第7話 戦い方はモンハンで予習済みさ
やった! 恐竜くんを独眼竜にしてやったぞ!
正直言って、これは超上手くいった。せっかくの奇襲なので、普通なら狙えない頭を狙ってやろうと高いところに登ってから攻撃したわけだが、ここまで上手くいくとは思ってなかった。実際は、頭部のどこかに当てられれば御の字くらいに思ってた。
それが、目玉を潰して視界の片方を制限出来るとは。これはツイてる。いい流れがきているよっ!
尻尾は千切れてバランスも悪く、左目の方は死角になった。これだけやったならば、真っ向勝負を挑んでも何とかなるのではないかという気にもなってくる。
恐竜くんは目を潰された痛みでギャースギャース喚いていたが、そろそろ痛みよりも怒りが上回ってきたようだ。
私の方を残った目で憎々しげに(——おそらく。恐竜の表情はよく分からない)睨みつけてくる。
さて、ここからが本番だ。果たして、つかず離れずのヒットアンドアウェイで戦えるだろうか……。
いや、やるしかない。集中ッ!
恐竜くんが突進してくる。そのまま頭を低くして私に噛みつこうと迫る。
私はあえて直前まで引きつける。そして、不意に左に躱す——フリをして右に全力で飛び出して回避。いわゆるフェイントである。
恐竜くんは完全にフェイントに引っかかった。フェイントに釣られて右に(私から見ると左に)行こうとして、慌てて反対に切り替えたら、バランスを崩してぶっ倒れた。
私が右に躱したのは当然そちらが死角になっているからだが、しかし、こうなると別にそんなの関係無かったか。完全に倒れちゃってるし。
自分で言うのもなんだが、初めての正面戦闘で生意気にもフェイントかけたりするかフツー。戦い方にまで性格が出てるかも。
——ほんと、普通に避けなさいよ。ヒヤヒヤしたっつの。ギリギリまで引きつけるし。
むしろその方が避けられるのさ。タイミングミスったら死ぬけどね。
——直撃を受けないようにって、自分で言ってたくせに……。
さてさて、ぶっ倒れている今はまさにチャンス。当然、私は畳み掛けるように攻勢に移っている。
だらっぁ! 死ねやオラァァァンン!!
倒れた恐竜くんに助走からの渾身の一撃。
しかし、脚に当たった刀は弾かれてしまった。
なにっ!?
それからも追加で何度も斬りつける——が、すべて表面の鱗のようなものに弾かれた。
なぜっ!?
ちゃんとスタミナゲージ使って刀も体も強化している。なのに弾かれる。
どういうことッ……?
いやこれっ、ちゃんと強化されてるよな? や、されてるはずなんだけど……なんで効かへんねん!
私はちゃんと強化されているか確かめるために、地面に向けて思いっきり刀を振り下ろした(別に腹が立ったので周囲に当たり散らしているとかそういうのではない……ない)。
すると、刀の当たったアスファルトは粉砕され、その下の地面も吹き飛ばされる。
だよな、こうなるよなっ。そんじゃ、オラっ——
地面の犠牲により保証された威力の斬撃を、恐竜くんに向けて再度、繰り出すが——
ガキンッ——
やはり弾かれる。
アスファルトの地面程度なら簡単に粉砕する威力の私の攻撃は、しかし、恐竜くんの体には通らない……
なんで……
——これは……単純に、地面よりこの恐竜の方が硬いってことじゃないの……?
ぐぬぬ……!
そうこうしているうちに、恐竜くんが起き上がり始めた。
私は舌打ちして、飛び退って距離を取る。
なんだ、何で効かないんだ?? だって尻尾とかには普通に効いてたじゃんっ!?
モヤモヤした焦りのようなものが胸に湧いてくる。くそっ、このメンタルは良くないぞ。
——落ち着いて、攻撃来るわよっ!
