみると、結構バランス悪いというか、雑に繋いだコートが次の瞬間にでもバラけてしまうんではないかと心配で、私は片方の手でコートを抑えつつ、もう片方でマナハスを掴んでいた。


 期待していたほどの感動は無かったが、それはまあ仕方ないか。地面よりはそこそこの高さに浮いているわけだけど、結局は屋根の上なのであまり飛んでいる気がしないというか。

 あまり高く上がりすぎると目立つからギリギリを飛んでいるわけなので、そこはまあしょうがないのだが。


 ……ま、すべてが終わって明日にでもなれば、その時に改めてまた試してみたいね。



 途中で慎重に着地して休憩することを何度か挟み——私たちはついに、正門に一番近い屋根の端の部分にまでたどり着いた。


 まあ、着地の練習と思えば、むしろ途中の休憩は必要だったかもしれない。お陰で最後の着地は静かに決まった。眼下のゾンビたちには気付かれていない。

 そもそも上っていうのは結構盲点だからね。人間の視覚は、そこまで上には意識が向かないというか。その辺はゾンビでも変わらないのだろう。


 位置について、準備は出来た。

 マナハスがこちらを(うかが)うように顔を向けてきたので、私は無言で頷いておく。ここからはさすがに会話は厳禁である。


 私たちは屋根の(ふち)のギリギリのところに伏せたような姿勢になっていて、その体の下にはコートが敷かれている。

 コートに乗って飛んできて、そのままここに着地したのだから、ソレは当然なのだけれど。結果的に、直接硬い屋根に伏せるよりは少しは楽になったかもしれない。

 まあ、この屋根自体なんか波打ってる感じの形していてめちゃくちゃ伏せるのダルいし痛いから——いや、やっぱ大して効果はないと言わざるを得ないかも……。


 私がそんな事を考えている間にも、マナハスは順当に作戦の準備に取りかかっていた。

 マナハスが下からは完全に見えないように杖を後ろにやる。そして、そこから光輪を飛ばして、若干遠回りさせて眼下の見える範囲に持っていく。——当然、光らない状態でだ。

 そしていい感じの位置に来たところで、光輪を人の視線の高さくらいの位置に浮かせて、光らせる。


 ……さて、ついにこれから陽動殲滅作戦の開始だ。

 果たして、上手くいくか……!?


 すぐに、光に気がついたゾンビがダッシュで集まってきた。

 一体だけではない、大勢が一斉に来た。

 そして、光輪に手の届く範囲に来た瞬間、振りかぶった腕をぶつけて叩き落とそうとする——が、その前に光輪はギリギリ手の届かない高さまで登っていた。

 それでも諦めずに、光輪に向けて腕を振るゾンビたち。大勢集まった連中が一心に宙に向けて腕を振り上げ振り回している様は、ぱっと見は、なんかすごい盛り上がっているようにも見える。うぉうぉうと唸り声もあげているし。


 だが、その熱狂は唐突に終わりを迎えた。

 突如として光輪が群がるゾンビに襲いかかり、(たけ)るように飛び回ってその頭部や振り上げた腕を片っ端から吹き飛ばしていったのだ。

 集まったゾンビはなす(すべ)もなく蹂躙(じゅうりん)されていき、そのまま群がっていた最後の一体までが(ことごと)く駆逐されたのだった。

 そこで一旦、役目を終えたとばかりに光輪は光を消して地面に降りると、その場で沈黙した。


 ……すげぇ、まるでなす術もなく蹂躙されてるじゃねーか。実際、光輪の攻撃力って結構高いから、当たりさえすればゾンビなんて一撃なんだよな。

 それにしても、こんなに上手くいくとは……。そうなるように頑張って作戦立てたわけだけど、いやぁ、これ程とはね。


 まあ、成功した要因としては、ゾンビの特性が上手く作用したというのは大きいだろう。

 奴らは、なにか興味を引くものがあったら深く考えずに突撃する。音や光に対してほとんど反射のように反応する。そして、周囲で何が起ころうと、新たな興味が発生しない限りは反応をしない。

 つまり、どういうことかというと、罠にかけられてやられ始めても、それで逃げ出したりしないのだ。その場で光りながら飛ぶ光輪に反応し続ける。

 その結果、自分がやられる事になっても、そんな事は関係ないのだ。そこで自己保身を図ろうとするような知能は奴らにはない。

 前の連中がいくらやられようがお構いなしに後続がやって来て、その結果、ひたすら蹂躙し尽くされるという眼前の光景が生まれるというわけか。


 さて、今ので一気に十数体を始末しただろうか。だが、それでも正門前には(いま)だたくさんのゾンビがいて、少し離れたところにいたゾンビなどはまだまだ健在だ。

 そいつらも先ほどは光に反応していたが、辿り着く前に光輪の光が消えてしまったので、今はまたその辺をウロウロしている。だがコイツらもまた光輪を光らせたなら、その時には勢いよく突っ込んでくる事だろう。


