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第34話 フィーバータイムだ! ヒャッフォウ!

 


 バックヤードに入らずに売り場に残った私は、店内を一通り回りながら、手当たり次第にゾンビに襲いかかり気絶させていった。

 みんなを連れている間は全然余裕がなかったが、一人になってしまえば身軽なもの。


 私は鼻歌混じりにスキップしそうな勢いで、店内を軽やかに駆け回っていった。


 ——まったく、一人になった途端にはじけちゃって、そんなに余裕?


 余裕というか、楽しいのさ。さっきまでは結構フラストレーション溜まってたからね。同行者の安全を思えば、結構、気が気じゃ無かったよ。


 ——さて、どうでしょうね。バックヤードの中が本当に安全とは限らないわよ。


 ……まあ、それもそうだね。とりあえず、あそこには藤川ママンもいるし、銃持ったおじさんもいるし、ゾンビは入ってないらしいし、大丈夫とは思うんだけど。マップでも確認したら、バックヤードの方に赤点は無かったしね。

 まあ、それでも心配ではあるから、私もなるべく早く終わらせるつもり。ここのゾンビ達を放っておいたら、ゆっくり話も出来ないからね。


 ——それは同感だけど。


 よし、それじゃ、店内のすべての赤点に気絶マークが付くまで、お掃除を続行だね。


 私はマップを見ながら、そこに映る赤点に向かって、スーパーの店内を颯爽と動き回る。

 そして、ゾンビが視界に入ればアタック、昏倒させていく。邪魔なゾンビの体は軽く飛び越えて、進む。

 ふふっ、身軽だ。

 私一人なら、邪魔なゾンビもぴょんぴょん無視して進めるのさ。なんなら、この高い棚だって飛び越せる。ゾンビ(ごと)きに捕まりゃしないよ。いくら、店の中では外より動きが速いと言ってもね……!


