第46話 頭部に刃を突き刺していくだけの簡単なお仕事です(※ポイントも貰えるよ)
バックヤードから店内へ出てきた私たち。
ここに出てきたのは、バックヤードから退避したかったというのもあるが、それ以外にも理由がある。
私はパーティーメンバーのみんなに向けて、声をかける。
「まあ、とにかく、みんなにはここで色々と練習して貰わないとなんだよね。最低限、動けるようになってもらわないと」
スキルのインストールは終わったが、まだみんなスタミナの使い方など試していない部分もある。
あの狭いバックヤードでは走り回ったり出来なかったが、ここでならそういうのも出来るだろう。
まあ、その前に、床に散らばるゾンビ共の体を片付けないといけないんだけど。
「その前に、邪魔なゾンビを片さないとだね。それじゃ、私はゾンビを片して回るから、三人は力の使い方に慣れるよう練習してもらって——」
と、私のセリフの途中で、越前さんが割り込んでくる。
「ちょっと待ってくれ、君は、一人で全部のゾンビを始末するつもりか?」
「そうですけど……?」
「それは……大丈夫なのか?」
「……? ええ、まあ。おそらく、頭に刀を刺せばそれで簡単に倒せると思うので、そこまで難しくはないですし。一人でやれない仕事量ではないと思いますが」
「いや、そうじゃなくて……。君自身もさっき言っていたけど、ゾンビを殺すことに、耐えられるのか? 辛くは、ないのかい……?」
これはもしかして、私があまりにも平然とゾンビを始末しようとしてるから、ちょっと引かれてる?
実際のところ、すでに気絶してるゾンビにトドメ刺すだけだから、作業としては難しくないし、心理的な負担というのも私はほとんど感じていない。
なぜなら、ゾンビは死体で人間には戻れないとはっきり分かったから。それならもう殺すしかないし、結論が決まった以上、そこまでの過程でうだうだ悩んでも仕方ないと思っているので、躊躇はない。
それに、ゾンビなら今までにもゲームで散々殺してきたし、今更って感じ? まあ、リアルとゲームじゃ、そりゃ違いはあるけどさ。やっぱり、リアルは色々と生々しいし。
でもそれは、逆に言えば、それだけ真に迫っているということで。今までのどんなゲームよりも刺激的とも言える。
私はゾンビを殺すことに対して、いちいち倫理がどうたらと悩んだりするつもりはない。
私の常識ではゾンビは悪で、倒すべき敵。むしろ、どれだけ残虐にぶっ殺せるかを競うような存在だ。てめーらゾンビは派手に内臓をぶち撒けていればいいのだ。
そんな私に対して、越前さんは常識人として驚いているのだろうか。だとしても、私はそんな自分を変えるつもりはないんですが。
「君一人が背負う必要はない。いや、そもそも君のような女の子は、そんなことするべきじゃないと思う。だから……必要なら俺が連中を始末するよ。今後は全部俺が倒す、とはいかないかもしれないけど、少なくとも、ここの連中くらいは……」
いや違った。私のことを案じてくれているのか。
なんやかんや言いつつ、私もゾンビを殺すのがキツい筈だ、と思っているんだろう。実際はそうでもないんだけど。
「それじゃ、手分けしてやりますか。確かに結構、数が多いですし。私一人じゃそこそこ時間かかりそうですからね」
「え、あ、うん。……いや、ちょっと待って、俺がやるから、君は無理して手を下さなくてもいいんだよ?」
「別に無理はしてないですよ。ただ連中の頭に刀を刺し込むだけですし。……むしろ、越前さんこそ大丈夫ですか?」
「俺は……大丈夫、やれるよ。君の言うことは信じるし、連中はもう殺すしかないと覚悟なら出来てる。だから、俺はやる。連中の頭にコイツを突きつけて、引き金を引いてみせる……!」
そう言って、握った拳銃を見つめる越前さん。
あ、いや、それなんですけど……
「あー、あのー、やる時は、銃じゃなくてナイフかなんか使って貰いたいんですけど……いいですか? 銃の弾は消耗品だし、その、もったいないので……」
「えっ? あ、ああ……そ、そうか……」
「ナイフならお渡ししますんで。……それで、大丈夫ですか? ナイフだと、直接こう、手で刺すことになりますけど」
「あっ……い、いや、大丈夫大丈夫。君も手ずから刀で仕留めるのに、俺がナイフにビビってちゃ、わけないよ、ハハッ……」
「あの、別に無理しなくていいですよ……? やっぱり銃を使ってもらっても——」
「いや大丈夫大丈夫! 一度言った事を撤回したりしないよ!」
「……後悔してません?」