恐竜くんがまたも突進してくる。
私は、良くない思考に陥りかけている頭を無理やりにでも切り替えて、まずは回避することだけに集中させる。
恐竜くんは先程転んだのを反省したのか、今度の突進にはそこまでスピードが無い。しかしその分、回避のタイミングが見極め辛い。
なので、あえてこちらからも距離を詰める。相対的に一気に彼我の距離が縮まる。このままいけば、すぐに接触するだろう。
恐竜くんが反応して、攻撃モーションに入る。
その時には、私はすでに前進を止めている。そして、恐竜くんの攻撃に合わせて飛び退き回避する。
見極め辛いなら、こちらから仕掛けて攻撃を誘発すればいい。まあ、今度のは前にフェイントをかけたようなものだ。
躱された恐竜くんはすぐに追撃を次々仕掛けてくるが、私はそれらもタイミングを合わせてヒョイヒョイ躱す。
連続攻撃はむしろタイミングを見極めやすい。まるで音ゲーか何かのように、一定のリズムに乗って躱していけばよい。
気をつけなければいけないのは、周囲の瓦礫などに足を取られたりしないこと。恐竜くんの動きだけじゃなく、自分の周囲にも常にアンテナを張り巡らせる。回避の結果、壁際に追い込まれたりとかしないように広い視点と、自分の近くの足場の様子という狭い視点の両方を同時に把握する。
恐竜くんの体の動きも、攻撃してくる牙なんかに変に集中してしまうと視野が途端に狭くなるし、恐怖も余計に感じてしまう。なので、なるだけ全体としてとらえるようにする。牙の数が何本か分かったところで、今は何の役にも立ちはしない。
私と恐竜くんは、まるでダンスを踊っているかのように、付かず離れず、位置を変えながら瓦礫の上を移動し続けていた。
恐竜くんは基本、頭を突き出しての噛みつきを仕掛けてくるが、時折り体ごとぶつかってきたり、脚で踏み潰そうとしてきたりもする。
その都度、私は大きく距離を取ったりギリギリをすり抜けて躱したり、次の恐竜くんの動きを予想しつつ、二手三手先まで考えながら回避する。
当然、合間に攻撃出来るほどの隙間があれば、こちらからも攻撃を仕掛けていく。ただし、スタミナの残量には気をつけておかないといけないので、隙を見つけても、スタミナが少ない時は攻撃を見送るしかない。
なるだけスタミナの使用は最小限に抑えようとしているが、この巨体を躱すにはスタミナ消費の身体能力は必須で、僅かな猶予に回復を図りながらの攻防は正直、ギリギリだ。
数手分の攻防でスタミナゲージの若干の猶予を作り、それを攻撃で消費して、また猶予を稼ぐために回避に専念する。そんな攻防を繰り返していた。
誤算だったのは、完全に懐に入ってしまえばもう少し余裕があると思っていた——その予想が完全に裏切られたことだ。
これだけデカいモンスターだと、むしろ体の下なんかは意外と安全地帯になったりするのだが(ゲームでは)、しかし、こいつはむしろ体の下の方が危険だ。
なにせ攻撃でもなんでもないただの移動で脚を動かしただけで、私にとってはそれは立派な攻撃となる。
現に、ただ進んでいた脚に引っかかっただけで、そこそこの速度の車に撥ねられたような衝撃を受けて吹き飛ばされるのだ。もちろん、HPゲージもいくらか削られてしまう。
そんなダメージが積み重なる度に、すでにいくつか回復アイテムを使ってしまっていた。
まさか、ただ移動するたけでダメージを与えてくるとは。ゲームでは基本的にそういう移動には当たり判定がなかったので、これほど脅威になるとは思わなかった。
——アナタ、本当にゲーム知識を元に戦ってるのね……。
私の培った戦闘経験はそれしかないからね! ほぁっ!
——ダウンロードしたスキルの知識はどうなのよ?
それはあくまで私の体をどう動かすかの知識であって、恐竜の攻撃への対処は自分で考えないとなのっ! そいっ!
——なるほど。まあ剣術って、基本的に対人相手の技術だしね。
呑気に喋ってるけどっ、こっちは常に緊張の中で今も連続回避し続けてんだけど! お喋りするほど余裕ではないのですがっ! うごっ!
——それでも、最初に比べたら少しは余裕が出てきたんじゃない?
少しは慣れてきたけどねっ! ゲームでも慣れてきたくらいが一番危ないんだけどっ! ちょあっ!
——てか、さっきからちょくちょく入るその掛け声は何よ。
必死に躱してるってことだよっ! そいやっ!
——……一つに統一したら?