 私が店内のゾンビをすべて片付けるのに、そう長くはかからなかった。つくづく、私のこの謎の力は凄まじいと思う。一人ならこの程度、力技で解決だからね。

 さて、それでは最後の仕上げだ。

 私はスマホを取り出して、マナハスに電話する。——直接言いに行ってもいいけど、まあ、面倒なので電話でいいや。


『カガミン? アンタ無事なの?』

「うん、無事だよ」

『それは良かったけど、なんで外に残ったん? まあ、なんとなく想像はつくけど……』

「当然、ゾンビを一掃するためだよ」

『やっぱりか』

「それももう終わったから、あとは最後の仕上げをしとこうと思ってね」

『最後の仕上げ?』

「入り口の自動ドア、閉めとこうと思ってね。開けたままじゃ、いつまたゾンビが入ってくるか分からないじゃん?」

『あー、ま、そうだろうけど』

「それで、自動ドアをどうやって閉めるかなんだけど……多分、まずはスイッチ切らなきゃだよね?」

『うーん、多分、そうなんじゃないかなー?』

「つーわけで、やり方聞いてくれない? その中の人に、ここの店員の人とか、多分いるよね?」

『——ああ、居るね。りょーかい、聞いてみるわ』


 それから、マナハスが周りの人と話す声が遠くに聞こえた。

 しばらくして、再び電話口にマナハスの声が戻ってきた。


『——聞いてきたよ。やっぱスイッチ切るんだって。そんで、普通に閉めてから、ドアの下の鍵を回して閉めればいいみたい』

「なるほど」

『スイッチはもうすでに切ったって。んで、一人で閉める気なの? 出来そう?』

「大丈夫、大丈夫。任せといて」

『本当に大丈夫? ……無茶しないでね』

「楽勝だよ。——このドア閉め終わったら戻るから。んじゃ、切るね」

『りょーかい。……早く戻ってきてね』


 そうして電話は切れた。

 言われなくても、すぐに戻るつもりだけど……まあいいや。とっとと終わらせようっと。


 自動ドア付近にはゾンビは居なかった。ヨシ。

 カートが邪魔だが、片付けるのも面倒だし放置。ドアの下の鍵を回して閉める。ちゃんと閉まったか手で動かして確認。うん、開かない。ちゃんと閉まってるね。

 二つある自動ドアを両方閉めた。これでもう、ゾンビは入って来れないだろう。とりあえずは安全だ。

 そして私は、床に倒れてるゾンビ達をぴょんぴょん飛び越えながら、バックヤードの扉に向かった。


 扉の前にたどり着く。

 少し考えて、刀は収納しておくことにした。中は安全だろうし、これについて聞かれるのも面倒なので。

 ノックすると、すぐに扉は開いて、マナハスが私を迎え入れた。そして、藤川さんやおじさんもやってくる。


「お帰り、カガミン」

火神(かがみ)さん! よかった、無事ですね」

「戻ったか! まさか、一人で店内の連中を全員倒したのか……? ビックリだな」

「……」

「ただいま、みんな」


 マユリちゃんも、発言はしないが迎えに来てくれたね。いや、これはおじさんについてきただけかな。


「あら! アナタ、一人で外に残って、心配したわよ! (とおる)から聞いたんだけど、アナタが透を連れてここまで来てくれたんだって? 危ない真似させちゃって、本当にごめんなさいね。透の携帯に電話して、危ないことしないように家に居てって言おうと思ってたんだけど、全然出ないもんだから。家の電話にもかけてみたんだけどねぇ。

 それで、こちらの男性は警察の方? 武器を持ってらっしゃるみたいだけど、聞いてもよく分からないのよねぇ。この方も協力してくれたんでしょ? 本当、運良く頼れる人に会えたものねぇ。幸運よ、幸運。でも、女の子だけで危ないことしちゃダメよぉ。運良くこの人に出会ってなかったら、本当にどうなっていたことか、考えるだけで恐ろしいわよぉ。

 ——そもそも今、一体何が起きているのかしら。昨日のテレビであんな映像を見たと思ったら、今日はこれでしょお? 私、悪い夢でも見ているのかと思っちゃうわぁ。それで、外の様子とか話を聞きたかったんだけど、みんなアナタが来てからって言っててねぇ。火神さんって言ったわよね。アナタも来たから、色々話を聞きたいんだけどねぇ」


 そして藤川ママンだ。相変わらずよく喋る。

 藤川ママン自体は嫌いではないけど、よく喋る人は基本的に苦手な私だ。出来れば私以外の誰かが相手をして欲しいと思うところだけど、この状況じゃあそうも言ってられないよねぇ。

 私たちの中で唯一の大人である越前(えちぜん)おじさんに、その辺任せちゃいたいところだけど、むしろ、そのおじさんだって私から聞きたいことがたくさんあるだろう。

 今も他の人たちから、警察の人なのかとか救助に来てくれたのかとか、色々聞かれてたっぽいというのが藤川ママンの話からも何となく分かった。

 まあ、拳銃とか持ってるし、そう思われても無理はないよね。むしろ、警察じゃなかったらなんで銃持ってんの? って感じだし。

 だけど、質問されても銃の出どころは私たちだし、当然、警察でもないし、答えようがないのだろう。

 私の元にやってきたのも、心配していたというよりは、質問攻めから避難するためだったり? いや、むしろ私に質問攻めするためかも知れない。


 この場で一番事情が分かるのは確かに私かも知れないが、その私だってすべてのことを知っているわけではない。むしろ一番知りたいところである、怪獣やゾンビがなぜ発生したのかとかは分からないし。そもそも自分の力についてもよく分かってない。だから説明を期待されても無理だ。無理なのだ。

 だからどうにか、私はその辺の説明役にされるのをパスしたい。多分このままじゃ、なし崩し的に私にその役が回ってくるような予感がする。それは絶対に阻止しなくては……。


 私はゾンビとの戦いの時よりもむしろ緊張しながら、目の前の危機を回避出来る方法を考えた。そして、周囲を見渡す。


 ここにいる生存者は、十数名といったところだ。見たところスーパーの従業員の人と買い物客の半々といったところか。

 女性の比率が多く、男性は少ない。スーパーの店員とその客達だから、何となくそんなものかもしれないと、そこに特に疑問は無いが。

 その人達の視線も、今はこちらに向かっている。


 ああー、注目されてるぅ……。嫌だなぁ、私、目立つの嫌いなんだけどなぁ。マジでどうにかならないかなぁ。

 ……ん、ちょっと、アレは……?


