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第70話 梯子ハメは基本戦術

 


 会長さんとの話が終わったくらいで、ちょうどマナハスもゾンビを片付け終わったみたいだった。

 私は体育館から出ると、マナハスの元へ行く。すると、こちらを向いたマナハスが話しかけてきた。


「話は終わったか? なんかそこそこ長話してたけど、なんだったんだ?」

「うん、会長さんがね、友達が学校に居るはずだから、助けて欲しいって」

「そうか……友達、無事だといいけどな」

「テニス部なんだって。テニスコートの場所は聞いたから、まず最初に向かうのはそこでいい?」

「いいけど。別に他に優先するとこもないだろーし」

「……とりあえず、さっそく移動しようか。こっちがテニス部の練習場とか部室棟がある方らしいから」


 そう言って私はマナハスと二人、闇の(とばり)の落ちた校内へと進み出した。


「助けると言った以上は私も最善を尽くしたいからさ、すぐに向かうことにする。本当は、もっと慎重に進むべきとも思うんだけどね……。まあ、とりあえずは、マップに敵が映る範囲にテニス部の活動場所が入るとこまで、先に移動しようかなと。状況が分からないと、急ぐべきかも分からないからさ。——ごめんね、勝手に決めちゃって。友達を助けたいって言われたら、断れなくてね……」

「いや、それについては別にいいけどさ。このゴーグルあれば普通に見えるし、誰かを守りながらじゃなければ全然いけるんじゃないの? 今の私ら二人ならさ。……まあ、相手がゾンビだけで、さっきのトラみたいなヤツが出てこなければね」

「さすがにまた、あんなヤツが出てくるのは御免だね。警戒はしとくけど。……あんまり話すとフラグになりそうだから、怪獣については控えようかな」

「……フラグっつーなら、アンタが昨日なんか言ってたでしょ、明日ならいいとかなんとか」

「い、いや、トラが来たのは私のせいじゃない……というか、実際のところは、マナハスがゾンビを殲滅(せんめつ)するのに使った魔法の爆撃の音に引きよせられたんだと思うよ」

「あ、アレか……マジ? じゃ、アイツが来たの私のせいだった……?」

「結果的に倒したし、問題ないでしょ。むしろ、この付近にいた潜在的な脅威を早めに対処できたとも言えるし、別に気にしなくていいからね。花火がどうとか言ったのは私だし」

「うぅん……でもこれからは、あまり派手な魔法攻撃は控えた方がいいかな……?」

「時と場合によるんじゃない? あの時は実際、必要だった。でも今は必要ないかな。光輪(こうりん)で一体ずつ倒せばいいと思うし。まあ、光が目立つからゾンビ寄ってくるかもだけど……」

「ゾンビって光に集まるんだっけ? それなら私、攻撃できなくね?」

「いや、どうせ校内にいるゾンビは全部倒すつもりだから、気にしなくていいよ。……っと、お出ましか」


 前方を見れば、数体のゾンビがいる。マップでも分かっていたが、私たちには(暗視ゴーグルのお陰で)暗闇でもはっきり見えている。

 普通なら、相手には私たちは見えていないだろう。こちらはライトの(たぐ)いもないし、この暗さだから。しかし、ゾンビ達はすでにこちらを捕捉していた。

 足音に反応したのか、それとも……見えているのか。連中は夜目が効くという情報もあったっけか……? 何にせよ、夜は連中の察知能力も強化されているのかもしれない。


「——気にしなくていい、ね。それなら、気にせずやっちまうぜ?」


 そう言って、マナハスは光輪を飛ばした。

 勢いよく飛び出した光輪は、こちらに走り寄ってきていたゾンビ達に命中する。行きと帰りで数体のゾンビの頭部を吹き飛ばした結果——一往復ですべてが片付いてしまった。


「……お見事」

「うん、アイツらたしかに速くなってるけど、ちゃんと位置が分かるなら問題ないな」

「——あ、そろそろマップに映るかも」


 マップの索敵範囲がテニスコートの辺りに差し掛かってきた。すると、すぐ近くにあるらしい部室棟もその範囲に収まる。

 そうしてマップに映ったのは、部室棟に重なるように映るいくつかの白い点と、その白い点のある部室の扉のすぐそばにある赤い点だった。

 私が表示させたマップを見たマナハスが焦った声を上げた。


「おい、これっ」

「……急ごう、走るよ!」

「りょーかい!」


 この白い点の中に会長さんの友達が居るかは分からないが、とにかく状況が切羽詰まってそうなのは確かだ。

 最善を尽くすなら、出来る限り急ぐしかない……!