別に掛け声なんて何でもいいやろがいっ! せいっ!
つーかあんた、無駄話するほど暇ならもう少し役に立ったらどうなのっ! ふっ!
——何よ、HPや回復アイテムの残りとか、一応、気にしてあげてるんだけど。てゆうかこれ、ホントに大丈夫なの?
大丈夫ってっ! 何がよっ! ——うおっあぶねっ!?
——いや、さっきからちょくちょく攻撃入れても全然効いてないみたいなんだけど。これ倒せるの?
それは私も思っていたがっ! 何で刃が通らないんだろっ! 尻尾とか目玉には入ったのにっ! にゃんっ!
——尻尾は奇襲だったからかなー。相手も油断していたとか。目玉は弱点っぽいから効きそうだけど、今の状況では狙う余裕はない。うーん……
ちょっ! あんまり考え込むなっ! 回避に支障が出たらどうするっ?! んにゃっ!
——そうは言っても、現状を打開するためには考えないと。余裕が出てきたんだから、なんとかなるでしょ?
余裕があるくらいでちょうどいいんだけどっ! 一撃でもまともに食らったらアウトなんだぞっ!
——そんなこと分かってるわよ。命懸けの状況でも脳内で一人芝居しているくらいなんだから、まだ平気でしょ。
むしろそれで平静を保ってるのかもしれないっ!
冷静に考えたら、「あれ今私何してるんだろ。てかこの恐竜何?ww」とか思っちゃいそーだもんっ!
うわちょ今のヤバかった頭かすめたっ——
——このままじゃ埒があかないし、アプローチを変えてみましょうか。そうだ、尻尾の断面を攻撃してみるとかどうだろう? 試しにさ。
あいにくっ、狙い通りの部位に攻撃するような余裕はないっ!
わずかな隙に手近なところをっ、ぶん殴るので精一杯なんだけどっ! はひゅっ!
——ふむ……。一旦、立て直してまた奇襲するとしても、この状況から抜けるのも難しいか……。むしろ拮抗しているからこそ安全でもあるし。ブレスがある以上、離れるのは愚策……。
どうでもっ、いいけどっ、早くっ、打開策っ、見つけてっ! てやんでぃっ!
——実は案外余裕あんだろオメー。……うーん、これもしかしたら、アレなんじゃない?
アレってっ?!
——この恐竜も、ワタシたちのHPみたいな護りを持ってるんじゃない?
えっとっ、つまりっ??
——HPがある限り、肉体に直接のダメージが入らない、と。
……じゃあどーすんのさっ! つぇいっ!
——うーん。ま、HPが無くなるまで攻撃し続けるしかないんじゃないの。
……結局、今までと同じってことねっ! とうっ!
——まあ、攻撃を続ければいつかは打開できるという希望にはなるかしら? もっとも、それまでにやられなければ、だけど。
そうと決まればっ! やるしかないなっ!
——正直、持久戦はこちらが圧倒的に不利よ? 相手はたった一撃でもまともに入れたらこちらを倒せるのに、こっちは何発入れても表面上は無傷なんだから。
物理的ダメージの前に心が折れるかもねっ! せいやぁっ!
だけどっ、単調作業の繰り返しには慣れてるっ、よっ! 一部のゲームのボスは、稀に作業と化すこともあるからねっ!
——なんの自慢か分からないけど、死なないためにも頑張るしかないわね。
頑張るって言葉は嫌いなんだっ、けどっ! なんか他の言い方はないわけっ!
——それじゃあ、そうね。……この戦いに勝ったら、めっちゃカッコいいと思うわよ。
さすがワタシっ! 私の扱いを心得ているっ!
——これだけ長い時間戦った後での勝利の快感は最高でしょうね。
それだっ! 勝利の快感感じたいっ!
——それに多分、こいつ倒したらレアアイテムとか出るよ。
出るねっ! たぶん出るッ!
——レベルもめっちゃ上がると思う。
上がるっ! アゲアゲだっ!
——こいつの素材を使った武器とか作れるかもしれない。……でも、作るためには、こいつを何体も倒さないと素材が集まらないかも。
それはっ、ちょっと、勘弁してっ。
——倒した報酬に恐竜柄のTシャツ貰えたりとか。
それは普通にいらないなー。
——まあ、こいつを倒したら真奈羽に自慢してやりましょ。
……っ! そうだねっ! そのためにもっ! 途中で諦めたりは出来んなぁっ!!
