第79話 潜伏遠隔誘導撃破徘徊死者殲滅正門封鎖大作戦
色々と検証したことで、我々はマナハスの魔法について、細かい仕様を把握することが出来た。
とりあえず、その辺をちゃんと把握できたところで、さて、ではもう一度、作戦を一から考えてみようか、というわけなんですが……
いや、つーか、マナハスの魔法、なかなかだよな。結構できること多いし、やっぱ強ぇわ。
つーか、刀振るだけの私に比べて汎用性高すぎないか? 車も浮かせりゃ鍵も開けれるし、範囲爆発に強力な盾に怪獣相手のダメージも出せる。
聖女っつーか戦力としてフツーに飛び抜けてるんだよなー。マナハスがしっかり練習して使いこなせるようになったら、やべーぞ、これ。
ただ、調整により色々できるという汎用性は高いが、その分、調整自体が難しいという欠点はある。集中して時間をかける必要があるので、やはりサポートしてあげる仲間は必要ということだろう。
フツーにその内に、私はサポートに徹するのみで後はマナハス任せって感じになったりしそうだな……。まあ、それはともかく、今の状況をマナハスさんの能力をフルに使って対処する方法を考えよう。
私のことについては、別に考えなくていいわ。いや、だって刀振るだけしか能のない奴とか普通にどうでもいいレベルで有能な人がいるんで。
まあ、こうなったらせめて作戦立案くらいでは役に立ってみないとなぁ……マジで、私がただおしゃべりしについてきた奴ってことになってしまう。
しかし、やはり魔法については魔法使いで聖女なマナハス様の感覚に寄るところが大きいので、マナハス大先生の意見も聞いていくけど。
それでは作戦案、出していきますよ。
「それで、マナハス……さん。魔法についての情報も整理してみた上で、改めて何か作戦とか思いついたりしないですか?」
「なんで敬語なん……? ——うーん……まあ、思ったんだけど、別にこのゾンビ達と絶対に戦わなきゃいけないわけじゃないよな?」
「えー、というと?」
「あくまで学校内のゾンビが居なくなればいいわけだから、学校から外に出るように誘導すればいいんじゃないかと思ったんだが」
「ほう、なるほど。確かに」
「少数なら倒した方が早いし確実だけど、この数だからな。そっちの方がリスクは少ないんじゃないか?」
「そうね……それで、具体的な方法は?」
「それは、まあ、適当に大きな音を外で出すとか? 私の魔力攻撃で外の適当なところを狙って爆発でもさせれば、大きな音につられてゾンビが移動していくんじゃないか? アイツらって音に反応するんだろ」
マナハス立案、作戦その一、【大きな音でゾンビを誘導する作戦】
戦わないでゾンビを誘導するという着眼点はなかなか良い。一見、リスクは少ないように見えるが……
「問題点がいくつかあると思う。まず一つ、確実性が低い。ゾンビがみんな音につられて移動するかは分からない。音がどれだけ響くか分からないから、むしろ周り中からゾンビを集める可能性もある。それにもう一つ、大きな音につられるのは普通のゾンビだけじゃない。鳥ゾンビや怪獣なんかもやってくる可能性がある。現に以前にも、そんな事があったしね。その点ではやっぱ、未知のリスクは大きいかもしれない」
「まあ、すでにその前例があるからな……やっぱり大きな音は立てない方がいいか」
「……じゃあ、次は私の案をとりあえず一つ。まあこれは、作戦というほどのものではないんだけど」
「まあ、聞かせてくれよ」
「えっと……まず、マナハスが駐輪場の屋根の上に隠れて待機。んで、私は下で隠密行動をしながらゾンビを刀で暗殺していく。バレなければそれでいいけど、バレたら普通に戦闘を開始してマナハスにも援護してもらう……まあ、ほぼ正面から挑むみたいなもんだね」
私の立案、作戦その二、【とりあえずスニーキングキル、バレたら普通に斬る、作戦】
自分で言っといてなんだけど、マジで作戦というほどのものではない。
「それって、カガミンの負担がかなり大きいと思うんだけど……暗殺って、音を出さずにバレないように倒すってことだよね。自信、あるの……?」
「正直あんまり無い」
「無いのかよ……」
「実際、暗殺については、いろんな意味でスキルがあるわけではないし。——私のスキルは刀で普通に戦うだけだからね。その点は、やっぱ確実性は低いよね、この作戦は。……まあ、これは他に何もいい作戦が浮かばなかった時に取る最終手段かなんかだと思っといて」
