第40話 この中から 好きな武器を 選ぶんじゃ!
「というわけで越前さん、私と契約して、パーティーに加わってもらえませんか?」
私は、越前さんにパーティー契約に関する諸々をざっと説明した上で、参加してくれるように頼んでみる。
ちなみに、パーティーメンバーに出来る人数は最初は二人だけだったのだが、ポイントを使うことでその枠が増やせたので、すでに一人分増やしている。ただ、どうもこれ以上の人数に増やすにはレベルを上げる必要があるみたいで、今の私のレベルではこれ以上増やせなかった。
「契約というのは、具体的にどんな感じなんだろうか」
マナハスたちと違って即決とはならず、詳細を質問される。まあ、それも当然か。
越前さんは契約内容について気にしているみたいだけど、大人なら契約という言葉には敏感になるのだろうか。やっぱり契約といえば重要な事柄になるんだろうな、社会人としては。
「そうですね、あまり変な内容は入っていないと思うんですが……まあ、その辺りは、実際に内容の文面を確認していただいた方がいいかもしれません」
というか、私も詳細は把握していない。なので説明しようとしても不可能なので、自分で読んでもらいたい。決して、私の口から説明するのが面倒とか、そういうわけではない……こともないけど。
「そうか……。それじゃ、契約内容のことは一旦置いておくとして、契約をした場合は、結局のところ、どういう風になるんだろう? さっきの説明を聞いてみても、イマイチよく分からなかったんだが……」
「そうですね、メリットとしては、とにかく戦闘力が強化されます。身体能力が上がるだけでなく、戦闘技術も習得されます。今の状況を考えれば、戦闘力の向上は安全性の向上に直結すると思います。これは、かなりのメリットと言えるんじゃないでしょうか。
デメリットとしては、力の正体が謎だということですね。能力を得ることで身体にどのような影響があるのか分かりません。その点に関しては、むしろ安全性に問題があるといえます。ただ、今のところ私の身体に悪影響のようなものは無いです。まあ、今後もないという保証もないんですが」
私はおじさんに正直に思っているところを告げる。メリットはともかく、やはりこんな不安なデメリットを提示されたら、分別ある大人なら考えるまでもなく断りそうだ。だけど、騙して契約させるわけにもいかないので、そこのところは正直に話した。
すると、おじさんは意外な反応を見せた。
「正体がよくわからないということ以外に、デメリットは他には無いのかい? 力を得る代わりに、何かの代償があるとか。体に悪影響とか……本当にないの?」
「無いですね。……例えば、なんか、力が強くなったことで、日常生活が少し大変になるとか——」
「そうそう。力が強くなりすぎて制御が効かなくなるとか、そういうやつ。慣れるまでは色々壊しちゃったりして、ちょっと大変、みたいな。そういうのはある感じ?」
「いえ、そういうのも無いです」
「無いの?!」
「はい。力を発揮する時は、明確にスイッチを切り替えるような感覚が必要なので、そこを誤らなければ、そういう事故は発生しないですね」
「そうなんだ……」
スタミナを使えば、人の限界を軽く超えるパワーを発揮出来るが、スタミナを使わなければ、プレイヤーである私も、身体能力は一般人と変わらない。
なので、日常生活に支障をきたすこともないのだ。スタミナを使用する際は明確にそれを意識する必要があるので、うっかり日常でミスることも、ほぼ無いと思う。その点は、このスタミナ制のいいところかもしれない。
「そういうメリットがデメリットになってしまうみたいなのも無いとしたら……本当に、デメリットになりそうなことはない感じなのかな……?」
「色々と便利になった事はいくつもありますけど、不便になったところって思いつかないんですよね。……まあ、強いて一つあげるとすれば——」
