表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/247

第57話 ボールをゴールにシュゥッ!! エキサイティンッッ!!

 


 トラはあえてそうしているとばかりに、私の方にゆっくり近づいてくる。

 だが、元々の歩幅がデカいので、私のところまではすぐにたどり着くだろう。


 私は動かずにその場で待つ。

 どうせ、私に出来るのは防御だけなのだし。攻撃に転じたら逆にこっちがやられるだけだ。


 トラは攻撃が届く距離の少し手前で止まる。

 この距離ならヤツの前脚も届かないが、一体、何をするつもり……?

 私は何が起こっても反応できるように身構える。引くことは出来ないので、待ち受けるしかない。

 トラが口を開く。口を……? ——えっ!?


 瞬間、私の視界が真っ赤に染まる。

 その直前から私は全力でダッシュ、とにかくその場から離れる。

 体に何かが(まと)わりついてくる。首元からジリジリと振動のようなものを感じる。なぜか息ができなくなり、目も開けられなくなる。しかし、とにかく走り続ける。


 状況を把握したのは、体に纏わりつく何かから出たと分かって、振り向いた時だった。


 トラの口からは炎が吹き出していた。

 凄まじい火炎放射だ。ギリギリその射程からは離れたが、熱波は(いま)だに凄まじい。

 私はさらに距離を取りながら、自分の体を素早く確認する。

 どこも燃えているところはない。髪とか服とか燃えそうなものだけど、HPが防いでくれた?

 確かに、緑のゲージはかなり減ってる。回復しなきゃ。

 ……つか、さっきからコレなんだ? 首が……


 首元に手をやると、何やらずっとジリジリやってたのが止まり、私の手の中に落ちてきたそれは、例の飛沫バリアシールだった。

 しかし、それはもう機能を失っていた。


 ——もしかしたら、それが炎から(まも)ってくれたんじゃない? HPのバリアがあっても服はやられてたじゃん。でも今回無事だったのは、それが炎にも効果があったから、だったり?


 マジか、それはすごく助かったけど、コレもう壊れちゃってる。ギリギリだったんだ、たぶん……。

 これのおかげで、服が燃えるという乙女として最悪の事態にならずに済んだけど。ヤバいな、まさかトラがこんな技が使えるなんて。てか火炎放射するトラってなんだよ、ふざけんなマジで。

 いや防げないってこんなん、避けるのムリ。射程長いし放射速度も早い。トラ自体が素早いから、回り込むことも出来ん。いや、どーするこれっ!?


 (さいわ)い、トラは火炎放射中は動けないようで、移動しながら火を吹いてはこなかった。もしそれが出来たなら、私は逃げられずにやられていたかもしれない。バリアももたなかっただろうし。

 つーかバリアだ。新しいのをつけたいけど、予備を持ってないんだよね……。新しく買えばいいんだけど、購入して装備してって時間は無いだろう。

 すでにトラは、火炎放射を終えようとしている。


 連続で火炎放射を使えないとしても、また使えるようになるまでにも普通の攻撃はしてくるだろう。だとしたら、新たなバリアシールをつける余裕はない。つまり、次の火炎放射が来たら詰む。

 ならば逃げるか。校舎の方まで走って、中に飛び込んだら時間は稼げるだろう。だけど、そうしたら、今も校舎内にいる生存者を危険に(さら)すことになる。避難者のみんながどこに隠れたのかも分からないし……。

 だが、このままでは私は詰んでる。負けの決まった勝負をするつもりは無い。なんとか足掻かないと。

 他人にリスクが生じるとしても、私はここで死ぬわけにはいかない……!


 トラが火炎放射を終え、私の方を見る。

 そして前傾姿勢へ。——これは飛びつきの予兆だ。

 逃げるにしても、コイツの攻撃を(しの)ぎながらならそれも大変だ。でも、やるしかないか……!


火神(かがみ)さんッ! 加勢にっ、来ましたッ!」


 何っ——!?

 見れば、藤川さんがこちらに走ってきている。その後ろにはマナハスもいる。

 二人とも、来ちゃったのか。いや、来てくれたのか。

 これは、どうなる……?

