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第33話 “???”——使用すると、一度だけゾンビの攻撃を回避することができる

 


 スーパーの中に突入した私たちは、しかし、入り口付近からまだ進めずにいた。


 突入の際には殿(しんがり)を任せていたおじさんは、今は入り口より入ってこようとしているゾンビに対処しようと、足止めのために買い物カートを出しまくって、辺りにばら撒いていた。

 動きの(にぶ)いゾンビに対してなら、これでも一応、進行の障害になりそうだ。

 後は、おじさんの銃撃に期待しよう。


 おじさんの方も軽く確認してから——私は改めて、前方に注意を向ける。

 すると、あることに気がついた。

 店内のゾンビ、こいつら外の奴らより速いぞ。走るって程ではないけど、普通に歩くくらいの速度はある。実質、外の奴らより倍くらい速い気がする。

 なんだろう。何が違うんだ? やっぱり外なのか屋内なのかの違いなのか……?


 答えの見つからないまま、もうゾンビ達は目の前だ。

 左右両方から来ている。くそ、ほぼ同時だ。

 私は近くにあった買い物カートを引っ張ってくると、左のゾンビの方に押し出した。

 カートは床を進んでいき、ゾンビにぶつかる。当然、ダメージはないが、それでゾンビの動きは(にぶ)った。


 私は先に来た右のゾンビを一撃で沈める。

 左の方は、まだカートが邪魔になりマゴマゴしているので、今度はそちらの方へ進んでいく。


 私はカート越しにゾンビの頭を打って昏倒させる。倒れかかるゾンビを、カートで押し出して脇に退けた。

 ゾンビ達は相変わらず、店内からワラワラと湧き出してくる。やはり、狭い通路を進むには、倒した奴らを跨ぎ越すしかないか……。

 それが嫌なら、この場で待ち伏せて全部倒すしかない。しかし、それではおじさんの方も負担が大きいのでは……。


 そこで私は(ひらめ)いた。

 そうだ、おじさんと役割をスイッチしよう。

 銃を使うおじさんなら、離れたゾンビも倒せる。そうすれば、ゾンビまでの空間に余裕が出来るので、別のルートを通るなりなんなり出来る。

 私では、どうしても接近戦しか出来ないので詰まってしまうが、銃ならそうはならない。


 それに、この店内なら、狭い分ゾンビの移動も制限される。ほぼ直線だ。それなら、おじさんでも遠くのゾンビを撃てるんじゃないだろうか。

 私は殿(しんがり)でいくらでも相手に出来るし、ゾンビの体が積み上がるなら、むしろ後続の妨害になるくらいだ。

 よし、それはいいな。それでいこう。


 私はさっそく、おじさんに作戦を伝える。


「おじさん。役割を入れ替えましょう。おじさんが先頭になってゾンビを倒しながら進んでください。私は後ろでゾンビを食い止めます」

「……えっと、とりあえず俺が前で進めばいいのか?」

「そうです。無理に進まなくてもいいので、とにかく進みつつ、ゾンビを排除してください」

「わかった。それで、どこに進めばいい? 適当に奥にいけばいいのか?」

「バックヤードへ行く扉があると思うので、その扉を目指してもらう感じで」

「了解、裏へ行く扉だな」


 そう言って、おじさんは前に出る。

 すでに店内のゾンビもだいぶ集まってきている。囲まれないようにしつつ移動しないと、これは不味いことになるな……。

 さすがの私も、全方位から一気に来たら対処出来ない。そうなる前に、この場を移動しないと。


「よし、行くぞ! みんなついてきてくれよ。マユリも、離れるなよ」


 おじさんが進んでいく。銃声が店内に響く。

 すると銃声に引かれてゾンビが集まってくる。まあ、これはしょうがない。


 スーパーの中は大別すると、腰までくらいの陳列棚と、壁のような長い棚の通路の二つに分けられる。

 長い棚の通路なら、中心に陣取って私とおじさんがそれぞれ両側を対処することで、ゾンビの動きを通路で制限しつつ戦えるかもしれない。

 しかし、それは言い換えれば袋小路みたいなもので、とっさの時に逃げ場が無くなる。

 私はともかく、おじさんが確実に一方に対処できないと危険な方法だ。だとすると、やはりこの通路には入らない方がいいのかもしれない。


 そうなると、通るルートは低い陳列棚のあるゾーンということになる。こちらは、その気になれば棚を越えられるし、横のルートもあるので逃げやすいといえばそうだろう。

 しかし、さっきみたいに床に寝そべっているようなヤツがいないとも限らない。そこはマジで注意しないといけない。