「うーん……まあ、もっといい作戦を考えよう。負担もリスクも少ない作戦をね。——それじゃ、私の思いついたやつ、もう一個いくぞ」
「オッケー、聞かせて」
「音で誘導するのがダメなら、光で誘導するのはどうだ? 私の光輪を使えば光らせながら自由に動かせるし、これでなんとか上手くゾンビを誘導できないかな? 光輪の光くらいなら、大きな音よりは周りにも影響ないだろうし……どうよ?」
マナハス立案、作戦その三、【光輪でゾンビを誘導する作戦】
なるほど、さっきの案の問題点を改善してブラッシュアップしてきたか。ふむ……なかなかいいんじゃないでしょうか。
「なかなか良いと思う」
「お、マジで」
「でも、マナハスが光輪を制御できる範囲って三十メートルくらいだから、そこまで長くないよね。となると、距離的に安全な場所から誘導しようにも届かないから、マナハス自身もゾンビに近寄っていかないといけないよね」
「それはまあ、そうなるだろうけど。でもそれは仕方ないだろ?」
「……大丈夫?」
「それは、私が失敗するかもってこと……?」
「いや……出来ればマナハスにはあまりリスクを冒して欲しくないなぁって」
「……そんなこと言っても、ある程度のリスクは覚悟すべきじゃないの? ……まあ、私の実力じゃあ心配なのかもしれないけどさ」
「……とりあえず、これも保留で」
今のところは、やっぱり【作戦その三】が一番良さそうではある。しかし、この作戦はマナハスのリスクも大きい。そこはやはり不安だ。
仮に、この作戦を実行するとしたら、当然、私もマナハスにピッタリついていく。しかし、隠密行動とは基本的に人数を少なくするのが鉄則だ。私だって隠密行動に自信があるわけじゃないし、二人でゾロゾロ進んで隠密なんて出来るのだろうか。
それに三十メートルの距離は空いているとはいえ、ゾンビの感知に引っかからないとは限らない。光輪だってずっと光らせてはおけない。スタミナは必ず途中で切れる。
つーか、そうなるとどうなる? その後は? スタミナが回復したら、普通にまた操作できるようになるんだよね?
手元から光輪が離れた状態でスタミナ切れたらどうなるんだろう。一応、確認しておくべきだな。
「あのさ、マナハス。ちょっと聞きたいんだけど……」
「ん、何?」
というわけで、マナハスに試してもらって確かめてみた。
その結果——光輪を操作中、杖から離れた状態でスタミナが完全に無くなった場合は、普通に操作できなくなってその場に落下することになる——ということが判明した。
つーか、マナハスはすでにそれを体験していた。——前回ピンチになった時に。
ただ、あの時もスタミナが回復していくと同時に再び操作できるようになったので、あの時はそれでなんとかギリギリ間に合ったというわけだ。
ただその場合、光輪が三十メートル以上離れている時に操作が途切れたら、おそらく再び操作するには光輪が三十メートルの範囲に入るまで近寄らないといけない、ということが新たに分かった。
逆に言えば、三十メートル以内なら、スタミナが回復すればすぐに操作を再開できるということだった。
なるほど。それなら、スタミナが途中で切れても致命的な事態にはならないか。場合によっては、スタミナが切れると同時に光輪が勝手に杖に戻ってくるとかいう可能性もあるかと思ったのだけどね。
もし仮にそうだった場合は、敵にこちらの位置がバレてしまう。そうなると光輪の操作を続けるためには、スタミナが切れないようにひたすら回復アイテムを使い続ける必要があった。それはちょっと……と思う私は貧乏性であろうか。
光輪をその場に放置してスタミナを自然回復させられるとしたら、回復アイテムは使わないでも大丈夫になる。だけど、それでも光輪の操作が途中で途切れてしまうのは避けられないんだよなぁ。
まあ、少しくらいなら平気かもしれないけど、それでもちゃんと回復させないとまたすぐ切れちゃうだろうし。
定期的にスタミナを回復させつつ誘導していくってのは、これはなかなか難しそうじゃないか……?
うーん、やっぱりもう少しいい作戦ないだろうか……
光輪……遠隔操作……光……隠密行動……距離……誘導…………殲滅……ハッ! 閃いたかも!
