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第3話 最強武器は日本刀——by古事記

 


〈初期装備選択画面を表示〉


 チュートリアルを開始すると、こんな文言が出てきたと思ったら、続いて画面に様々な種類の武器の(えが)かれたアイコンが現れた。


 初期装備を選べってさ。なんか種類がたくさんあるね。正直、いきなり選べって言われても何選んだらいいのか分かんないよね。つーか種類も多過ぎるし。

 まず何と戦うのか教えろっての。戦うための装備でしょ。相手が何かによって使う武器は変わる。


 ——でもあんたモンハンでは毎回ガンランス一択じゃん。


 ガンランスはいいんだよ万能だから。

 むしろあーいう万能武器を選ぶべきなのかもね。一個しか選べないみたいだし。

 つーかマジで何と戦うの? モンハン並みにでかいモンスターなの? それなら確かにガンランスが必要なんだけど。


 ——ゾンビが相手だったら?


 ゾンビは銃でしょ。現実的には銃一択だよ。まあバールやハンマーも悪くないかもしれないけどさ、まず近距離か遠距離なら遠距離だよね。フツーに考えてゾンビとか近づきたくないし、感染とか考えたら遠距離で倒すのが理想じゃん。

 チェーンソーとか論外だよ。お前それ自分から感染しにいってるようにしか思えないっての。うるせー音でゾンビ集めるし。


 ——そうして集めて一網打尽にするんじゃないの?


 そんな考えないでしょ。チェーンソー使ってるやつなんてただのバカなんだから。


 ——でも近接武器の中では最強じゃない?


 お前は何を言っているの? 近接武器最強は日本刀って、お前これは古事記にも書いてあるから。チェーンソーはダメって書いてあるからー。


 ——古事記何でも書かれすぎなんだって。


 つーか日本刀もあるじゃん。いやチェーンソーもあるけど。バールもスレッジハンマーもある。いやマジで何と戦わせる気なの?


 ——銃もあるね。


 あるね。


 ——じゃあ銃じゃないの?


 銃を使うなら必要なものがあるでしょ。


 ——……弾、よね。


 そう。銃の一番の弱点はそれ。弾が消耗品ってこと。弾がないと銃なんてクソの役にも立たないの。


 ——弾、か。弾はどうなってるんだろう。


 そこなんだよね。銃選んでも弾補給出来ないなら詰むじゃん。それなら近接武器選んだがマシでしょ。

 それに、銃って素人が撃ったところで当たるもんじゃないから。


 ——撃ったことないでしょ。


 あいにくとハワイでオヤジに習ってなくてね……。ハワイに行ったこともないし。親父も居ないし……。


 ——いや親父はいるでしょ。なにサラッと不謹慎な嘘ついてんの。


 ハワイに連れってってくれる父親は居なかったってことだよ。私にはね。


 ——アレは優作が特別なだけだって。


 名前呼びなのね。


 ——工藤は服部が使う呼び方だから。


 せやな。まあよっぽど特別な人(見た目は子供で頭脳は大人な人とか)でもない限り、銃を扱うのは無理ってこと。

 その点バールってすごいよね。最後までチョコたっぷり……じゃなくて、素人でも扱いやすいんだもん。


 ——まあ殴るだけだし、猿でも出来る。


 そう。なら猿より賢い人間が使ったらどうなっちゃうの!? ってもんよ。


 ——いや殴るだけでしょ。……なんなら猿の方が腕力とか強そうだし、猿のが使いこなすんじゃ?


 ……やっぱ文明人なら刃物だな。日本刀だ日本刀。日本人なら日本刀。


 ——それこそ素人には無理なんじゃないの?


 うっせーなー。昔から様式美として女子高生には日本刀って相場は決まってんでしょ。歌にもなるほど有名ダゾ。ほら、「セーラー服と日本刀」って。


 ——それって、「機関銃」じゃなかったかしら……。


 だから銃は無理だって。日本人なら刀持って戦うんだよ。たぶん刀を持てば、私の中の眠れる侍の魂が覚醒して扱えるようになるから。


 ——ウチの家系に武士は居ないと思うけどね……。そんなに日本刀使いたいの?