回避回避、攻撃。回避、攻撃。
もはや私は、ひたすら恐竜くんの攻撃を回避しつつチマチマと刀で攻撃していく機械と化した。
頭の中を空っぽにして、ただ目の前の状況に反射で対応する。私の中はもはや、回避と攻撃の二種類のコマンドだけになっていた。
だけど、それがなんだか、心地よい。
普通だったら、こんな巨大な化け物と正面切って戦うなんて、恐怖以外の何物も感じないと思う。
しかし、この時私が感じているのは、純粋な闘争の喜びだった。
恐怖はない。なぜなら痛みがないから。ダメージはすべてHPが肩代わりしてくれて私は無傷。
それこそ、まるでゲームでもやっているかのように、ただ純粋にバトルを楽しむことができる。
ゲームだとしたら、こんなに自由に動けるゲームが他にあろうか? こんなに実際に命のやり取りをしていると感じられるゲームが存在するだろうか?
相手の呼吸を、脈拍を、眼光を、殺意を、これほどリアルに感じられるものが、あるだろうか……。
生身の感覚を機械に移す技術もない以上、現実に勝る自由度のゲームは存在しない。しかし今はどうだろう?
その現実で、これほど自由に思いっきり戦うことが出来る。
これほど楽しい遊びが他にあろうか? いやない。
私が長年求めていた最高の人生、見つけてしまったかも……。
——うわコイツまじモンのキチ◯イじゃん……。
キミもその一部のワケだが……?
——実家に帰らせてもらいます。
ウェルカムトゥマイファミリー、サン?
——ファミパンおじさんは帰って、どうぞ。
アスタラビスタ、ベイビー。
ちょっと待ってな。ちょっくらダイナソーをDIEナソーにしてくるから。
——まったく、キチ◯イに勝るものはないわね。
火を吐くダイナソーVS日本刀を持ったキチ◯イ、ファイっ!
——B級映画もびっくりなタイトル。ブックオフで五十円で売られてそう。
お得だね。
正直、自分でも何を言っているのかよく分かっていないが、軽妙な会話(?)の効果か、どうも私の調子が良くなってきているみたいだ。
それか、割とぶっつけでやっていたスタミナの運用にだいぶ慣れてきたのか。やはり実戦に勝る訓練は無い。
相手の恐竜くんの動きにも慣れてきて、積極的に死角に入って立ち回ることで、だいぶ余裕を持って対処出来るようになってきた。
結局、回復アイテムは序盤の慣れるまでに使った分以降は温存出来ている。
このままいけば、勝てる……?
そう思えばなんだか、恐竜くんへの攻撃の手応えが変わってきているような気もする。以前は完全に弾かれていた攻撃が、若干だが食い込んでいるような。表面にうっすら傷が入ったりとか。
これってもしかして、HPだいぶ削れてきたんじゃない?
——いけるかもしれないわ……!
とうとうこの戦いにも終わりが見えてきた……?
私が希望を見出し始めた時——それに気がついた。
正確には、それに先に気がついたのは恐竜くんで、恐竜くんの異変を感じ取って私も気がついたのだ。
断続的な音がこちらに近づいてくる、これは……。
恐竜くんが私への攻撃を中断して空を見上げる。私も一旦、恐竜くんの攻撃の届かないギリギリの距離まで離れてから、上空に視線を向けてみる。
するとそこには、こちらに向かって飛んでくるヘリコプターがあった。
一瞬、恐竜くんを殺しにきた軍用ヘリか何かかと思ったが、近づいてくるにつれ、どうやら普通のヘリコプターだと分かる。
なんだろうアレは。報道ヘリかな? まあこの惨状だから、カメラが来てもおかしくないかもだけど。
この距離でも、地上の人間ってハッキリ映るんだろうか。だとしたら、ちょっと恥ずかしいんですが。恐竜と戦ってるとことか見られるのは恥ずかしいじゃん……///。
——なに頬染めてんのよアンタ……。
束の間の空白、予期せず訪れた休息。再び仕掛ける契機を私が見計らっていたら、徐に恐竜くんはブレスの体勢になり、ヘリに向けてブレスを発射した。
うわっ、やりやがった?!
