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第69話 まるでビームが出そうなくらいイカしたファッション

 


 私は取り出したゴーグルをさっそく付けてみる。


 ふむふむ……お、おお、お?


「おおぉ?!」

「なっ、なんだ? どうした! ——ってお前、何そのゴーグル、ビーム出すん?」


 マナハス、私とおんなじ事言ってるし。

 いやいや、てかこれ、すごいですよ。

 めっちゃハッキリ見える。暗闇でもフツーに見える。若干、色が薄くなってるくらいで、後はマジで昼間と変わらんくらいのレベルで見える。

 しかも全然、視界の邪魔にもならない。てかまずフレームとかが無いんだよ、見える範囲に。何も付けてないのと同じ視界の広さ。ゴーグルを付けている感覚ないわ。これはすげぇ。


「いやこれ、暗視ゴーグル。めっちゃよく見える」

「マジか。てっきり目からビーム出す新兵器かと」

「マナハスの分も買っといた。ほれ」

「どれどれ……これ、どうやってつけんの? バンドとかなんもねーじゃん」

「普通に目のとこに持ってったら自動で装着されるよ」

「マジかよ……うお! マジで付いた、——ってめっちゃ見える! マジで暗闇問題ないじゃんこれ。……てか全然付けてる感覚もないなこれ……うっかり忘れそーなくらいだわ」


 MPを確認する。見たところ、ほとんど減ってないっすね。うん、この感じなら何時間かは持つんでね? バッテリーは要らないかな。


「一応、これ付けてる間は青ゲージが減っていく仕様だから、その点は注意しといてね」

「あ、これそーゆう感じなのね。オッケー、了解」

「さて、これさえ付けとけば夜でも視界は問題無さそうだね」

「そうだな。……これ、光ってる方見たら眩しくて見えなくなるかと思ったら、そーでもないんだな。オイオイ、なかなか高性能なんじゃねーの」


 マナハスがまだライトの付いてる体育館を見ながら、そんなことを言う。

 確かに、体育館のライトの方を見ても普通に見える。なんか、光を増幅して見えるようにする暗視ゴーグルとかだと、暗闇は見えるけど明るいところは逆に見えない、みたいなヤツとかあったような気もするんだけど、このゴーグルはそうはならんらしい。

 なら、明るいところでも別に気にせんでいいやんね。そりゃ楽でいいわ。MPだけ気にしとけばいいってことか。


 あ、てかライトで思い出したけど、光でゾンビを集めるって注意しとくの忘れてた。まあ、まだ生存者連れてきたりするし、消すとしたらそれからの方がいいかもしれないけど。

 だとしても、外に光が漏れないように注意しておくに越した事はないか。やっぱ行く前にそれだけ伝えてこよう。


 私がその(むね)中野くんにでも伝えるかと思って扉の元に戻ったら、ちょうど向こうから中野くんの声がこちらに話しかけてきた。


「——あ、あの、カガミさん! まだそこ居ますか? ちょっと戻って欲しいんですけど!」

「居ますけど、何ですか?」

「あ、えっと、今、扉開けても大丈夫ですか……?」

「はい、大丈夫ですよ」


 すると、扉が開いていき中野くんの姿が現れる。その横には会長さんの姿もあった。

 すると会長さんは私の姿を見て、


「な、なんですかその……ゴーグル?」


 あ、やべ、付けたままだった。

 ま、いいか。どうせコレからはしばらく付けとくんだし。


「これですか? まあ、これは気にしないで下さい」


 私がそう言っても、中野くんは納得しかねるという顔をしていた。


「いや、そんな言われても……めっちゃ気になるっすよ」

「——別に、ビームは出ないんで、安心して下さい」

「あぁ、確かに、めっちゃ出そう……っすね……」


 そう言うと中野くんは、なんか俯いて黙り込んだ。

 私はそんな彼から会長さんの方を向いて、彼女に話しかける。


「それで、何か伝え忘れでもありましたか? 私の方も、ちょっと言い忘れたことがあったんですけど」

「言い忘れたことですか? なんでしょう、先に話してもらえますか」

「——えっとですね、この体育館のライトなんですけど、外に光が漏れないようにしっかりカーテンをするとか、ちょっと工夫しておいて貰いたいんです。というのも、ゾンビ達は光に引き寄せられる性質があるので、まあ、連中を刺激しないためにも、なるだけ夜は暗くしておくのが無難だと思います」

「それは……問題ですね。そういうことなら対処しておきます」

「お願いします……それで、そちらは何か用件が?」

「えっと、その……お二人は、今から校内を巡って生存者を救出しに向かわれるんですよね?」

「はい、そのつもりですけど」

「……その、私、今更、こんな事言えた立場じゃないと、分かっているんですが……」

「……?」

「頼みが、あるんです」

「はあ、なんでしょう」

「私の友人が、テニス部の部長をしているんですけど、それで、今日もちょうど学校に来て練習していたんです。だけど……あの子は、ここには避難して来なかった……」

「……」

「探しに行こうかと何度も思ったけど、私が行ったところでどうにかなるとは思えなかったし、会長だからって、いつの間にかここの人たちをまとめる事になっていて離れられなかったし……。いや、それはただの言い訳ね……結局は私、ここから出るのが怖かったの……」