「途中のゾンビは私がやるから、マナハスは走ることに集中して!」

「わ、わかった!」


 スタミナで全力ダッシュをすればすぐに向かえるが、マナハスを置いていくわけにもいかない。それに、途中にはいくらかのゾンビもうろついている。無視してもいいが、どうせ倒すのにそんなにはかからない。あの白い点の人達を助けた後も通るのだから、倒せるなら倒しておいた方がいい。

 しかし、一番の最善は、途中のゾンビは無視して私だけ全力で行くことではないか? という思いが一瞬、脳裏を()ぎる。しかし、それではスタミナダッシュに慣れていないマナハスを置いていくことになってしまう……

 そう思っていたら、後ろのマナハスが走りながら声を上げた。


「おいっ、やっぱ、私がソイツらやるから、お前は先行けよ! 私はそんな速く走れないしっ……」

「で、でも……」

「この程度の数のゾンビなら、平気だって、さっきもやっただろっ。いいから走れっ、最善を尽くすんだろっ!」

「わ、分かった! 気をつけてよねっ!」


 私の迷いを見透かしたようなマナハスの発言に、私は決心して全力で走る。それはまさに風を切って進んで——いや、まさに風になっていた。

 後ろからマナハスの「いや本気クソ速ぇ!」というセリフが発せられている間に、私は相当の距離を進んでいる。——もはやその視界に、部室棟の実物を捉えていた。


 部室棟は一階と二階があり、二階へは外階段で登っていくようだった。

 その二階の部屋の前に、ゾンビが居た。扉をバンバン叩いている。叩かれた扉はすでにひん曲がっていて、今にも吹き飛びそうだった。


 私はバンバン叩かれる音に集まってきていた周囲のゾンビを無視して、一直線に扉の前のゾンビに向かう。

 階段を飛ぶように駆け上がり、扉の前のゾンビに肉薄する。

 それまで扉を叩いていたゾンビは、その時になってようやく私の方を向いた。——その直後、私の刀がその頭に叩き込まれる。


 ゾンビを仕留めた私は、扉の方を見る。

 扉は歪んで今にも外れそうだったが、その奥には棚やら椅子やらでバリケードが作られていた。その隙間から見える部屋の奥に、何人かの人物が身を寄せ合っているのが見えた。

 私は中の人たちに何か声をかけるべきかと一瞬迷ったが、ゾンビ達が階段を登ってきていたので、まずはそちらにかかることにする。


 ゾンビ達が階段を駆け上がってくる。その動きは(よど)みなく、段差を登るのを苦にする様子はない。

 夜になって動きが速くなっているのは分かっていたが、階段も問題なく上がれるのか……。

 そんなことを考えながら、私は襲い来るゾンビの頭部に刀を突き刺す。階段は狭く、ゾンビは一体ずつしか来ないので、迎撃は簡単だ。

 やられたゾンビは力を無くして倒れ、階段を転がり落ちていく。すると、後続のゾンビはそれが邪魔で動きが止まる。なのでいっぺんに複数が来ることもない。


 私は襲い来るゾンビを階段の上で待ち構えて、間合いに入るとひたすら頭部を一突きして倒していった。同じことの繰り返しで、まるで作業だ。

 私はかつてやったゾンビゲーで、梯子(はしご)を登ってくる敵をひたすらナイフの一撃で下に落とすという安全重視のチキン戦法をやっていた時のことを、ふと思い出していた。


 ——確かに、ちょっと似た状況だけど……


 そんなことを考えながら、新たなゾンビに流れ作業のように放った突きが、横に(かわ)される。


 およっ?


 すぐさま刀を振って躱したゾンビは始末したが、私は軽い衝撃を受けていた。

 いや、コイツ今、攻撃を躱したぞ。今までのゾンビは、みんな防御なんかまるで気にしないで愚直に突っ込んでくるだけだったのに。

 さっきのは、偶然? それとも、もしかしてこれも活性化なの?

 さすがに何度も同じ攻撃をやり過ぎたから、学習されたのだろうか。まあ、アレだけ連発すれば普通なら学習するだろう。だが、相手はゾンビだ。ゾンビが学習したということなのか……?


 次のゾンビが来る。

 そいつは私の間合いに入る直前で、バランスを崩したかのようにその場に倒れた。——と思ったら、そのまま階段を這い登るようにして上がってきて、私の足に掴みかかってくる。


 うおっ!?


 私は、軽くその場で飛んで掴みかかる手を回避すると、着地でその手を踏みつける。そのまま着地の勢いで体が沈むのに合わせて、刀をゾンビの頭部に突き刺した。

 ……まさか、これも学習か? 偶然転んだにしては……うーん……。


 この辺りにいたゾンビは、コイツで最後だった。

 私はゾンビの頭から刀を引き抜いて、その死体を回収した。

 部屋の中の生存者に声をかける前にマナハスと合流しよう。そう思ってマナハスの方を見る。


 マナハスは少し離れたところでゾンビと戦っていた。

 目立つ光の輪が、暗闇を切り裂いて飛んでいる。マップを見れば、マナハスの周りにいくつかの赤点があり、囲まれている。だがそれらは、マナハスに到達する前に順次、消滅していっていた。


 この分なら問題無さそうかな……と思いつつも、私の足は彼女の元へ向かう。

 マップを適当な大きさにして視界の端に置いて——そこでマナハスのステータスバーの表示が目に入った。

 その黄色いゲージは無くなりかけていた。


 ハッとしてマップを見る。ゾンビはまだ残っている。これは……ッ!