「……ほんの少しね。でも、本当に大丈夫。どっちにしろ、慣れておく必要があると思う。銃もナイフも、本質的には違わないんだ。なら、どっちは出来てどっちはダメなんて、そんなのは今のうちに無くしておいた方がいいだろう……」
「それなら……これ、どうぞ」
そう言って私は、適当にショップで見つけたナイフを越前さんに渡す。
これもショップで買った武器だし、その辺のナイフよりはよっぽど高性能だろう。
越前さんは少しだけ躊躇したが、しっかりとナイフを受け取った。
「それと、おそらくですが、ゾンビを倒したら回収出来ると思うんです。なので、全部回収しておいて貰えますか」
「回収……? って、なんなんだい?」
「ええと……ちょっとやってみますね」
そう言って私は、近くにいたゾンビに近寄ると、呼び出した刀を頭部に突き刺した。——あっさりと、まるで躊躇も葛藤も感じさせない自然な動作で。
ビクンッ、と一瞬、ゾンビは震えて、すぐに動かなくなった。そして、ポイントが追加された。
……あ、やっぱゾンビも殺せばちゃんとポイント入るのね。
——ってか低っ! ゾンビのポイント少なっ!
いや、カスやんこんなん。数だけのザコにしても少なすぎへん?
……いや、まあ、こんなもんなんか。ポイント入るだけマシか。
そして、やっぱり回収も可能だった。
コイツらの死体を回収して、一体、何に使えるというのか。さすがに、ちょっと調べる必要があるかな。
私はゾンビの死体を『回収』する。——すると死体は光を放ち、消えた。
「とまあ、こんな感じで、倒したゾンビは回収出来るんです。死体を放置しても邪魔なんで、回収しちゃって下さい。倒した死体に注目したら、回収って画面に出てくると思うんで」
「あ、ああ……。わ、分かった」
越前さんは若干ビビったように返事をする。それはゾンビの死体が光って消えたからなのか、私があまりにもアッサリと殺したからか、あるいは、その両方か。
マナハスと藤川さんの方を見てみたが、二人はそれほど驚いてなかった。まあ、二人は私がすでに恐竜くんやらカラスやらを殺したことを知っているしね。今更ゾンビに驚いたりはせんやろ。
まあ、だからといって自分が手を下すのは、また別なんだろうけど。そこはまあ、ゆっくりやって貰えばいいと思う。
別に、私としては二人が——やっぱりゾンビ殺すの無理っ、ってなったとしても別に構わない。それなら、ゾンビは私が殺せばいいし。二人には別のことをやってもらえばいい。
ゾンビはゾンビでも動物ゾンビはやれるかもしれないし、前にも言ったが、怪獣という問題もある。
むしろ、ゾンビ自体は脅威度は低いし、そっちの方が加勢に意味があるような気もするし。自衛だけなら非殺傷でも事足りる。
まあ、スタンはコスパが悪いから、出来れば殺っちまいたいんだけどね。
非殺傷弾は通常弾より割高だし、スタンモードはMPを消費する。出来るだけ無駄は避けたいところだが、二人の気持ちよりも優先することではない。
越前さんがバリバリ戦ってくれるなら、戦力的には問題ないと思うし。
というわけで、私と越前さんは店内のゾンビをお片付けしていく。
その際に一応、得た情報の確認として、ゾンビの体を軽く調べてみる。脈拍や、呼吸なんかはどうなっているのかとか。
結論から言えば、どちらも存在しなかった。スタンは対象を傷つけずに無力化する技なのだから、それらの生命活動を無くしてしまうことはないはずだし。——ということは、そもそも元から無いんだろう。
呼吸も脈拍も無いなら、それはもう死体ですわ。つーかコイツら、どうやって動いてんだろ。
まあ、腕だけでも動いたりする時点で、普通じゃないなんて分かりきってたけど。
さて、それではゾンビをサクサクと仕留めて回収していきますよ。越前さんも手伝ってくれているので、そんなに時間はかからなさそうだ。
最初の一体は中々苦戦していた越前さんだが、その後は宣言通り、ナイフで着々とゾンビを始末していった。
越前さんが始末したゾンビのポイントは、越前さんに入っている。そういう契約にしているので。やろうと思えば、これをすべて私に入るようにも設定出来るのだ。してないけど。
まあ、パーティーメンバー間では、お互いの許可があればポイントの受け渡しは自由に出来るっぽいので、その辺は適当でいいかなと思ってる。
越前さんは、ゾンビの回収もちゃんとやってくれている。むしろ、そっちの方が苦戦していたかもしれない。例によって、回収の仕方がよく分からないとかなんとか。
そういえば、回収するのにも若干MP消費するのよね。回収した死体に使い道がないなら、回収するのはむしろマイナスになるか?