 長い棚の通路なら寝そべっていてもすぐに分かるが、こちらで寝そべられると見えないのだからかなり危険だ。これは、おじさんにも注意喚起しておこう。


「おじさん、まれに床に寝そべっているゾンビとかいるので、十分注意してください! 棚からはなるべく離れて進んだ方がいいと思います!」

「わ、分かった!」

「あと、背の高い陳列棚の方に入ると、逃げ場が無くなるかもしれません。なので、進路はなるだけ広い方にお願いします」

「ぜ、善処する!」


 実際のところ、分かったのかどうか……おじさんの声には、かなり焦りの感情が見える。まあ、でもそれはしょうがないだろう。

 襲いくるゾンビを倒し、進む道のゾンビに警戒する。通るルートを間違えれば、ゾンビに囲まれて全滅の可能性もある。それは相当なプレッシャーだろう。

 私と違って、おじさんは自前の銃の実力で戦っている。しかも、ゾンビは大抵は一発では倒せないので、何発か撃つ必要がある。装弾数もそう多くはないし、撃った数を把握して、弾切れしたら自分でリロードしなければならない。

 うーん、これ、結構な難易度なのでは? しかも、初めて使う実銃で、練習もなし。そんで、相手は人間に見えるゾンビ……と。こりゃあ、精神的にも肉体的にもキツそうだ。

 やべぇ、大丈夫かな、おじさん。頑張ってくれ、おじさん。

 私一人では無理、やはりおじさんの力は必要。みんなの無事は、おじさんの奮闘振りにかかっている……!


 私は後ろからくるゾンビを倒しつつ、マップを見ておじさんの方にも気を配る。状況は、リアルタイムで刻々と変化していく。

 おじさんは、近寄ってくるゾンビをなんとか撃退していた。複数一度に来たら、とにかく交互に撃っていってまずは足止めしている。それから弾を撃ち込んでいって仕留めていく。

 弾の数も数えているようで、撃ち終わったらすぐさま新しい弾倉と交換している。その手つきも(よど)みなく、スムーズだ。


 ……あれ、中々手慣れてきてない? おじさんやっぱ結構やるじゃん。サバゲー歴十年越えは伊達じゃなかったじゃん。

 やはり完全な素人ではこうはいくまい。サバゲーとはいえ、銃を扱ったことがあるからこその実力といえるんじゃないの。


 おじさんの方は大丈夫そうかな、と思っていたら、藤川さんが遠慮がちに私に話しかけて来た。

 ——まあ、今現在も私は戦闘中なので、話しかけづらいだろうね。


「あ、あのっ、火神(かがみ)さん! お母さんと繋がりました。私がスーパーまで来てるって言ったら、すごい驚いてて……」

「そうだろうね。それで、お母さんの居るところは安全なの? バックヤードだったよね?」

「あ、はい。扉に鍵を閉めたら、ゾンビは入ってこれなかったみたいなので」

「それなら、私たちも中に入れてもらいたいところだけど。私たちがたどり着いたら、鍵を開けてもらいたいんだけどね」

「聞いてみます!」


 そう言って藤川さんは、電話口にまた喋り出した。

 そのバックヤードの中が安全なら、私以外のみんなにそこに入って貰えばいい。そうすれば後はどうにでもなる。

 できればスーパーの入り口の自動ドアも封鎖したいところだが、アレってどうやって閉めればいいんだろう? まず自動ドアのスイッチを落とす必要がありそうだけど、やり方分かんないなー。

 まあ、銃声も外までは聞こえないと思うし、これから先はそんなに入ってこないと……いいんだけどね。


 藤川さんがまた、私の戦いの合間を縫って話しかけようとしてきた、と思ったら——


「まずい、弾が無くなった! やばっ、あのっ! 弾をっ!」


 おじさんが焦った声で叫ぶ。

 まずい、私の方もちょうど敵が来た。これでは渡せない——私は。


「マナハスっ、弾渡してあげて!」

「え、私っ!? ——あ、そうか、私も弾持ってた……」

「は、早くっ!」

「あ、ちょっと待って! 今出します……」

「え、ちょっ、もう来てるっ……!!」


 オイこれヤバいんじゃ、マナハス何してるのよ。アンタの仕事は子守だけじゃないんだけど! ボサッとしてちゃダメでしょ!


 私も手が離せない。かろうじてマップを見れば、赤い点が、今まさにおじさんを表す白い点に接触しようとしていた。

 ——万事休すっ!?


「うおぉお!!」


 というおじさんの声が、しかしこれは、噛まれた悲鳴のようには聞こえない。

 ではなんだ? なんとか(しの)げた……?


「弾、は、うわ、どうしよ……って、ヤバっ!」

「そっちに! 逃げろ!」

「わ、私がっ!!」


 ドンッ!


