第78話 仕様の検証は大事です
マナハスにも——真面目にしないとおしゃべりも禁止するぞ! と脅されたので、私も一応、真面目にゾンビ退治に専念することにした。
そんなわけで、私とマナハスは(会話を控えて)正門へと移動する。
そして現在、私たちは正門から少し離れたところに停まっていた車の影に隠れながら、正門の方を確認している。
もちろん、車に近づいたのは、ゾンビがいない事をマップでも目視でもよく確認した後だ。——ちなみに、私たちがいる車は、正門からは少し離れたところに一台だけポツンと置いてあったヤツだ。
さてさて、正門の状況はどうなっているのでしょうか。まずはマップで確認、と。
正門は車で溢れかえっていた。出入り口のゲートのところにも車があるので、このままでは閉じることが出来ない。
たくさんの車の中に、ゾンビも大量にいる。連中は車の間をウロウロと彷徨い歩いており、マップには大量の赤点が表示されていた。
これは……ざっと見ただけでも、五十体以上はいるんじゃないだろうか。——マジか、こりゃ相当な数だな。
うーん……まずはゾンビを全部始末して、それから車を退けていって門を閉める、って流れになると思うけど。しかし、この数は……下手に挑んだら私だってやられかねないぞ、マジで。
しかも今はマナハスがいる。流石に、この数をすべて抑えるのは私にも不可能なので、マナハスには安全圏にいてもらうことになるだろうか。
さっきも言ったように、高所にでも陣取ってもらうか。んで、そこからバンバン攻撃して援護してもらう。
そんで私は地上を動き回りながら、ゾンビに囲まれないように立ち回りつつ慎重にゾンビを排除していく、という感じかな。
車のあるところは、どこにゾンビが隠れているか分からないから、離れたところまで釣って始末するのがいいかなぁ。
さて、それじゃ、マナハスにはどこに居てもらうか……。
周りを見回してみると、正門の近くには駐輪場があった。そこには簡易的だが屋根がついている。
うん、あそこの上とかいいんじゃないかな。人の背の高さよりは大分高いし、取り掛かりやすそうなものも近くにはないのでゾンビには登ってこれないだろうと思う。
だけど私なら、(スタミナを使えば)ギリギリひとっ跳びで登れるくらいの高さだ。何とかマナハスを抱えて跳び乗れるかな……?
マナハスをあそこに配置して、私はその下で戦う。場合によっては私も屋根に跳んで逃げられる。よし、そんな感じでいくか。
では、マナハスにも作戦を伝えよう。
マナハスの方を見ると、彼女も私の視線に気がついてこちらを向いた。それからささやき声で話しかけてきたので、私も小声で応じる。
「おい……正門のとこ、ゾンビめっちゃいるじゃん。あの数はヤバいんじゃないの?」
「まあ、普通に戦うとヤバそうよね」
「どーすんの……?」
私はすぐに、さっき考えてた作戦的なやつを話そうかとも思ったが、ちょっと考えてから、マナハスの意見も聞いてみるかと考え直した。
彼女の意見でよりいい作戦が思いつくかもしれないし、マナハスにも状況を分析して作戦を立てるというのをやってみてもらいたいとも思うし。
「マナハスは、どうすればいいと思う?」
「私? カガミンは、なんか考えてないの?」
「まあ、考えはあるけど、マナハスの意見も聞いておきたいからさ」
「うーん、そう言われてもね……。まあ、正面から挑まない方がいいだろうなーとは思う」
「そうだね、私もそう思う」
「……だけど、じゃあ正面から挑む以外に何があるか、って言われても……」
「作戦だよね。状況を踏まえて、私たちの戦力で有効に戦う方法。私たちに今できる方法でゾンビを安全に倒すには、どんな方法があるだろう……?」
「……さすがのカガミンでも、あの数をすべて食い止めるのは無理だよね?」
「まあ、普通にやったら無理だけど、状況によっては可能かも」
「可能な状況って、どんな?」
「狭い通路で敵が一体ずつしか来ない、とか」
「うーん、でも近くにそんな場所は無い、かなー」
正門の周りには建物はほとんどなく、あるとすればそれは駐輪場くらいなのだ。それにしたって、屋根があるくらいであとは吹きさらしみたいなものだから、障害物にはならない。
ゾンビ共を建物のある場所まで誘導しようにも、校舎などの建物まではそこそこ距離があるし、上手いこと誘導できるかは微妙だ。
しかも下手すればそのまま校内に散らばっていってしまう可能性もある。内部のゾンビを殲滅するつもりなのに、それでは意味がない。
なので、なるだけ正門の近くで連中は全滅させたいところなのだが……そうなると、利用できそうな施設は駐輪場しかない。
となると、さっき私が考えたようなやり方くらいしか無い気がするけど……
「結局、利用できそうなのはあの駐輪場くらいなんだよね。それにしても屋根しかないから、それに登るくらいしか思いつかないんだけど」