 二人は戦える? 私はどうする? このまま来させていいの? やっぱ戻らせた方が——


 私が迷っているうちに、藤川さんはすでに行動していた。トラに向けてアサルトライフルを連射する。

 さすがのトラも銃弾は避けきれない様子で、その場で防御姿勢を取った。

 だが、銃撃が当たった後のトラに(こた)えた様子はなかった。——ほとんどダメージは無さそう……。

 しかし、それでもトラが藤川さんを敵とみなすには十分だった。


 トラが藤川さんに向き直り、一瞬で距離を詰める。

 トラのスピードに藤川さんはまったく反応できず——いとも簡単にトラの一撃で吹き飛ばされた。


 あっ、藤川さんッ!


 即座に視界の隅の藤川さんのHPゲージを確認する。——一撃で半分以上削られていたが、まだ残っている。

 一先(ひとま)ずは無事だ。しかし、次もまともに食らえばそれでアウトということだ。


 藤川さんは空中を相当な距離ふっ飛んで、最後は地面を削りながら、グラウンドの端のサッカーゴールの中に突入し網に絡まったところでようやく止まった。


「……ゴール」


 ——言ってる場合かっ!


 わ、分かってるよ!


 当然、私はすでにトラを追いかけて走っている。

 しかし、私のスタミナダッシュを使ってもトラの速度の方が速い。——ってか地味にこの砂のグラウンド走りにくいッ!

 トラは一瞬、近くにいたマナハスに視線を向けたが、すぐに無視して藤川さんの方に向かう。

 私もそのトラの動きに合わせて、マナハスに向けていた進路を藤川さんの方へ変更する。


 くそっ、最初から藤川さんの方に行っときゃ良かったか……だけどマナハスも心配だった。

 だが藤川さんはあと一撃とて耐えられないのだ……ヤバい、間に合わん——っ!


 トラがゴールに到達する直前——光る物体がトラにぶち当たる。


 ゴアァァァ!!


 アレはマナハスの光輪(こうりん)! トラが止まった! さすが聖女!


 光輪の攻撃は一度で終わらず、トラの周囲をブンブン飛びながらトラの注意を引く。

 おかげで私が間に合った。

 このトラ畜生めっ! 食らいやがれっ!


 走る勢いのまま私は飛び上がり、トラへ攻撃を仕掛ける。

 背後上空から迫る私に——しかしトラは気がついていた。


 トラの振るった前脚が光輪を(とら)えて弾く——


 ガッギンッ!! 


 っぶねぇ! 嘘だろオイっ! 弾いて飛ばしてきやがった! 狙った?!


 ギリギリで飛んできた光輪を刀でガードしたが、お陰で私は死に体だ。

 トラは着地を狩る気マンマンで私を待ち受ける。


 バシュバスバスバシュッ!


 トラがその場を飛び跳ねた。

 藤川さんが両手にハンドガンを持ち連射していた。——トラの顔を狙っているようで、嫌がるトラは距離を取る。


 私はなんとか無事に着地して、藤川さんの元へ。

 たどり着いた時には、ちょうど藤川さんは弾切れになった。


「火神さ——」

「藤川さんっ、まずはHPを回復してっ! 緑のアイテムを使って、早く!」

「あ、は、はい! え、えーと……」


 私は藤川さんとトラの間に立ち塞がる。彼女が回復するまでは、私がコイツを止めないと。

 トラは私より藤川さんを狙いたいようだが、サッカーゴールが邪魔で回り込めないようだった。


 ——このゴール、意外と使えるかもしれないわね。何となく手を出しづらそうだわ。


 確かに、やろうと思えばこの程度、軽く吹っ飛ばせそうだけど。なんだろう、網が絡まるのが嫌なのかな。

 確かに、猫の爪ってなんかたまに引っかかって取れなくなるもんね。


 トラは回り込むのを諦めたようで、私を先に吹っ飛ばすことにしたようだ。

 だが、今この場を引くわけにはいかない、耐えてやるっ!


 私はトラの攻撃を刀で弾く。

 今まではそれで吹っ飛ばされていたが、今はその場で耐えられていた。その理由は、トラの動きが制限されているからだ。

 地味にゴールポストが邪魔をして、大ぶりな攻撃が出せないのだ。なので、チョコチョコと猫パンチのような攻撃をしてくる。その攻撃なら、なんとか私にも弾くことが出来た。

 しかし、それでもスタミナ全力でないと無理だ。相手は軽い攻撃だが、それを相殺する攻撃を私が出すとしたら、全力じゃないと釣り合わない。つまり、消耗度ではこちらが凄まじく不利ということだ。

 これ、長くはもたないっ。スタミナ回復アイテムを使えば続けられるが、それも数が限られている……ぐぐぅ!