 と、大きな発砲音。

 そこでようやく、私は余裕が出来て振り返ることが出来た。

 するとそこには——傘を開いて倒れているおじさん、マガジンを持って突っ立ってるマナハス、その後ろでマナハスを盾にするように隠れるマユリちゃん、その横に銃を撃った反動でよろける藤川さん、そして、地面に倒れているゾンビ。

 何があったし。

 って、いや、まだ終わりじゃない。ゾンビはまだ居る。気絶してない。

 一瞬、自分でやろうかと思ったが、新たなゾンビが私の前に来る。

 なのですぐに、藤川さんへの発言に切り替える。


「まだだよ! 続けて撃って! 藤川さん!」

「は、はい!」


 ドンッ、またやかましい発砲音が響く。


「あれ、当たらない……」

「貸してくれっ!」


 どうやら藤川さんの銃を受け取ったおじさん。——ドンッ、ドンッ。

 デカい銃声が二発。——同時に、マップの赤点には気絶マークが付いた。


 私は目の前のゾンビを倒しながら思考する。

 あれは藤川さんの銃か。たぶん、おじさんがやられそうになったところで、藤川さんが撃ったんだ。マナハスの銃はおじさんに渡したけど、藤川さんのは本人が持ったままだった。カスタムしてないから、めちゃくちゃうるさいなこれ。

 こうしてみると、あのサイレンサーがかなり音を抑えていたのが分かる。この音だと、さらにゾンビが寄ってくるかもしれないな……。

 そして、おじさんのあの傘はなんだったんだろうか? とっさに武器として使った? あるいは盾にした?

 まあ何にせよ、役に立ったならよかったね。カラス用のつもりだったけど、ゾンビ相手にも意外と有用だったのかも?


「とりあえずマナハス、それと藤川さん。持ってる弾を全部おじさんに渡してあげてっ」

「う、了解」

「わ、分かりました……」

「あと、藤川さんの銃はあまり使わない方がいいかも。音がヤバい」

「で、ですね……すみません」

「いや、謝る必要はないよ。——ええと、おじさん。そっちは大丈夫そう、ですか?」

「も、問題ない、なんとかしてみせる。ただ、追加の弾がもっと無いと厳しいと思う!」

「分かりました。そのうち渡します」

「そ、そのうち? ……なるべく早く頼むね」

「了解です」


 こちらもだいぶゾンビが集まって来ているので、ウィンドウを操作して弾を取り出すのも一苦労なのだ。

 ——そういえばMPも大分減ってきたな。そろそろ回復使っとくか……。

 うーん、状況は中々ヤバいっすな。特に、さっきの音はヤバい。アレで遠くのゾンビも一気に襲ってくるかも。

 案の定、襲ってくるゾンビが増えている気がする。マップの反応が増えていく。

 ヤバいぞこれ。バックヤードはまだか。


 私たちは、ここまでほとんど店内を進めていなかった。

 それでもようやく、バックヤードへの扉らしきものに辿り着きそうなところに来ていた。

 しかし、まだ扉が開きそうな気配は無い。直前まで開けないつもりか、それとも……


「つ、着いたぞ! もう弾も無くなる!」

「これ、扉開かないけど!」

「藤川さん、どうなってる?!」

「それが……なんか揉めてるみたいで……」

「くっ——子供もいるんだ! 開けてくれ! 俺たちは人間だ! 化け物じゃない!」

「お母さん! お願い、開けて……」


 その時、ようやく扉が開いた。

 中から出てきたのは、藤川さんのお母さんその人だった。


「——ああっ! 藤川さん! 開けちゃダメだよぉ! すぐに閉めてぇ!」

「私の娘なんです! ——ああ、透!」


 何やら、中の人とまだ揉めているようだが……関係ない。——みんな、入るんだ!


「みんな、早く中に入って!」

「お母さんっ」


 真っ先に、藤川さんがママンに飛びつく。——親子の感動の再会か……。

 その後を、マナハスとマユリちゃんが入っていく。


「おじさんも入ってください」

「えっ、君は? まさか残るつもりか?」

「私は大丈夫です。——これ、弾」

「え、ああ」

「中の人達をお願いします。じゃ、ちゃんと閉めといてくださいね」

「ちょ、ちょっと」


 私はおじさんを扉の中に押し込むようにして、ドアを閉める。後ろには、すぐ近くまで既にゾンビが迫って来ているのを感じる。

 しかしこれで、皆が安全圏に入ったので、私一人。

 それはすなわち——フィーバータイムに突入したということだ。


 私は振り向くと同時に、ゾンビ達をすり抜けるように躱していきながら、すれ違いざまに斬りつけていく。

 それらは狙い通り頭部に命中。私がゾンビの包囲を抜けた時には、ゾンビは全員が地に倒れ伏していた。


 ふう、なんとかみんなを無事に連れて来れたか……。

 私は刀をトントンと肩に当てながら、そう脳内で独りごちた。

 そうして、まだゾンビが残っている店内を見回して、ニヤリ、不敵な笑みを浮かべる。


 ふふっ、それじゃあ、店の中のゾンビ、一掃しますか。



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