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第75話 暇さえあれば、何かしら考えてる(なくても考えてる)

 


 話もひと段落付いてマナハスもメンタルを持ち直したようなので、出発することにする。


 私とマナハスは例の暗視ゴーグルを取り出して装着する。視界はバッチリ。問題なし。


「じゃあいこうか、マナハス」

「ああ。それで、どんな風に行くよ? 適当に人の多いところから行くとか?」

「それなんだけど、まずは敷地の周りをぐるっと回ろうと思ってる」


 だから、とりあえずそんな風に移動しよう——と言って、私はマナハスと一緒に暗闇の校内に足を踏み出した。

 マナハスが私と一緒に歩きながら、話を続ける。


「回るの? あれ、生存者のところには行かないの?」

「考えたんだけど……あと残ってる生存者って、マップを見る限り、別に一塊になってるわけでもなく結構バラバラに散らばってるっぽいのよね。——まあ、それなりに集まっている所とかもあるけど。んで、それらをいちいち回って生存者を保護して、その(たび)に護衛しながら体育館に戻るってのは、面倒というか時間の無駄な気がしてね。だから、手っ取り早い方法でいこうかなと」

「まあ、確かにちょっと手間だよな。で、手っ取り早い方法って? そんなのあるかね」

「別に、ただいっぺんにやってしまおうってだけ。だから、まずゾンビを全部倒して、それからすべての生存者を回収していくって感じでやろうかと」


 だからというわけではないが、道中は特に隠密活動はしていない。フツーにおしゃべりしているのもそれが理由だ。

 声につられてゾンビが襲ってきても問題ない。むしろ、そうやって集まってくればこちらから行く必要無くなるから楽なくらいだ。

 敵の位置はマップに映っているし、視界もゴーグルで確保されている。今は私もマナハスのそばにいるから、もうピンチにはならない。私がさせない。


「ふーん、なるほど。まあそれが早いかもね」

「別に優先する対象がいるわけでもないしね。残った生存者は平等に扱うわけだし、それならこれが一番早いと思う。まあ、そりゃね? 生存者の救助を優先した方が、その生存者が助かる確率は高くなるだろうけど、結局、それを誰からするかって話になるし。部長さん以外は別に優先する人は居ないしね」

「まあ、私らは部外者だからな。——でも、それなら藤川さんとかはどうなんだろ。知り合いとかいるんじゃない?」

「どうかな……まあ居たとしても、今現在どこに居るかまでは分からないと思うし、別に全員が学校に来ているわけでもないだろうから。普通なら今日は学校は休みなわけだし」

「それもそうか。なら確かに、ゾンビ優先でいいかー」

「うん。だからまずは敷地をぐるっと回って、すべての出入り口を確認しようと思う。まずはゾンビの侵入経路を完全に塞がないとね」

「ああ、そうか。実際まだ確認してないもんな」

「私たちの入ってきた裏門はともかく、正門はまだ見てないし。それに、他にも出入りできる場所があるかもしれないし」

「確か、この学校は全部(へい)で囲まれてるって言ってたと思うけど、塀があればゾンビの侵入を完全に防げるのかね」

「どうだろうね……場所によっては、何か対策を(ほどこ)さないといけないかもね」

「対策かー、それってすぐに出来るものかね? でも、完全に侵入を防がないとやっぱダメだよなー」

「まあ、そこはマナハスに期待しているところはある」

「えっ、私?」

「正確には、マナハスの魔法に、ね。念力使ったらそれなりのバリケードとかすぐに作れそうだし。あと、なんか扉とかも、マナハスなら鍵無くても閉めれるじゃん。鍵探すのも面倒だしさ。その点は、マナハスの魔法にしか出来ないから」

「そうか……。——あれ、それじゃアンタが最初から私を道連れに選んだのって、その辺も見越してたの?」

「んー、まあね。マナハスの魔法を色々と当てにしていたところはあるよ」

「……アンタって、意外と頭脳派だったりする感じなの?」

「何それ? 私は元から頭脳派だけど? バリバリの戦闘派になったのは謎の能力得てからですけど」

「元から? 私の元からのアンタのイメージは、頭脳がイカれてる派、なんだけど」

「イカしてる派の間違いでしょ」


 そんな会話をしながらも、私たちは順調に進んでいた。今は学校を囲む塀に沿って時計回りに進んでいる。

 道中、チラホラと見かけるゾンビは問題なく倒していってる。

 私はマナハスのそばから大きく離れないように動きながら、近寄ってくるゾンビを待ち構える。その後ろからマナハスの光輪(こうりん)が飛ぶ。そしてゾンビを倒していく。

 少し不安があったが、マナハスは問題なく戦えている。とりあえずは大丈夫そうだ。


 せっかくだからこの機会に、マナハスの戦い方について話してみることにする。こういうのは出来るだけ早いうちに話しておきたい。

 さっき部長さん達を体育館まで連れて行く時も考えていたが、マナハスは、魔法使いはどう戦うようにすればいいのか、について。


「ちょっと確認なんだけどさ、マナハスの光輪の攻撃って、黄色いゲージ——つまりスタミナを消費して攻撃してるんだよね」

「そうだよ。使うとこの黄色いゲージが減る」

「それって、光輪をただ動かすだけでも減る感じ? なんかパワーこめて威力上げたりしなくてもさ」

「うん、そうだね。動かすだけでも減るよ。でも、パワーこめないで動かすだけならあんまり減らないんじゃないかなー?」

「でも、それだと威力が低いのかな。ゾンビが相手でもパワーこめない攻撃ではさすがに倒せない感じ?」

「え、どうだろ……? あ、でも、あの時はパワーとかこめてなかったかな」

「あの時って?」

「いや、あの、カガミンが首絞められたの助けた時」

「ああ……あの時か」

「あの時はとにかく急いで飛ばしただけだったから、なんのパワーもこめられてなかった気がする」

「それでもフツーにぶっ刺さってはいたし、倒せてもいたね。……ってことは、マナハスの光輪の攻撃って、ゾンビ相手ならパワーこめなくても勢いよく飛ばすだけで倒せるんじゃない……?」