 だってカッコいいじゃん。


 ——それが本音か……。


 正直、何選んだって変わらないでしょ。どうせバールだって猿より上手く使う自信ないし。こちとらチャキチャキの文明人なんでね。

 大体バールとかダサいじゃん。それならまだ日本刀の方がマシでしょ。

 日本刀って切れ味マジやばいって聞くし、素人が扱ってもそこそこ強いんじゃね?


 ——まあ最悪、鈍器としても使えるか……。


 世界一カッコいい鈍器さ。私の相棒はな。


 ——もう相棒認定してるし。それならまー、いいんじゃない?


 オッケー。武器は日本刀に決定だ。私は『キルビル』って映画が好きなんだ。


 ——結局、映画の影響か……。


 一番好きなキャラは鉄球使う女子高生だけど。


 ——鉄球はさすがに揃って無いか……いやあるじゃん。


 いや鉄球は無いでしょ。あっても選ばないでしょ。


 ——まあ、鉄球はないわよね。


 うい。それでは日本刀に決定しまっす。……って、これどうやって決定すればいいんだろう。てゆうか私、さっきからどうやってこのウィンドウ操作してるの?


 ——今更何言ってんの? 確かに自覚してなかったけど、意識するだけで操作出来るみたいじゃない、このウィンドウ。


 思考操作って、どんなテクノロジーだよ。ニュータイプじゃないんだからさー。とりあえず今は無視するけど、フツーに技術力おかしくない?


 ——だから決定って考えたら決定されるんじゃない?


 そうしてみよーか。よし、これで『決定』。


《選択された武器が送信されました》


 何やら送られてきたようだ。どこに送られたんだ? あ、これか。呼び出したら出てきた。けっこう便利だね思考操作ってやつは。


 よし、じゃあこいつを受け取ればいいわけか。『受け取る』。よーし、次は?


《武器の“装備”が解放されました》


 そうだね。武器は装備しないと意味ないからね。よし、『装備』と。


 うーんと、何も起きねぇな。

 てっきり、装備したら手元とかに現れるもんかと思ってたけど、何も起こらんぞ。

 これは何? 装備するだけじゃなくて、さらになんかしないとダメなのかな。装備の意味がよく分からないんだけど。

 もしかしてこれアレかな、装備欄にいくつか装備出来て、それらを瞬時に入れ替えながら戦ったり出来るタイプのやつ?

 ゲームではそーゆうのも普通にあるけど、アレ現実的に考えたら、どうやって武器入れ替えてんだって感じだよね。瞬間移動なんだよなーフツーに。


 ——ねえ、画面の端に表示されてるコレって装備のヤツじゃない?


 ほんとだ。視界の隅っこになんかある。日本刀っぽいアイコン表示されてる。これが装備してるって意味なのかな。

 多分だけど、このアイコンにアクションしたら、日本刀が現れるってことなんじゃないのー?


 そこで私は周りを見回す。

 いやー、試すにしても出てくるのは日本刀なわけじゃん? 抜き身か鞘付きか知らんけど。それはちょっと、見られるのはまずいかな、と。


 ——近くには誰も居ないけど、念のためもうちょい人気(ひとけ)のないとこに移動しとく?


 そうするかな。てかそうなると、フツーにこのウィンドウ邪魔いな。


 と、考えたところで、ウィンドウはパッと目の前から消えた。

 え、ちょ、消えちゃうのかよ、大丈夫なん——と思ったらまた現れた。


「……」


 ウィンドウが現れる。消える。現れる。また消える……。


 ——……何やってんの?


 いや、出したり消したり出来るみたい。


 ——分かったから、とっとと移動したら?