「そうだなぁ、他には何もないからなぁ」
「マナハスは何か思いつかない……?」
「いや、私も屋根に登ってそっから攻撃する、くらいしか思いつかないかなぁ」
「私は刀での近接攻撃くらいしか出来ることないんだけどさ、マナハスの魔法なら色々出来そうじゃない? 魔法を使った方法って何かないかな?」
「いやー、私もまだ魔法を使いこなせてるわけじゃないからなぁ……」
「まー、そうだよね……。そういやマナハスの魔法って、結局どんな事が出来るの?」
「うぅん……試してみないとなんとも……まあ確かに、色々やれる事自体は多そうなんだけど」
マナハス自身も、まだ完全には魔法で可能なことを把握してはいないんだよねー。
でも、そうだな、これについては確認してみるか。
「それならさ、魔法の射程についてはどう? 最大でどれくらい遠くまで攻撃出来るのか、とか」
「それは、どっちだ? 光輪の方? それとも魔力攻撃の方?」
「まあ、両方かな。あ、てかこれも聞きたいと思ってたんだけど、魔力攻撃ってさ、あれ実際どんな感じなの?」
「どんな感じって?」
「いや、気になってたんだけど、裏門に行く前にゾンビの集団に使った攻撃とトラに対して使った攻撃がさ、結構違うような気がして……アレってどうなん?」
「あー、アレね。アレはまあ確かに、だいぶ種類が違うよね」
「魔力弾の攻撃って、いくつか技の種類がある感じなの?」
「技の種類というか、ある程度調整できるって感じなのかな」
「ほう、詳しく」
それから、マナハスの話を聞きながら私からも質問しつつ判明した、魔法の杖による魔力攻撃の仕様については大体こんな感じだった。
魔力攻撃とは基本的にMPを消費して使う攻撃のことだ。その攻撃の種類に関しては、色々と調整が可能らしい。
操作できる内容は、大体これらの要素だ。
魔力弾の「形状・性質・威力・飛距離・(射出)速度・誘導性」大きく分けて、この六つの要素を任意に調整可能だとか。
これまでに使った技についてだと、ゾンビの大群に使った技は「形状は玉、性質が爆発で、威力は特大、飛距離はそこそこで、速度は低い、誘導性はほぼゼロ」みたいな感じ。
次に、トラに使った技はどうか。「形状は弾、性質は炸裂、威力は中、飛距離は低、速度は大、誘導性大」くらいの感覚だそうだ。
この辺の調整は、スキルにより得た知識と感覚により行っているらしい。ただ、ここでいう大とか小とかいうのもあくまで感覚で、それが実際どれくらいのものなのかは使ってみないと分からないとか。
では何が大なのかというと、消費するMPやSPのことだ。
形状・性質・威力は主にMPの、飛距離・速度・誘導性については主にSPの消費量が影響するらしい。それらをより消費することにより、それぞれの要素の性能が決まると。
そして一度の攻撃、つまり一つの魔力弾に込められる魔力量も決まっており、MPなら最大でも青ゲージ全体の三分の一、SPなら半分くらい、といったところらしい。
それらをすべて使った攻撃がマナハスが使える最大の攻撃ということになる。それプラス、個別の要素たちにも使える最大量がそれぞれ決まっているようで、威力についてはゾンビの大群に使ったものが最大だったとか。——確かに、アレはやばかった。
後は、形状と性質にはどういうものがあるのかについてだが、形状については自由にどうとでも変えられるらしい。ただ、それぞれの攻撃に見合う形状というのが大体自然に思い浮かぶんだとか。
そして性質。あるいは攻撃の属性と言い換えてもいいかもしれない。
これは大体「固持・貫通・炸裂・爆発」の四つに分けられるくらいのイメージとか。
ただ、これはあくまで程度の問題で、厳密にこの四種類というわけではなく、言ってみれば、前から後の要素の順に、魔力を固めるかあるいはエネルギーとして発散させるか、その度合いを調整しているだけとも言えるとか。
今まで使ったやつだと、ゾンビの大群に対しては最大級に発散させる爆発で、トラには単体にダメージを与える上では最大級の炸裂。
そして青の盾——つまり魔力による盾は、あれは「魔力を盾の形状にして最大級固めて空中に固定する」という技なのだ。
結局、あの防御技にしても、先に挙げた六つの要素の調整の産物なのだ。
だからある意味、魔力攻撃(あるいは防御)とは、たった一つの技のバリエーションである、とも言える。それがマナハスの杖の魔力攻撃というものの正体だ。
実際のところ、単純なようでなかなか複雑である。なるほど、これに加えてさらに念力なんかの操作の感覚についても習得されるわけだから、魔法のスキルのインストールにやたらと時間がかかったことも納得である。
つーかそう考えると、魔法のスキルはマジで相性の合う合わんが大きそうな感じがする。実は魔法スキル使える奴って、かなり希少なんじゃないだろうか。魔法使いはレアキャラって感じか?