「会長さん……」

「でも、ずっと心配だった。体育館には来なかったけど、きっとあの子は生きてる。しっかり者だから、生き残ってるはず……」


 そこで、彼女は私の目をみつめてくると、それまでとは違う(あらた)まった様子に変わった。

 彼女は私に対して、今までは終始胡乱(うろん)げな態度であったが、今はそれから一転した、真摯な態度と必死さが(にじ)む声になり、私に語りかけてくる。


「——だから、お願いです、カガミさん。どうか、その子を助けに行ってもらえませんか。……今更、あなた達に、こんな事を言えた義理じゃないのは分かっています。……でも、どうしようもないと思っていたところに、助けることが出来そうなあなた達が来たら、私、どうしても頼まずにはいられないんです……。私が自分で行動したって、どうにも出来ないなんて事は分かっているんです。でも、ずっと気がかりでどうしようも無くて……頼まずにはいられないんです。お願いします、どうか、彼女を助けて下さい……! ——もちろん、タダでとは言いません。カガミさんが助けに行ってくださるなら、私、対価としてどんなことでもします。どんな代償でも支払います。自分で助けに行ける実力はないけど、それでも……彼女に、もう一度会えるなら、私、なんだってします。その覚悟はあります……! だからどうか、どうかお願いしますっ……!!」

「……そんなに心配なさるということは、よっぽど大切な方なのですね。……もしかしてお相手は——親友、ですか?」

「……ええ、私の一番の友人、親友です。この世に一人しかいない、かけがえのない存在なんです……」

「分かりますよ、あなたのその気持ち。……私にも、そういう存在が居ますからね」

「カガミさん……」

「心配はいりませんよ、会長さん。元より、校内に残っている生存者はすべて救出するつもりでしたから」

「カガミさんっ……!」

「会長さんにここまで頼まれたとあっては、私も奮起しないわけにはいきませんね。……ただ、正直言って、必ず連れて来ますと軽々しく言う事は出来ません。さっきも言いましたけど、ゾンビになってしまえば我々でも手遅れですので……。——ですが、まだ無事に生存していたとしたら、その時は必ず無事にここまでお連れしますよ。それについては、聖女様への信仰にかけて誓いましょう」

「カガミさん……ありがとうございます……っ!」

「——では、テニス部の部活をやっている場所とか、教えてもらえますか?」

「あ、はい、分かりました」


 それから、会長さんにテニスコートの位置とか部室の位置なんかを教えてもらい、それらをマップと照らし合わせて確認し大体の場所を把握する。

 よし、それならまず行くのは会長さんの友達の所だな。


 そうこうしていると、それまで黙っていた中野くんが話に加わってきた。


「……女子テニスの部長といえば、幽ヶ屋(かすがや)さんっすか」

「あれ、中野くん。さっきまで私たちを見て、なんかこっそり笑ってませんでした?」

「——っ! あ、いや……」

「……中野くん、私が真剣に話している陰で笑ってたんですか……?」

「い、いや違います! 違うんですっ!」

「でも、笑いを(こら)えてたのは事実ですよね」

「そ、それは……」

「やっぱり笑ってたんですか? ……酷いですよ、中野くん。何がおかしいんですか?」

「ち、ち、違うんです! た、確かに、わ、笑いそうになってたけど、そ、それは……」

「それは、何です?」

「それは、いや、だって、カガミさんが……」

「え、私?」

「だって、カガミさんが……変なゴーグル付けたまま、真面目な話してるもんだから、なんか、その、ふふっ——あ、いや、すんません……ふふっ」

「……これですか?」


 そう言って、私はゴーグルを掴んでクイッと動かしてみる。


「……い、いや、だって……なんなんすかそれ……意味わかんない……ちょ、それやめて下さいカガミさん……ふ、ふふぅ……」


 すちゃっと外して、また付ける。外して、また付ける。

 ……どうやら中野くんは、私のゴーグルがツボに入ったようだ。


 さっきから、なんかこっちを見てプルプルしてると思ったら、私のゴーグルのせいだったのか。……まあ(はた)から見れば、確かに面白いのかもしれない。

 謎のサイバーゴーグルをかけた奴に、真剣に頼み込む会長。話の内容がシリアスである程、逆に笑ってしまうアレだな。葬式とかを舞台にしたコントなんかのパターンのやつだ。

 なるほど、中野くんはシリアスな笑いに弱かったのか。これはいいことを知ったぜ。


 ——また(ろく)でもないこと考えてるわね……中野くん、弱点知られちゃったわよ、どんまい……。


「中野くん。人のファッションを笑うなんて失礼ですよ」

「こ、これ、ファッションなんすかっ!?」

「……い、いえ、そういうわけではないんですけどね……ふふ」

「ちょっと、カガミさんも笑ってないすか?」

「いえ笑ってません」——私は瞬時に真顔になることが出来る。

「中野くん、あまりカガミさんに失礼な事を言わないで下さいよ。ファッションなんて人それぞれでしょう」

「いや、あの、ファッションじゃ——」

「会長はっ、カガミさんのこのゴーグル見ても何とも思わないんですか……?」

「変わったゴーグルだとは思いますけど、それは私の感性の話ですから」

「そ、そうっすか……」

「……」


 ——結局、会長さんからの扱いはファッションで決定した感じかしらね。


 ……まあ、その程度の誤解は別に構わないけど。今はそんな話してる時間ないし。後でいいさ、後で。


 ——構わないと言いつつ、やっぱり後から誤解は解くつもりなのね。


 私は目からビーム出すミュータントではないからね。それにまあ、私にも乙女のプライドってもんがあるので。



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