さすがに一発で直撃とはいかないが、それなりの間放射され続ける光線が、空を縦横に駆け巡ってヘリを追う。
ブレスは何かに当たらなければ爆発することもなくただの光線なので、空に向けて撃つ分は攻撃範囲はビームそのものだけだ。そう考えると、空からの攻撃なら恐竜くんのブレス相手でも結構いけそうかも。
しかし相手はただのヘリだし、偶然ブレスに直撃せんとも限らん。
このまま見過ごすわけにもいかないか。そもそも私は、恐竜くんとのバトルの途中なのだ。ここは、あのセリフをお見舞いしてやるとしよう。
「こら! キミの相手は私だよ!」
何気に戦闘が始まって以来、初めて喋ったかも。私って基本、戦闘中は無口なんで。
いや、なんか開始の時に叫んでた気もするな。まあアレは掛け声みたいなやつだったよね?
——頭の中ではひたすら喋ってるけどね。
恐竜くんは、私の言葉を完全に無視してブレスを飛ばし続けている。そもそも聞こえてないんだろう。まあ、返事など期待していないが。
「無視すんなやゴルァァア!!」
柄の悪い言葉を吐きながら私は恐竜くんに突撃、せっかくなので、回り込んで尻尾の断面に一撃を放つ。
今まで弾かれてたのが嘘のように、尻尾の断面には刃が通った。——鮮血が舞い散る。
ギャオス!!
これには恐竜くんもたまらずブレスを中断する。そして、こちらをギッ——と睨みつけてきた。
そうそう、キミの相手はこの私ですよ。他に目移りするなんて許さないんだからっ。そんな悪い子は、尻尾ズバズバで血がドバドバの刑ですよっ!
——可愛く言ってもスプラッターなのよね。メンヘラまじ怖い。ダメよね、こんなのに刀とか持たせちゃ。
飛び散る血って美しいと思わない? 芸術的とすら思うわ。
——すでに血に酔っている……。
近づいて来ていたヘリは、反転して遠ざかっていった。さすがに、謎の光でブンブンされたら驚いて逃げるよね。
恐竜くんも、もはや去っていくヘリには興味は無いようだ。
それどころか恐竜くんは、ブレスを途中で中断させられたからか、あるいは尻尾をさらに痛めつけられたからか、激おこプンプンと言った感じでこちらしか見ておらず、そのまま勢いよく突っ込んでくる。
ふっ、単調単調! 怒りに我を忘れるとは、所詮は……えーと、なんなんだろうなコイツは。ま、まあ、簡単に躱せるわっ!
——何かに例えようにも、元が謎すぎるわよね。今更だけど、この生物って何なのかしら?
そーだね、世界に一匹の珍しい希少種とかかもしれない。だとしても殺すけど。そいやっ!
私は攻撃を躱しつつ懐に潜り込み、脚のすぐそばを交差する瞬間に刀を振り抜く。
——ぬっ、今の感触、もう少しで斬れる……?
私が違いを感じたように、恐竜くんも、自分の守りがダメージの蓄積で綻んだのを感じ取ったのかもしれない。
だからか恐竜くんは、意外な行動に出た。——あるいはそれは、怒りに任せたヤケクソだろうか。さっき中断させられて消化不良だったのか。
恐竜くんは、今までやらなかったアレの体勢を取った。しかしそれは、私にとっては見慣れたそれで、さっきも見たこれは——
————ッブレス?!
まさかっ、私に向かって!? この距離で!?
なんだか嫌な予感がしたのだ。
恐竜くんの動きに違和感を感じた時には、直感的に私は回復アイテムを使っていた。
そしてブレスの予兆が見えるや、全力でその場を退避する。もちろん、ブレスの撃てない恐竜くんの後ろに回り込む形で。
しかし、恐竜くんはブレスの溜めも本来より短く済ませ、ギリギリまで後ろを振り返りながら至近距離にブレスをぶちかました。
まさかっ、この距離では自分ごと——
全力でその場を飛ぶ。
——直後に地面が爆発。巻き起こった爆風によって、私も恐竜くんも、その場を吹き飛んだ。