 見れば、その集団から一人ポツンと外れたところに、床に横になっている女性が居た。

 怪我人だろうか。分からないが、確認した方がいいだろう。とりあえず時間稼ぎにもなる。


 私が動くと、皆の視線も私と共に動く。みんな私の方に注目している。なんだか、私が何を言うのかと、第一声を待っているかのような視線、って感じてしまうね……。

 私はそれらの視線を(つと)めて気にしないようにしながら、横になった彼女の元へ向かう。

 すると、私が彼女の元へ向かっていると気がついたのであろう一人が、突然、焦ったような声を発する。


「あっ、その人に近寄らない方が……」


 しかし、その声はすぐに小さくなっていき、途中で途切れた。


「えと、この人が何か?」


 聞いてみるが、返事は無い。何だろう。ただ、どうも触れてほしくないオーラをビンビン感じる。しかし、それと同時に、何かを私に期待しているような感じもあるような。

 分からない。どういうことだろう。まあ、分からないなら聞いてみればいい。私が色々聞かれるよりは、こちらから聞く方がマシだ。


「あの、あそこに寝ている人はどうしたんですか?」


 するとやはり、みんな沈黙する。誰も言おうとしない。

 そんな人たちを見ていたら、見かねたように藤川ママンが出てきて、私に教えてくれた。


「……その人はね、外にいるおかしくなった人たちに噛まれちゃったのよ。みんながここに逃げた時、みんな逃げるのに必死で、あの連中が入らないように扉を閉めるってことも忘れてたのよ。いいや、みんな怖がって少しでも離れようとしてたのかもねぇ……。そしたらあの人が、扉を閉めに行ってね。でも、その時に連中に襲われて……。すぐに他の人も来て、連中から引き離して扉を閉めたんだけど、その子、どんどん具合悪くなっていって……みんな怖がって近寄ろうとしないの。だって、散々見てたから……。あの人たちに襲われたら、襲われた人も“ああ”なるって……」


 な……! 噛まれた人が既に居たとは……。

 マップで確認した時は、確かに全部白で、赤は無かったのに。いや、まだ完全にゾンビにはなってないから、赤にはなってないのか……?


 安全圏に噛まれた人間が既に入ってるってのは、お約束だけど……まあ、それを隠されているよりはオープンな分マシか。

 しかしこれ、放っておいたらヤバい案件じゃん。すぐに何かしらの対処をする必要がある。しかし、その対処がめちゃくちゃ難しい案件なワケだけど……だからこそ、ここの人たちも今まで何もしていないんだろうけどさ。


「なっ、噛まれているならヤバいじゃないか! 放っておいたらマズいだろっ」


 越前(えちぜん)おじさんも今知ったようで、焦った声で反応した。しかし、おじさんに言われなくても、そんな事は皆、十分承知しているだろう。その上で結局、何も出来ていないのだ。

 それはそうだ。この件を決断するということは、人一人の命を扱うということだ。——いや、一人ではないか。放っておけば、ここに居るすべての生存者の安全も(おびや)かされるのだから。

 それでも誰も行動を起こそうとはしなかった。現に、おじさんの言葉にも、皆、気まずそうに顔を逸らすだけだ。

 まあそうだよね。決断なんて出来ないよね。噛まれたら奴らになるとは分かっているけど、絶対とは言いきれない。ちょっとだけなら大丈夫の可能性はあるし、実際、彼女はまだ人間だ。……今のところは。


 では、彼女がゾンビになるのが確定だとして、ならはどうするか。

 安全を考えるなら、何らかの対処が必要だ。縛り付けるなり、あるいはバックヤード内から放り出すなり。

 自力で動けない彼女を放り出すなら誰かがやらなければならない。当然、誰もやりたがらないだろう。

 問題は山積みだ。まだ人間の彼女をゾンビ達の中に放り出すのは殺人と変わらないのでは? 放り出すためにドアを開けたら奴らが入ってくるかも。せっかく閉めたのに。

 まあ、今なら店内のゾンビは全部気絶しているから放り出すのも危険ではない。だが、運ぼうと彼女を抱えた瞬間にゾンビに成り果てる可能性もある。だからまず近寄りたくない。これはロープで縛るにしても同じ事だ。結局、誰もやりたがらないだろう。


 さて、そんな事を考えてみたが、私のやる事はもう決まっている。少なくとも、私に放置するという選択肢はない。必要ならば非情な決断だってする。結局は、それが全員の安全のためなのだから。誰もやりたがらないなら、私がやろう。


 しかし、私には一つ、試したいことがあった。


 そうだね……この状況はむしろ、ちょうどいいかも知れない。



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