今回は邪魔になるから回収するけど、道端のゾンビを倒した時は放置するべきかなー。
気になるので、回収したゾンビの死体で何が出来るのか調べてみる。
……ふぅん……なるほど。
どうやら、回収した死体は売っぱらってポイントに変換出来るようだ。
そのポイントも、倒した時と同じで大した量では無いが、チリも積もれば何とやら。MP消費だけでポイントが稼げるなら、回収するべきかなー。
そしてそれ以外にも、なんか素材としてアイテムと交換するみたいな、そういうのもあった。
ゾンビの死体と何が交換出来るかと言うと、例のゾンビ毒の治療薬である。
ざっと計算してみたところ、どうやら回収死体を全部ポイントに変えてそれで解毒剤を買うより、素材として解毒剤に変換した方が効率はいいみたいだ。
まあ、これはあくまで解毒剤を入手する時の場合で、解毒剤が要らないならポイントに変えたほうがいい。
なので解毒剤が必要なら解毒剤にして、そうじゃないならポイントに変えちまえばいいってことかな。
解毒剤は一応、保険としていくつかは揃えておきたい。自分達以外にも使う可能性あるし。消耗品の中ではそこそこ必要ポイント高いから、いくつか揃うまではゾンビの死体と交換するかな。
ちなみに、ゾンビの死体百体で解毒剤一個って感じだ。それも結構な数なんだけど。それでも、百体分をポイントに変えても解毒剤の値段の半分のポイントにもならないので、解毒剤なら交換の方がいい。
てか、ゾンビからの獲得ポイントが総じて低すぎる。マジでカスなんだよね。ゾンビはカス。色んな意味でカスですわ。
つーか死体をポイントに変えられるなら、恐竜くんの死体はどーなのよ? めっちゃポイントもらえるんじゃないの? でも、せっかくの素材でもあるから、そっちの方も気になるし……まだ保留かな。
多分、恐竜くんの素材とか、まだ私には扱いきれないやつでしょ。レアなんでしょ。
ま、よっぽどポイントが必要にでもならない限り、これにはノータッチだな。
さて、どうやら店内のゾンビはすべて始末し終わって回収も完了したみたいだ。
越前さんも私も、ゾンビの頭部にサクッと少し刺してるだけなので、血もほとんど流れていない。キレイなものだ。
ただ、だからといってここに居座るつもりはない。やはり移動はするべきだ。安全のためにも、そして、硬い床で寝ないでいいようにするためにも。
越前さんは、ゾンビの処理でだいぶ消耗している。これは肉体的な疲労というよりは、精神的なものだろう。やはり、彼にはゾンビを始末するのは大変だったか。だから、無理しないでいいって言ったんだけどね、本人がやると言ったからしょうがない。
そういえば、店内には子供のゾンビとかもいたよね。私が始末した中には居なかったから、越前さんが始末したということだろう。身近にマユリちゃんという存在もいるくらいだから、色々と思うところはあったに違いない。
そういう意味では私が担当した方が良かったかもしれないが、これからのことを思うと、相手が子供だろうとゾンビなら始末する覚悟を持っておくべきだ。
ここでそれを確認出来たのならば、むしろ良かったのかもしれない。土壇場の状況で初めて子供に遭遇したら困るからね。
私の方は、スタンだったけど初見で躊躇いも無かったし、殺す場合もそれは同じだ。
ゾンビはすべてゾンビ。子供も大人も動物も関係なし。すべて頭をボンですわ。