 いや、突然消えてびっくりしたからさ。もう出てこないかもと思ったけど、普通に出てきたね。地味に焦ったわ。

 なんかまだ全然、思考で操作するってのに慣れてないんだよね。


 ——まあしょうがないでしょ。こんなの初めてなんだし。


 そのうち慣れるかな……。

 よし、この辺りなら人目は無かろう。


 人気(ひとけ)のないところに来たところで、いざ試してみましょうか。

 日本刀のアイコンに意識を集中、来いやオラ! と念じてみる。


 念じた次の瞬間、右手にビビビカッて感じに光が生まれたかと思うと、日本刀が出現していた。


 ま、ま、マジで出たぁぁぁあああ!!!

 え、いや、これ、マジで出たんですけど。


 ——……幻聴、幻覚ときて、次は……幻物(げんぶつ)


 いや幻物ってか現物だよコレは。リアルな物質だし。……意外と軽い? けどこれ本物の重量だよ!

 いやマジで出たんですけど。


 ——これではっきりしたわね。


 なにが?


 ——今までのが、ただのアンタの脳内の妄想じゃなかったってこと。


 疑ってたんかい。


 ——そりゃそーでしょ。ありえないもの。マジで。いやマジでなんなのこれマジで。ありえない。


 おいおい、冷静さが売りのキミが取り乱してどーする。


 ——……そうね。とりあえず確認しましょう。その日本刀について。


 せやね。

 改めて右手に現れた日本刀を注視する。抜き身ではなく鞘に収められた状態で出現した。

 念じてから出てくるまでは割とすぐだった。もうパッて感じで出てきた。例えるなら本当にゲームで武器を切り替えるくらいの手軽さ。

 ……これなら、戦闘中でも切り替えられそう。コンボ中とかでも切り替えられたりしてね。


 ——コンボとかあればね。


 鞘を払って刀身を抜く。

 なんとなく、全体的にメカニカルで、なにやらちょっと未来的な印象を与える日本刀だった。普通とはちょっと違う感じがする。

 まあ、私も別に日本刀に詳しいわけじゃないので、実際のところは分かりゃあしないんだけど。でも、変なスイッチがついてたり刀身が光ってたりとか、そういうのはなさそーですね。

 とりあえずまた鞘に戻す。それだけでも結構苦労する。慎重にやらないと怪我しちゃうかもだし、日本刀なんか扱った事ないからね。

 私が格闘の末に刀を鞘に収めたら、また例の“声”が聞こえた。


□□□(イエローゲージ)を使用することで運動能力が上がります》


 イエローゲージって何?

 と、思ったら、これまた視界の端になんか映ってるのが見えた。

 三本のゲージがあって、それぞれ色が違う。一番上が緑のゲージで、その下に青のゲージがあって、一番下が黄色のゲージ。

 んでその黄色いゲージが光ってる。


 この黄色いヤツがそうか。コレを、使う……?

 まあ、やってみるか。


 黄色に意識を集中する。

 するとなんだか、体の内側からパワーのようなものが湧いてくるような感覚がする。これがゲージを使うってコト……?

 なんだか今ならすごいことが出来そうな気がする。体の内側から溢れる衝動で止まっていられない。

 私はまるで、幼い子供の頃に戻ったかのように、全力で走りだした。


 いや、速っ!!

 まるで車じゃんってくらいのスピードがトップスピードから出てる。あっという間に相当の距離を移動してしまった。

 あまりに速すぎてバランス崩して転びそうだが、こんな速度で走りながら転んだらフツーに死にそうなので、必死にバランスを保つ。

 ってヤバっ!


 ——人が居るわね。アナタ、(はた)からみたら今すごいヤバいわよ?


 今の私、日本刀引っ提げて車並みのスピードで全力疾走してるヤツなんですけどっ! それはもうなんかの妖怪か都市伝説だわ。っ『戻れ!』。

 そう念じたら、案の定、持っていた刀はコレまた瞬時に消えた。

 すぐさまスピードを落として、ズザザザッと地面を削りながら止まる。

 幸いにして、今の行動は誰にも見られてなかったみたいだ。ああ、よかった。私ってけっこう恥ずかしがり屋だから、注目されたりとかマジ勘弁なんだよね。


 ——車並みのスピード出てたわね……。しかも走り出しのスピードからかなりの速度だったし。あのまま勢いに乗ってたら、もっとスピード出てたんじゃない……?


