第42話 何事にも適性というものがある
さて、みんなが武器を選択したことで、後は装備してスキル取ったら戦えるね。
いや、その前になんかスタミナについてのチュートリアルあったっけ。アレって、私が選んだ武器が近接の刀だったからなのかね。だとしたら、三人は全員遠距離なんで別のチュートリアルになるんかなー。
でも、普通に走るだけでもスタミナ使うし、やっぱみんなそのチュートリアルはあるんじゃないかな。となると、このバックヤードでは狭くて試せないな。せめて店内なら、もう少しスペースがあるんだけど、あそこはゾンビの体がゴロゴロ転がっているし。
つーか、気絶させたゾンビをずっと放置しておくのも問題だし、もう始末してしまうべきだろうか。そうすれば多分、死体も回収出来ると思うからキレイに片付くんだけど。でも、それはやっぱりまだ躊躇する部分がある。
ゾンビに関することがもっと分かればいいんだけど。でも、ゾンビの毒だかなんだかを治療出来るアイテムなんてあるくらいだから、その辺の情報とかも無いんかねぇ……?
なんて思っていたら、なんかウィンドウが反応した。そして、ゾンビに関する情報がまとめられたページが表示された。
……いや、あんのかよ……。フツーに判明しちゃうのかよ。
普通なら、なんか色々時間かけてゾンビの体を調査したりとか、さぁ……まあ、面倒だから分かるならそれでいいんだけどさ。
つーかこんな情報、最初からあったんか? だったら、もっと早く出してくれって感じだけど。
いや、今までもゾンビに関する情報について考えなかったわけじゃないし、それでも出てきてなかったってことは何か条件でもあったのかな。
もしかしたら、レベルアップで解放されたのってスキルやパーティーの機能だけじゃなくて、こういうのもあったのかもしれない。どうも、レベルアップしていくことで色々と新しい要素が解放されていくみたいだから、ありえるかも。
まあいいわ、とにかく情報は必要だ。さっそく、ゾンビについての情報を確認しようか——
「なあこれ、武器が送信されたとか言って、どこに行ったのか分かんないんだけど。なんなのこれ?」
まったく……ちょっとこっちに集中したいんだけどね。
「意識を向けてみれば、勝手にその画面が出てくるよ」
「それが難しいんだって。見えてる画面を操作するのは何とかなるけどさ、そんな、どこか分からんやつを呼び出すって、どうやるのよ?」
「……多分、アイテム欄のどこかに入ってるんだと思う。だから、まずはアイテム欄を開いてみて」
「はあ、アイテム欄ね。で、アイテム欄はどこにあるん?」
「……メインメニューを開いて」
「メインメニューは、どうやって開くの?」
「…………メインメニュー! って叫ぶんだよ、心の中でね」
「…………あ、出てきた」
出てくるんかい。……まあ、出てきたならいいけど。
さて、それじゃあゾンビ情報だよ。
これは——なんか、敵に関する情報の欄って感じのやつなのか。なんだろう、モンスター図鑑的な?
見てみると、ゾンビの他にもいくつか載っている。——あ、恐竜くんのページもある。
これも気になるけど、まずはゾンビだ。
「これ、装備したけど何も起こらんけど、どーなってるん?」
「……視界の端に、装備した武器のアイコンが出てるでしょ。それにアクションしたら、手元に武器が出てくるよ」
「ああ、これ? アクションね……、ふむ、ふいっ! おらっ、出てこい! こらっ!」
……なんかやたら苦戦してるね。
なんとなく、ハリポタの最初の箒乗る授業で、上がれっ! ってやるシーン思い出したよ。
あれも得意な人と不得意な人がいたけど、やっぱ三人とも私より苦戦してるよね?
——おじさんと藤川さんも装備までは行ったみたいだけど、呼び出しに手間取っている。
どうも私に比べて、みんなこの辺の操作が苦手みたいなんだけど、なんでだろう?