「……考えてみれば、なかなか難しい操作になるかもしれないな。でも、他にいい案もないなら、私はやるぜ。やってみせるよ。カガミンにだけリスクを負わせるのは、もうダメだ。だから——」
「マナハスっ、私、思いついたかもしれない。【作戦その四】ッ! これならリスクをかなり減らして、かつ確実にゾンビを殲滅できる、かも……!」
「えっ! マジか? どんな作戦だ……?」
「名付けて……【こっそり隠れて遠隔討伐で安全に殲滅! 勝てばよかろうなのだっ作戦!】っDEATH!」
「なんだその作戦名」
「この作戦について、聞きたいか〜い? え? 聞きたいだろ〜? お〜ん?」
「うざいんだけど……まあ、聞かせろよ」
「よろしい……説明しようッ! 【こっそり隠れて遠隔討伐で安全に殲滅! 勝てばよかろうなのだっ作戦!】とは!?」
「いや作戦名長ぇよ。いいからとっとと内容教えろ」
「……まず、私たちは駐輪場の屋根の上に登って隠れる。マナハスは光輪をゾンビ達の近くまでこっそり飛ばす。当然、三十メートル以内の範囲でね。そして、そこで光輪を光らせる。するとつられてゾンビが集まってくる。その集まってきたゾンビを光輪を使って倒す。スタミナが切れたら、回復するまで光輪は放置する。注意する点は、三十メートル以上飛ばした場合には、そこでスタミナが切れないようにすること。それから、潜伏している場所に光輪を戻さないようにすること。——敵に私たちの位置がバレるからね……。だけど、それにさえ気をつければ、私たちは自分の居場所を露呈させる可能性は極めて低い状態で、高所から隠れて見渡しつつ、敵を一方的に攻撃、殲滅できる。——敵には光輪をどこから操作しているか知る術は無いハズだし。だとすれば、本体の私たちは見つからないから安全だし、光輪自体はゾンビの攻撃とか効かないだろうから、ひたすら無双できるはず。……どうよ、この作戦」
「究極にチキンな戦法だけど……確かに安全で確実なんじゃ……? いいんじゃないのかっこの作戦……っ!」
「……フッ」
「でもこの作戦、私がひたすら働いてるけど、お前何もやってなくね?」
「…………フッ」
私の立案、作戦その四、【こっそり隠れて遠隔討伐で安全に殲滅! 勝てばよかろうなのだっ作戦!】
まあ、大体、名前の通りの作戦だ。ポイントは、私たちが潜伏しておき光輪をデコイとして活用するという点だ。
確かに、ひたすらマナハスが活躍——もとい働いていて、私がすることは何も無い。
……まあ、出番があるとしたら、あらかた掃除が終わったところで残りを倒すくらいか。さすがにすべてのゾンビが上手いこと寄ってくるとは限らんからね。
それでも大体の数を減らせれば、後はなんとでもなると思う。数を減らせれば【作戦その二】に移行すればいい。
……結局、作戦立案に関してもマナハスのアイデアがあったから思いついた作戦だし、内容自体もマナハスばかり働かせるような内容だし……私は着実に役立たずへと近づいていっているのかもしれない。
まあ、あれだけマナハスにも頼ってって言われたんだし、ここは素直に頼らせてもらいますか。自分でもこの作戦なら安全だと思うから、マナハスに全部やってもらうことにも躊躇はない。
私がマナハスに行動してもらうのを気後れするのは、そこに危険がある場合だからで、そうでないなら特に躊躇うことはない。
「どうかな、これ以上の作戦はもう思いつかないような気がするんだけど。安全性、確実性、両方の面から見ても及第点だと自分では思うんですが」
「私も、この作戦なら大丈夫だと思う。……まあ、カガミンの出番がないのは私は別に構わないしね。そろそろ私が活躍してもいい頃合いでしょ」
「うん……頼りにしてるよ」
「ああ、任せな……!」
それでは、作戦も決まったことだし……【潜伏遠隔誘導撃破徘徊死者殲滅正門封鎖大作戦】——開始っ!
——いや作戦名変わってるし。つーか、漢字ばっかで意味わかんないし。一瞬、中国語なのかと思ったわよ。
やつらは全員殲滅アルよ、汚物は消毒ナッシー!
——なんか語尾混ざってるけど、中国産なのかしら。
イーアルサンスー、敵・撃・破!