 いやマジで。マジですよ。

 えーっと、なんか私、超人になった感じ?


 ——多分、黄色のゲージを使ってる間はそうなるみたいね。ほら、バーが減ってる。


 減ってるね。

 しかし見てるそばから黄色のバーは回復していき、元の長さに戻った。

 なるほど、これはゲームでいうところのスタミナゲージだ。これを使うことで、超人的なパワーを発揮出来るっぽいと。それこそゲームキャラ並みの。

 しかし黄色のバーには限りがあるので、パワーを発揮できる時間はそんなに長くない。さっきみたいな全力疾走なら、十秒もつかってくらいじゃないかな。

 ただ、回復するのも早いから、回復したらまた走れるわけだけど。


 なるほど。つまりこのゲームは、スタミナ管理が重要なゲームというわけね。


 ——ゲームと決まったわけじゃないけどね。


 そうは言っても、武器を与えたりこんな力を与えたりって、まるっきり何かと戦わせる気マンマンなんですけど。

 とりあえず、さっきの場所まで戻りますか。


 今度も黄色いゲージ(便宜上、SP(スタミナ)と呼ぶ)を使って走っていく。しかし今度は全力疾走ではなく、意識して抑えて走ってみた。

 すると、さっきほどの高スピードでは無くなった。黄色ゲージの減り方もさっきより少ない。なるほど、それなりに調整出来るようだ。ただ、それでもスポーツタイプのチャリくらいのスピードは出てる。


 あと気が付いたのは、走っても全然息が切れないということ。まるで、自分自身の体力とは別のものを使って走ってるみたいな感覚。いうなれば、なんか乗り物にでも乗っているかのような感じ。自分の体なのに不思議な感覚だ。


 さっきの場所に戻ってくると、また例の声が聞こえる。


□□□(イエローゲージ)を使用することで武器の性能が上昇します》


 なるほど。武器ね。

 改めて日本刀を呼び出す。そこであることに気がつく。

 あれ、これ出す時にあのゲージ若干減ってない?


 あのゲージとは、黄色の上の青のゲージだ。コレが武器を出し入れする際に、どうも、ほんのちょっとだが減っているみたいなのだ。

 このゲージはなんなんだろ? ゲームで定番ならHPとかMPだけど。それでいけば多分MPかなー。

 いやこれ、武器出し入れするだけでMP減るのかい。変なとこ細かいな。

 まあいい、今はスタミナだ。


 試しに抜き身のままの刀を呼び出してみたけど——出来た。まあ、すぐ使うならこっちの方がいいよね。

 両手で握って、構える。握り方もよく知らないのでテキトーだが。

 そうして“スタミナ”に意識を向ける。すると、体の内側からパワーが溢れてくる。それが、刀を持った手から刀に流れていく。そうして、刀にもパワーが伝わった。


 ——あ、やっぱりそーゆう感じのもあるんだ。


 あったっすね。んじゃコレを……振る!


「ふっ!」


 短い掛け声と共に振るが、それはお世辞にも上手いとは言えなかった。


 ——つーかド下手でしょ。


 しゃーないやん。こっちは素人なんやぞー。

 でもなんか、刀に謎のパワー乗ってるし、私自身の身体能力も上がってるから、当たればヤバいと思うよ。斬るのはムリな気するけど。完全に鈍器だけど。


 ——んじゃ、適当にその辺のモノぶん殴る?


 いやそんな蛮族じゃないんだから。武器持ってテンション上がったからって、いきなり暴れたりしないって。 


 ——でも試してみたいでしょ?


 そりゃそうだけど。近くに手頃に殴れるモノとかないよ。ま、フツーないよね、ここ街中だし。


 ——その辺の木とかは?


 折れたらどーすんのよ。


 ——木は折るためにあるのよ。


 なんでよ。ギミック破壊したら得点増えるゲームじゃないんだから。


 ——分かんないよ? そういうゲームかも。


 そりゃ大変だ。主に街が。



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