 ギンギンギャリィン! と硬質な音が響き、ぶつかり合う爪と刀の間に火花が散る。

 私はただひたすら、目の前の爪を弾くことだけに集中する。後はただ、スタミナの残量だけ頭の片隅で気にするのみ。


 見るともなしに見ていた視界の端で、何かが動いた気がした。しかし、気にする余裕はほとんどない。


 ——これは、真奈羽(まなは)の青ゲージが減っていく……魔法攻撃!?


 トラの攻撃が止んだ。

 見ると、マナハスが少し離れたところで、今まさに魔力弾を放とうとしていた。トラもそれを察知して、警戒している。

 マナハスが杖を振る。放たれた青い光弾は、かなりの速度で飛び出し——次の瞬間にトラに着弾した。


 ドンッッ!!


 爆音と衝撃、トラが大きくよろめく。

 しかしすぐに持ち直し、マナハスの元へ突進——ヤバいっ!


 瞬間、私も駆け出す。——だがトラには追いつけない!

 トラはもうマナハスの元に到着し、攻撃をしようとして——マナハスが反射的に頭を(かば)うように杖を持つ腕を振り上げる——ビビったようにその場を飛びのいた。

 アイツ、マナハスの杖にビビってる? でもこれなら間に合うッ!


 トラが口を開ける。あ、それは——マズいッ!


真奈羽(まなは)ッ! 防御ッ! してっ!」


 私は走りながら叫んだ。

 トラが口から燃えさかる炎を吐いたのと、マナハスの前に半透明の膜が出来たのは同時だった。

 炎は膜のフチにそって外へ流れる。ちゃんと防がれている。


 ——真奈羽のスタミナが持たないわ!


 分かってる。もう私は追いついたぞッ!

 ブレス中に攻撃するのは基本! お前がもっとも無防備なのは今だッ! 食らえ、オラァ!!


 私は飛び上がり、今度こそヤツの顔面に刀を叩き込む。——今度はちゃんと目に当たったぞ!


 ギャオォン!


 トラが仰け反り、ブレスは中断される。ブレスの残滓が私を(かす)める。

 ——あぶねっ! 服の端が焦げたかもっ。

 私はすぐにマナハスの元へ。

 マナハスは、スタミナを使い果たしていた。——かなりギリギリだった……。


「か、カガミン——」

「抱えるよ」

「えっ? ちょっ——」


 有無を言わさずマナハスを抱え、藤川さんのいるゴールまで走る。

 とにかくあそこに行けばなんとか……


「火神さんッ!」


 藤川さんがこちらに銃を向けている。狙いは私、の少し上。——もう追ってきたか。

 巨大な足音がすぐ後ろに迫る。藤川さんの銃が火を吹く。後ろから、ウァオゥ! みたいな声がして足音が止まる。

 そのまま藤川さんの銃撃は続き、それが終わるころには、私たちはゴールに到達した。

 すぐにマナハスを下ろして、私は刀を構える。


「ご無事ですかっ!」

「ありがとっ、藤川さん!」

「うう、助かった……」


 トラがまた私たちの方へ来る。


「私が食い止めるから、二人は援護してっ」

「了解です!」

「わ、分かった!」


 二人が来たおかげで、攻撃を任せられる。私が防御に徹してトラを二人に近づけさせなければ、後は二人が攻撃してくれる。

 藤川さんの銃撃の威力は今ひとつだが、ヤツの注意をそらすことは出来る。

 そしてマナハスの魔力弾なら、ヤツにもかなり効いてるはずだ。まるでロケットランチャーみたいだったし。


 一つ気がかりがあるとすれば、また火炎放射が来た時だけど——マナハスに防いでもらう……?

 ただスタミナが持たないから、攻撃して中断させないといけないだろうか。あの膜の内側から銃撃(じゅうげき)って出来るのかね?

 試す時間は無い。ぶっつけ本番しかないか……


 だが、二人が来たことで希望が見えた。私がヤツの攻撃に完全に対応できれば、後は二人が攻撃してくれる。私はただ耐えているだけでいい。

 今までは、それではジリ貧だったが、ここからはそれが勝利への道だ。


 さあ、このクソったれのトラ(ファッキンタイガー)め、反撃開始だ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