第32話 弾は敵が動かなくなるまで撃ち込むんだ
コンバットなおじさんと軽く自己紹介をしてお互いの名前を知った私たちは、まさにこれからスーパーに突撃するところだ。
先頭は私、その後にマユリちゃんを挟んでマナハスと藤川さん。最後に章太郎さんという並びで行く。
名字が二人同じなので、名前呼びになるかと思ったけど、年上を名前呼びは抵抗あるなー。まあ、マユリちゃんを名前で呼べば、おじさんは越前おじさんでいいよね。
やっぱり名字で呼びたいんだよなぁ。——こっちだぁ、越前っ! とか言いたい。
——集中しなさいよ。これから大勝負なんだから。
そうなんだけど。むしろ大勝負なのは私より越前おじさんの方だよね。人生初の実銃射撃が実戦でかつ相手はゾンビっていう。
そのおじさんの様子をみてみれば、さすがに緊張しているようだった。とはいえ、もう後は当たって砕けろで行くしかないね。グズグズしても緊張が高まるだけだ。
行くと決めた時、すでに行動している。これくらいでいい。
「それじゃ……行きます!」
「——ッ! 了解!」
おじさんの応答に合わせて、私達は隠れていた建物から進み出す。
その進行速度は、実際のところ、そこまで速くない。子供も含めた全員で進むことを考えたら、スピードはそんなに出せない。むしろ、慌てることなく確実に進んでいく。
建物から出た私たちは、すぐにゾンビ達に見つかる。襲いかかってくるゾンビたち。その動きは決して速くないが、確実に私たちの元へ向かってくる。
一人が私の攻撃範囲に入る。——すでに私は抜刀し、その刀身はバチバチいっている。私はその帯電する刀で、ゾンビの頭部に攻撃——命中。
崩れ落ちるその体に、素早く蹴りを入れて脇に飛ばす。そうして、後ろのみんなが通る道の障害物は極力排除していく。
なので、横からくるヤツはこちらから迎撃しに行って、私たちの進行ルート上に来る前に倒す。進路上にいるやつは、蹴り飛ばす。
そうして私は、着実にスーパーへの道を作って行った。今のところは順調。
このまま止まることなく進めば、あるいは、おじさんの出番は無いかもしれない。現に、まだ一発の発砲音も聞こえない。
しかし、やはりそう簡単にはいかなかった。
ゾンビの位置の都合上、どうしても手を出すかどうかギリギリの距離のヤツが存在する。普通に、無視して通り過ぎることが出来る程度の距離が空いているヤツ。
私が他のゾンビを倒すために少し歩みが止まったら、その間に追いついてきてしまう、そんな感じのやつが。
仮に、私がそいつに対処しようと戻ろうものなら、今度は進行が疎かになる。すると、周りのゾンビの密度が増えていき、にっちもさっちもいかなくなるというわけだ。
そこで、そういう微妙なヤツはおじさんにやってもらうわけだ。そのためのおじさんだ。
そもそも私が使ってる武器が銃だったら、微妙な距離とか関係なく全部やっつけながら進めたかもしれないけど、私の武器は刀だ。
まあこれはこれで、接近戦の場合は便利だ。弾の心配もないし。リロードの隙はアレでバカにならないだろう。先頭に立って道を切り開くなら、刀の方が上手くいく場合もあるだろう。要は適材適所だ。
さて、どうやらそろそろおじさんの出番が来そうだ。
手前のゾンビの数が多い。これを倒すには少し時間がかかる。進みは止まるだろう。そうなると、後ろからゾンビたちが追いついてくる……。
後ろの二人から悲鳴が上がった。ゾンビが近いのか。私もあまり余裕は無いが、気になって後ろを振り返る。
——近いっ! すぐそばまでゾンビが迫っている。
おじさんは、すでに銃をソイツに向けていた。ちゃんと狙いのポインタが付いている。後は撃つだけ。
早く、早く撃て、撃て!