私と三人の違いといえば、謎の声によって自動的に力が発現した私と、その私によって力に目覚めた三人、ということだと思うけど。
この二つには、明確な違いがあるってことなんだろうか。
実際のところ、ずっと疑問ではあった。なぜ、この力が発現したのが私だったのか。逆に言えば、なぜ、他の人は力に目覚めてないのか。私と他の人で、どんな違いがあるんだろうか……。
今のところ、他に私と同じように自然に覚醒した人——つまりプレイヤーには出会っていないし、プレイヤーになる条件がなんなのかは、まったく分からない。
なんとなくだけど、もしかしたら、プレイヤーとして選ばれた人って、元からこの謎の力に対して“適性”のようなものがあるのかもしれない。——いや、それがあるからこそ選ばれるのか。
じゃあ、その適性とはなんなんだろうという話だが……まあ、分からん。
それが分からないので、自分が選ばれたことを喜ぶべきなのかどうかも分からない。だけど少なくとも、今のところはすごく役に立っている。……今は、それでいいか。
「あ、来る……? 来るかも、あー、来そう。あっ来る来る! 来る……き、来たー!! 来たよ! 杖来た! キタこれ!」
どうやら、ようやくマナハスは杖の召喚に成功したらしい。その手元には、なんだが微妙にメカチックな杖が握られていた。杖の先端には輪っかのようなものが浮かんでいて、ゆっくりと回転している。
なんだろう、この輪っかは、どういうアレで浮いてるんですかね。なんでゆっくり回ってるんでしょうね。分からないけど、けど……なんかカッコいいじゃん。謎の機構がカッコいいじゃないのよ。まほーの杖って感じだよ。全体的にメカチックだけど、その部分においては、やはり不思議なオーラを出してる。やっぱこれは魔法の杖だわ。
「うわぁ〜〜、すげぇ、なんだコレ。なんか分からんけどスゲェ」
マナハスもよく分かってないけど興奮している。
ふとみると、その隣にマユリちゃんもいて、同じように杖を興奮気味に見つめていた。この子もやっぱり、魔法に興味あるんだろうね。マナハスがこれから魔法使えるようになったら、マユリちゃんのヒーローになっちゃうかも。
さて、横を見れば藤川さんたち銃組も、銃を呼び出すのに成功していた。お揃いのアサルトライフルっぽい銃が手の中にあった。
これも若干、未来風のデザインだね。でもカッコいいと思うよ。JKが持つには無骨な印象だけど、そのアンバランスさが逆にお互いを引き立てているんじゃないでしょうか。
そして、おじさんに関してはフツーに似合ってる。私服の民兵って感じだ(笑)。
さて、この次はスタミナについてのチュートリアルだったと思うけど、どうかな。
「あー、なんかスキルのインストールって出てきたな」
「私は、黄色いゲージ? の使い方についてって出てきましたね」
「黄色いゲージって、なんのことだろう……?」
あれ、スキルだったっけ? ——え、やっぱスタミナ?
んーっと、これ、もしかして、武器によってチュートリアルの流れも変わる感じ?
マナハスの武器は魔法の杖だから……たぶん、なんか魔法系のスキルを入れないと、そもそも使えないんじゃないだろうか。
「スキル欄には何が出てきてる?」
「いろいろ。武器の扱いがどうとか」
「魔法の……その杖の扱い方のやつは?」
「あるね」
「じゃあそれを」
「……でもこれさ、本当に魔法使えるようになるのかな?」
「さぁ〜? 試してみないことにはなんとも」
「やっぱり、無難に銃のスキルとかにするべきかな?」
「なんで今更? まあ、今から銃のスキルを選ぶことも出来るだろうけど」
「だって魔法って、使えるようになるイメージがまったく湧かないっつーか。結果が謎すぎるというか。せっかくやってみても、上手くいかなかったらヤバいじゃん? それなら、銃とかの方がいいのかなーって」
「はあ、そう。それなら銃でもいいと思うけど。まあ、後からまたスキルのインストールは出来るみたいだからさ、魔法のスキルはその時にやってみるってのも出来るし」
「あ、そーなん? だったら、最初は銃にしとくかな。魔法にして使いこなせなくて私だけ戦えないとかなったら、マジで足引っ張ることになるしさ」
もしかしてマナハス、ここまでまったく活躍出来てないこと地味に気にしてるんかな。まあ、それを言ったのは私なんですが。
私としては、別にマナハスは活躍なんてしなくても全然いいんだけど。むしろ戦いなんてしないで、安全に気をつけてくれた方が安心なんだけどね。でも、当人としては足引っ張るのは嫌なんだろう。まあ、その気持ちは理解できる。
私としては全然、趣味に走って魔法選んでくれていいんだけど。マナハスがやりたいようにして欲しいし。でもまあ、本人が気にするなら別に、JK-47になってくれて全然いいよ。暴力聖女で全然オッケーよ。
「それなら銃でいいんじゃない? ま、そうしたら私以外、全員銃になるけど」
「実際、ゾンビ相手に接近戦とか意味わかんないしな。普通は銃だろ」
やかましいわ。
「んじゃ私、銃のスキルインストールするね。よし……これだっ」
ということで、マナハスも銃のスキルを選ぶことになった。
それなら私は、マナハスの分の銃を買っとかないとか。藤川さん達と同じやつでいいか。これでアサルト三兄弟の完成か。
なんて思ってたら、マナハスが「ううっ……!」とか言って頭を抱え出した。
え、何? どうした?