本人もよく分かっていないところを私の質問を通して具体的に割り出していったので、それなりに時間がかかったが、安全のためなのでしょうがない。結局、いずれはやっておくべき事なのだし。
それで結局、射程の最大値はどのくらいなのかという話だ。
これについても、実際に試してみないとなんとも言えないところらしいが、おそらく結構な距離飛ぶだろうという話だった。感覚的に。
少なくとも、この学校のグラウンドの端から端までくらいなら余裕で飛ぶだろうという感覚はあるとか。その二倍でも多分いけると言っていた。
つまり、百メートル以上は余裕で届くということかな? まあ、あまり遠くだと今度は当てられるかが問題になるという話だが。それはそうだろう。
“誘導性”をうまく使えば遠くても当てられるかもだが、この誘導性についても、どうも色々と制約があるようだ。
そもそも魔法自体を使い始めたのがつい最近なので、まだまだ、いきなりすべてを使いこなすとはいかないだろう。
魔力攻撃についてはそんな感じだが、SPを使う“念力”と光輪についてはどうなのか。
こちらは、魔力攻撃ほど複雑ではなくシンプルだ。
念力は、基本近くのものしか操れず離れるほどパワーが落ちる。動かないものしか持ち上げられないが、動かないなら車ほどの重量物も浮かせられる。
衝撃波を発生させたり、傘やバリアのような使い方も出来る。細かい操作も可能で、鍵を開けたりも出来る。
見えない範囲も(集中が必要だが)ある程度、感触で感じとることが出来るようだ。そして、光輪を使うことでそれらを遠隔でも発動できる。
光輪は、SPを使って動かす。飛ばして自在に操れる。SPを使って強化すれば威力が上がる。光輪を起点に魔法を発動出来る。そして光る。
だがまだ検証の余地はある。まず、こちらの光輪についても最大射程はどれくらいなのか。あとは、操作はどれくらい自在に行えるのか、ということだ。
これは試してみればハッキリする。ここは広い屋外なので試すのに問題はない。なので早速試してみた。
光らせないように注意しつつ、適当に遠くまで飛ばしてみてもらう。
その結果、自在操作範囲が大体半径三十メートル、最大射程が五十メートルくらいと判明した。
自在操作範囲とは、文字通りマナハスが思った通りに動かせる範囲のことだ。その範囲であるマナハス(厳密にはその杖)から半径三十メートル内なら、勢いも軌道も自由自在に操作できるのだ。
そして最大射程とは、精密な操作は出来ないが、飛ばして回収できる限界の距離の事である。
三十メートルより先だと、あらかじめ描いた速度と軌道——それも、そう複雑ではない軌道——でしか動かせない。それこそブーメランのような感じか。
ただ、それでもある程度は狙い通りに飛ばして戻って来させる事が出来るので、攻撃の射程としては最大で五十メートルと言っていいだろう。
ちなみに、魔法や念力の光輪による遠隔発動の限界距離については、自在操作範囲内まで、ということだった。
という感じのことが、現時点で分かったマナハスの魔法(の杖)についてのすべてであった。