 私は走り出す。そして叫んだ。


「スタミナッ! 気をつけてっ!」


 だが、視界に映るゲージは完全に無くなっていた。同時に、それまで飛び回っていた光輪の光が消えた。

 マップを見る。赤点はまだ残っている。マナハスを示す点に接近する赤点。マナハスの点も移動して、その赤点から離れようとする。


 全力で走る。マナハスを目視できる場所まで来る。マナハスは走って、後ろからゾンビが来て、今にも追いつきそうで……

 マナハスが転んだ。ゾンビがその上に覆い被さろうとした、次の瞬間——マナハスの光輪がソイツに突っ込んで吹き飛ばした。


「あっ、カガミン……」

「マナハスっ——とっ、まらないぃぃぃ」


 私はマナハスの元についたが、勢いが止め切れず、かなりの距離をオーバーしてようやく止まった。

 全力で走っても、スタミナを使えば私の息は上がらない。しかし今は、私の心臓は激しく脈打っており、呼吸は荒かった。


 私はマナハスの元に歩いて戻りながら、呼吸と心拍数を落ち着かせていった。


「か、カガミン……」

「マナハス……無事? 怪我してない?」

「ああうん、大丈夫……」

「そう……それならよかった」

「……あー、えっと、その……」

「とりあえず、部室棟のところまで行こう」

「ああ、うん、了解……。——向こうは、大丈夫だった?」

「向こうの敵は全部倒したから、大丈夫」

「そうか、さすが……」


 それから私たちは、無言で部室棟まで向かった。

 マップを見ても付近に赤点は無かったので、普通に歩いて向かう。


 すぐに私たちは部室棟にたどり着いた。

 階段の下にゾンビの死体が溜まっている。飛び越えてもいいが、生存者を連れて通るのに邪魔なので、進路上のモノに限り回収しておく。

 そうして道ができたところで階段を登っていき、生存者のいる部屋の前に来る。

 そこで私は、部屋の中に向けて声をかける。


「あの、助けに来たんですが、中にいらっしゃいますよね、無事ですか?」


 すると、中からざわついた気配がして、しばしの後に返事が返ってきた。


「あ、居ます! た、助けてください!」

「はい、大丈夫ですよ。そのために来ましたから」

「ホントに、助けが来たんだ……」

「あのー、それで、この入り口のやつなんですけど……」

「あっ、それ、バリケードというか……」

退()けないと出れないですよね、えーと……」

「あ、すぐに退けます! ——あ、でも、これ、結構ぐちゃぐちゃになってて、時間かかるかも……あ、でもすぐに退けますんで! どうか少しだけ待っててください! お願いします……っ!」

「あ、いえいえ、それはいいんですけど……あー、やっぱり私たちがやりましょうか? その方が早いと思うので」

「え、でも、そちらからじゃ無理じゃ……?」

「そうですね……このドア、もう壊れちゃってるので、取り外してしまっても、大丈夫……ですよね?」

「え、はあ、それは別に、いいと思いますけど」

「じゃあ、今からこれらを退けていくんで、危ないので離れておいてもらえますか」

「あ、はいっ、分かりました!」


 まあ、このドアを壊してしまったところで問題はないよね。すでにひん曲がってドアの役目果たせてないし。もうこれは廃棄でしょ。

 さて、それじゃ力技でやっちまうか。


「私がドアを引っこ抜くからさ、マナハスは中のやつお願いできる?」

「ああ、分かった。……これくらいなら任せろ」


 私は一応、ドアノブを回してみる。どうも鍵がかかっているようだ。


「やっぱ鍵だけ開けてくれない? そうした方が楽かな」

「おう」


 マナハスが手をかざすと、ガチャリ、と鍵が開いた。

 そこでノブを回して普通にドアを開こうとするが、引っかかって開かなかった。なので、力を込めて強引に引っこ抜く。もちろん、込めるのはスタミナパワーだ。


 バキッ! と音がしてドアは根本から外れた。

 外したこのドアは……


「あー、これ、どうしよう、邪魔だな……」

「あ、それなら、私が下に降ろそうか?」

「そうだね、お願い」


 マナハスが念力で扉を持ち上げて、そのまま地面まで下ろした。

 まあ、私が投げ飛ばしてもよかったんだけど、それだとうるさいだろうし。ここらのゾンビは始末したけど、大きな音は出さないに越したことはない。

 それからマナハスは、ドアの前に積まれていたバリケードのあれこれも念力で片付けていった。

 確かに、ぐちゃぐちゃに積み重なっててだいぶ片付けるのに時間がかかりそうだったが、マナハスの念力にかかればすぐに片付いた。

 まあ、手でやるのとは根本的に違うから、その効率は圧倒的だ。


 そうして、ようやく出入り口が通れるようになったので、私とマナハスは中に入る。



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