「撃って!」
私の声と同時に発砲音。音は意外なほど小さかった。
発射された弾は、ゾンビの胸に命中した。バチン、とゾンビの胸に電流のようなエフェクトが発生。ゾンビはよろめき、動きが止まる。
私は振り向くのをやめ、前へと向き直り正面のゾンビに対峙する。そして、前を見たまま言う。
「まだです! 動かなくなるまで撃って!」
ゾンビは頭が弱点だ。銃の弾は非殺傷のものだが、弱点が頭ということは同じだ。
これは刀のスタンモードで試して判明したのだが、頭への攻撃とそれ以外では、明確な違いが出るのだ。
頭なら一撃で動かなくなるが、他の部位、四肢などへの攻撃だと、その部位が動かなくなるだけで、他の部分はまだ動く。胴体の場合は、全体的に動きが鈍くなるが、それでも完全に倒したとは言えない。鈍るがまだ動く。だから完全に無力化するためには、やはり頭を撃つか、胴体なら何発も撃つ必要がある。
それともう一つ。完全に気絶した敵の反応は、マップ上でも変化する。通常の赤いマークの上に、なんか新しくマークが出てくるのだ。多分、これが気絶状態を表しているのだろう。
なので、ゾンビを無力化するなら、最低でもそのマークが出るまで撃たないといけない。——先程撃たれたゾンビは、まだ普通の赤だ。
再びの発砲音。続けてもう一発、さらにもう一発。
それで、マップの赤のマークが変化する。完全に無力化した。
後ろで、ゾンビの倒れるドサッという音がした。
「ソイツはもう大丈夫です。他のヤツをお願いします!」
私は前を向いて戦いながら、視界の端のマップも確認する。赤い点が、徐々に後ろから迫ってきている。
「胴体か、足を狙ってください。それでまず動きを止めて、余裕があれば頭を狙うか、完全に動かなくなるまで弾を撃ち込んでください」
断続的な発砲音が聞こえる。合間に「ちっ、外したかっ!?」というような声も挟まる。
「弾切れには気をつけてください」
「弾っ、ああ、弾が無くなったっ。えっ、えっと、これで、装填……」
「残弾は気にせずにガンガン撃ってください。足りなくなったら、また渡すんで」
「わ、分かった!」
おじさんが持ちきれなかった分は、私が持っている。それに、後ろの二人も弾ならいくらか持ってるので、二人が渡してもいい。
私自身もゾンビと戦いながら、マップも確認する。後ろから近づいてくるゾンビは一定距離で止まり、それ以上は近寄って来ていない。つまり、おじさんがちゃんと足止めしているということだ。
なんだ、おじさん、やるじゃないの。結構、命中させてるみたいだし。まあ、相手はまっすぐ向かってくるだけのノロマなゾンビだけど、それでも、やれば出来ることをちゃんとやれていることが、普通にすごいと思う。
おじさんが戦ってるところ、どんな感じなんだろう。ちょっと見てみたいな。この戦闘も記録されているんだろうか。だったら、後から確認出来るんだけどね。
さすがに今は、前に集中しないといけないから、直接見ることが出来ないのが残念だ。
そうして進むうちに、私はスーパーの駐車場にたどり着いた。
そこそこの数の車が止まっている。駐車場内にもゾンビはちらほらいる。車の影にいる可能性もある。車には近寄らない方がいいか。
このままスーパーに入ればゾンビ達もついてきてしまうかもしれないけど、もうどうしようもないか。それに、だいぶ倒したか、あるいは足止めしたので、ついてきている数はそれほど多くはない。
うん、もう行っちまうしかないな、よし。
私達はそのまま駐車場を横切り、スーパーの入り口へ。
入り口の自動ドアは問題なく開いた。——それはつまり、ゾンビに対しても開くということだ。
もしかしたら開かないかもしれない、と思っていたが、杞憂だった。
私達は全員、自動ドアをくぐり店内に入った。
建物の中に入って一息、といきたいところだったが、当然のように、店内にもゾンビはうろついていた。
さて、どうするか。入り口付近にいたら外のゾンビが釣られて入ってくるかもだし、とりあえず離れるか。
どちらにしろ、店内のゾンビはすべて倒してしまった方がいいだろう。藤川ママンに合流するにしても、ゾンビがいてはままならない。いや別にダジャレではない。マジで。
——どうでもいいっつの。
藤川ママンはバックヤードとか言ってたっけ? とりあえず、現状確認か。
「藤川さん。お母さんに電話してみてくれる?」
「あ、はい。分かりました」
「移動しながらね。——おじさんは、大丈夫ですか」
「あ、ああ。大丈夫……」
「弾、足りてます?」
「ああ、だいぶ減ったな……」
「んじゃこれ追加で」
「ああ、ありがとう」
おじさんに追加の弾を渡しておく。
そうこうしているうちに、店内に居るゾンビがすでにこちらに近寄ってきている。さて、やるか。
意気込んだはいいが、すぐに気がついた。——ここ、狭いな。刀、使いづらいかも。振れなくはないけど、だいぶ気を使わないといけないな。
近寄ってくるゾンビを迎え撃とうとして、ふと気がつく。さっきまでのようにマップをチラリと確認したら、すぐ近くに赤い点があった。しかし、マップが示す場所にはゾンビは見えない。これは、どうゆうこと……?