 このまま何度かさっきのを繰り返したら、マジで正門前のゾンビ殲滅できそうじゃん。……結局、私は何もすることなく、マナハス一人の力で、ね。

 私は早くも作戦の大成功を確信して、安堵とも拍子抜けともつかない思いを感じていた。


 ——確信するのはまだ早いんじゃない? 油断にもなりかねないわよ。


 どうかな? 実際、私は他にすることもなくここで隠れているだけだし、問題ないような気もするけどね。まあ、最低限の警戒意識は捨てていないよ。

 だけどマジで私、すること無いもん。ただ見ているだけで終わるわ、これ。こうなると、もう考え事でもするしかないくらい暇ですよ、マジで。


 私は微動だにせずマナハスが(おとり)殲滅作戦を繰り返しているのを眺めながら、頭の中で思考を巡らせていた。

 その対象はやはり、ここまで来る際にやった飛行についてである。アレはなかなか重大な発見であったと思う。


 念力の使い方についての話になるが、念力は動くものを直接“掴む”ことは出来ないが、すでに操作しているもので間接的に触れたりすることは出来るわけだ。まあ、当たり前と言えば当たり前だが。

 板的な物を浮かせてその上に人が乗ることも出来る。つまり、それだけの浮力・パワーが間接的でも発生するということだ。

 直接掴んで持ち上げるんじゃなく、そうやって間接的に発揮されるパワーもそれなりのものである。


 ということは、光輪以外にも適当な物を操作して攻撃などに利用できる可能性があるわけだ。

 例えば、紐的なものを操作すれば、相手を縛り上げたりとか出来るんじゃない? つーか人間相手なら、直接掴むんじゃなくて服だけを上手いこと念力で摘むように——まあ、そんな操作が可能ならだが——すれば、念願の人間自体を(ほぼ)直接念力で操作することも可能になるのではないだろうか。

 これが出来たら……なかなか楽しそうですなぁ……(ニヤリ)。


 後は、飛行についてか。マナハス自体も浮かせられるわけだし、上手く使えばマジでもっといい具合に「飛ぶ」って感じにならないだろうか?

 さっき言ったように、服を持ち上げて人間を浮かせられるなら、同じようにマナハス自体も浮かせることが出来るはず。——まあ、そのまま普通の服ではやりにくそうだし、特別な服が必要か……?


 そうだね……例えば、ハーネスみたいなので上から吊るための装備を身につけて、持ち上げやすいような部分も服に取り付けたら、そこを持って上手く浮いたりとか出来ないだろうか。

 それこそ、パラシュートみたいなのだったら、やりやすそうだが……。


 ……(ひらめ)いた! じゃあ羽根だ! 翼だ! 服に翼みたいな飾りをつけて、その服をハーネスみたいなので体に固定すればいい。

 後は翼の部分を念力で浮かせたら、いい感じに飛ぶんじゃねー? やっぱ聖女なら翼の一つでもつけて飛ばねぇとなぁ!


 ……てかさ、それでも結局は、念力での浮遊はなんか上から持ち上げて浮いているような感じなわけなので……

 それってつまり……

 翼までつけて空に浮いている聖女マナハスは、もちろん、まるっきり自前の奇跡で飛んでいるんだけど、それでも結局は、なんかクレーンからワイヤー出して浮かばせてるような挙動になっちゃうってコト……??


 ……ンフフフッwwwwwwwwヒヒッwwwwwww……!!


 ——いや、笑いすぎでしょ。必死に声に出ないようにしてんじゃん。……ほら、マナハスもアンタが口元押さえて震えてるから不審に思ってこっち見てきてるし。


 いやこんなん笑うやろ……!

 クレーンで吊られてるようにしか飛べない聖女とか、マジウケるんだけど。

 ……まあ、それでも飛ばないという選択肢はないよね。曲がりなりにも飛ぶ能力が手に入るというのなら、やらざるを得ないでしょ。


 決めた、マナハスには絶対に翼付きの衣装を着せてやる……ク、フフフッ……!


 ——そんな衣装、嫌がって着てくれないんじゃないの?


 そこはほら、頑張った私へのご褒美ってことで、マナハスに私が着てもらいたい服を着てもらうのがご褒美とか言ってさ。


 ——いや、今回活躍してるの真奈羽(まなは)だけだし、頑張ったご褒美もらうのはむしろ真奈羽のほうでしょ。


 それなら、マナハスに私からのご褒美としてその服をあげればいいよね。


 ——どっちにしろ渡されちゃうのね……てか、そんな服どうやって調達するのよ?


 ショップに無いかなー、チラッとしか見てないけど、服類もあったはずなんだけど。


 ——さすがに、そんなピンポイントな服は無いでしょ。


 ……だろうねー。でもなんか組み合わせたりしたら、あるいはさ。

 つーかパラシュートくらいなら普通に存在しそうだし、翼の飾りとかも——なんかゲームの服なら、意味不明な装飾品として翼とかその辺もあったりするんだけどなー。

 ……最悪、自作してでも作ってやるか。


 ——なんの意気を高めてるのよ……てか、くだらないこと考えてる間に、あらかた片付いたみたいよ。


 みたいだね。

 結局、最後までバレることなく終わって、作戦は大成功だったね。


 さあ、後は残りの数体をお掃除すれば殲滅完了だな。

 そんじゃ、ここまで役に立ってない誰かさんも、ここらで仕事しますかね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