これは、スキルのインストールの影響……? いやでも、私の時はこんななった覚えはない。——もしや、これはプレイヤーである私と、そうでない人の違いによるもの? まさか、プレイヤーじゃない人はスキルのインストールがかなり負荷がかかるとか、あってもおかしくない……?
えっ、ヤバいどうしよう、マナハス大丈夫っ?
「ちょっ、マナハス? 大丈夫!?」
「うあぁうっ……はっ、え、何これ? インストール失敗したんだけど」
「えっ?」
「いや、なんかスキルのインストール失敗ってなったんだけど……えっ?」
「……失敗したの?」
「……みたい」
「いや、銃を失敗するんかい」
え、つーかスキルのインストールの失敗とかあんの? いや、実際に失敗した人がいるけど……。
——スキルのインストールにも相性ってあるのかしらね? まあ、頭の中に直接だから、そう考えたら、相性がある方がむしろ自然にも感じるけど。
うーん、失敗したりもするのか……。これはマナハスがパーティーメンバーだからなのか? プレイヤーじゃないから……。いや、それも含めて相性か。
「えーっと、どうする、マナハス、もっかいチャレンジしてみる?」
「……そうだな」
そしてマナハスは再チャレンジした……が、また失敗した。
どうもマナハスは、銃のスキルを修得不可能みたいだった。
「……うん。これはもう、他のスキルを選ぶしかないんじゃない?」
「……そうだな。——ってあぁー!? なんなんだよっ! なんで失敗するわけぇ……!?」
「まあまあ。こうなったらさ、魔法の杖の方でいこうよ」
「銃でダメなのに魔法が成功するかぁ?」
「それは……どうだろうね?」
「無理だろ……」
「そんな落ち込まないでさ、試してみなよ」
「はぁ……あぁ、やってみるさ……」
まさかの失敗に、かなり落ち込んでるなぁ。可哀想なマナハス。
それまでおじさんと二人で色々と試してた藤川さんも、心配そうにこっちを見てきてる。
いや、そうか、藤川さんたちも、まだスキルはインストールしてないじゃん。それなら自分たちも失敗するかもって、そっちも心配になってるのかも。
マナハスは投げやり気味に魔法のスキルを選択した。これでもし、魔法の方も失敗したらどうなるだろう、めっちゃ落ち込みそうだなー。だよなー、落ち込むよなー。そん時は私が慰めてやらないと……。
しかし、失敗の原因は一体なんなんだろうか。かなり気になるんだけど。いや、もしかして、成功することの方が稀なんじゃ……? ——モノがモノだけに、その可能性はかなり高そうだよ……。
——だって脳に直接インストールだものね。むしろ、常識的に考えたら成功する方がおかしくない?
そうだよなー。だったら別に、マナハスも落ち込む必要はないよね。それなら慰めるのも難しくはないか。
でも、マジで成功確率が低いんだったら、結構ヤバいんだけど。
パーティー加入して戦力になるってのは、スキルの力を大いにアテにしての話だからさ。それが出来ないとなると、根本的に問題なんですが……。
はぁ、正体の分からない力を過信しすぎたか。
いや、私の場合がむしろ上手くいきすぎていたんだろう。
それが落とし穴になったみたいな、そんな……まあ、言い訳ですけど。