その赤点の位置をよく確認する。すると、すぐそばの棚の裏だと分かった。接近してくるゾンビとは、まだ距離がある。先にこちらを確認しよう。
棚から距離を取りつつ回り込んで確認したら、そこには地面に倒れている人影——いや、ゾンビがいた。
寝っ転がって隠れていたのか……こういうやつもいるのね。
しかも、このゾンビ、子供だ……。そういえば、これまでは大人のゾンビしか見てなかったけど、考えてみたら当然、子供のゾンビだっているだろう。
子供ゾンビは、地面の上に寝転んでジタバタしている。それはまるで、何か駄々をこねているみたいだ。
そんな事を考えていたら、突然、その子供ゾンビが跳ねるように接近してきた。
「——ッ!」
とっさに飛びのいて躱す。——後ろから付いてきていた三人にぶつかりそうになった。
「火神さ——ひぃっ!」
藤川さんが悲鳴を上げる。それは、棚の後ろから突然ゾンビが出てきて驚いたからか、それが子供だったからか。
私は間髪入れず、バチバチと唸る刀を子供ゾンビの額に突き込んだ。バチンッ、と衝撃で仰反るように吹き飛ぶ子供ゾンビ。
「こ、子供……」
藤川さんは、まるで子供のゾンビというものの存在に今初めて気がついたといった感じで、かなりのショックを受けているみたいだ。——電話しようとしていたということも忘れてしまうくらいに。
なので、私はあえて、子供ゾンビには触れずにそちらを思い出させる。
「藤川さん、電話、どうかな」
「……あ、電話、ですね。すみません……今かけます」
それでいい。まずは藤川ママンと合流しなくては。
しかし、さっきのあの子供ゾンビの動きはなんだ? 結構、素早かったぞ。子供だから? いや、それとも……
——考えるのは後、来るわよ。狭いから刀がつっかえないようにね。
っ、そうだ。まずはゾンビを倒してからだ。周りの狭さに気をつけて戦わないと。
てか、この子供ゾンビの体が邪魔だな。下がった方がいいか。
「ごめん、みんなちょっと下がってくれる?」
「待った、入り口から入ってくるぞ!」
え?
後ろを振り返れば、確かに自動ドアからゾンビが入ってこようとしている。ちっ、もう少し奥に行こうと思ってたのに、子供ゾンビのせいで進めなかった。
狭いと倒したゾンビもかなり邪魔になるな。跨いで越せばいいんだけど、やっぱり出来れば離れて通りたい。それは、後ろから付いてくるみんなもそうだろう。
それに、本当に倒されているのか、もう動かないのか、不安は消えない。
マップの表示は確かに気絶となっているが、それが次の瞬間に消えない保証はないし、気絶しても動く可能性もゼロではない。
ゾンビに関して絶対など、何も無いだろう。そもそも、気絶がどれだけもつのかもまだ知らないんだよね。
くそっ、どうする、どうする。迷っている時間はない。
入り口を見る。買い物カゴやカートがある。ん、アレ、使えるかもしれない。
「おじさん! 買い物カート! アレでゾンビを足止めして! そして撃って!」
「え、あ、ああ! 分かった!」
すぐさまおじさんが自動ドア付近のカートを取りに行く。ゾンビはすでに、自動ドアを抜けていた。
おじさんはカートを取る前に銃を構えて、ゾンビを撃つ。——命中。胴体に当たって、ゾンビの動きが止まる。
おじさんはすぐにカートの方へ。手前のカートを引き出すと、そのままゾンビに突進——ゾンビを突き飛ばした。
「みんなは下がって。私の後ろから出ないように」
見れば店内のゾンビ達は、かなりこちらに接近して来ていた。右からも左からも来ている。これでは、どっちにも抜けられない。下手に動いたら、おじさんを置き去りにしてしまう。
これは、このまま入り口のところで迎え撃つしか無いか……。おじさんに外のゾンビを担当して貰って、私が店内の方をやる。
……そして突破口が見えたら、バックヤードへ向かうとしよう。