「うーん、そうだな……出来なくはない、かも」

「そしたらだいぶ使うスタミナ減らせるんじゃない? あと、光ることもないからゾンビも不用意に集めなくなるかも」

「そうだな……さっきもそうすれば良かったのか——? ……カガミンって、やっぱ結構、頭使ってるよね」

「そりゃね、その辺の考察に関しては自分の命に直結するわけだし、当然、必要だと思うから」

「そうだよな……私は全然そこまで考えれて無かったわ……全然ダメだな、私……」

「いやまあ、マナハスはそんな考えてる余裕が無かっただけじゃない? 落ち着いて考える時間があれば、このくらい普通に誰でも考えつくと思うし」

「でも、それはカガミンだって同じじゃない? むしろカガミンの方が色々とやってんじゃん。戦いも率先して行くし、交渉もやってるし。——まあ交渉のやり方については、色々言いたいことがあるけど。落ち着く時間とかなくないか?」

「……交渉についてはともかく——」

「……」

「戦いっていっても、パーティーメンバーが増えてからは私、わりと暇してたからね」

「えぇ、そうかぁ?」

「車乗ってる時も、やることなかったしさ」

「まあそれは、そうだったか」

「そうそう、実際、ゾンビ相手なら遠距離組が強いんだよね。学校まで歩きで行ってる間も、私ほぼ何もせずに後ろからついて行ってるだけだったよ」

「マジかよ、知らんかった……。んでも、鳥が襲ってきた時には戦ってたじゃん。——つーか、あの時は私を守ってくれてたよね……今更だけど、カガミン、あの時はありがとう」

「……そりゃまあ、聖戦士ですから。私はいつだって聖女マナハスを守るさ。——まあ、だから、意外と私も役に立つ場面が限られてるってこと」

「まあ、確かに、刀だと空飛ぶ相手とか相性悪いよな」

「そうそう。だからさ、暇な時間が出来たら色々考え事していたわけ。てか、さっきも部室から体育館に戻るまでの間、ずっと考え事してたし」

「は? さっきも? いや、普通にゾンビ倒しながら進んでたじゃん」

「そうだけど。考え事しながらね」

「いやおかしいだろ……私なんて、戦ってなかったけど、とにかくアンタの後ろをしっかりついていこうと必死で、他のこと考える余裕なんて全然無かったんだけど」

「まあ、隠密行動できてたから大して敵の数はいなかったし、少数のゾンビは特に手こずる相手ではないからなぁ」

「考え事するほど余裕なのかよ……」

「マナハスは直前にやられそうになってたから、精神的にけっこう緊張してたんでしょ。まあ、それがあったから、私としては対策とか色々と考えずにはいられなかったというか……」

「それは……そうかよ……」

「まあ……その時の結論として——マナハスの魔法攻撃は強力だけど、スタミナ消費がネックになるかな、ということになったんですよ」

「スタミナか……確かに、それがなくなったからやられそうになったんだよな」

「対策としては色々考えられるけど。まあ、まずはスタミナの消費を減らすことだね。これは、パワーこめてない状態の光輪でゾンビを倒せるんだとしたら、だいぶマシになると思うんだけど」

「そうだな……試してみるか?」

「次、ゾンビ来たら試そうか。——まあ安心して。倒し切れなくても私がどうにかするから」

「それは大丈夫、信じてるから」


 あ、そのセリフちょっとキュンときましたよ。マナハスはたまに、サラッとこういうこと言うんだよね……んん、しゅき。


 ——何言ってんだコイツ。デートとか言って浮かれすぎでしょ。


 浮かれいでか。話題がなんであれ、私はマナハスと会話するだけで幸せを感じるエコ生物なんだよ。地球に優しいだろ?


 ——まあ、幸せを感じることはいいことよね。というか、こんな状況でもそれだけで幸せを感じられるなら、それはむしろ才能と言えるかもね。


 そうだよ。たとえ、真っ暗な中を人間を襲うゾンビが彷徨(さまよ)い歩いている夜の校内を命がけで探索している状況だろうが、マナハスさえいれば私は楽しくて仕方なくなるのさ。

 まあ、それもこれも、ゾンビくらいなら楽勝で倒せる能力のお陰ですけど。その点は感謝よね。それのおかげで、この状況でもただの肝試しみたいなメンタルでいられるんだから。


 ——ほんと、ここまで浮かれたテンションになってるのは、アンタが変わり者だからって理由も多分にあると思うけどね。普通の人はそれでも怖がると思うわよ。


 短所は長所でもあるっていうでしょ。まあ私は、自分が変わってるのは自覚しているけど、それを短所とはあまり思ってないけどね。

 まあその辺は何とでも言えるから。個性とでも言い換えてしまえばいい。



 さて、お試しをしようと思ったら、途端に出て来なくなるゾンビっていうことなんですけどね。

 まーあるよね〜、そういうこと。倒そうと思った時に限って、なんか全然モンスター出てこないとか。ゲームでも経験あるわー。

 まあ、それなら普通に出るまで待っとけばいいんだけど。てか、もう少しで正門につくんだよなー。まあ、そこになら結構いるんじゃないかな。


 そんなわけで、もう少しお話を続けよう。

 マナハスには、最低限の戦いの基本の立ち回りみたいなのを掴んでおいて欲しいし。

 マナハスとのおしゃべりなら、いくらでも出来るからね、私は。


 ——いや、程々にしときなさいよ?



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