「なんだい?」
「たまに突然、声が聞こえることがあります」
「声?」
「そんなにうるさいわけでもないし、頻繁にあるわけでもないので、大した影響はないかな、と思うんですけど」
「声っていうのは、その、どこからともなく聴こえてくるっていう、声か……」
「その声についても詳しいことは分かりません。私としては、そこまで気にならないんですけど、いきなり声がするのは少し驚くこともあるかもしれないですね。まあ、電話の着信のような感じでしょうか」
「そうか。まあ、その程度のものだと思えば、うん……そんなに気にならない、のかな」
この辺についてはどうだろう。このシステムって意外と融通の効く部分もあるから、どうしても気になる人はミュートにするとか、なんか設定出来たりとかするのかもしれない。まあ正直、それほど気にするもんでもないと思うけど。
「うぅん……契約内容にもよるけど、デメリットが特に無いようなら——どちからというと、俺の意見はそのパーティー参加に賛成、かな」
「……本当ですか?」
「ああ。君の戦うところは見ていたけど、契約をすることであれだけの戦いが出来るようになるというのなら、多少、不透明な点があっても、それを覆すメリットになると思う。それに……」
「……?」
「まだ高校生の女の子に戦わせて、大人の男の俺が戦わないってのは、やっぱりどうかと思うんだ。通常の俺の力じゃ、むしろ足手まといだと思うけど、パーティーとやらに参加することで俺にも戦う力が手に入るというのなら、俺でも役に立てるだろうし。……ただ、このパーティーの枠って、限られた人数分しかないかなり貴重な枠だと思うんだけど、俺に使っちゃっていいのかい?」
「はい。素質的にも越前さんが一番戦力になりそうですし、人格的にも申し分なさそうですし、私も、やっぱり大人の男の人が一人くらいはいた方がいいと思うんです。私たちだけじゃ、まるっきり子供の集まりですし。いくら聖女(笑)がいたとしても」
「おい今、聖女(笑)って言ったか? お前が言い出した事だろっ聖女なんたらはよ!」
マナハスが何やら横から抗議してきたが、今は聖女(笑)ではなく大人のお話をしているのだよ。
「そうだな。俺が大人としての役割を果たせるかは、正直、自信は無いんだが……。君たちの負担を、少しでも減らせたらと思うよ」
「そうですか。……ちなみに、私たちの仲間になるという事になると、形だけでも聖女を敬うような姿勢を見せてもらった方がいいんですけど、その辺は大丈夫でしょうか?」
「ああ、それね……。年下の、高校生の女の子を敬うっていうのは、少し……いや、かなり抵抗があるんだけど……。まあ、その方が都合がいいことはなんとなく理解できる。なんとか、やってみるよ……」
「ありがとうございます。——ほら、マナハスも礼をいいなよ。信者になってくれるって」
「あくまで形だけ、だろ? ——いや、ほんと形だけでいいんで、そこんとこ、よろしくお願いします……」
やったねマナハス、信者が増えるよ!
——ちょっと、それ……これから信者が増えるたびにやらないでしょうね……?
ダメかな?
——やめなさい。
分かったよ。ここぞという時にだけ使うよ。
——封印しなさいよ。切り札みたいに取っておくなっつの。
「そういうことなら早速、契約内容を送信させてもらいます。今からやりますけど、ちょっと驚くかもしれないんで、心の準備はしておいてくださいね」
「……分かった。それで、具体的には、どんな感じになるんだろうか……?」
「それは、まあ、やってみれば分かりますよ」
「ああ、うん……」
「ちょっとびっくりするだけで、苦痛とかがあるわけじゃないので、そんなに緊張することはないですよ」
「そ、そうかい……」
なんて言われても普通ビビるよね。まあ、長引かせるのはアレなんで、サッといきましょう。——それ、『送信』!
すると、おじさんは目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。そして、驚きに大きくなりそうな声を必死に押し殺すように唸る。
「うぅぅん……これはっ……本当に頭に声が……」
「これで、契約内容の画面が表示されるはずです」
「うおっ、あぁ……これね。うぅ、ん……」
おじさんは表示された契約内容に目を通していく。上から下までしっかりと。
そうして一番下まで読んだみたいで、顔をこちらに向ける。
「……うん、最後まで読んだよ。ところどころ分からない部分もあったんだが、全体的に問題は無かったと思う。要は、パーティーの一員というのは、君の部下のようなものなんだろうね。君の方に強い権限があるが、基本的には僕らも自由にしていいと、そういう風に解釈したんだが、どうだろう?」
「概ねそんな感じだと思います。制限になりそうな部分は大体、排除したので」
「そうか、それなら君を信用するよ。すでに助けられた身の上だしね」
そういって、おじさんは画面を操作する。すると、私の方にも、彼がパーティーに参加したことを伝える通知が来た。
よし、これでおじさんもメンバー入りで、四人パーティーだ。やっぱり、パーティーといえば四人編成だからね。これで揃ったな。
そして、おじさんもチュートリアルが開始したようで、目の前に武器選択画面が現れたようだ。
おじさんは、そのラインナップにも驚愕の声を上げる。
「すごいな、これは……。古今東西、あらゆる武器が揃っているんじゃないのか、この品揃えは。——それで、この中から使う武器を選ぶわけかい」
「そうですね。ちなみに、武器の扱いについては、スキルをインストールすることで習得出来るので、使ったことないやつでも大丈夫ですよ」
「本当に、武器の扱い方をインストールとやらで習得出来るってのかい? ちょっと信じられないな……」
「私自身そうでしたから。日本刀に触れたのなんて、実は昨日が初めてなんです」
「……! それでアレだけの動きが出来るって事は……信じられないけど、事実なんだろうね」
「はい、私の動きはすべてスキルのお陰なんです」
「しかし結局のところ、武器なんてどれも使ったことない物ばかりだから、どれを選んでも変わらない気がするな……」
「ですね。どれを選んでもいいと思いますよ。使い方は習得できるので。自分で使いたいやつを選んでもらえれば。——ただ、戦う相手はおそらくゾンビがメインになると思うんで、連中と戦う時に使いやすいと思う武器がいいんじゃないでしょうか」
「あー、相手はあのゾンビたちなんだよな……」
「近寄るのが嫌なら、遠距離武器の方がいいかもしれませんね」
「そうだね、その意見には賛成だ……。俺自身、一応、使い慣れてるのは銃だから、銃がいいかなぁ。腕前に不安があるけど……銃の扱いも習得出来るってことなんだよね?」
「はい。銃も大丈夫ですよ。私もゾンビ相手なら銃がいいんじゃないかと思います。音や弾の問題もありますけど、遠距離武器で扱いやすいと思いますし。——それで、この二人も銃を選ぶみたいなので、銃を選ぶアドバイスなんて頂ければと思ったんですが……」
「アドバイスか。実戦で銃を使う場合のことなんて聞かれても、正直、分からないんだが……」
「私たちよりは詳しいと思うので……まあ、銃の種類の説明だけでもして頂ければ」
「うーん……初心者ならハンドガンとかの方が使いやすいんだろうけど、この場合は初心者って訳でもないし……、非力な女の人なら、反動や銃の重さも軽い方がいいと思うけど、確か、身体能力も強化されるんだったっけ?」
「はい。なので、大抵の銃は扱えるんじゃないでしょうか」
「そして、銃の扱い自体も習得出来ると。だとすると、別にどれを選んでもいいんじゃ……?」
「……そうですね」
結局、どれでもいいってことか。まあ、そうだね。
私がショップで確認したところ、意外かもしれないが銃はどちらかというと安い方なのだ。むしろ、近接装備の方が高かったりする。現実では逆だと思うけど、なんでだろうか。近接装備の方が性能がいいんだろうか。
まあ考えてみれば、あの恐竜くんを銃で倒せる気はまったくしないが、刀ならなんか倒せそうな気がするっていう一種の逆転現象。しかし実際、刀で倒せたところを考えると、やはり近接装備の方が威力は高いのかもしれない。スタミナパワーで強化も出来るし。
大体、銃の場合って、スタミナで強化とかできなくない?
そうなると、普通に銃本来の威力しか出せないわけだが、それじゃあ恐竜くんは倒せる気がしないなぁ。ゾンビは問題ないだろうけど。
……まあ、RPGゲームよろしく、キャラクターの力のステータス辺りを強化したら、なんか知らんけど銃の威力も上がるとかいう謎仕様とかあるかもしれないので、まだ分からないけどもね。
——ああ、あるわよね、そーゆうやつ……。
原理はマジで謎なやつね。